種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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ヒナ編

KO

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コトミの浄化により、伝令として送り込まれた兵士たちの怨痕は容易く浄化される。彼女が才能豊かな医療魔術師とはいえ、普通ならばそう簡単に浄化出来るはずが無いのだが、どういう訳か怨痕その物が弱体化しており、問題なく浄化出来たという。

リーリスが生み出した怨痕、正確に言えば聖痕の力を利用した分身体は聖属性の魔力には弱いが、それでも一介の聖魔導士に浄化できる代物ではない。今回は単純にコトミが才能豊かな凄い魔導士であった事が幸いだったと判断するべきだろう。

一応は兵士に偽装した人間たちは王国側に送り込まれる事が決まり、彼らの変わりに隠密部隊が四方に散らばった捜索隊の伝令役を行う。本来ならば彼らは表立って動くよりも、むしろこのような裏方の方に徹するのが筋であり、今後はより効率よく他の部隊とも連絡を取れるようになった。

また、カゲマルは内密に各部隊の人間達の調査を行い、他にもリーリスの「怨痕(分身体)」を宿した団員がいないか確かめるため、捜索隊から一時離脱し、しばらくの間は調査のために出向く。



――偽者の兵士たちを浄化してから翌日、ヒナ達が朝食を取っている間に今度こそ本物の伝令兵が訪れ、各部隊の状況を説明する。予想通りと言うべきか、やはり昨日の内に報告された北部山岳の調査内容は虚偽である事が判明し、各部隊は想定よりは進行具合は遅いが、それでも大きな被害は無かった。



「……北部山岳は未だに山岳地帯に着いたばかり、西部地方は大型の魔物の対処に精一杯、東部地方は狼男の襲撃で難航、最後にこの南部地方に至っては未だに森の中央部にまで到達できていないか……」
「封印が解ける予定日までもう50日を切ったって言うのに……どうすればいいんだよ!!」
「落ち着け!!焦ったところでどうにもならん……今の我々に出来る事は文句を言う前に行動で示す事だ」
「とは言っても……どうすればいいんだ?」


団員たちが集まり、南部の森の調査会議を行うが、予想以上に各捜索隊の難航具合に誰もが溜息を吐き出し、既にこの放浪島に訪れてから5日近くも経つのに未だに調査は進展していない。

唯一、昨夜の内にヒナが訪れたという泉に関しては有力な手掛かりだが、彼女曰く得体のしれない生物が泉の中に潜んでいるという話に全員の顔色が悪くなる。

この南部地方に集まったのは捜索隊の中でも戦闘能力が低い者達ばかりであり、第四部隊のメンバーを除けばほとんどが森人族と人間の冒険者で占められている。事前の会議でこの森に遺跡があるという情報自体も確認されていないため、捜索隊の規模も一番小さい。

南部地方にフェンリルなどの魔物の文献が保管された遺跡が存在するのを知っているのは、アイリィから教わったヒナだけであり、一応は事前にアルト達にもその事を伝えたのだが、殆どの者はこの島の主である白狼種が生息している北部山岳に人員を集中させ、調査を行っている。


(まあ……あるかどうかも分からない遺跡を探すより、生息地域が判明している白狼を探すのが妥当だよね……)


この放浪島に伝わる「白狼伝説」は王国の歴史書に刻まれており、あのフェンリルと兄弟種であることが判明した以上、何としても北部山岳に生息している白狼種を捕獲し、詳しい生態系を調べねばならない。

しかし、約2年前まで北部山岳に住んでいたヒナとしては仮にウル以外の白狼種が存在したとしたら、出来れば彼らに迷惑を掛けたくは無い。人間の勝手で野生で平和に暮らしている動物達にとっては迷惑極まりない。

アイリィが告げた遺跡、出来れば他の捜索隊が北部山岳の白狼種を発見する前に見つけ出したいところだが、手掛かりは水人華と謎の食虫植物が存在する「泉」だけであり、作戦を立ててもう一度訪れなければならない。


