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剣乱武闘 覇者編
第三の試練
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翌日、屋敷の裏に存在する訓練場(忍者用)には微妙な空気の中でレノとハンゾウが向かい合い、気まずい雰囲気を醸し出しながらもお互いに武器を構えて立ち尽くす。離れた場所には静江たちの姿もあり、結局あの後にテラノによって彼女が忍頭であることを晒され、疑問を抱いたレノの質問攻めによって隠し切れず、結局は彼を呼び出した理由を話してしまった。
自分を騙してまで里に連れ出したことに対してはレノも怒りはしなかったが、それでも正直に打ち明けていればどちらにしろ訪れていたはずであり、面倒事に巻き込んだカゲマルにはたっぷりと説教する。
第三の試練に関しては剣乱武闘の準備もあるため、早々に終わらせるために早朝にハンゾウを呼び出して決闘の準備を行い、御互いが武器を構える。決闘を見届けるために静江とカゲマル、ついでに事情を知らなかったとはいえネタばらしを行ってしまったテラノも付き合い、彼等の前で2人は決闘の開始を待っていた。
「えっと……よろしくお願いします?」
「う、うむっ……こちらこそ」
「え~……こほんっ! それでは2人とも準備はいいですね?」
「ううっ……レノ殿のお尻ぺんぺんの仕置きのせいで、尻が痛いでござる」
「素直に事情を説明していれば英雄殿も来てくれただろうに……どれ、どの程度痛めたのか見せて見ろ」
「そ、それは恥ずかしいでござるよ。拙者も女でござるし……」
「なんじゃと⁉お主、女子だったのか⁉」
「今気づいたのでござるか⁉ どう見ても女でござろう⁉」
「いや、どう見てもと言われても……全身を黒装束で覆っておるから分からんぞ」
「確かにそうかもしれないでござるが、胸元の部分が膨らんでいるでござろう⁉ コトミ殿やソフィア殿ほどではないでござるが胸は小さくは無いでござるよ⁉」
「むうっ……忍の割には立派な大胸筋だと思っていたが……」
「あの、決闘を始めるのでもう少し静かに……」
静江が決闘の合図を出す前に隣でテラノとカゲマルが漫才のようなやり取りを行う2人を注意し、案外仲が良さげなカゲマルとテラノにレノが視線を向けた瞬間、向い合っていたハンゾウが手元のクナイを投げる。
「隙あり‼」
「ん?」
パシィッ‼
完全に虚を突いた形でクナイを投擲したはずだが、レノの顔面に直撃する寸前で彼の右手がクナイを掴み取り、そのまま地面に投げ捨てる。その光景にハンゾウは舌打ちし、同時に不意打ちのつもりだったにも関わらずに反応したレノに感心する。
「あの……もう始まってるんですか?」
「ふっ……忍とは不意打ち、奇襲を生業とする。開始の合図など不必要‼」
「ええっ……」
その一方でまだ開始の合図がなっていないにも関わらずに攻撃してきたハンゾウにレノは首を傾げ、彼は笑みを浮かべながら両手にクナイを握りしめ、勝手に決闘を始められたことに静江が困惑の表情を浮かべる。確かにハンゾウの言葉には一理あるが、自分が合図を行うものだと思い込んでいた静江は戸惑いを隠せない。
「まずは小手調べ‼」
ハンゾウは両手に握りしめたクナイをレノの左右の方向に投擲し、見当違いの方向にクナイを投げつけた彼に疑問を抱くが、すぐに横切ろうとしてくるクナイ同士に細い糸が繋がっている事に気が付き、右手を手刀に変化させる。
「風刃」
ズバァアッ‼
向い来る糸(恐らくは鋼線の類)を風の刃を纏った腕で切り裂き、その光景にハンゾウは笑みを浮かべ、斬られることは予想済だったのか新しいクナイを取り出し、昨日に三人衆が使用していた「護符」を取り出すと、クナイに張り付けてレノの足元に向けて投擲する。
「爆‼」
ドガァァアアンッ‼
単純に投げてもレノに躱されると判断し、ハンゾウは彼の足元の地面に触れる寸前で護符を爆発させる。至近距離で爆炎を喰らったレノに対し、彼は笑みを浮かべるが、
「遅い」
「っ……⁉」
