814 / 1,095
追想編
甲冑の女騎士
しおりを挟む
――地下の二階層の中心地に存在する大広間、そこには数百のゴーレムの屍を生み出した甲冑の騎士が仁王立ちしており、彼女は腰に装着した聖剣に視線を向ける。そして、ゆっくりと掌を伸ばした瞬間、金色の電流が迸る。
バチィイイイッ‼
『……やはり、か』
掌が弾かれ、実態を持たないはずの彼女に激痛が走る。この聖剣の本来の所有者はアイリィであり、彼女を殺したにも関わらずに所有権が自分に移らない事から、まだアイリィが世界の何処かで存在する事は確かだった。
『……力が、欲しい……圧倒的な力が……』
甲冑の騎士はそのまま上空を見上げ、地上の日の光が差し込まない天井だけが広がり、そのまま彼女は岩石の残骸に腰掛ける。どうして自分がこのような姿に陥ってまで、力を求めたのかを思い出す。
――彼女の人生は一言で告げれば「退屈」だった。深淵の森と呼ばれる森人族の中でも特殊な場所に生まれ、彼女は「楔の一族」として窮屈な生活を強いられていた。
楔の一族とは森人族の中でも特殊な家系のエルフの事を差し、レイア自身はよく知らないが、彼女の体内に流れる血液は深淵の森に住むエルフ達にとっては非常に重要な価値があると小さい頃から言われていた。だが、楔の一族は森の外を抜け出す事を禁じられており、実際に彼女の母親はその掟を破ったことで族長自身に処刑された。
レイアはたった一人だけ残された家族の妹と共に深淵の森で生活していたが、彼女は生まれながらに強大な力を誇り、ダークエルフの中でも抜きんでた力を誇り、そして背中に「炎」を想像させる紋様が浮かんでいた。原理は不明だが、彼女が扱う火属性の魔法はこの紋様によって強化され、幼少の頃から彼女は火属性の上の段階の炎属性を極めてしまう。
彼女は武芸にも才があり、10才を迎えた時には既に深淵の森の戦士達ですら相手にならず、彼女は史上最年少の戦士長の座を得る。その噂を耳にした森人族代表のレフィーアが深淵の森に訪れ、彼女を守護戦士に招き入れる。
流石の族長も代表の言葉であれば逆らうわけには行かず、レイアは初めて深淵の森を抜け出し、レフィーアに連れられて森人族の聖地であるアトラス大森林に訪れる。
――数年の時が流れ、アトラス大森林の守護戦士として三人の「護衛長」に武芸を鍛えられ、更には同期であるカイザンという青年と共にレイアはレフィーアの護衛部隊に昇格し、遂には護衛隊長の座まで昇り付く。だが、同時に彼女は長老会と呼ばれる組織に秘密裏に暗殺者として教育されていた。
表向きは護衛隊長として振る舞う一方、レイアは先々代の種族代表であるレイラが組織した長老会に妹の命を人質に暗殺者として育て上げられ、彼女はこれまでに何度も他種族の重要人物を手に掛けた。だが、彼女が最後に長老会に暗殺を依頼された相手がバルトロス王国の国王であるバルトロス13世だった事が彼女の運命の歯車を大きく狂わせる。
いつも通り、レイラは暗殺対象に近づいて闇に葬るつもりだったが、彼女はバルトロス王国の王城の警備体制を甘く見てしまい、予想外に大将軍のギガノと対峙する。森人族の中では並ぶものが無しと言われたレイアではあったが、王国最強の異名を誇るギガノの実力も計り知れず、2人は激戦を繰り広げた。
やがて息子の加勢に訪れたテラノの乱入により、レイアは捕縛され、放浪島に送り込まれる。普通ならば国王の暗殺を試みた人間を実質の終身刑に等しい放浪島に送還するなど有り得ない程の待遇であり、当時は王国もレフィーアが最も気に入っている彼女を殺める事で森人族との戦争を避けるために施した処置だと思われる。
