不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

文字の大きさ
2,018 / 2,090
蛇足編

先祖の恨み

しおりを挟む
――闇組織の潜入員はレナ達を襲った闇魔導士の男だけではなく、巨人族の兵士の中にも含まれていた。逃げ出した兵士の正体は遥か昔、バルトロス帝国に領地を奪われた貴族の末裔だった。


「くそっ!!どうしてこんなことに……」
「ヒヒンッ!!」


巨人族の兵士が乗り込んでいる馬はただの馬ではなく、ギガントホースという名前の魔獣だった。外見は馬と瓜二つだが大きな違いは身体の大きさであり、普通の馬の倍以上の大きさを誇る。このギガントホースは巨人族が飼いならしており、巨人族以外では乗りこなすことができないと言われている。

兵士の名前は「アラン」彼の先祖は公爵家で巨人国の貴族の中でも一番の領地の広さを誇った。王族からの信頼も厚く、巨人国の全盛期では王族の次に繫栄していた一族だった。だが、バルトロス帝国が巨人国に侵攻を開始してから立場は一変した。

バルトロス帝国が攻め入ると巨人国は撃退しようとしたがいくら巨人族が体躯と筋力に恵まれていようと、魔法という圧倒的な力を持つ相手には無意味だった。どれだけ身体を鍛えた所で遠距離から強力な攻撃魔法を繰り出されれば抵抗することもできず、バルトロス帝国と戦争を起こす度に巨人国は領土を奪われた。当然ながら巨人国で一番大きな領地を保有していたアランの先祖は真っ先に領地を割譲を伝えられる。

幾度かの戦争の際にアランの先祖は領地の殆どを失い、何度も敗北したせいで巨人国の財政は圧迫された。アランの先祖はこれ以上の敗北を重ねると巨人国は滅びの道を辿ると判断し、帝国に全面降伏して巨人国が属国となればこれ以上に領地を奪われることはないと進言した。だが、そんな提案を王族が受け入れるはずがなく、この一件でアランの先祖は爵位を没収されてしまう。

アランの先祖が貴族でなくなってからしばらくすると、帝国の一族の中から離反者が現れてバルトロス王国を建国した。王国は帝国を打ち破ったことで事態は一変し、帝国の暴政に苦しんでいた国々は解放された。巨人国も滅びの道から回避されたが、アランの先祖は結局は全てを失う。


『おのれ!!あと少しでこの国を滅ぼせたというのに……』


アランは先祖を追放した巨人国の王族を恨んでおり、先祖の恨みを果たすために彼は屈辱を耐え忍んで兵士となって潜入した。数年の時を費やして遂にアランは大将軍の側近にまでなったが、彼の目的は大将軍のゴウカを利用して巨人国を乗っ取る計画を立てていた。

ゴウカは王族からの信頼も厚く、彼の側近としてアランは王族に近付くこともできた。後は闇組織の力を借りて密かに王族を拉致し、その後に巨人国を裏から支配する計画だったのだが、あと一歩という所で闇組織の幹部の一人が捕まってしまう。


『あと少しだったのに……あの人間さえいなければ!!』


バルトロス帝国を滅ぼしたバルトロス王族の末裔にして闇組織にとっては一番に警戒している「レナ」が巨人国に訪れるという情報を闇組織から聞き出し、アランと闇魔導士は彼を始末する絶好の機会だと判断した。もしも巨人国内でレナが死ねば必ず巨人国と王国は戦争を引き起こす。そうなれば闇組織にとっては都合がいい展開だった。

闇組織の目的は旧帝国の復活であり、巨人国とバルトロス王国が争って国力を消耗したところを攻め込むつもりだった。旧帝国の残党は殆ど残っていないが、闇組織には数々の神器を回収し、それらを分析して新しい兵器の開発に取り組んでいる。ゴウカが所有していた日輪も新兵器の試作品の一つに過ぎない。


『くそくそくそっ!!何故、俺だけがこんな目に……』


だが、闇組織の作戦は失敗に終わった。ゴウカを利用してレナと戦わせ、戦闘の途中で闇魔導士がレナを始末する予定だったが想像以上にレナの力は強大過ぎた。レナを倒すために闇魔導士は残ったが、アランはいち早く危険を察して逃げ出す。長年兵士として働いてきたのでアランはレナの戦いぶりを見ただけで自分達の手に負える相手ではないと判断した。


「走れ!!もっと早く走れっ!!」
「ヒヒンッ……」


鞭で尻を叩いてギガントホースの移動速度を上げさせようとするが、ずっと走り続けたせいでギガントホースも限界を迎えていた。アランは後方を確認するが今の所は追手の姿は見えず、無事に逃げ延びたのかと考える。


「こ、ここまでくれば……ん?何だあれは?」


何となくにアランは空を見上げると、青色と赤色の物体が浮かんでいることに気が付く。最初は何か分からなかったが徐々にこちらに向けて落下していることに気が付き、慌ててアランはギガントホースの足を止めた。


「と、止まれ!?」
「ヒヒィンッ!?」


ギガントホースが急停止するとアランの頭上を青色と赤色の巨大な球体型の物体が通過し、派手に地面に衝突した。赤と青の物体は何度か飛び跳ねた後、地面に転がり込む。
しおりを挟む
感想 5,092

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。