自分の背後から声が聞こえ、ハンゾウが振り向く前に背中に軽い衝撃が走り、そのまま前のめりに倒れ込みそうになるが、なんとか体制を立て直す。
「なっ……い、いつの間に⁉」
「やほっ」
後方に振り向くと、そこには何事も無かったようにレノが立っており、先ほど爆炎に飲み込まれたはずなのにその身体には負傷した後はなく、代わりに足元の地面に土煙が起きていた。
「なんと……‼ 2人とも、見えたか今の動き?」
「は、はい……あの一瞬で、あれほど早く動くとは……‼」
「せ、拙者は見逃してしまったでござる……⁉」
外野から見ていた三人はレノがどのように動いたのかを視界で捉え、彼は一瞬で爆発する寸前に瞬脚で移動を行い、在ろう事か爆炎が周囲を覆いつくすよりも早くに移動し、ハンゾウの背後に回ったのだ。
「くっ……だが‼」
「それはもう見飽きた」
ハンゾウは後方に跳躍しながら距離を取り、新しい護符を取り出そうとしたが、それよりも早くレノは右拳を握りしめ、雷を迸らせ、
「撃」
ダァンッ‼
一瞬にしてハンゾウの目前に接近し、螺旋状に渦巻いた風雷を纏った右腕を振り抜き、直撃すればゴーレム・キングであろうが粉砕する威力を誇る右拳を振り抜く。
「雷‼」
「ぬおぉおおおおおおっ⁉」
眼前に向けられて放たれたレノの右拳がまるで巨人族の拳のように巨大化したような錯覚に襲われ、ハンゾウは自分の人生の走馬燈まで駆け巡り、ここで死ぬのかと思った瞬間、
「と思わせて足払い」
「ぬあっ⁉」
バシィッ‼
直前で右拳が停止し、そのままレノはハンゾウに足払いを行い、彼は背中から地面に倒れこむ。何が起きたのか理解できず、頭が混乱している彼の前にレノは見下ろし、そのまま右の掌を向け、
「勝負あり……で、いいですよね?」
ハンゾウではなく静江に問いかけるように顔を向けると、彼女は倒れて動かないハンゾウと、彼に向けて何時でも魔法を砲撃できる立ち位置に居るレノを見渡し、冷や汗を掻きながらも頷く。
「え、ええっ……そこまでです‼ この決闘、英雄殿の勝利と認めます‼」
「くっ……俺としたことが……不甲斐ない」
「大丈夫ですか?」
「い、いや平気だ……」
地面に横たわったまま自分の敗北を悟り、我ながら情けない姿に顔を伏せるが、レノが右手を差し出すとハンゾウはそれを断って自力で起き上がり、土を払いながら勝者である彼に深々と頭を下げる。
「……某の負けです。今までの無礼、お許しください」
「いやいや……爆発した時は本気で焦ったよ」
「御謙遜を……しっかりと避けておいて、それはないでしょう」
「まあ、昨日のうちに護符がどれだけ厄介なのかを思い知らされたからね」
昨日の三人衆との戦いで護符を使用した相手との戦闘経験は積んでおり、だからこそ今回は冷静に対処できた。護符を使用する際に気付いたことだが、彼等は必ず「魔法名」を告げており、護符を完全無詠唱で発動させることはできないのだ。
一流の魔術師ならば魔石を媒介にして魔法を完全無詠唱で発現させる事もできるが、護符を使用する者は必ずと言っていいほどに魔法名を口にした後に魔法が発言しており、それが逆に弱点であることは見抜いていた。だからこそレノは護符ではなく、半蔵の口元を確認して行動に映り、一瞬だけ爆発するよりも早くに動くことができたのだ。
「護符は便利だと思うけど、頼り過ぎたのが仇になったと思います」
「……そうか、確かにその通りかもしれん」
ハンゾウは護符を取り出し、他者に注意されたことで初めて気付いた自分の弱点に対し、レノを試すつもりが逆に自分の欠点を見抜かれてしまい、これではこちらの方が試練を受けていたような気分に陥り、もう一度改めて頭を下げる。
「某の完全敗北だ……だが、次に里に訪れる機会があったとしたらもう一度手合わせを願いたい。今度こそは欠点を克服した万全な状態の某の姿を見せよう」
「いいですよ。次に来るときはこっちも本気で潰しにかかりますから」
「あ、あれで本気ではなかったのか……流石だな」
苦笑いを浮かべながら握手を求めるハンゾウに対し、レノもそれに応じ、こうして第三の試練は終わりを迎えた。
