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剣乱武闘 覇者編
彼の正体
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リノンの爆炎剣が炸裂し、シュンは大きく吹き飛ばされる。彼の衣服が焼かれ、上半身の部分が露出する。本来ならば大火傷では済まない程の威力を受けながらも彼の肌は傷一つなく、それどころか服が焼かれた事で背中から飛び出した物にリノンは目を見開く。
「羽根……⁉」
「……見たな」
――バサァッ‼
シュンの背中から飛び出したのはまるで鳥類の羽根を想像させる翼であり、彼の背中から間違いなく生えている。魔人族のヴァンパイアのような蝙蝠を想像させる羽根とは違い、彼が生やしている翼はまるで「天使」を想像させるほどに美しく煌めき、リノンは目を奪われる。
彼は露出した背中を確認し、顔を右手で覆う。リノンの爆炎を受けてまだ動けるところ、相当に強い熱耐性を誇るのか、それとも別の方法で防いだのかは不明だが、今は気にかかるのは彼の正体であり、リノンの脳裏にある種族名が思い浮かぶ。
「天人族……?」
遥か昔、魔王が誕生した時代に存在した翼を持つ種族の名前であり、彼等は「天使」のように美しい羽根を持ち、優れた知能を持つ種族と伝わっている。彼等は優れ過ぎた故に魔王によってその存在を疎まれ、地上から1人も残さずに滅ぼされたと聞いている。
ドワーフ同様、彼等は魔王がいた時代によって絶滅した存在であり、生き残りが存在したなど聞いたことがない。リノンは自分の翼を震わせるシュンに対し、彼が天人族の生き残りなのかと疑う一方、どうやって衣服に収めていたのかが気にかかる。
「天人? ああ……地上の人間が僕たちに付けた名前ですか。その名前で呼ばれるのは不快ですね、僕たちは『調整者』と呼んでほしいね」
「調整者?」
「まあ、今から死ぬ貴女には関係ない話ですが」
ブォオンッ‼
シュンが両翼を羽ばたかせ、周囲に予想外の突風が発生する。リノンは少しだけ羽根を動かしただけでどうしてここまで不自然なまでに風が吹き荒れるのかと疑問を抱く暇もなく、彼に向けられる殺意に冷や汗が流れる。
「この姿を見た以上……生かす理由はない、ここで消えろ」
「……それが素の性格か?」
「おっと、いけませんね。頭に血が上り過ぎてしまいました」
表面上は冷静さを取り戻したように振る舞うが、シュンの眼光はリノンを射抜き、彼は翼を通路を多い塞ぐように広げて歩み寄る。その姿に隙は無く、リノンは折れた刃を構えながら相手に出方を伺うと、不意に彼の背後から垣間見えた光景に呆気に取られたように口を開き、シュンが訝し気な表情を浮かべる。
「……なんですかその顔は? 状況を理解して……」
「ねえっ」
シュンがリノンに対して言葉を言い切る前、彼の後方から声を掛けられ、その声音を聞いた瞬間に硬直する。彼はゆっくりと首を振り向くと、
バチィイイイッ‼
――そこには右腕に電撃を纏わせたレノが立っており、彼は気配を殺してシュンに背後にまで近づき、そのまま彼の背中に拳を押し付け、
「吹き飛べ」
ズドォオオオンッ‼
「がぁああああああああっ⁉」
ゼロ距離からレノの撃雷が放たれ、シュンが悲鳴を上げて吹き飛ばされる。慌ててリノンは横方向に避けると、彼はそのまま通路を真っ直ぐにぶっ飛ばされ、10メートルほど離れた地面に顔面からめり込み、そのまま横転しながら動かなくなる。
「……い、生きてるのか?」
「どうかな……まあ、平気でしょ。多分」
