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真章 〈終末の使者編〉
呪詛の魔鎧
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「こ、これは一体何なんだ⁉」
「スライムに似てはいますが……規模があまりにも違いすぎます‼」
「うわ……気持ち悪い」
「……何だか前にも見たような」
デルタの視界から送られてくる映像に全員が動揺し、その中でアルト達は黒色の物体に見覚えがある様な気がする。そして、地下迷宮に訪れたときに出会った「スライム」の事を思い出す。だが、あまりにもあの時とは規模が桁違いであり、地下から溢れ出るスライムのように蠢く物体は少しずつデルタに接近してくる。
「下がれデルタ‼」
『了解』
レノの言葉にデルタは従い、すぐに後退を開始する。幸い、彼女の前方に存在する液状の何かが襲い掛かる様子はなく、仮にスライムならば生物が間近に存在すれば無差別に襲い掛かるため、デルタが機械人形だろうが容赦なく襲い掛かるはず。
一先ずはデルタを退避させ、一定の距離を開かせながら観察を続行させる。地下から溢れだす黒色のスライム状の液体とも物体とも言える「何か」は、少しずつではあるが階段を侵食しており、このままでは地上部分にまで到達するだろう。
『……検索結果、データに一致無し。この液状生物は私のデータベースには存在しない未知の生物です』
「生物? これ、生物なの?」
『この世界で呼ばれているスライムという液状生物と酷似した生物だと推定されます。私のセンサーが微弱ですが生体反応を捉えました』
「よく分からないが……新種のスライムが出現したと考えればいいのか?」
「しかし、これほどまでの規模のスライムなど……いったいどうやって対処すれば」
基本的にこの世界のスライムは魔物の中でも非常に厄介であり、通常のスライムは焼却すれば蒸発できるが、中には熱その物を吸収して巨大化する種も存在し、彼等を倒すには武器の類ではなく魔法でなければ対処できない。
『私の冷却装置で凍らせることも可能ですが、規模があまりにも大きすぎます。表面を凍らせた所で質量で押し返されます』
「また、面倒な奴が出て来たな……」
炎以外にスライムに有効なのは凍結させる事であり、これならばどんなスライムにも有効で動きを停止させることができるが、デルタが内蔵している冷却装置を以てしても目の前の液状生物を完全に停止させる事は不可能らしい。
どうしてこんな生物がオルトロスが眠っているはずの地下から出現したのかと疑問を抱く一方、そもそも当のオルトロスがどうなっているのかが気になる。まさか、既にこの生物に飲み込まれて餌として昇華されているのではないかとレノが想像した時、
『……観測の結果、この生物はオルトロスの体内から放出されているようです。原理は不明ですが、センサーを確認する限りは未だに生物の放出を続けています』
「放出?」
「まさか……オルトロスはスライムを生み出す能力まで備えているのか⁉」
「そんな馬鹿な……いや、だが……」
デルタの発言に全員が驚愕し、それが事実ならば今までの伝説獣の中でも腐敗竜に次ぐ厄介な能力であり、スライムを倒せるのは一流の魔術師でも難しく、しかもこの質量のスライムを討伐するなどどれほどの魔術師を動員しなければならないのか分からない。
しかし、レノはデルタが液状生物だと判断した黒色の物体を見て違和感を感じる。以前にも何処かで見たような感覚であり、何故だか既視感がある。不意に自分の右腕に視線が動き、まさかとは思うが確かめてみる事にする。
レノの脳裏にマドカや鳳凰学園で対峙した合成生物が浮かび上がり、もしかしたらレノはこの黒色の物体の正体を知っているのかもしれない。それは身近でよく扱う魔法であり、まさかとは思うが確かめる必要がある。
