14 / 1,095
幼少編
魔力
しおりを挟む
「魔力か……」
レノは掌に集中し、風の魔力を球体に形状に変化させようとするが、上手く成功せずに消散してしまう。
「うっ……」
球体が弾け飛び、周囲にかまいたちのように風の刃が放たれて切り裂かれる。だが、レノ自身の肉体は無傷であり、自分がつ産み出した「魔法」で使用者の肉体が傷つくことはない。原理は不明だが、魔法とはあくまでも自分の「生命エネルギー」で形成された力であり、自分自身のエネルギーで自分の肉体を傷つけることは出来ない(逆に言えば回復魔法も自分自身には適用しない)。
レノは何度も「球体」を作り出し、試しに「風」以外の属性の魔力を絞り出そうとするが、火も水も雷も生み出すことは出来ない。彼が最も得意とする魔法は現在は「無属性」であり、武器の構造を強化する事が出来る。そうすれば一時的にだが弓矢そのものは頑丈になる。また、魔方陣のような魔法を強化させて発動させる「術式」という技術も存在するらしい。
但し、構造を強化すると言ってもあくまでも対象の物質の最大限の能力を引き出すだけであり、例えば何処にでも落ちている「木の棒」を最大限にまで無属性で強化したところで「岩」や「鉄」などを破壊する力は引き出せない。行ってみれば強化する物質の本来以上の力は引き出すことは出来ない。
「どうにかしないと……」
自分は優秀な「母」と比べ、落ちこぼれの類だろう。フレイも口にはしないが、レノの不器用さには呆れているだろう。実際に訓練の時は何度か彼女が顔をしかめる姿をレノも見かけている。風の魔力を矢に纏わせるだけでは魔法とは言えず、一流のエルフの放つ「矢」には高密度の風の魔力が練り込まれており、その威力は鋼鉄さえも貫くという。儀式は明日の晩に行われるため、何としてもレノは今日中に「風」の魔力を操作をマスターしなければならないのだが上手くいかない。
「……魔力か……」
実際のところ、レノには自分がここまで「魔法」を上手く扱えない理由は知っている。それは、3年前にビルドから施された背中の「紋様」が大きく関係している。あの日以来、レノの性別は曖昧になってしまった。
――紋様を刻まれてから1年以上も「女」の姿で生きてきたため、身体の異変が起きてしまう。レノは全身の魔力を背中に集中させ、周囲の空気が震える。
「ソフィア」
そして「彼」はもう1つの自分の姿を呼び起こす。レノが言葉を呟いた瞬間、彼の腰元まで伸びた髪の毛の色が「黒」から「青」に変色し、僅かながらに胸元が膨らみ、股間に違和感を覚える。最後に瞳の色が「黒」から宝石のサファイアを思わせる「碧眼」へと変わり果てた。
「ふうっ……」
全身から一瞬だけ青色の魔力の光が放たれ、すぐに「ソフィア」は自身の魔力を操作すると全身の発光が消失する。ソフィアは再び「弓矢」を握りしめ、1本の矢を取りだすと、もう一度「風」の魔力を纏わせる。先ほどとは打って変わり、矢の先端に纏わせるので精一杯だった「風」が、矢の周囲をまるで台風の目のように風が纏わり、矢を放とうとする。
「うわっ……!?」
しかし、射出の直前に矢がミキサーの中に放り込まれたように粉々に四散してしまう。ソフィアはそれを見ると大きな溜息を吐き出し、この状態では「男」の姿よりも「魔力の容量」が大幅に上がり、体感的には5倍以上の魔力を得られる。この状態で魔法を扱おうとすると、先ほどの矢のように魔力が暴走して勝手に破裂してしまう。
何度かこの状態の時に複数の魔法を試したが、どれも上手くいかない。ゲームで例えるなら「MP」を無駄に持て余しながらも肝心の「魔法」が何も覚えていないという状態に近い。
「……レノ」
再び背中に魔力を集中させ、今度は自分の名前を呟くと、今度は一瞬で元の「男」の姿に戻る。変化する度に大量の魔力と、体力を使い果たし、レノは疲労で地面に倒れこむ。弓矢を手放し、寝転がる。
「……どうしてこんな事になったのかな……」
本来なら、今頃は孤児院を抜け出してどこかの町にでも逃げ込むつもりだったが、エルフの女性に出会い、彼女に救われたと思ったら逆に殺されかけたり、そこからは成り行きでここまで連れ込まれていた。前世にしろ、現世にしろ、自分の人生はどうも不運に囚われている。特に女性に対して酷い目に遭う機会が多い。
「はあっ……」
強くならなければ、これから先も生きていけそうにない。そんな予感に駆られ、レノは疲れた体を起き上げると、
「……?」
不意にどこからか視線を感じ取り、周囲を見渡すが誰も見当たらない。気配も感じないところ、気のせいだろうと判断し、レノは修行を行うことにした――
――翌日、森の中で一晩過ごしたレノはついに「儀式」の日を迎え、弓矢を背負ってフレイたちが居る集落に戻ることにした。
儀式は今日の晩に行われるが、その前に集落でレノは身体を清めるため、族長と数人のエルフの監視の元、集落の中央の泉で「洗礼」を受けなければならない。その洗礼を終えると、彼は族長と長老に連れられてこの森の南東に案内され、そこに住む「魔獣」の住処に案内されることになっていた。
しかし、集落に帰ったレノには思わぬ事態が襲い掛かる――
レノは掌に集中し、風の魔力を球体に形状に変化させようとするが、上手く成功せずに消散してしまう。