腕に纏った電流を振り払い、レノは何事も無かったようにリノンに近づき、彼女は安堵の息を吐く。どうして彼がここにいるのかは分からないが、少なくとも自分を救い出してくれた事に違いはなく、礼を告げる。
「助かったレノ……あのまま戦い続けたらこちらがやばかったかもしれない」
「さっき、帰る途中で係員の人と会って急いで駆けつけてきた。ポチ子たちには伝える暇はなかったけど……」
「そうか……さっきの人が……?」
どうやらリノンが救った係員が事態を伝えたらしく、お蔭で命拾いした。あのまま戦闘を続行されていたら武器を破壊されたリノンが圧倒的に不利であり、何をされたか分からない。
「それより大会の方は大丈夫なの? もう試合は始まってるんじゃないの?」
「あ‼しまった⁉」
リノンは今思い出したように慌ててシュンを振り返るが、彼はレノの一撃によって完全に気絶しているのか動く様子がなく、そもそも試合開始の時刻から随分と過ぎている。この様子では2人とも失格扱いになっているかもしれない。
ピンポンパンポンッ……‼
通路内に気の抜ける警告音が流れ、実況席のカリナの声が流れ込む。
『え~……場内の皆様に二つの報告があります。1つはAブロックの試合場の修復が完了しましたので、これよりAブロックの選手達の試合が始めたいと思います。ですが、Aブロックの最初の試合に入場するはずのリノン選手とシュン選手は時間内に試合場に入場しなかったことで大会規約により失格扱いとなります。お二人に賭けていた観客の皆さまは窓口で掛け金の返却が行わますでどうかご理解ください』
「ああっ……そ、そんな……」
「ど、どんまい」
リノンはその場で膝を崩し、レノが彼女の肩に手をやる。この日のために毎日鍛錬を積み、大勢の観客の目の前で自分の実力を見て欲しかった彼女には衝撃的だったろうが、今は試合前に襲ってきたシュンに確かめなければならない事がある。
「落ち込んでるところ悪いけど、あいつを運ぶの手伝ってくれない?」
「そ、そうだな……それにしても彼はどうしてこんな事を」
レノの言葉に正気を取り戻したのか、リノンは起き上がる様子がないシュンに視線を向け、未だに彼の背中には羽根が生えており、その大きさはどちらとも広げれば1メートルを軽く超える。
「ていうか、さっきから気になってたけどあれ何? 羽根が生えているように思えるけど魔人族だったの?それとも鳥型の獣人族とか?」
「いや、獣人族に鳥のような羽根を生えた者はいない。恐らく、天人族だろう」
「天人?」
二人は倒れ込んだシュンを伺い、彼が完全に気絶している事を確認しながら彼の羽根を調べる。間違いなく彼の身体から生えており、作り物の類ではない。
「こんな大きな羽根、どうやって隠してたんだ?」
「服に秘密があったのかもしれない……それよりも本当に生きてるのか?」
レノの撃雷を真面に喰らった事で完全に気絶しているシュンを伺い、どうやって彼を運ぶかのか迷う。こんな状態の彼を人に見られたら間違いなく騒ぎが起きてしまう。だからと言って事情を話して係員に連れて言ってもらおうにも、彼にはまだ色々と尋ねたい事がある。
「しょうがない……転移魔方陣で飛ばすか。確か、ワルキューレ騎士団はもう戻っているはずだよね?」
「なるほど、テン団長に任せるんだな?」
「そういう事」
今回の剣乱武闘にはワルキューレ騎士団も出動していたが、彼女達は第二次予選で闘人都市の警備に協力した後は教会の方に戻っており、万事の際には大型の転移魔方陣で闘人都市に転移する手筈だった。その中にはワルキューレ騎士団の総団長を勤めるテンも居り、彼女ならばシュンの捕縛を任せられる。
