種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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腐敗竜編

大広間の異変

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「こ、これは……」
「……眩しい……」
「えっ……そ、外に出たんですか?」
「いえ、そういうわけではないでしょう……ですが、驚きましたね。まさかこの迷宮にこのような場所があるとは……」
「わあっ……綺麗です」


転移を終え、嘗てレノがアイリィと共に「甲冑の騎士」と戦闘した地下二階の大広間に移動する。地面に刻み込まれた魔方陣の上から移動し、アルトたちの目には予想外の風景が広がっていた。


――大広間の地面に突き刺さっていた無数の武具はひとつ残らず取り外され、甲冑の騎士が生み出した地面の陥没には泥水ではなく、美しく透き通った湖が広がっており、さらには湖の中心には水晶で作り上げられたような巨大な樹木が存在しており、間違いなくアイリィに生み出された「水人華」だった。


湖の周囲にはアイリィが「樹」の聖痕で作り上げた巨大な大木が倒れており、枯れ果てた大木の傍には無数の植物が育ち、様々な果物が自生している。そして、湖の傍にある大木の上にはツリーハウスを想像させる木造の建物が建っている。



あの戦闘以来、この場所は自然とこのような姿に変わり果て、恐らくは「水人華」の影響であることが予測される。レノは水人華の特徴は分からないが、恐らくアイリィが「樹」の聖痕を使用したことが関係していると判断した。


一度は崩れ落ちた水人華だったが、何時の間にか再生しており、甲冑の騎士が偶然にも生み出した円形状の窪みの泥水を浄化する。植物が育ったのはこの水と恐らくのこの環境が原因であり、この大広間は地下迷宮の中でも特別な場所であることは間違いない。



「ここは……まだ地下の中なのか?」
「天井見上げれば分からない?」


アルトたちは天を見上げ、蛍光灯のように天上全体が光り輝いているが、まだ迷宮内に居る事は確かだった。この地下二階は地下一階と比べて真昼のように明るく、外に戻ったのかと錯覚するほどだ。

すぐに全員が魔方陣から降り立ち、周囲を見渡しても魔物の気配は無い。まるでこの場所を避けているかのような異様さではあるが、休憩するには都合がいい。


「俺はゴンゾウを迎えに行くから、勝手に休んでて」
「あ、あの!!……その前にあの刃も」
「刃?……ああ、あれか」


ジャンヌに声を掛けられて、レノは銀色のスライムから出現した「エクスカリバー」の欠片を集めて作り出された刀身を思いだし、頷いておく。彼女は安堵の生きを吐き、他の面々は目の前の神秘的な光景に感動していたり、ポチ子に至っては「わふぅ~♪」と鳴き声を上げながら周囲を走り回っていた。

リノンはジャンヌの肩を担ぎ、取りあえず湖の方向に向けて歩き出す。ミカはアルトの様子を伺うと、彼は頭を抑えて座り込む。次々と理解しがたい事態と遭遇して疲れ切っていた。



――その後、魔方陣を再び起動させ、ゴンゾウと「エクスカリバーの刀身」を黒衣の包帯で巻き込んだレノが戻ってくると、既に他の面々は湖の傍で休息していた。



「――で、どういう事なんだ?」
「何が?」
「あむあむっ……この干し肉、美味しいです」
「確かに……」
「この果物も美味しいですね」
「……肉、上手い」
「うわ~……絶対、ここ隠しダンジョンだよ」


アルトが話の続きを行おうとしたが、他のメンバーはレノが持ってきた食料にかじりつく。そんな彼らに彼は頭を悩ませながら、怒声を放つ。


「ここは何処なんだ!?どうやってここまで来た!?」
「うるさいな……さっきも言っただろ、ここは地下の二階中央部。どうやって着たって言われても……迷宮を進んでいたらここまでたどり着いた」
「どうしても君が迷宮を……いや、それよりここまで1人で進んできたっていうのか?」


迷宮に来た理由は先ほど聞いたのを思いだし、別の質問を行う。この迷宮内の危険性はアルトも十分承知している。地上とは比べ物にならない魔物の出現度と強さであり、単独で迷宮を進めるなど考えられない。

ジャンヌほどではないが聖剣を所持しているアルトでさえ、単独では魔物の討伐は危険すぎる。現にポチ子を捜索の時に皆と手分けして行動した際、魔物との戦闘は逃走し続けた。

チームで行動しなければこの迷宮内に居る魔物達には対応できない、それがアルトの下した判断だった。この数年、魔物と戦い続けた彼でも単独では何も出来ない、いや、出来なかった。しかし、目の前のレノは何事も無さげに、


「正確には閉じ込められてた、かな。1年以上」
「なっ……!?」
「1年!?」


このような危険地帯に「1年」も過ごしていたという彼の発言に絶句する。それは他の面々も同じであり、同時に納得する場面もある。何せ、この湖の傍にあるツリーハウスにしろ、レノの対応にしろ、明らかにこの場所で長く暮らしている風な雰囲気だ。


「誰も居ない場所で1年間過ごすのは結構きついよ、まあ、遊び相手には事欠かないけど」


黒衣で巻かれた左腕で果物を手にし、口に運ぶレノに同情のような視線が注がれる。流石にアルトも何も言えず、空気が重い。何とか話題を変えようと、ジャンヌは「刀身」を掲げながら、刃に巻かれている「黒衣」に目をやり、レノの左腕の黒衣を見る。


「……あの、この黒衣は一体……?」
「ああ……素材は分からないけど、頑丈で魔力に触れる力がある包帯。あくまで触れるだけで無効化はできないけど」


そういうと、彼は左腕の黒衣の包帯を取り上げ、中身を見せつける。


「なっ……!?」
「れ、レノさん!?」
「それは……まさか」
「……無い!?」
「きゃあぁあああっ!?」
「れ、レノ……その腕は……!?」


掌の部分の包帯が解かれ、そこには先端部が罅割れた「ロスト・ネイル」が出現する。


ギィィイインッ――!!


(……えっ……まさか……)


ジャンヌの背中のジャイアント・キリングが反応し、彼女は彼が所持している「聖爪」こそ、最期の「エクスカリバー」の欠片で作り上げられた物だと知る。
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