「デルタ、お前って魔法は使えた?」
『簡単な初級魔法ならば習得済みです』
「よし、なら十分に距離を取ってからそれに攻撃してくれ」
『了解』
「レノ?」
「どうする気ですか?」
唐突なレノの言葉に全員が疑問を浮かべるが、デルタは即座に右手を向け、魔力を収集させる。他のシリーズと違い、一番人間に近い彼女は魔法を扱う事も出来る。
「紫電」
バチィイイイッ‼
レノが愛用する紫色の電流が放たれ、そのまま壁を伝って黒色の液状生物に衝突しようとした時、
バシィイインッ‼
唐突に液状生物に触れた途端、デルタが放ったはずの電流が拡散し、そのまま消失してしまう。それを確認して全員が驚愕する。
「えっ⁉」
「い、今のは……」
「弾かれた?」
「……そういう事か」
放出された魔法が液状生物に「吸収」ではなく、弾かれた光景にレノは確信を抱き、先ほどデルタは液状生物と推定したが、これは生物ではない。オルトロスの体内から放出されていると聞いた時から予測出来たが、今の魔法を弾かれた光景を見て確信した。
「これは……魔鎧だ。オルトロスが造り出した魔鎧だと思う」
「魔鎧って……」
「レノさんがよく扱う魔法ですか?」
この場にいる全員がレノが自身の肉体に纏う魔鎧を思い出し、それが事実だとしたらとんでもない話である。人間ではなく魔物が魔鎧を扱えるなど聞いたことも無く、そもそもレノが造り出す魔鎧と比べてもデルタの視界に移っている黒色の物体はあまりにも禍々しい。
だが、先ほどの魔法を弾く光景を見た以上、確かにレノの魔鎧と似通っている部分もあり、恐らくデルタがこの黒色の魔鎧を生物だと推定したのは「魔力」で形成した実体だからであり、魔力とは生命エネルギーが形となった物であり、生物と勘違いしてもおかしくはない。
恐らくはオルトロスは先代の魔人王のような闇属性の「魔鎧(ダークネス)」を形成させる能力を所有しており、その規模はレノ達とは比べ物にならず、まるでスライムのように流動する事から「防御型」の魔鎧である可能性が高い。厄介なのがスライム以上に魔法耐性が存在する事であり、どんな魔法も通用しにくい。
「これが魔鎧だとしたら……不味いな、聖剣でもどうにかならないかもしれない」
「確かに……魔鎧は魔法に対して強い耐性力を持っていると聞いたことがある。聖剣の攻撃も効かないかもしれない……」
「あれ? アルトって魔鎧の事知ってたっけ?」
「いや、レグさんから話はだけ聞いている。彼女は一時期だけ騎士団の隊長を務めていたからね。最も、僕の場合は向いてないらしいから教えてくれなかったが……」
「ええっ……」
あのいつも酒に入り浸りのレグの意外な過去と人脈に驚く一方、彼の言う通りオルトロスが魔鎧を扱うとしたら今までの伝説獣に有効だった聖剣も通用しない可能性がある。そもそも魔法が通じにくいというのならば、殆どの攻撃が通用しないことになる。
「デルタ、一旦下がれ」
『了解』
階段から湧き出す魔鎧の侵食具合を見る限り、まだ時間に余裕はあり、一先ずはデルタを下がらせる。有効な手立てが無い以上、無意味に彼女を危険に晒すわけにはいかず、対策を考える必要がある。
「……あ、待てレノ‼ 扉はどうするんだ⁉」
「あ、そっか……開けっ放しじゃん」
『問題ありません』
鍵を嵌め込んだ事で自動的に開いた出入口の扉を思い出し、このままでは魔鎧が地上に溢れてしまうのではないかと思った瞬間、飛行ユニットを展開させたデルタが出入口に到着し、開け放たれた扉の片側に接近し、
『はぁあああっ‼』
ゴゴゴゴゴッ……‼
「自力で戻すの⁉」
「おおっ……すごい腕力だ」
「いや、あの……失礼ですが、彼女は本当に人間なんでしょうか?」
いつもの彼女らしからぬ気合の込めた言葉を発しながら、全長20メートルはあるのではないかという扉を引きずり、そのまま無理やりに扉を閉める。何だか色々と釈然としないが、そのまま彼女を待機させてレノ達は会議に戻る。
