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蛇足編
魔物の大増殖
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「……私の負けですね」
「兄上!?そんな……」
「ヨシアキ、貴方は下がっていなさい」
ヨシテルは敗北を認めるとレナと向き直り、苦笑いを浮かべながら握手を求めてきた。レナはそれに対して不思議に思いながらも握手を行おうとすると、手を繋いだ瞬間にヨシテルは凄まじい握力で掴んできた。
「剣の勝負ならば負けない自信はあったのですがね」
「ぬぐぅっ……魔術師に剣で負けたら大恥になりますからね」
「ぐぬぬっ……」
レナも負けじと強く握りしめるとヨシテルは冷や汗を流し、二人はしばらくの間は握り合っていた――
――その日はレナ達はヨシテルの城に宿泊し、豪勢な料理や城内の温泉を堪能した。途中でヨシテルが入浴中の女風呂に入ろうとした時にレナが止めたり、覗きだと勘違いされてシズネに氷漬けにされそうになったりと色々とあった。
翌朝、レナ達は目を覚ますとこの地に訪れた理由をヨシテルに伝える。レナの目的は和国でしか生産されていない浮揚石と呼ばれる特別な鉱石を入手するために訪れた事を話す。
「浮揚石が欲しいと?」
「はい。できれば大量に欲しいんです」
浮揚石は和国でしか採掘されておらず、バルトロス王国では輸入されていない。だからヨシテルと直談判してバルトロス王国にも輸入して欲しい事を伝えると、彼は悩んだ末に承諾してくれた。
「分かりました。しかし、浮揚石はそんなに簡単に手に入る代物ではないので大量の輸入は難しいと思いますが……」
「そうなんですか?」
「浮揚石が採掘できるのは天空山と呼ばれる我が国で最も大きな山でしか採れません」
和国には天空山と呼ばれる山が存在し、この山は日本の富士山と酷似しているがその標高は倍近くはあった。浮揚石は天空山の頂上付近で採取できるらしく、現在は浮揚石の採掘は行われていない。
「少し前までは浮揚石で採掘が行われていましたが、現在の天空山は魔物の巣窟と化して我々も迂闊に近づけないのです」
「魔物の巣窟?」
「10年ほど前から世界中で魔物の数が増え続け、天空山に出現する魔物も急激に増えたのです」
「でも和国にも軍隊はあるんでしょう?」
「需要がないのですよ。浮揚石は珍しい性質を持つので確かに他国の方からは高い買い取って貰えますが、別に我々は金銭面では困っていません」
和国は裕福な国であるためにわざわざ危険を冒して浮揚石の採取を行う必要はなく、軍隊を派遣して天空山の魔物を一掃する理由がない。下手に魔物を始末しようとして軍隊に大きな被害が出れば民衆から反感を抱かれる。
天空山に生息する魔物は非常に獰猛で危険らしく、大国にも劣らぬ戦力を持つ和国の軍隊でも無事に帰還できる保証はない。10年前から世界中の魔物の数が増え続け、活発的に行動を開始しているために何処の国でも似たような問題が起きている事をレナは知った。
(そういえばバルも叔母様も言ってたな。昔よりも魔物の数がずっと増えているって……)
こちらの世界では100年周期で魔物が数を増やす傾向があり、特に今回はこれまでと比べて魔物の数が異様なまでに増えていた。これまでにレナが関わった魔物の事件も無関係とはいえず、この時代こそが魔物にとっては最高の環境が整った世界なのかもしれない。
「ちなみに必要な浮揚石はどれほどですか?」
「えっと……これぐらいですかね」
レナはアイリスから伝えられた欲しい浮揚石の量を伝えると、ヨシテルは難しい表情を浮かべた。和国で保管している浮揚石では到底足りず、天空山に赴いて浮揚石を採掘する必要があった。
「それだけの量となると天空山に赴いて採掘するしかありませんが……相当な時間が掛かりますね」
「どれくらいかかりますか?」
「……1年か2年、あるいはもっとかかるかもしれません」
「え~!?そんなにかかるの!?」
ヨシテルの言葉にハルナは声を上げるが、魔物の巣窟と化している標高数千メートルの巨大な山で採掘を行うと考えればそれだけの時間が掛かっても仕方ない。だが、流石に和国に何年も滞在する暇はなく、レナは助っ人を呼ぶ事にした。
「天空山の場所だけ教えてもらえますか?後は自分達で何とかします」
「何とか……とは?」
「魔物に襲われずに安全に採掘できる方法に心当たりがあるので」
天空山が魔物の巣窟だとしてもレナはとある人物の力を借りれば魔物に襲われずに浮揚石を確保できる自信があった――
――それから数日後、レナは連絡をした相手が和国に訪れた。ヨシテルの城に白竜に跨ったホネミンが訪れ、久しぶりの再会を喜ぶ。
「レナさ~ん!!リーリスさんに頼まれて私も手伝いに来ましたよ!!」
「シャギャアッ!!」
「おおっ、ハク君またデカくなった?」
「……は、白竜!?」
「あ、兄上!?なんですかあれは!?」
レナが連絡を取った相手はリーリスであり、彼女が管理する塔の大迷宮に暮らす白竜を寄越す様に頼んだ。レナとの戦闘で負った傷は完治したらしく、現在はリーリスの調教のお陰で白竜は人に危害を加える事はなくなったという。
「兄上!?そんな……」
「ヨシアキ、貴方は下がっていなさい」
ヨシテルは敗北を認めるとレナと向き直り、苦笑いを浮かべながら握手を求めてきた。レナはそれに対して不思議に思いながらも握手を行おうとすると、手を繋いだ瞬間にヨシテルは凄まじい握力で掴んできた。
「剣の勝負ならば負けない自信はあったのですがね」
「ぬぐぅっ……魔術師に剣で負けたら大恥になりますからね」
「ぐぬぬっ……」
レナも負けじと強く握りしめるとヨシテルは冷や汗を流し、二人はしばらくの間は握り合っていた――
――その日はレナ達はヨシテルの城に宿泊し、豪勢な料理や城内の温泉を堪能した。途中でヨシテルが入浴中の女風呂に入ろうとした時にレナが止めたり、覗きだと勘違いされてシズネに氷漬けにされそうになったりと色々とあった。
翌朝、レナ達は目を覚ますとこの地に訪れた理由をヨシテルに伝える。レナの目的は和国でしか生産されていない浮揚石と呼ばれる特別な鉱石を入手するために訪れた事を話す。
「浮揚石が欲しいと?」
「はい。できれば大量に欲しいんです」
浮揚石は和国でしか採掘されておらず、バルトロス王国では輸入されていない。だからヨシテルと直談判してバルトロス王国にも輸入して欲しい事を伝えると、彼は悩んだ末に承諾してくれた。
「分かりました。しかし、浮揚石はそんなに簡単に手に入る代物ではないので大量の輸入は難しいと思いますが……」
「そうなんですか?」
「浮揚石が採掘できるのは天空山と呼ばれる我が国で最も大きな山でしか採れません」
和国には天空山と呼ばれる山が存在し、この山は日本の富士山と酷似しているがその標高は倍近くはあった。浮揚石は天空山の頂上付近で採取できるらしく、現在は浮揚石の採掘は行われていない。
「少し前までは浮揚石で採掘が行われていましたが、現在の天空山は魔物の巣窟と化して我々も迂闊に近づけないのです」
「魔物の巣窟?」
「10年ほど前から世界中で魔物の数が増え続け、天空山に出現する魔物も急激に増えたのです」
「でも和国にも軍隊はあるんでしょう?」
「需要がないのですよ。浮揚石は珍しい性質を持つので確かに他国の方からは高い買い取って貰えますが、別に我々は金銭面では困っていません」
和国は裕福な国であるためにわざわざ危険を冒して浮揚石の採取を行う必要はなく、軍隊を派遣して天空山の魔物を一掃する理由がない。下手に魔物を始末しようとして軍隊に大きな被害が出れば民衆から反感を抱かれる。
天空山に生息する魔物は非常に獰猛で危険らしく、大国にも劣らぬ戦力を持つ和国の軍隊でも無事に帰還できる保証はない。10年前から世界中の魔物の数が増え続け、活発的に行動を開始しているために何処の国でも似たような問題が起きている事をレナは知った。
(そういえばバルも叔母様も言ってたな。昔よりも魔物の数がずっと増えているって……)
こちらの世界では100年周期で魔物が数を増やす傾向があり、特に今回はこれまでと比べて魔物の数が異様なまでに増えていた。これまでにレナが関わった魔物の事件も無関係とはいえず、この時代こそが魔物にとっては最高の環境が整った世界なのかもしれない。
「ちなみに必要な浮揚石はどれほどですか?」
「えっと……これぐらいですかね」
レナはアイリスから伝えられた欲しい浮揚石の量を伝えると、ヨシテルは難しい表情を浮かべた。和国で保管している浮揚石では到底足りず、天空山に赴いて浮揚石を採掘する必要があった。
「それだけの量となると天空山に赴いて採掘するしかありませんが……相当な時間が掛かりますね」
「どれくらいかかりますか?」
「……1年か2年、あるいはもっとかかるかもしれません」
「え~!?そんなにかかるの!?」
ヨシテルの言葉にハルナは声を上げるが、魔物の巣窟と化している標高数千メートルの巨大な山で採掘を行うと考えればそれだけの時間が掛かっても仕方ない。だが、流石に和国に何年も滞在する暇はなく、レナは助っ人を呼ぶ事にした。
「天空山の場所だけ教えてもらえますか?後は自分達で何とかします」
「何とか……とは?」
「魔物に襲われずに安全に採掘できる方法に心当たりがあるので」
天空山が魔物の巣窟だとしてもレナはとある人物の力を借りれば魔物に襲われずに浮揚石を確保できる自信があった――
――それから数日後、レナは連絡をした相手が和国に訪れた。ヨシテルの城に白竜に跨ったホネミンが訪れ、久しぶりの再会を喜ぶ。
「レナさ~ん!!リーリスさんに頼まれて私も手伝いに来ましたよ!!」
「シャギャアッ!!」
「おおっ、ハク君またデカくなった?」
「……は、白竜!?」
「あ、兄上!?なんですかあれは!?」
レナが連絡を取った相手はリーリスであり、彼女が管理する塔の大迷宮に暮らす白竜を寄越す様に頼んだ。レナとの戦闘で負った傷は完治したらしく、現在はリーリスの調教のお陰で白竜は人に危害を加える事はなくなったという。
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