放浪島に送り込まれたレイアは長老会の刺客が送り込まれる心配もなく、魔物が出没する事を除けば平和で豊かな島の生活に馴染み、そこで予想外の友人が出来る。それがアイリィであり、彼女とは何処となく気があった。
『レイアさんって、何処か達観してますよね。力が有り余り過ぎて暇を持て余しているような気がします』
以前に何気なく彼女に告げられた言葉だが、レイアはその言葉を聞いて衝撃を受ける。自分の心情をこうも見抜いたのはアイリィが初めてであり、すぐにレイアは彼女も自分と似たような苦しみを抱いていた時期があった事に気が付く。
――レイアとアイリィ、どちらも生まれた時から人外の能力を所有しており、そして退屈な世界を嫌っていた。だからこそアイリィは島を抜け出し、レイアも自分の故郷の森を抜け出した。2人は生まれた環境が酷似していたことから気が合い、すぐに長年を共にした親友のような間柄になった。
月日が流れ、レイアはアイリィにある依頼をされる。それはこの島に存在する地下迷宮と呼ばれる場所に魔王が所有していたという「魔槍」と、彼女が以前に迷宮で紛失してしまったという「聖剣」の回収という依頼内容だった。
正直に言えばレイアは魔王が所持していたという「ゲイ・ボルグ」が実在し、しかも地下迷宮内には更に全ての聖剣の中で最も有名な「カラドボルグ」が眠っている話など信じられなかったが、アイリィが渡した魔槍の圧倒的なまでの雰囲気を感じ取り、更には彼女が譲渡してくれた「重力の聖痕」の力に驚愕する。
只者ではないとは分かっていたが、あっさりと魔槍と聖痕を渡してきたアイリィに呆れる反面、彼女の正体にますます興味を抱く。それに地下迷宮の噂に関しては前々から耳にしており、レイア自身も強い関心を抱いていたので、彼女は快く受け入れた。
――その事が後に世界に大きな影響を与えるとも知らず、彼女は単身で地下迷宮に挑んでしまう。
バチィイイイッ‼
『……やはり、か』
掌が弾かれ、実態を持たないはずの彼女に激痛が走る。この聖剣の本来の所有者はアイリィであり、彼女を殺したにも関わらずに所有権が自分に移らない事から、まだアイリィが世界の何処かで存在する事は確かだった。
『……力が、欲しい……圧倒的な力が……』
甲冑の騎士はそのまま上空を見上げ、地上の日の光が差し込まない天井だけが広がり、そのまま彼女は岩石の残骸に腰掛ける。どうして自分がこのような姿に陥ってまで、力を求めたのかを思い出す。
――彼女の人生は一言で告げれば「退屈」だった。深淵の森と呼ばれる森人族の中でも特殊な場所に生まれ、彼女は「楔の一族」として窮屈な生活を強いられていた。
楔の一族とは森人族の中でも特殊な家系のエルフの事を差し、レイア自身はよく知らないが、彼女の体内に流れる血液は深淵の森に住むエルフ達にとっては非常に重要な価値があると小さい頃から言われていた。だが、楔の一族は森の外を抜け出す事を禁じられており、実際に彼女の母親はその掟を破ったことで族長自身に処刑された。
レイアはたった一人だけ残された家族の妹と共に深淵の森で生活していたが、彼女は生まれながらに強大な力を誇り、ダークエルフの中でも抜きんでた力を誇り、そして背中に「炎」を想像させる紋様が浮かんでいた。原理は不明だが、彼女が扱う火属性の魔法はこの紋様によって強化され、幼少の頃から彼女は火属性の上の段階の炎属性を極めてしまう。
彼女は武芸にも才があり、10才を迎えた時には既に深淵の森の戦士達ですら相手にならず、彼女は史上最年少の戦士長の座を得る。その噂を耳にした森人族代表のレフィーアが深淵の森に訪れ、彼女を守護戦士に招き入れる。