――その後、見事に試練を乗り越えたレノは正式に里の客人として認められたが、テラノの助言から剣乱武闘に備えるために王国に帰還する事を決意し、お土産として大量のお米と味噌を手土産にテラノとカゲマルを引き連れて転移魔方陣で帰還した。
自分を騙してまで里に連れ出したことに対してはレノも怒りはしなかったが、それでも正直に打ち明けていればどちらにしろ訪れていたはずであり、面倒事に巻き込んだカゲマルにはたっぷりと説教する。
第三の試練に関しては剣乱武闘の準備もあるため、早々に終わらせるために早朝にハンゾウを呼び出して決闘の準備を行い、御互いが武器を構える。決闘を見届けるために静江とカゲマル、ついでに事情を知らなかったとはいえネタばらしを行ってしまったテラノも付き合い、彼等の前で2人は決闘の開始を待っていた。
「えっと……よろしくお願いします?」
「う、うむっ……こちらこそ」
「え~……こほんっ! それでは2人とも準備はいいですね?」
「ううっ……レノ殿のお尻ぺんぺんの仕置きのせいで、尻が痛いでござる」
「素直に事情を説明していれば英雄殿も来てくれただろうに……どれ、どの程度痛めたのか見せて見ろ」
「そ、それは恥ずかしいでござるよ。拙者も女でござるし……」
「なんじゃと⁉お主、女子だったのか⁉」
「今気づいたのでござるか⁉ どう見ても女でござろう⁉」
「いや、どう見てもと言われても……全身を黒装束で覆っておるから分からんぞ」
「確かにそうかもしれないでござるが、胸元の部分が膨らんでいるでござろう⁉ コトミ殿やソフィア殿ほどではないでござるが胸は小さくは無いでござるよ⁉」
「むうっ……忍の割には立派な大胸筋だと思っていたが……」
「あの、決闘を始めるのでもう少し静かに……」
静江が決闘の合図を出す前に隣でテラノとカゲマルが漫才のようなやり取りを行う2人を注意し、案外仲が良さげなカゲマルとテラノにレノが視線を向けた瞬間、向い合っていたハンゾウが手元のクナイを投げる。
「隙あり‼」
「ん?」
パシィッ‼
完全に虚を突いた形でクナイを投擲したはずだが、レノの顔面に直撃する寸前で彼の右手がクナイを掴み取り、そのまま地面に投げ捨てる。その光景にハンゾウは舌打ちし、同時に不意打ちのつもりだったにも関わらずに反応したレノに感心する。
「あの……もう始まってるんですか?」
「ふっ……忍とは不意打ち、奇襲を生業とする。開始の合図など不必要‼」
「ええっ……」
その一方でまだ開始の合図がなっていないにも関わらずに攻撃してきたハンゾウにレノは首を傾げ、彼は笑みを浮かべながら両手にクナイを握りしめ、勝手に決闘を始められたことに静江が困惑の表情を浮かべる。確かにハンゾウの言葉には一理あるが、自分が合図を行うものだと思い込んでいた静江は戸惑いを隠せない。
「まずは小手調べ‼」
ハンゾウは両手に握りしめたクナイをレノの左右の方向に投擲し、見当違いの方向にクナイを投げつけた彼に疑問を抱くが、すぐに横切ろうとしてくるクナイ同士に細い糸が繋がっている事に気が付き、右手を手刀に変化させる。
「風刃」
ズバァアッ‼
向い来る糸(恐らくは鋼線の類)を風の刃を纏った腕で切り裂き、その光景にハンゾウは笑みを浮かべ、斬られることは予想済だったのか新しいクナイを取り出し、昨日に三人衆が使用していた「護符」を取り出すと、クナイに張り付けてレノの足元に向けて投擲する。
「爆‼」
ドガァァアアンッ‼
単純に投げてもレノに躱されると判断し、ハンゾウは彼の足元の地面に触れる寸前で護符を爆発させる。至近距離で爆炎を喰らったレノに対し、彼は笑みを浮かべるが、
「遅い」
「っ……⁉」
自分の背後から声が聞こえ、ハンゾウが振り向く前に背中に軽い衝撃が走り、そのまま前のめりに倒れ込みそうになるが、なんとか体制を立て直す。
「なっ……い、いつの間に⁉」
「やほっ」
後方に振り向くと、そこには何事も無かったようにレノが立っており、先ほど爆炎に飲み込まれたはずなのにその身体には負傷した後はなく、代わりに足元の地面に土煙が起きていた。
