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聖導教会総本部編
魅惑解除
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――ウウッ……アアァッ!!
「本当に死人じゃないの?」
「……自信が無くなってきました」
レノの嵐撃によって吹き飛ばされたはずの勇者2人がゆっくりと起き上がり、1人は腕があらぬ方向に曲がりながらも、痛みを感じていないかの様に立ち上がる。まるで死人のように目を虚ろにしながらも顔を向けてくる。
「コロス……」
「テキハ……コロス……」
「……ヴァンパイアの魅惑(チャーム)か」
放浪島の「地下迷宮(ロスト・ラビリンス)」にも似たような状態の魔物と遭遇したことがあり、地下二階層に生息していた「ハーピィ」という人間と鳥類が合体したかのような魔物(正確には魔人族)がいた。彼女達は他の魔物を自分の「魅惑(チャーム)」の魔法で虜にして、配下に収めた魔物を操ってレノを狙ってきた。
ハーピィは知能は高く、外見も人間によく似ているが、地下迷宮内のハーピィはどうにも獰猛性と残虐性に秀でていたため、打ち倒すしか方法は無かった。彼女達「魅惑」に掛かった生物は聖属性の魔法か、もしくは本体を倒す事でしか正気に戻せないが、生憎とレノは聖属性は扱えない。
「仕方ない……少しなら平気か」
「それは……なるほど」
レノは右手の紋様を確認し、ナナは彼の右腕から感じ取れる力に納得した表情を浮かべる。
「オーロラヒール……」
「ヒーリング……」
ボウッ……!!
勇者達は回復魔法(スキル)を発動させて傷を癒すと、自分たちを吹き飛ばしたレノに視線を向け、それぞれの武器を構える。勇者はあらゆる魔法を扱えるので、特に回復魔法を使用しても驚きはしない。
先ほどの嵐撃の傷が完全に治癒されたのを確認し、レノは右の拳を固める。レノ自身には聖属性の力は備わっていないが、この紋様には以前にジャンヌの聖の聖痕を回収しており、一時的にだが右手に聖属性の力を宿すことが出来る事が最近判明した(但し、魔法として発現は出来ない)。
「さてと……瞬脚」
ダァンッ!!
「「っ!?」」
一瞬で肉体強化を発動させ、そのまま瞬脚で笹崎に接近すると、彼の腹部に目掛けて右拳をめり込ませる。
ズゥンッ!!
「ガハッ……!?」
「駄目押し」
ビシィッ!
顎先にも軽く拳を掠め、脳震盪を起こさせる。笹崎は糸が切れた人形の様に地面に倒れこみ、それを確認したもう一方の勇者は懲りずに魔力剣を発動させ、
「シネ!!」
後方から笹崎ごと斬り伏せようと魔力剣を振り上げ、仲間を犠牲にしてでも目標を駆逐する姿勢にレノは眉を顰め、
「甘い!!」
「ヌグッ!?」
ガキィンッ!!
痺れから抜けきったナナが飛燕で彼の剣撃を打ち払い、そのまま腹部を蹴り込んで距離を取らせる。その間にもレノは彼女の横を通り過ぎて勇者との距離を詰め、
「らぁっ!!」
「ブフッ!?」
勢いを付けた右拳を彼の顔面に叩き込み、そのまま地面に叩き付ける。それを確認するとナナは倒れた笹崎に視線を向け、
「……今度は気絶していますね」
「魅惑は……解除成功か」
レノは殴り倒した男にも視線を向け、完全に気絶しているのを確認し、どうやら上手く「魅惑」は解除できたようだである。
「さて……魔力ぐらいは回復させるか」
「え?」
倒れた笹崎の掌を握りしめ、傷を回復させることは出来ないが、魔力を送り込んで体力を回復させることは出来る。魔力とは行ってみれば「生命エネルギー」であり、気休め程度にはなるはず。
「やぁ~……」
「な、何ですか……その気の抜ける掛け声は」
笹崎に掌を通して魔力供給を行い、彼の表情が心なしか軽くなると、壁際に寝かせる。もう1人の男の方にも一応は魔力を流し込み、今度は倒れたまま動かないアルトと彼が打ち倒した勇者の方にも視線を向ける。
「アルトは……本格的に治療しないと不味いかな」
「こちらの方は……」
「こっちはもう魅惑は解けているみたいだな……どうやったの?」
「確か……そちらはアルトの「聖属性」の攻撃を受けていましたね。どうやら時間差で解除したようですね」
どうやら先ほどのアルトの「ディバインスラッシュ」の影響か、此方の勇者の方の魅惑は解除されており、この倒れ込んだ勇者3人とアルトをどうやって連れて行こうかと二人は頭を悩ませると、
――ズズゥウウンッ……!!
