種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘 覇者編

本戦二回戦突入

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『それではAブロックを勝ち残った選手の方々は試合場に集まってくださいっす。今回からは各ブロックの方々が一組ずつ集まるのではなく、ブロックごとに試合を始めますよ~』
『がんば~』


カリナの実況が放送され、試合場には勝ち残ったAブロックの選手たちが集まる。人数的には丁度8人であり、4つの試合場に二人ずつ乗り込む。


『それでは試合を始めますよ。各選手の紹介は済んでいるので、ここからは真面目に実況させてもらうっす~』
『あ、レノたんだ。やっふぃっ』
『やっふぃ』


実況席のヨウカ達が試合場に上がったレノに手を振り、そんな彼女たちに軽く手を振り返しながらレノは自分の対戦相手であり、森人族代表のコウシュンと向かい合う。


「お~お~……羨ましいね。巫女姫様に人魚姫様の声援なんて、羨ましすぎて殺したくなってきた」
「どうして森人族ってのはどいつもこいつも……」
「あん? ああ、そうか。別に俺は奴等のようにハーフエルフだからって危害は加えねえよ。お前は個人的にムカつくから殺すけど」
「ええっ……」


自分に向けて長剣を向けてくるコウシュンに対し、レノは溜息を吐きながら試合合図を待つ。まだ他の試合場には選手が集まっておらず、ひとまずは大会規定の対戦相手との試合開始の距離まで移動する。今回は試合前にお互いが10メートル離れる決まりがあり、魔術師にとっては有利な距離だが、一流の冒険者ならば一瞬で詰められる間合いでもある。


「おい」
「ん?」


移動の最中に後方から声を掛けられ、視線を向けるとそこにはコウシュンが剣を片手に右手の掌を向ける。攻撃魔法でも放つのかと身構えるが、特に彼は魔法名や詠唱を口にせず、ただ差し出しているだけだった。


「……何の真似を――」
「どんっ」


コウシュンは掌をピストルに変化し、そして拳銃を打つような動作を行う。レノがそんな彼に訝し気な表情を浮かべると、


ドォンッ‼


「っ……⁉」


直後にレノの額に衝撃が走り、彼の身体が崩れそうになるが、すぐに持ち直す。一体、何が起きたのか理解出来ず、自分がコウシュンに何らかの攻撃された事に遅れて気付く。


(何だ……⁉ )


最初に思いついたのは風属性の完全無詠唱魔法で攻撃されたのかと思ったが、コウシュンから攻撃の際に魔力を感じられなかった。レノの優れた魔力感知ならば相手が魔法を発動させる際、必ず魔力の変化を察する事が出来る。

今までに戦ってきた魔術師も攻撃魔法を発動させる際は魔力に変化があり、それは聖痕持ちのメンバーであろうと例外ではない。魔術師が魔法を発動させる際は必ず「溜め」が存在し、ミキやセンリなどの優れた魔術士であろうと例外ではない。

自分の額を確認し、それほど強い衝撃ではなかったが恐らく赤く腫れており、攻撃を受けた感じは風属性の魔弾だったのだろうが、どうして的中するまで見切れなかったのかが分からない。


『ちょ、ちょっと‼ コウシュン選手‼ まだ試合は始まってないっすよ⁉』
「うっせぇなぁっ……そんな事はどうだっていいんだよ。大会とか、種族の立場とか、俺にはどうでもいい」


カリナの注意を無視すると、コウシュンは再び銃の形に変えた手を向け、レノは咄嗟に両腕で顔面を隠すと、


ドォンッ‼


「ぐふっ……⁉」
「はっ‼ どうした英雄さんよぉっ?」



レノの腹部に軽い衝撃が走り、またもや魔法を見切れず攻撃を受けた事に眉を顰め、威力はそれほどではないが続けて喰らうのは不味く、距離を取ろうとするとコウシュンが長剣を抜き取り、


