種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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英雄編

異変完治

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「……不味いですね」
「は?」
「どうしたんですか?」
「口に合わなかった?」
「いえ、その不味いでは無くて」


宿屋の食堂にてギガノを除く全員が食事中であり、一度解散したのだが昼食の時間が訪れたため、もう一度全員がここに集まってきたのだ。この後はそれぞれが自由行動を取るつもりだが、唐突にアイリィは表情を変えてその場を立ち上がり、


「私の魔力感知アンテナが告げています……学園の方から嫌な魔力を感じます」


ぴょこんっ!


奇妙な擬音を告げて彼女の頭部に「アホ毛」を想像させる髪の毛が逆立ち、ピコピコと動き始める。ここにコトミや猫型の獣人のバルたちがいれば反応するかもしれないが、この場にいる全員が胡散臭げに彼女の顔を見つめる。


「いったい何の魔力を感じたんだ?」
「とにかく嫌な感じですね……リーリスとは違った、嫌な力を感じます」
「学園の方からという事は……ロスト・ナンバーズが何か行っているのでしょうか?」
「でしょうね……でも、この感じは何処かで覚えがある様な……」


鳳凰学園は森人族の結界によって遮断されているため、内部の情報は一切分からないはずだが、それほどまでにリーリスの感知能力が優れているのか、それとも結界外にまで影響を及ぼす何かが起きているのか分からないが、少なくとも悪い予感しかしない。


「結界に何か異変でも起きたのか?」
「それは分かりませんけど、少なくともまだ結界の力は感じ取れますね。ですけど、どんどんと嫌な感じが増してきてます……」


アイリィのアンテナがどんどんと回転を速めており、彼女は眉を顰め、必死に何かを思い出そうと頭を抑えており、その間にもレノはアルト達に顔を向ける。


「……とりあえずギガノさんを呼んだ方が良い」
「わ、分かった」
「私が呼んでくる!!」


すぐにリノンが駆け出し、アルト達もそれぞれの武器を整える。その直後にアイリィは何かに思い至ったのか大きく目を見開き、


「これは……まさか、でも……もしかしたら?」
「何か思い出したのか?」
「……あんまり良い思い出ではありませんけどね」


彼女は立ち上がり、全員に視線を向けると、


「……強力な呪詛の力が感じられます。それにこの感じ……間違いなく、腐敗竜と同質の力ですね」
「腐敗竜……!?」


嘗て、レノ達が討伐したはずの最初の伝説獣の単語が出た事に全員が驚愕し、特にレーヴァティンで実際に腐敗竜に止めを刺したジャンヌが立ち上がり、


「そんな馬鹿な……!?あの時、確かに腐敗竜は私達の力で浄化させました!!」
「腐敗竜討伐の件は私も聞いています。実際、私も現地に訪れて確認しましたが……腐敗竜は確かに浄化され、卵も1つ残さず破壊されていたはずですけど……この感じは腐敗竜の力ですね」


レノ達が腐敗竜を討伐した後も聖導教会が現地に赴き、蔓延した呪詛の浄化を行う。呪詛に侵された死人や魔獣たちはワルキューレ騎士団によって討伐され、ミキとセンリの魔法によって広範囲に浄化の魔法を施し、死亡した人間達の魂も天に召されている。


「この感じは腐敗竜で間違いありません。1000年前に私とお姉さまが討伐した際と、以前にレノさん達が討伐した時に感じた物と同じです。間違いなく、腐敗竜から発せられる呪詛が鳳凰学園から感じられます」
「それって……不味いんじゃないのか?」


学園の結界から呪詛が放出されているならば住民達の命が危ない。特に魔力を操れない一般人では対抗できず、呪詛に侵されて死亡してしまい、死人へと変化してしまう。


「大丈夫ですよ。まだ結界が形成されているのなら呪詛は学園内に閉じ込められているはずです。私が感知できたのは特別に感知能力が優れているだけに過ぎませんから」
「自分で言うんだ……」
「ですけど、いつまであの結界が形成されているかは分かりません。解除された瞬間、内部に蓄積された呪詛が爆発的に広がります」
「そんな……す、すぐに止めないと!!」
「待ってください!!」