「「っ!?」」
不意に建物が振動し、レノとナナは顔を見合わせる。ハーフエルフの聴覚から察するに葬式が行われているはずの「聖堂」の方角から異変が起きている事を察知する。現在の聖堂には教皇の葬式のために大勢の人々がいるはずであり、その中にはリノン達も含まれている。
「まさか……!!」
「……敵か」
すぐにナナは駈け出そうとしたが、レノは彼女の肩を掴んで止める。
「こいつらはどうする?」
「……っ……他の人間に」
「何処にその人間がいるんだ?」
先ほどから相当に暴れているはずだが、未だに警備兵や騎士団が訪れる様子は無い。恐らく、この聖導教会内の異変は勇者達だけではなく、不特定多数の場所で問題が起きている気がする。今のナナは痺れが抜けたとはいえ、それでも完全に復調したわけではない。
「俺が行く。ナナ……さんはこいつらを頼む」
「しかし……大丈夫ですか?」
「目立たないようにするからさ」
「そういう意味では……あっ!!」
そう告げると、レノは返事も待たずに走り出した。
「本当に死人じゃないの?」
「……自信が無くなってきました」
レノの嵐撃によって吹き飛ばされたはずの勇者2人がゆっくりと起き上がり、1人は腕があらぬ方向に曲がりながらも、痛みを感じていないかの様に立ち上がる。まるで死人のように目を虚ろにしながらも顔を向けてくる。
「コロス……」
「テキハ……コロス……」
「……ヴァンパイアの魅惑(チャーム)か」
放浪島の「地下迷宮(ロスト・ラビリンス)」にも似たような状態の魔物と遭遇したことがあり、地下二階層に生息していた「ハーピィ」という人間と鳥類が合体したかのような魔物(正確には魔人族)がいた。彼女達は他の魔物を自分の「魅惑(チャーム)」の魔法で虜にして、配下に収めた魔物を操ってレノを狙ってきた。
ハーピィは知能は高く、外見も人間によく似ているが、地下迷宮内のハーピィはどうにも獰猛性と残虐性に秀でていたため、打ち倒すしか方法は無かった。彼女達「魅惑」に掛かった生物は聖属性の魔法か、もしくは本体を倒す事でしか正気に戻せないが、生憎とレノは聖属性は扱えない。
「仕方ない……少しなら平気か」
「それは……なるほど」
レノは右手の紋様を確認し、ナナは彼の右腕から感じ取れる力に納得した表情を浮かべる。
「オーロラヒール……」
「ヒーリング……」
ボウッ……!!
勇者達は回復魔法(スキル)を発動させて傷を癒すと、自分たちを吹き飛ばしたレノに視線を向け、それぞれの武器を構える。勇者はあらゆる魔法を扱えるので、特に回復魔法を使用しても驚きはしない。
先ほどの嵐撃の傷が完全に治癒されたのを確認し、レノは右の拳を固める。レノ自身には聖属性の力は備わっていないが、この紋様には以前にジャンヌの聖の聖痕を回収しており、一時的にだが右手に聖属性の力を宿すことが出来る事が最近判明した(但し、魔法として発現は出来ない)。
「さてと……瞬脚」
ダァンッ!!
「「っ!?」」
一瞬で肉体強化を発動させ、そのまま瞬脚で笹崎に接近すると、彼の腹部に目掛けて右拳をめり込ませる。
ズゥンッ!!
「ガハッ……!?」
「駄目押し」
ビシィッ!
顎先にも軽く拳を掠め、脳震盪を起こさせる。笹崎は糸が切れた人形の様に地面に倒れこみ、それを確認したもう一方の勇者は懲りずに魔力剣を発動させ、
「シネ!!」
後方から笹崎ごと斬り伏せようと魔力剣を振り上げ、仲間を犠牲にしてでも目標を駆逐する姿勢にレノは眉を顰め、
「甘い!!」
「ヌグッ!?」
ガキィンッ!!
痺れから抜けきったナナが飛燕で彼の剣撃を打ち払い、そのまま腹部を蹴り込んで距離を取らせる。その間にもレノは彼女の横を通り過ぎて勇者との距離を詰め、
「らぁっ!!」
「ブフッ!?」
勢いを付けた右拳を彼の顔面に叩き込み、そのまま地面に叩き付ける。それを確認するとナナは倒れた笹崎に視線を向け、
「……今度は気絶していますね」
「魅惑は……解除成功か」
レノは殴り倒した男にも視線を向け、完全に気絶しているのを確認し、どうやら上手く「魅惑」は解除できたようだである。
「さて……魔力ぐらいは回復させるか」
「え?」
倒れた笹崎の掌を握りしめ、傷を回復させることは出来ないが、魔力を送り込んで体力を回復させることは出来る。魔力とは行ってみれば「生命エネルギー」であり、気休め程度にはなるはず。
「やぁ~……」
「な、何ですか……その気の抜ける掛け声は」
笹崎に掌を通して魔力供給を行い、彼の表情が心なしか軽くなると、壁際に寝かせる。もう1人の男の方にも一応は魔力を流し込み、今度は倒れたまま動かないアルトと彼が打ち倒した勇者の方にも視線を向ける。
「アルトは……本格的に治療しないと不味いかな」
「こちらの方は……」
「こっちはもう魅惑は解けているみたいだな……どうやったの?」
「確か……そちらはアルトの「聖属性」の攻撃を受けていましたね。どうやら時間差で解除したようですね」
どうやら先ほどのアルトの「ディバインスラッシュ」の影響か、此方の勇者の方の魅惑は解除されており、この倒れ込んだ勇者3人とアルトをどうやって連れて行こうかと二人は頭を悩ませると、
――ズズゥウウンッ……!!
「「っ!?」」
不意に建物が振動し、レノとナナは顔を見合わせる。ハーフエルフの聴覚から察するに葬式が行われているはずの「聖堂」の方角から異変が起きている事を察知する。現在の聖堂には教皇の葬式のために大勢の人々がいるはずであり、その中にはリノン達も含まれている。
「まさか……!!」
「……敵か」
すぐにナナは駈け出そうとしたが、レノは彼女の肩を掴んで止める。
「こいつらはどうする?」
「……っ……他の人間に」
「何処にその人間がいるんだ?」
先ほどから相当に暴れているはずだが、未だに警備兵や騎士団が訪れる様子は無い。恐らく、この聖導教会内の異変は勇者達だけではなく、不特定多数の場所で問題が起きている気がする。今のナナは痺れが抜けたとはいえ、それでも完全に復調したわけではない。
「俺が行く。ナナ……さんはこいつらを頼む」
「しかし……大丈夫ですか?」
「目立たないようにするからさ」
「そういう意味では……あっ!!」
そう告げると、レノは返事も待たずに走り出した。
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