「ふんっ‼」


ブゥンッ‼


コウシュンはその場で剣を空振りし、そんな彼の唐突な行動に周囲の観客達は動揺するが、レノだけは危険を察してその場から離れる。


「くっ……⁉」


ズバァンッ‼


次の瞬間、レノが立っていた石畳に切り傷が走り、やはりレノの目には風属性の魔法が見えなかった。考え難い事だが、コウシュンは自分の風の魔法を「不可視化」し、攻撃が触れた瞬間に気付くことができたのだ。


「見えない斬撃……⁉」
「へえっ……なかなか鋭いな。だが、分かった所で躱し切れるか‼」


ブォンッ‼


コウシュンは再び剣を大きく振り抜き、そのまま距離が開いているにも関わらずに空振りする。レノは咄嗟に上空に飛び上がると、


「はっ‼単純な手に引っ掛かったな‼こっちが本命だ‼」


最初の空振りはフェイントだったのか、上空に浮き上がったレノにコウシュンは剣を幾度も振り被り、恐らく今度は本当に無数の斬撃が放たれたのを察知し、反射的にレノは瞬脚でその場を移動する。


「瞬脚」


ドォンッ‼


「なにっ⁉」


空中で高速移動を行ったレノに対し、コウシュンは驚いた様子を浮かべ、何度も瞬脚で空中を移動しながら試合場に着地する。


ブシュッ……!!



「いっつ……⁉」


だが、完全には躱しきれなかったのか右足に軽い切り傷が走り、先ほどのコウシュンの斬撃が掠っていた事に気が付く。見えない斬撃というのがここまで厄介だとは考えた事も無く、コウシュンに視線を向ける。


「……今のは驚いたぜ。空を飛ぶなんて、真面な奴なら考え付きもしねえ。だがな、小僧。上には上がいるんだよ‼」


ブゥンッ‼


コウシュンは何度も長剣を振り回し、レノはその場を移動する。その直後に彼が先ほどまでいた地面に無数の切り傷が走り、観客達が驚愕の声を上げる。



ズバァンッ‼ ズガァアアンッ‼



「くっ……しつっこい‼」
「まだまだ‼」


自分の後方から聞こえる衝撃音にレノは瞬脚で加速し、コウシュンも負けじと剣を振り回し、斬撃を放ち続ける。


ズガァアアンッ……‼


『こ、これは何が起きてるんでしょうか⁉ シュン選手が剣を振るう度に試合場に不可思議な切傷が生まれます‼』
『……なんだろう。あの人から変な感じがする』
『あれは精霊魔法だね~』


実況席のカリナ達が騒ぎ出し、レノはミズナが告げた精霊魔法という言葉にセンリの顔が思い浮かび、彼女は水の精霊を操る事で自分の魔法を強化させていたが、コウシュンは恐らく「風の精霊」を従えて自分の魔法を「不可視化」させているのではないかと気づく。

以前にミキから精霊魔法とは森人族と人魚族だけが操る特殊な魔法だと習っており、本来ならば人間であるセンリが覚える事は非常に難しいはずなのだが、彼女の場合は聖天魔導士になれるだけの器と才能があったからこそ習得出来たからであり、普通の人間が精霊魔法を覚える事は不可能だと聞いていた。

コウシュンが風の精霊を従えて自分の剣撃や魔法を「見えない衝撃波」に変化して攻撃しているのは間違いなく、風属性に耐性があるレノに損傷ダメージが入る辺り、普通の風属性の魔法よりも強く、もしかしたら彼もレノ同様に「嵐属性」の領域にまで到達している可能性が高い。


「いつまで逃げてんだ‼ とっとと来やがれ‼」
「くっ……乱刃‼」


ドォオオンッ‼


彼の挑発に乗った訳ではないが、このまま回避し続けるのは不利と判断し、咄嗟に彼に向けて三日月状の嵐の刃を放つと、彼は笑みを浮かべて掌を差し出す。


「なかなかの風だな‼だが、俺には効かねえ‼」


バシィッ‼


コウシュンが差し出した掌にレノの乱刃が衝突した瞬間、一瞬にして周囲に消散する。自分の魔法が掻き消されたことに特に驚きもせず、レノは眉を顰める(元々、森人族には風属性の魔法が相性が悪いのは承知済みだが、まさか無効化されるとまでは予想していなかったが)。
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