流石の族長も代表の言葉であれば逆らうわけには行かず、レイアは初めて深淵の森を抜け出し、レフィーアに連れられて森人族の聖地であるアトラス大森林に訪れる。
――数年の時が流れ、アトラス大森林の守護戦士として三人の「護衛長」に武芸を鍛えられ、更には同期であるカイザンという青年と共にレイアはレフィーアの護衛部隊に昇格し、遂には護衛隊長の座まで昇り付く。だが、同時に彼女は長老会と呼ばれる組織に秘密裏に暗殺者として教育されていた。
表向きは護衛隊長として振る舞う一方、レイアは先々代の種族代表であるレイラが組織した長老会に妹の命を人質に暗殺者として育て上げられ、彼女はこれまでに何度も他種族の重要人物を手に掛けた。だが、彼女が最後に長老会に暗殺を依頼された相手がバルトロス王国の国王であるバルトロス13世だった事が彼女の運命の歯車を大きく狂わせる。
いつも通り、レイラは暗殺対象に近づいて闇に葬るつもりだったが、彼女はバルトロス王国の王城の警備体制を甘く見てしまい、予想外に大将軍のギガノと対峙する。森人族の中では並ぶものが無しと言われたレイアではあったが、王国最強の異名を誇るギガノの実力も計り知れず、2人は激戦を繰り広げた。
やがて息子の加勢に訪れたテラノの乱入により、レイアは捕縛され、放浪島に送り込まれる。普通ならば国王の暗殺を試みた人間を実質の終身刑に等しい放浪島に送還するなど有り得ない程の待遇であり、当時は王国もレフィーアが最も気に入っている彼女を殺める事で森人族との戦争を避けるために施した処置だと思われる。
放浪島に送り込まれたレイアは長老会の刺客が送り込まれる心配もなく、魔物が出没する事を除けば平和で豊かな島の生活に馴染み、そこで予想外の友人が出来る。それがアイリィであり、彼女とは何処となく気があった。
『レイアさんって、何処か達観してますよね。力が有り余り過ぎて暇を持て余しているような気がします』
以前に何気なく彼女に告げられた言葉だが、レイアはその言葉を聞いて衝撃を受ける。自分の心情をこうも見抜いたのはアイリィが初めてであり、すぐにレイアは彼女も自分と似たような苦しみを抱いていた時期があった事に気が付く。
――レイアとアイリィ、どちらも生まれた時から人外の能力を所有しており、そして退屈な世界を嫌っていた。だからこそアイリィは島を抜け出し、レイアも自分の故郷の森を抜け出した。2人は生まれた環境が酷似していたことから気が合い、すぐに長年を共にした親友のような間柄になった。
月日が流れ、レイアはアイリィにある依頼をされる。それはこの島に存在する地下迷宮と呼ばれる場所に魔王が所有していたという「魔槍」と、彼女が以前に迷宮で紛失してしまったという「聖剣」の回収という依頼内容だった。
正直に言えばレイアは魔王が所持していたという「ゲイ・ボルグ」が実在し、しかも地下迷宮内には更に全ての聖剣の中で最も有名な「カラドボルグ」が眠っている話など信じられなかったが、アイリィが渡した魔槍の圧倒的なまでの雰囲気を感じ取り、更には彼女が譲渡してくれた「重力の聖痕」の力に驚愕する。
只者ではないとは分かっていたが、あっさりと魔槍と聖痕を渡してきたアイリィに呆れる反面、彼女の正体にますます興味を抱く。それに地下迷宮の噂に関しては前々から耳にしており、レイア自身も強い関心を抱いていたので、彼女は快く受け入れた。
――その事が後に世界に大きな影響を与えるとも知らず、彼女は単身で地下迷宮に挑んでしまう。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
480
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる