種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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聖導教会総本部編

飛燕・氷華

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「止まれ!!」
「動くな!!」
「「…………」」


アルトと「銀の英雄」を憑依させて変化したレミア(ナナ)が叫ぶと、3人の勇者は面倒臭そうにゆっくりと振り返り、虚ろな瞳で二人を見つめてくる。明らかにカトレアの魅惑(チャーム)に掛かっており、この状態ではこちらの話など通じない。

ヴァンパイアの魅惑を解く方法は聖導教会の医療魔導士かもしくは聖天魔導士の「浄化」の魔法を行うのが一番だが、どちらもでもい2人には彼等を浄化する術はない。ならば魅惑を掛けた本体を倒すしかないのだが、カトレアは既に姿を消して何処にいるのかさえ分からない。


「……嵐の……」
「させません」


勇者の1人が拳銃と酷似した刀剣を構え、2人に向けて銃口のような刀身を向けてくる。恐らくは先ほど兵士たちをなぎ倒した風属性の魔法(スキル)を放出するもりだったのだろうが、その前にナナが大きく踏み込み、右腰の赤色の鞘から長剣を抜き取る。


「――飛燕」


ズバァアアアッ!!


「ぬおっ!?」


日本刀の「居合」の要領で刃を抜き放ち、赤い刀身の美しい長剣が露わになる。そして抜き放たれたのと同時に勇者の剣を弾き、彼女はもう片手で反対側の腰に差したの青色の鞘の長剣を掴み取り、


「氷華」


ゴォオオオオッ……!!


「「ッ……!?」」
「これは……冷気?」


今度はゆっくりと鞘から刀身を抜き放ち、周囲の温度が一瞬にして下がる。刀身から放たれる冷気に周囲の全員が寒気に襲われ、一瞬だが勇者達の動きが止まる。

アルトも彼女の持つ氷華の「冷気」に身体が凍えそうだが、今はそんな事を気にしている場合ではない。彼女1人に勇者達3人を任せるわけにもいかず、一番小柄で3人の中で唯一「弓矢」を装備している男に顔を向ける。

彼とは何度か顔を合わせており、幾度か共に戦場を駆け巡っている。名前は「笹崎」と言い、後方支援型の攻撃手段を得意としているため味方としては心強いが、敵に回った以上は真っ先に倒さなければならない相手だ。


「ハッ!!」


レミアから受け取った剣(無名だが、それなりの業物)を掲げ、笹崎に向けて振り落とす。彼は近接戦闘手段を得意とせず、常に仲間と行動をしていたため、純粋な技量ならアルトの方が上だが、


「フンッ!!」
「くっ!?」


ガキィンッ!!


笹崎の隣に立っていた勇者が正真正銘の長剣で遮り、アルトを牽制する。その間にも笹崎が自分の右腕に固定した弓矢(ボーガン)を構え、矢が嵌められていないにもかかわらず、弦を引く動作を行う。


「スリーピング・ショット!!」


バシュッ!!


弓から唐突に光輝く「魔弾」が出現し、そのままアルトに向けて放たれる。この攻撃は見覚えがあり、大人のハニーベアーさえも一撃で昏倒させた魔法だ。


(催眠系の攻撃……!!)


冷静にアルトは向かってくる魔弾を頭を下げる事で回避し、長剣を構えて邪魔を行う勇者と対峙する。初めて見る顔だが、どうやら相当な使い手であり、ほとんどの勇者達は「レベル」という加護の恩恵で与えられた自分の魔法(スキル)に頼りきりのため、個々の技量は低い。だが、眼の前の男には全く隙が見えない。

アルトは知らない事だが、彼は現実世界では高校生3年生で剣道部の主将を勤めており、全国大会にまで出場した実力者である。だが、全国大会で他校の津田原という男子に敗れたことにより、彼を打倒するために毎日のように剣術を鍛えてきた。


「はあっ!!」
「ヌグッ……!!」


一方でナナの方は先ほどどさくさに紛れてアルトが武器を奪った勇者と相対しており、彼はアルトに刀を奪われて以降は武器を所持していないが、両手から「十字架」を想像させる魔力で更生された剣を掲げている。

これも勇者の魔法(スキル)であり、名前は「魔力剣」と呼ばれており、自らの魔力で武器を形成する。外見はレーザーサーベルのように格好良く見えるが、その剣撃はお粗末な物であり、ナナの無数の剣戟に翻弄される。


「その程度ですか!!」
「グァアッ!?」


ズバァアッ!!


ナナの飛燕が勇者の肩を突き刺し、差込口から炎が発火する。これが彼女の持つ魔剣「飛燕」の能力であり、斬りつけた傷口に「炎」を生み出せる。但し、この剣は相手を斬りつけない限りは炎を発生しない。

もう1つの「氷華」は常に刀身から「冷気」を発しており、鞘に収めない限りは周囲の物を氷結させる危険極まりない魔剣である。そのため、抜いた直後に勝負を早々に決着を付けなければならず、ナナでさえも一歩間違えれば氷漬けにされてしまう。


「ハナレッ……!?」
「遅い」


ズボォッ!!


「グァアッ!?」


飛燕を抜き取ると傷口がさらに発熱し、一瞬にして火傷と化して出血を抑える。本来ならばそのまま炎が身体を焼き焦がすのだが、ナナの調整で火傷程度に済ませている。


「クッ……ヒーリング」
「ほう……自力で回復魔法まで扱えるのですか。腐っても勇者というわけですか……」


左肩に火傷を負いながらも、男は掌を向けて白い魔力の球体を形成する。そして、球体を火傷部分に押し当てると徐々に火傷の跡が縮小してろい、この世界では回復魔法とは他者を癒すことは可能でも、基本的に自分の傷は治癒できない。恐らくこれも「勇者」の加護だろう。
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