種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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テンペスト騎士団編

濡れ衣

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「――しかし、あんたがここに来るのって聖導教会を飛び出して以来じゃないのかい?」
「はい……相変わらず、お元気そうで何よりですテン総団長」


ジャンヌは腰元にレーヴァティンを装備しながら、聖導教会総本部に存在するワルキューレ騎士団の訓練場に立ち寄り、総団長であるテンと相対していた。2人は机を挟んでハーブティーを口に含み、まだジャンヌがワルキューレ騎士団に在籍していた頃のように雑談を行っていた。


「あんたが消えた後もミキさんから話しは聞いていたよ。ああ見えても、結構あんたの事を心配してたんだからね」
「ミキが……そうですか」
「自分の師匠を呼び捨てにするもんじゃないよ……例え、喧嘩別れしたとしてもね」
「それは……」
「ま、別にいいけどね……気持ちは分かるよ」


テンは豪快にカップの中身を飲みほし、ジャンヌの抱えている聖剣に視線を向ける。ジャンヌの巨人殺し(ジャイアント・キリング)は今現在はテンの部下に預けており、本来ならこの聖剣も預けるなのだろうが、聖剣は所有者以外の人間が触れる事は出来ない。

ジャンヌ以外の人間が扱えない事は知っているが、それでもテンとしては伝説の大聖剣に興味はある。前回の腐敗竜戦では戦う事に必死でよく確認できなかったが、目の前に歴史に名を刻み込んだ聖剣がある事に柄にもなく興味を抱く。


「……にしても、そんな大層な代物がこの教会にあるなんて私も知らなかったよ。どこに隠してあったんだい?」
「それは……」


地下の宝物庫の事は教皇から内密にするように言われており、どう答えるべきかとジャンヌが思案した時、



――バタンッ!!



「だ、団長!!」
「……どうしたんだい?」


突然、1人の女騎士が慌ただしく部屋の中に入り込み、すぐに2人が視線を向けると、彼女はジャンヌの顔を見た途端に動揺する。


「せ、鮮血のジャンヌ……!?何故、こんな所に……!!」
「……何を言ってんだい、こいつがこの教会に来ている事はあんただって知らないはずないだろ?」


ジャンヌがレーヴァティンの返却のために教会総本部に訪れているのは知れ渡っており、ワルキューレ騎士団の女騎士達の耳にも入っているはずだが、部屋に入ってきた女性は剣の柄を握りしめる。


「お、御下がり下さい団長!!その女は敵です!!」
「え?」
「……どういう意味だ?」


女騎士が腰に差した長剣を抜き取り、不穏な空気にジャンヌは椅子から立ち上がる。テンだけは冷静に彼女に視線を注いで詳しい報告を聴く。


「そ、その者はつい先ほどに教皇様に手を掛けた大罪人です!!今すぐ捜索隊を送れとのセンリ様からの指令が届きました!!」
「センリさんが……?」


現在の「聖天魔導士」の名前が出てきたことにテンは驚いた表情を浮かべるが、すぐに捜索隊という言葉に疑問を抱く。


「教皇様の容態は?」
「幸いの所、大きな怪我はありませんが……その女を拘束するように命令を下されました!!早く捕まえましょう!!」
「ま、待ってください!!何の話ですか!?」
「落ち着きな!!」


動揺する女騎士とジャンヌにテンは一括し、顎に手を押し当てて考え込む。ジャンヌが先ほど教皇に手を掛けたという話の意味が理解できず、彼女はずっとこの訓練場の中に滞在していた。しかし、現に教皇と聖天魔導士から「ジャンヌ」の捜索と拘束の指示が与えられたのは眼前の女騎士の反応から察するに事実であり、一体何が起きているのかは分からないが、


「……あんたに聞きたいことがある。その聖剣は本物かい?」
「……え?ど、どういう事ですか?」


考えられることは1つ、目の前のジャンヌが偽物か本物か、どちらかを確かめなければならない。だが、彼女はテンの質問の意図が分からずに疑問の声を上げる。


「鈍い奴だね……あんたが本物なら、その聖剣を扱えるはずだよ」
「団長!?」
「……なるほど」


テンの言葉の意味を悟り、彼女は覚悟を決めてレーヴァティンの柄に手を伸ばす。すぐに抜刀していた女騎士が慌てて剣を剥けようとしたが、テンが睨み付けて彼女を止める。


「……レーヴァティン」


ボウッ……!!


ジャンヌが聖剣を鞘から抜き取ると、すぐに刀身から「真紅」の炎が迸り、幻想的な美しさを醸し出す。その光景は間違いなく、腐敗竜戦でも確認した物と同じであり、眼の前の「ジャンヌ」が本物であることを証明する。満足気にその光景を見てテンは頷き、彼女はゆっくりと起き上がると女騎士の方に視線を向ける。


「さて……と、ミル。ここにいるのは本物だよ。だからその物騒な物は収めな」
「し、しかし……」
「さっさとしまえって言ってんだよ!!」
「は、はい!!」


彼女の怒声に慌ててミルと呼ばれた女騎士は長剣を鞘に戻し、そのまま直立する。それを確認すると、ジャンヌは聖剣を鞘に戻して安堵したように一息吐く。


「何が起きているのかは分からないけど……私が証明するよ。ここにいるジャンヌはずっと私と一緒に居たんだ。教皇様に何か出来るわけがない」
「で、ですが……それならば何者が教皇様を?」
「……分かりません。情報が少なすぎます……ですが、心当たりはあります」
「……あんたの妹だね」
「はい……きっと、カトレアが近くにいるはずです」


ジャンヌの脳裏に自分と瓜二つの容姿の持つカトレアの姿が思い浮かび、自分が嵌められた事に気が付く。
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