「スライムに似てはいますが……規模があまりにも違いすぎます‼」
「うわ……気持ち悪い」
「……何だか前にも見たような」
デルタの視界から送られてくる映像に全員が動揺し、その中でアルト達は黒色の物体に見覚えがある様な気がする。そして、地下迷宮に訪れたときに出会った「スライム」の事を思い出す。だが、あまりにもあの時とは規模が桁違いであり、地下から溢れ出るスライムのように蠢く物体は少しずつデルタに接近してくる。
「下がれデルタ‼」
『了解』
レノの言葉にデルタは従い、すぐに後退を開始する。幸い、彼女の前方に存在する液状の何かが襲い掛かる様子はなく、仮にスライムならば生物が間近に存在すれば無差別に襲い掛かるため、デルタが機械人形だろうが容赦なく襲い掛かるはず。
一先ずはデルタを退避させ、一定の距離を開かせながら観察を続行させる。地下から溢れだす黒色のスライム状の液体とも物体とも言える「何か」は、少しずつではあるが階段を侵食しており、このままでは地上部分にまで到達するだろう。
『……検索結果、データに一致無し。この液状生物は私のデータベースには存在しない未知の生物です』
「生物? これ、生物なの?」
『この世界で呼ばれているスライムという液状生物と酷似した生物だと推定されます。私のセンサーが微弱ですが生体反応を捉えました』
「よく分からないが……新種のスライムが出現したと考えればいいのか?」
「しかし、これほどまでの規模のスライムなど……いったいどうやって対処すれば」
基本的にこの世界のスライムは魔物の中でも非常に厄介であり、通常のスライムは焼却すれば蒸発できるが、中には熱その物を吸収して巨大化する種も存在し、彼等を倒すには武器の類ではなく魔法でなければ対処できない。
『私の冷却装置で凍らせることも可能ですが、規模があまりにも大きすぎます。表面を凍らせた所で質量で押し返されます』
「また、面倒な奴が出て来たな……」
炎以外にスライムに有効なのは凍結させる事であり、これならばどんなスライムにも有効で動きを停止させることができるが、デルタが内蔵している冷却装置を以てしても目の前の液状生物を完全に停止させる事は不可能らしい。
どうしてこんな生物がオルトロスが眠っているはずの地下から出現したのかと疑問を抱く一方、そもそも当のオルトロスがどうなっているのかが気になる。まさか、既にこの生物に飲み込まれて餌として昇華されているのではないかとレノが想像した時、
『……観測の結果、この生物はオルトロスの体内から放出されているようです。原理は不明ですが、センサーを確認する限りは未だに生物の放出を続けています』
「放出?」
「まさか……オルトロスはスライムを生み出す能力まで備えているのか⁉」
「そんな馬鹿な……いや、だが……」
デルタの発言に全員が驚愕し、それが事実ならば今までの伝説獣の中でも腐敗竜に次ぐ厄介な能力であり、スライムを倒せるのは一流の魔術師でも難しく、しかもこの質量のスライムを討伐するなどどれほどの魔術師を動員しなければならないのか分からない。
しかし、レノはデルタが液状生物だと判断した黒色の物体を見て違和感を感じる。以前にも何処かで見たような感覚であり、何故だか既視感がある。不意に自分の右腕に視線が動き、まさかとは思うが確かめてみる事にする。
レノの脳裏にマドカや鳳凰学園で対峙した合成生物が浮かび上がり、もしかしたらレノはこの黒色の物体の正体を知っているのかもしれない。それは身近でよく扱う魔法であり、まさかとは思うが確かめる必要がある。
「デルタ、お前って魔法は使えた?」
『簡単な初級魔法ならば習得済みです』
「よし、なら十分に距離を取ってからそれに攻撃してくれ」
『了解』
「レノ?」
「どうする気ですか?」
唐突なレノの言葉に全員が疑問を浮かべるが、デルタは即座に右手を向け、魔力を収集させる。他のシリーズと違い、一番人間に近い彼女は魔法を扱う事も出来る。
「紫電」
バチィイイイッ‼
レノが愛用する紫色の電流が放たれ、そのまま壁を伝って黒色の液状生物に衝突しようとした時、
バシィイインッ‼
唐突に液状生物に触れた途端、デルタが放ったはずの電流が拡散し、そのまま消失してしまう。それを確認して全員が驚愕する。
「えっ⁉」
「い、今のは……」
「弾かれた?」
「……そういう事か」
放出された魔法が液状生物に「吸収」ではなく、弾かれた光景にレノは確信を抱き、先ほどデルタは液状生物と推定したが、これは生物ではない。オルトロスの体内から放出されていると聞いた時から予測出来たが、今の魔法を弾かれた光景を見て確信した。
「これは……魔鎧だ。オルトロスが造り出した魔鎧だと思う」
「魔鎧って……」
「レノさんがよく扱う魔法ですか?」
この場にいる全員がレノが自身の肉体に纏う魔鎧を思い出し、それが事実だとしたらとんでもない話である。人間ではなく魔物が魔鎧を扱えるなど聞いたことも無く、そもそもレノが造り出す魔鎧と比べてもデルタの視界に移っている黒色の物体はあまりにも禍々しい。
だが、先ほどの魔法を弾く光景を見た以上、確かにレノの魔鎧と似通っている部分もあり、恐らくデルタがこの黒色の魔鎧を生物だと推定したのは「魔力」で形成した実体だからであり、魔力とは生命エネルギーが形となった物であり、生物と勘違いしてもおかしくはない。
恐らくはオルトロスは先代の魔人王のような闇属性の「魔鎧(ダークネス)」を形成させる能力を所有しており、その規模はレノ達とは比べ物にならず、まるでスライムのように流動する事から「防御型」の魔鎧である可能性が高い。厄介なのがスライム以上に魔法耐性が存在する事であり、どんな魔法も通用しにくい。
「これが魔鎧だとしたら……不味いな、聖剣でもどうにかならないかもしれない」
「確かに……魔鎧は魔法に対して強い耐性力を持っていると聞いたことがある。聖剣の攻撃も効かないかもしれない……」
「あれ? アルトって魔鎧の事知ってたっけ?」
「いや、レグさんから話はだけ聞いている。彼女は一時期だけ騎士団の隊長を務めていたからね。最も、僕の場合は向いてないらしいから教えてくれなかったが……」
「ええっ……」
あのいつも酒に入り浸りのレグの意外な過去と人脈に驚く一方、彼の言う通りオルトロスが魔鎧を扱うとしたら今までの伝説獣に有効だった聖剣も通用しない可能性がある。そもそも魔法が通じにくいというのならば、殆どの攻撃が通用しないことになる。
「デルタ、一旦下がれ」
『了解』
階段から湧き出す魔鎧の侵食具合を見る限り、まだ時間に余裕はあり、一先ずはデルタを下がらせる。有効な手立てが無い以上、無意味に彼女を危険に晒すわけにはいかず、対策を考える必要がある。
「……あ、待てレノ‼ 扉はどうするんだ⁉」
「あ、そっか……開けっ放しじゃん」
『問題ありません』
鍵を嵌め込んだ事で自動的に開いた出入口の扉を思い出し、このままでは魔鎧が地上に溢れてしまうのではないかと思った瞬間、飛行ユニットを展開させたデルタが出入口に到着し、開け放たれた扉の片側に接近し、
『はぁあああっ‼』
ゴゴゴゴゴッ……‼
「自力で戻すの⁉」
「おおっ……すごい腕力だ」
「いや、あの……失礼ですが、彼女は本当に人間なんでしょうか?」
いつもの彼女らしからぬ気合の込めた言葉を発しながら、全長20メートルはあるのではないかという扉を引きずり、そのまま無理やりに扉を閉める。何だか色々と釈然としないが、そのまま彼女を待機させてレノ達は会議に戻る。
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