聖剣を掲げて立ち上がるアルトをセンリは引き留め、


「もしもアイリィさんの告げる事が事実だとしたら、結界内には相当な密度の呪詛が蔓延しているはずです。ワルキューレ騎士団の退魔武装や、私やジャンヌのように聖属性の力を宿している者、もしくは聖剣に選ばれた貴方やレノさんでなければ呪詛を対抗する事は出来ません!!我々4人だけで侵入し、勇者達とロスト・ナンバーズを打ち倒して呪詛の元凶を浄化できると思うのですか!?」
「そ、それは……」


確かに聖剣の所有者であるアルト達は他者と比べても相当な戦力を保有している。しかし、それを言えばロスト・ナンバーズも全員が特殊な能力の持ち主であり、さらに言えば数も一方的にこちら側が不利である。例え、大将軍であるギガノであろうと呪詛の対策を行っていなければ結界内に入っただけで呪詛に侵され、死人と化してしまう。

規格外のアイリィならば呪詛など払いのける事は可能だが、それでも5人で鳳凰学園に潜伏する敵を打ち倒すなど無謀も良い事であり、状況は刻一刻と悪化している。


「ここは住民達の避難を誘導し、聖導教会からワルキューレ騎士団を派遣してもらうしか方法は……」
「だが、大掛かりな避難活動を行えば住民達が激しく混乱する。その隙に奴等が何らかの手を打って来たら……僕たちは守り切れない」


この学園都市には闘人都市や城塞都市と比べれば人口は少ないが、それでも数万人の人間が存在する。彼等を安全な場所に避難させるにしても相当な時間を必要とし、何よりも人手が少なすぎる。問題は結界が崩壊した時にどれほどの範囲で呪詛が蔓延するのかどうかであり、問題は山積みだ。


「例え一か八かの賭けになろうと、僕たちが結界内に入って呪詛の元凶だけでも浄化しないといけない!!ここに3人、いや4人の聖剣所有者と聖天魔導士である貴女がいてくれるのなら不可能ではないはず!!」
「現実を見てください!!仮に結界内の呪詛の基となる存在を絶ったとしても、結界内に蔓延している呪詛を浄化するには時間が掛かります!!その間は結界を解除する事も出来ず、外からの援軍も期待できません!!最悪の事態は侵入した私達が破れ、外に残された者が浄化の手段を失くした状態で結界を解放し、この都市全体に呪詛が解き放たれる事ではないのですか!?」
「うっ……」


センリの言葉にアルトは後退り、確かに彼女の言葉は正論だ。しかし、だからと言って聖導教会まで援軍を頼むとしても時間が掛かり過ぎる。大々的に住民達の避難活動を行うにしてもロスト・ナンバーズが結界を脱出して攻撃を仕掛けた場合、レノ達には対応できない。


「聖剣に選ばれた者って、結界内に侵入しても平気なの?」
「平気というよりは耐性があると言うだけですね……ただ、聖剣の力を発動させれば体内の呪詛を浄化できます」
「なるほど……」


ジャンヌも腐敗竜との戦闘の際、あまりの呪詛に気分を崩していたが「レーヴァティン」を発動させたときに一気に身体が軽くなったことを思い出す。聖剣に選ばれたアルトとレノ(?)も呪詛の力を払いのける事は可能かもしれないが、聖天魔導士とはいえ、聖剣の所持者ではないセンリには辛い環境だろう。ミキと違い、彼女は根っからの聖導教会の魔術師として過ごしており、ワルキューレ騎士団の様な退魔武装は施されていない。


「アイリィの力で学園ごと消滅させて一網打尽にするという方法はある?」
「出来ませんってそんな事。幾ら何でも私を買い被り過ぎですし、だいたい貴方の母校じゃないんですかあそこ?」
「それもそうか……なら――」


レノが次の言葉を発する前、食堂の出入口から慌てた様子の男が入ってくる。それはこの宿屋の主人であり、彼は焦った様子で大声を上げる。


「た、大変だ……!!鳳凰学園が、とんでもないことになってやがる!!」
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