種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
651 / 1,095
英雄編

定番な流れ

しおりを挟む
レノは第四部隊を引き連れ、城塞都市から枯葉の森に転移する。結構な期間を離れていたため、転移魔方陣がしっかりと作動するのか不安だったが上手く転移に成功した。


「あれ?」
「わうっ?」
「ここは……」
「……?」
『事前に知らされた情報と不一致』


転移して早々にレノ達は目の前の光景に目を見開く。少し前に訪れたときは不格好な木造の小屋が建築されていたが、現在では立派な建築物が並んでおり、石斧や槍を所持したハイ・ゴブリン達が行き交っている。それだけではなく集落の中心部には見知らぬ大木が埋め込まれており、枯葉の森の名に似つかわしくない美しい緑の自然が広がっていた。


「おおっ!!レノ様!!」
「ギギッ!?」
「オカエリ、ニイチャッ!!」


転移魔方陣が設置されている小屋を抜け出した途端、ハイ・ゴブリン達が仕事を放棄してレノ達の周囲に集まり、すぐに彼らのまとめ役であるカイが深々と頭を下げる。


「久しぶりカイ」
「お久しぶりですレノ様、今日は何用でしょうか?」
「フレイとアイリィはいる?」


レノ達がこの枯葉の森に訪れたのは、ムメイが使用している結界石の種類を知っている可能性がある彼女に問い質すため、他にも個人的にアイリィに色々と聞きたいことがある。


「お二人は現在出掛けております。フレイ殿は最近帰ってきたばかりなのですが、すぐにまた何処かへ行ってしまいまして……」
「……そうなの?」


フレイは放浪島での探索以降、当の昔に枯葉の森に戻っていると思っていたが、これでは当てが外れてしまう。この場所にいればいずれは帰ってくるのだろうが、フレイはともかくアイリィの居所が気になった。


「アイリィの奴は何処に行ったの?」
「それが私達も見当がつきません。あの方は飄々というか、ともかく自由に行動するので把握できません」
「へえ……ちゃんと役に立ってるの?」
「それはもう!!お二人のお蔭で随分とこの集落も発達しましたから!!」


確かに周囲の様子を確認し、今までと比べても建物の構造やゴブリン達の生活も一変しており、よくよく確認すると彼らが狩猟したと思われる魔物の肉を燻製にして長期間保存している道具が用意まで存在する。

それにハイ・ゴブリンの中には筋骨隆々の者達が増えており、流石に毎日のように樹木を切り倒して運んでいるせいか、自然に随分と鍛えこまれている。昔は研ぎ澄ました石包丁だけで材木を切り倒していたが、ムミョウが来てからは石斧も使うようになり、随分と材木を伐採する速度が早まっていた。

ちなみに基本的に森人族はこのような道具は使わずに建築を行う。彼らの場合は樹木を伐採する際は魔法で切り倒し、独自の建造技術で造りだす。しかし、基本的に彼らは樹木を愛しすぎるため、滅多に伐採する機会は無い。


「この調子ならば数十年ほどで深淵の森の集落と同程度の規模には広げられるとおっしゃられていました」
「そうなんだ……けど、最近の森の様子はどう?」
「その事ですが……アイリィ様が語る活性化現象とやらの影響で樹木も蘇り、我々の食材となる小型の魔物も増えていくのは良いのですが、最近では獰猛性の高い肉食魔獣もここを嗅ぎつけまして……」
「イノブタとか?」
「いえ、ハニーベアーなどの中型魔獣です。そのため、アイリィ様から我々の中にも戦闘を主流とした部隊を作るように申し付けられました。名前は「赤の星屑(レッド・スターダスト)」と名乗るようにとも」
「あいつ今更中二病設定を晒したのか」


目的の人物がいない事が判明し、レノ達は仕方なく夕方まで集落で待つことにすると、ゴンゾウは巨人族の血が騒いだのかハイ・ゴブリン達と共に集落の材木を運び、ポチ子はゴブリンの子供達の遊び相手を行い、デルタは充電を行うという事で日光浴を開始し、残されたレノはコトミを膝枕しながら時折彼女の喉元を指でくすぐり、休息を開始する。


「……ごろごろ」
「本当に猫みたいな奴だな……うりうり」
「……にゃあっ」


小屋の中でコトミが猫耳を思わせる癖っ毛を動かし、ゆっくりと瞼を閉じて寝息を立てる。その間にレノはホルスターからエクスカリバーを取り出し、やはり自分には性が合わない。


「どうも慣れないな……」


地下施設では色々と役立ってくれたが、レノとしては「剣」そのものを武器として利用するのは違和感があり、出来れば聖爪のような鍵爪の類の武器が得意なのだが、生憎とアイリィに預けた銀の鎖と聖爪はまだ帰ってくる様子は無い。


「しっかし、変なことになったな……」


レノの当初の目的はホムラを倒すためにアイリィと契約を交わし、全ての聖痕を集める旅に出たのだが、何時の間にか王国に所属し、世界的大犯罪者集団に指定されたロスト・ナンバーズやアイリィから身体を奪ったという魔王とまで敵対してしまう。

どんどんと最初の目的から離れていくように感じられ、旧世界のRPGゲームだと定番な流れではあるが、生憎と現実でこのような結果に巻き込まれるとは考えた事もなかった。


「何をぶつぶつ言ってるんですか?」
「うわっ、帰ってきたのか」


不意に出入口から声を掛けられ、そこには兎の耳をぴこぴこと動かしながら両手にぶら下げた籠に果物の山を入れたアイリィが立っており、彼女は小屋の中に入り込むと荷物を置き、レノの真正面に座り込む。


「それで、何が起きたんですか?」
「かくかくしかじかわふわふ(※説明中)」
「なるほど~そんな事があったんですか。どうりで外で前の私にそっくりな機械人形がいたわけですか」


放浪島で起きた出来事を全て話すと、アイリィは納得したように頷き、どうやら彼女も知らなかった事が多かったらしく、顎に手を当てて考え込む。


「あの施設の下にそんな空間があったんですね……当時はただの便利な実験施設程度にしか利用してなかったんですけど、知っていれば力ずくでも施設を支配してましたけどね」
「それはそれで怖い」
「にしても、左腕を完全に再生させるなんてとんでもない医療設備ですね……爆破したのがもったいない。それにしても……以外と几帳面なんですねレノさんって」
「急にどうした?」


アイリィはナイフで林檎(最近ではこの地方にも出回ってきたらしい)を兎の形にして皿の上に乗せ、レノが頬張るのを見つめ、


「だって、話を聞いた限りだと私の「急成長」で縮まっている寿命も元に戻せる事も出来たんですよね?そりゃまあ、レノさんにいなくなられると困りますけど、どうして治して貰わなかったんですか?」
「数年もあそこで入院してたら皆と会えないじゃん」
「寂しがりやさんですか?」
「それもある……けどまあ、約束しただろ。聖痕を全部集めるって」
「そうですか、まあ、ありがとうございます」
「お前から礼を言われると何か裏がありそう」
「失礼な……兎さんあげませんよ」


そう言いながらも皿の上には無数の兎の形に切り抜かれた林檎を置き、彼女は何かを思い出したように何処からか黄色の魔水晶を取り出し、差し出してくる。最近も見たことがある「収納用」の魔道具であり、すぐに受け取ると、


「そうそう……頼まれていた物を渡しますよ。新型の聖爪と銀の鎖です」
「おおっ」
「ついでに私がパシっているフレイさんが帰ってくるまでの間、面白い魔術痕を教えてあげましょうかね」
「魔術痕?前みたいな紋様?」
「いえ、今回のは少し違います。一度きりの消耗品ですけど、覚えて居れば何度でも宿せますよ。この魔法は私が開発した魔術痕です。名前は「解放術式(リリース)」とでも名付けましょうかね」
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:326pt お気に入り:8,127

シモウサへようこそ!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:335

冷遇ですか?違います、厚遇すぎる程に義妹と婚約者に溺愛されてます!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:852pt お気に入り:8,885

新宿アイル

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:138

処理中です...