「なんと……‼ 2人とも、見えたか今の動き?」
「は、はい……あの一瞬で、あれほど早く動くとは……‼」
「せ、拙者は見逃してしまったでござる……⁉」
外野から見ていた三人はレノがどのように動いたのかを視界で捉え、彼は一瞬で爆発する寸前に瞬脚で移動を行い、在ろう事か爆炎が周囲を覆いつくすよりも早くに移動し、ハンゾウの背後に回ったのだ。
「くっ……だが‼」
「それはもう見飽きた」
ハンゾウは後方に跳躍しながら距離を取り、新しい護符を取り出そうとしたが、それよりも早くレノは右拳を握りしめ、雷を迸らせ、
「撃」
ダァンッ‼
一瞬にしてハンゾウの目前に接近し、螺旋状に渦巻いた風雷を纏った右腕を振り抜き、直撃すればゴーレム・キングであろうが粉砕する威力を誇る右拳を振り抜く。
「雷‼」
「ぬおぉおおおおおおっ⁉」
眼前に向けられて放たれたレノの右拳がまるで巨人族の拳のように巨大化したような錯覚に襲われ、ハンゾウは自分の人生の走馬燈まで駆け巡り、ここで死ぬのかと思った瞬間、
「と思わせて足払い」
「ぬあっ⁉」
バシィッ‼
直前で右拳が停止し、そのままレノはハンゾウに足払いを行い、彼は背中から地面に倒れこむ。何が起きたのか理解できず、頭が混乱している彼の前にレノは見下ろし、そのまま右の掌を向け、
「勝負あり……で、いいですよね?」
ハンゾウではなく静江に問いかけるように顔を向けると、彼女は倒れて動かないハンゾウと、彼に向けて何時でも魔法を砲撃できる立ち位置に居るレノを見渡し、冷や汗を掻きながらも頷く。
「え、ええっ……そこまでです‼ この決闘、英雄殿の勝利と認めます‼」
「くっ……俺としたことが……不甲斐ない」
「大丈夫ですか?」
「い、いや平気だ……」
地面に横たわったまま自分の敗北を悟り、我ながら情けない姿に顔を伏せるが、レノが右手を差し出すとハンゾウはそれを断って自力で起き上がり、土を払いながら勝者である彼に深々と頭を下げる。
「……某の負けです。今までの無礼、お許しください」
「いやいや……爆発した時は本気で焦ったよ」
「御謙遜を……しっかりと避けておいて、それはないでしょう」
「まあ、昨日のうちに護符がどれだけ厄介なのかを思い知らされたからね」
昨日の三人衆との戦いで護符を使用した相手との戦闘経験は積んでおり、だからこそ今回は冷静に対処できた。護符を使用する際に気付いたことだが、彼等は必ず「魔法名」を告げており、護符を完全無詠唱で発動させることはできないのだ。
一流の魔術師ならば魔石を媒介にして魔法を完全無詠唱で発現させる事もできるが、護符を使用する者は必ずと言っていいほどに魔法名を口にした後に魔法が発言しており、それが逆に弱点であることは見抜いていた。だからこそレノは護符ではなく、半蔵の口元を確認して行動に映り、一瞬だけ爆発するよりも早くに動くことができたのだ。
「護符は便利だと思うけど、頼り過ぎたのが仇になったと思います」
「……そうか、確かにその通りかもしれん」
ハンゾウは護符を取り出し、他者に注意されたことで初めて気付いた自分の弱点に対し、レノを試すつもりが逆に自分の欠点を見抜かれてしまい、これではこちらの方が試練を受けていたような気分に陥り、もう一度改めて頭を下げる。
「某の完全敗北だ……だが、次に里に訪れる機会があったとしたらもう一度手合わせを願いたい。今度こそは欠点を克服した万全な状態の某の姿を見せよう」
「いいですよ。次に来るときはこっちも本気で潰しにかかりますから」
「あ、あれで本気ではなかったのか……流石だな」
苦笑いを浮かべながら握手を求めるハンゾウに対し、レノもそれに応じ、こうして第三の試練は終わりを迎えた。
――その後、見事に試練を乗り越えたレノは正式に里の客人として認められたが、テラノの助言から剣乱武闘に備えるために王国に帰還する事を決意し、お土産として大量のお米と味噌を手土産にテラノとカゲマルを引き連れて転移魔方陣で帰還した。
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