「うっ……」
球体が弾け飛び、周囲にかまいたちのように風の刃が放たれて切り裂かれる。だが、レノ自身の肉体は無傷であり、自分がつ産み出した「魔法」で使用者の肉体が傷つくことはない。原理は不明だが、魔法とはあくまでも自分の「生命エネルギー」で形成された力であり、自分自身のエネルギーで自分の肉体を傷つけることは出来ない(逆に言えば回復魔法も自分自身には適用しない)。
レノは何度も「球体」を作り出し、試しに「風」以外の属性の魔力を絞り出そうとするが、火も水も雷も生み出すことは出来ない。彼が最も得意とする魔法は現在は「無属性」であり、武器の構造を強化する事が出来る。そうすれば一時的にだが弓矢そのものは頑丈になる。また、魔方陣のような魔法を強化させて発動させる「術式」という技術も存在するらしい。
但し、構造を強化すると言ってもあくまでも対象の物質の最大限の能力を引き出すだけであり、例えば何処にでも落ちている「木の棒」を最大限にまで無属性で強化したところで「岩」や「鉄」などを破壊する力は引き出せない。行ってみれば強化する物質の本来以上の力は引き出すことは出来ない。
「どうにかしないと……」
自分は優秀な「母」と比べ、落ちこぼれの類だろう。フレイも口にはしないが、レノの不器用さには呆れているだろう。実際に訓練の時は何度か彼女が顔をしかめる姿をレノも見かけている。風の魔力を矢に纏わせるだけでは魔法とは言えず、一流のエルフの放つ「矢」には高密度の風の魔力が練り込まれており、その威力は鋼鉄さえも貫くという。儀式は明日の晩に行われるため、何としてもレノは今日中に「風」の魔力を操作をマスターしなければならないのだが上手くいかない。
「……魔力か……」
実際のところ、レノには自分がここまで「魔法」を上手く扱えない理由は知っている。それは、3年前にビルドから施された背中の「紋様」が大きく関係している。あの日以来、レノの性別は曖昧になってしまった。
――紋様を刻まれてから1年以上も「女」の姿で生きてきたため、身体の異変が起きてしまう。レノは全身の魔力を背中に集中させ、周囲の空気が震える。
「ソフィア」
そして「彼」はもう1つの自分の姿を呼び起こす。レノが言葉を呟いた瞬間、彼の腰元まで伸びた髪の毛の色が「黒」から「青」に変色し、僅かながらに胸元が膨らみ、股間に違和感を覚える。最後に瞳の色が「黒」から宝石のサファイアを思わせる「碧眼」へと変わり果てた。
「ふうっ……」
全身から一瞬だけ青色の魔力の光が放たれ、すぐに「ソフィア」は自身の魔力を操作すると全身の発光が消失する。ソフィアは再び「弓矢」を握りしめ、1本の矢を取りだすと、もう一度「風」の魔力を纏わせる。先ほどとは打って変わり、矢の先端に纏わせるので精一杯だった「風」が、矢の周囲をまるで台風の目のように風が纏わり、矢を放とうとする。
「うわっ……!?」
しかし、射出の直前に矢がミキサーの中に放り込まれたように粉々に四散してしまう。ソフィアはそれを見ると大きな溜息を吐き出し、この状態では「男」の姿よりも「魔力の容量」が大幅に上がり、体感的には5倍以上の魔力を得られる。この状態で魔法を扱おうとすると、先ほどの矢のように魔力が暴走して勝手に破裂してしまう。
何度かこの状態の時に複数の魔法を試したが、どれも上手くいかない。ゲームで例えるなら「MP」を無駄に持て余しながらも肝心の「魔法」が何も覚えていないという状態に近い。
「……レノ」
再び背中に魔力を集中させ、今度は自分の名前を呟くと、今度は一瞬で元の「男」の姿に戻る。変化する度に大量の魔力と、体力を使い果たし、レノは疲労で地面に倒れこむ。弓矢を手放し、寝転がる。
「……どうしてこんな事になったのかな……」
本来なら、今頃は孤児院を抜け出してどこかの町にでも逃げ込むつもりだったが、エルフの女性に出会い、彼女に救われたと思ったら逆に殺されかけたり、そこからは成り行きでここまで連れ込まれていた。前世にしろ、現世にしろ、自分の人生はどうも不運に囚われている。特に女性に対して酷い目に遭う機会が多い。
「はあっ……」
強くならなければ、これから先も生きていけそうにない。そんな予感に駆られ、レノは疲れた体を起き上げると、
「……?」
不意にどこからか視線を感じ取り、周囲を見渡すが誰も見当たらない。気配も感じないところ、気のせいだろうと判断し、レノは修行を行うことにした――
――翌日、森の中で一晩過ごしたレノはついに「儀式」の日を迎え、弓矢を背負ってフレイたちが居る集落に戻ることにした。
儀式は今日の晩に行われるが、その前に集落でレノは身体を清めるため、族長と数人のエルフの監視の元、集落の中央の泉で「洗礼」を受けなければならない。その洗礼を終えると、彼は族長と長老に連れられてこの森の南東に案内され、そこに住む「魔獣」の住処に案内されることになっていた。
しかし、集落に帰ったレノには思わぬ事態が襲い掛かる――
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
480
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる