種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
517 / 1,095
剣乱武闘編

最後の休息日

しおりを挟む
「……んんっ……」
「わふわふっ……」
「あだだだっ……耳に噛みつくな」


自室で休憩していると、レノは両耳をポチ子とコトミに噛みつかれ、すぐに起き上がる。あの後、ずっと騒いでいたのでまたもや眠り過ぎたようだ。


「全く……うりゃっ」
「やんっ……あ、ふぅうんっ……」
「あうっ……ふぁっ……」


ふにふにっ……


仕返しとばかりに2人の膨らんだ胸元を鷲掴み、揉みしだく。2人は頬を赤くしながらも起きる様子は無く、しばらくの間は2人の反応を楽しんだが、すぐにベッドから降り立ち、身体の具合を確かめる。


「んっ……やっと身体も本調子に戻ってきたかな」


急成長によって体調を崩していた身体も大分馴染んできたというのか軽くなり、これならば明日の最終日はいつも以上に動けるだろう。試しに右腕に「魔鎧(フラム)」を形成すると、


ボウッ……!!


「おおっ……」


右腕全体に「紅炎」が生み出され、その火力も十分に伝わってくる。だが、自分の生み出した魔法では自分自身を傷つかないという法則のお蔭か、炎自体に脅威は感じられない。


「よし」


魔鎧を解除してレノは立ち上がると、ベッドで絡みつく2人を確認し、


「もう昼だぞコトミン」
「んんっ……」
「ポチ子やい」
「すやすや……」
「起きないな……まあ、あんだけ騒いだらなぁ……」


宴は朝まで続き、二人が眠りに着いたのも4、5時間ほど前であり、まだまだ寝たりないのだろう。コトミはともかく、ポチ子が明日の試合に響かないか心配だが、いざとなったらヨウカに頼み込んで彼女に何とかしてもらうしかない(聖属性の魔法では体力までは回復できないため、巫女姫の権限を行使させてポチ子の出番を後半に回してもらう)。


「さてと……ん?」


ボウッ……!


右手の紋様が光り輝き、いつもの「聖痕所持者」が近くにいた時の反応ではない。恐らくはアイリィがレノに対して連絡を送っているようだが、様子がおかしい。

何時もならば急な眠気に襲われ、夢の中でアイリィが現れるのだが、今回は特に身体に異変は無い。先ほどまで寝ていたことから眠気が沸かないのかと思ったが、先日の時は起きた後でも夢の世界に強制的に引き込まれ、廊下で昏倒してしまった。


「何なんだ一体……」


紋様は点滅を繰り返すが反応に困り、これでは彼女が何を伝えたいのか分からないが、


『……さん……聞こえ……す……!!』
「え?」


耳元、というよりは頭の中に直接女性の声が聞こえ、周囲を見渡すが誰も確認できず、つい先日のデュラハンと遭遇した時の事を思い出し、誰かが念話で語り掛けている事に気付く。恐らく、相手はアイリィである事は間違いないが、様子がおかしい。


(アイリィか?)
(あ、やっと繋がりましたね!!貴方、一体どんだけ寝てるんですか!!)


心の中でアイリィの事を思い浮かべながら話しかけると、今度ははっきりと彼女の声が頭の中に響いてくる。どうやら、念話の技術を持っていないレノでも会話は出来るようだった。


(……どうした?随分と切羽詰った声に聞こえるけど……)
(文字通り切羽詰ってるんですよ!!あの女……とんでもない大物でした!!)
(あの女って……アクアか?)


レノの脳裏に呑気そうに微笑む人魚族の姫の姿が思い浮かぶが、アイリィは焦りが混じった声で、



(――あれはアクアさんじゃありません!!本人は既に死んでいて、今まで私達の前に姿を現していたのは別人です!!)



一瞬、彼女が何を言っているのかと眉を顰めたが、すぐにレノは2人の人物を思い出す。まずは聖導教会の教皇と、第二次予選で戦闘を行ったアルトであり、彼等の体内から出た黒色の物体(スライム)を。

以前にアイリィは別次元に存在する「悪魔」の事を説明してくれたが、彼らはこの世界に訪れたとしても非常に力の弱い生き物であり、他人の身体に寄生しなければ生きていけない。

だが、一度寄生に成功すればその肉体を自由に操り、例え「原初の英雄」と謳われた「アイル」でさえも抗えず、身体を乗っ取られた。もしかしたら、アクアにも同じ出来事が起きているのではないかと問いただそうとした時、


(察しが良いですね!!その通りですよ!!)


レノの考えを読み取ったのか、アイリィはすぐに肯定し、


(あいつら……大会最終日まで待ちきれなかったんです!!だから、もうあちこちが大変なことになってますよ!!)
(あいつら……?)


すぐにレノは自室の窓の外を確認した瞬間、大きく目を見開く。



――いつもはのどかな風景が見える窓から、街の各所で火事が起きているのか黒煙が舞い上がっている。その数は1つや2つでは済まず、至る所で火災が起きている。恐らくはこの都市全体に異変が起きていた。



(センチュリオンか!?)
(それだけじゃありませんよ……あの女も動いています)
(……ホムラ)



ダンッ!!



レノは壁に拳を叩き付け、急成長によって身体能力が大幅に強化された拳は、いとも簡単に壁にめり込んだ――
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:355pt お気に入り:8,127

シモウサへようこそ!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:335

冷遇ですか?違います、厚遇すぎる程に義妹と婚約者に溺愛されてます!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:830pt お気に入り:8,885

新宿アイル

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:138

処理中です...