「全員集合~」
「……?」
「わふっ?」
「読んだか?」


ヒナの言葉に反応して第四部隊のメンバーが勢ぞろいするが、彼女は皆に視線を向け、期待は出来ないが一応は問いただす。


「この中で実は火属性の魔法が得意だって言う人は手を上げて~」
「……ぷいっ」
「わぅっ……」
「すまん」


巨人族であるゴンゾウはともかく、魔法を不得手とするポチ子はしゅんと犬耳を垂らし、この中では一番期待していたコトミはあらぬ方向に視線を向け、一応は僅かな希望を抱いきながら他の団員達にも視線を向けると、


「す、すいません……俺達、風属性の魔石を扱うぐらいしか出来なくて……」
「リノンさんやジャンヌさんがいれば……」
「あはは……私達にそういうのを期待されてもね」


人間の冒険者は申し訳なさそうに顔を伏せ、数人の森人族の冒険者は頭を搔いて苦笑いを浮かべる。純粋な森人族は火属性の魔法は扱えず、この南部地方の捜索隊の中で火属性の魔法を扱えるのは唯一ダークエルフの血を受け継ぐ「ヒナ」だけだった。

正確に言えば彼女も火属性の魔法を扱えるわけではなく、レグに教わった魔闘術で右腕に「蒼炎」を纏わせることは出来るが、本家の火属性の魔法と違って色々と不便な点が多い。

仮に今回の捜索隊の中に「レーヴァティン」を操るジャンヌや「火炎剣」を得意とするリノンがいれば話は別だろうが、2人とも極寒の北部山岳に送り込まれており、救援を求めるにしても時間が掛かる。


「こんな事ならカゲマルから爆薬でも貰っておくべきだったかなぁ……」
「ぶ、物騒な事を言わないで下さいよ……ヒナさんが言うと、洒落に聞こえないっすよ」
「可愛い顔して、結構大胆な行動を起こすからなこの人……」


ヒナの発言に団員たちが冷や汗を流し、何だかんだでこの5日の間に彼女はそれなりの交流関係を築けていた。特に心配されていた森人族の冒険者とも問題なく過ごしており、彼女達は未だに彼女がハーフエルフである事を見抜いていない。


「そう言えば聞きたいんだけど……ヒナさんってどこの出身なの?まだ子供みたいだけど、やたらと強いというか……」
「そうそう、初日でサイクロプスを殴り飛ばした姿は驚いたよ本当に!!」



――実はヒナは放浪島の初日に他の団員たちと行動を共にし、キャンプを張る際に食べ物の匂いに釣られて現れた「サイクロプス」の個体と交戦している。



サイクロプスは滅多に自分から襲い掛からない臆病な性格の魔人だが、空腹の際は些か獰猛性を増し、ヒナ達が用意した食事を狙って森の中から現れたのだ。

捜索隊は慌てて戦闘よりも逃走する事に切り替え、全員がサイクロプスに後ずさる中、ヒナだけは大きめのお椀を片手にその個体に近づき、食事を渡そうとする。


『お腹空いてるの?』
『ゴアッ?』


普通に友人に話しかけるような態度で近づいてくるヒナにサイクロプスは戸惑うが、すぐに彼女が手にしているお椀に視線を向け、その美味しそうな匂いに堪らずに彼女からお椀を奪おうとした際、


バシィッ!!


『あっ』


勢い余ってヒナが差し出したお椀を地面に落としてしまい、中身が地面に飛び散る。その光景に誰もが呆気にとられ、サイクロプスは興奮した風に唸り声を上げたとき、


『食べ物を……粗末にするなぁああああああっ!!』
『グホォッ!?』


ズドォンッ!!


肉体強化のみで加速させたヒナの拳がサイクロプスの顎を正確にとらえ、そのまま脳震盪を起こした個体は地面に倒れ込み、見事に一発KOで仕留めた(その後はちゃんと普通に治療を行い、食料を分け与えて森の中に逃がしたが)。

その光景に団員たちの間での上下関係が定まり、この部隊を任されているはずの隊長ですらヒナには敬語を使うようになった。
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