「とりあえず俺はこいつを運んどくから、リノンは係員の人に事情を伝えたなよ。さっき、俺に知らせてくれた人が証明してくれるだろうし……」
「それは構わないが……シュンの事はどう言えばいいんだ?」
「途中で逃げられたとでも言っといて」
レノは転移魔方陣をチョーク(流石に壁や地面を削るわけにはいかない)で書き込み、シュンを引きずって共に聖導教会の方へ転移を行おうとした時、
「レノ」
「ん? なに?」
「その、ありがとう。助かった」
改めてリノンから礼を言われ、レノは気にするなとばかりに親指を立て、そのまま聖導教会へと転移した。
「羽根……⁉」
「……見たな」
――バサァッ‼
シュンの背中から飛び出したのはまるで鳥類の羽根を想像させる翼であり、彼の背中から間違いなく生えている。魔人族のヴァンパイアのような蝙蝠を想像させる羽根とは違い、彼が生やしている翼はまるで「天使」を想像させるほどに美しく煌めき、リノンは目を奪われる。
彼は露出した背中を確認し、顔を右手で覆う。リノンの爆炎を受けてまだ動けるところ、相当に強い熱耐性を誇るのか、それとも別の方法で防いだのかは不明だが、今は気にかかるのは彼の正体であり、リノンの脳裏にある種族名が思い浮かぶ。
「天人族……?」
遥か昔、魔王が誕生した時代に存在した翼を持つ種族の名前であり、彼等は「天使」のように美しい羽根を持ち、優れた知能を持つ種族と伝わっている。彼等は優れ過ぎた故に魔王によってその存在を疎まれ、地上から1人も残さずに滅ぼされたと聞いている。
ドワーフ同様、彼等は魔王がいた時代によって絶滅した存在であり、生き残りが存在したなど聞いたことがない。リノンは自分の翼を震わせるシュンに対し、彼が天人族の生き残りなのかと疑う一方、どうやって衣服に収めていたのかが気にかかる。
「天人? ああ……地上の人間が僕たちに付けた名前ですか。その名前で呼ばれるのは不快ですね、僕たちは『調整者』と呼んでほしいね」
「調整者?」
「まあ、今から死ぬ貴女には関係ない話ですが」
ブォオンッ‼
シュンが両翼を羽ばたかせ、周囲に予想外の突風が発生する。リノンは少しだけ羽根を動かしただけでどうしてここまで不自然なまでに風が吹き荒れるのかと疑問を抱く暇もなく、彼に向けられる殺意に冷や汗が流れる。
「この姿を見た以上……生かす理由はない、ここで消えろ」
「……それが素の性格か?」
「おっと、いけませんね。頭に血が上り過ぎてしまいました」
表面上は冷静さを取り戻したように振る舞うが、シュンの眼光はリノンを射抜き、彼は翼を通路を多い塞ぐように広げて歩み寄る。その姿に隙は無く、リノンは折れた刃を構えながら相手に出方を伺うと、不意に彼の背後から垣間見えた光景に呆気に取られたように口を開き、シュンが訝し気な表情を浮かべる。
「……なんですかその顔は? 状況を理解して……」
「ねえっ」
シュンがリノンに対して言葉を言い切る前、彼の後方から声を掛けられ、その声音を聞いた瞬間に硬直する。彼はゆっくりと首を振り向くと、
バチィイイイッ‼
――そこには右腕に電撃を纏わせたレノが立っており、彼は気配を殺してシュンに背後にまで近づき、そのまま彼の背中に拳を押し付け、
「吹き飛べ」
ズドォオオオンッ‼
「がぁああああああああっ⁉」
ゼロ距離からレノの撃雷が放たれ、シュンが悲鳴を上げて吹き飛ばされる。慌ててリノンは横方向に避けると、彼はそのまま通路を真っ直ぐにぶっ飛ばされ、10メートルほど離れた地面に顔面からめり込み、そのまま横転しながら動かなくなる。
「……い、生きてるのか?」
「どうかな……まあ、平気でしょ。多分」
腕に纏った電流を振り払い、レノは何事も無かったようにリノンに近づき、彼女は安堵の息を吐く。どうして彼がここにいるのかは分からないが、少なくとも自分を救い出してくれた事に違いはなく、礼を告げる。
「助かったレノ……あのまま戦い続けたらこちらがやばかったかもしれない」
「さっき、帰る途中で係員の人と会って急いで駆けつけてきた。ポチ子たちには伝える暇はなかったけど……」
「そうか……さっきの人が……?」
どうやらリノンが救った係員が事態を伝えたらしく、お蔭で命拾いした。あのまま戦闘を続行されていたら武器を破壊されたリノンが圧倒的に不利であり、何をされたか分からない。
「それより大会の方は大丈夫なの? もう試合は始まってるんじゃないの?」
「あ‼しまった⁉」
リノンは今思い出したように慌ててシュンを振り返るが、彼はレノの一撃によって完全に気絶しているのか動く様子がなく、そもそも試合開始の時刻から随分と過ぎている。この様子では2人とも失格扱いになっているかもしれない。
ピンポンパンポンッ……‼
通路内に気の抜ける警告音が流れ、実況席のカリナの声が流れ込む。
『え~……場内の皆様に二つの報告があります。1つはAブロックの試合場の修復が完了しましたので、これよりAブロックの選手達の試合が始めたいと思います。ですが、Aブロックの最初の試合に入場するはずのリノン選手とシュン選手は時間内に試合場に入場しなかったことで大会規約により失格扱いとなります。お二人に賭けていた観客の皆さまは窓口で掛け金の返却が行わますでどうかご理解ください』
「ああっ……そ、そんな……」
「ど、どんまい」
リノンはその場で膝を崩し、レノが彼女の肩に手をやる。この日のために毎日鍛錬を積み、大勢の観客の目の前で自分の実力を見て欲しかった彼女には衝撃的だったろうが、今は試合前に襲ってきたシュンに確かめなければならない事がある。
「落ち込んでるところ悪いけど、あいつを運ぶの手伝ってくれない?」
「そ、そうだな……それにしても彼はどうしてこんな事を」
レノの言葉に正気を取り戻したのか、リノンは起き上がる様子がないシュンに視線を向け、未だに彼の背中には羽根が生えており、その大きさはどちらとも広げれば1メートルを軽く超える。
「ていうか、さっきから気になってたけどあれ何? 羽根が生えているように思えるけど魔人族だったの?それとも鳥型の獣人族とか?」
「いや、獣人族に鳥のような羽根を生えた者はいない。恐らく、天人族だろう」
「天人?」
二人は倒れ込んだシュンを伺い、彼が完全に気絶している事を確認しながら彼の羽根を調べる。間違いなく彼の身体から生えており、作り物の類ではない。
「こんな大きな羽根、どうやって隠してたんだ?」
「服に秘密があったのかもしれない……それよりも本当に生きてるのか?」
レノの撃雷を真面に喰らった事で完全に気絶しているシュンを伺い、どうやって彼を運ぶかのか迷う。こんな状態の彼を人に見られたら間違いなく騒ぎが起きてしまう。だからと言って事情を話して係員に連れて言ってもらおうにも、彼にはまだ色々と尋ねたい事がある。
「しょうがない……転移魔方陣で飛ばすか。確か、ワルキューレ騎士団はもう戻っているはずだよね?」
「なるほど、テン団長に任せるんだな?」
「そういう事」
今回の剣乱武闘にはワルキューレ騎士団も出動していたが、彼女達は第二次予選で闘人都市の警備に協力した後は教会の方に戻っており、万事の際には大型の転移魔方陣で闘人都市に転移する手筈だった。その中にはワルキューレ騎士団の総団長を勤めるテンも居り、彼女ならばシュンの捕縛を任せられる。
「とりあえず俺はこいつを運んどくから、リノンは係員の人に事情を伝えたなよ。さっき、俺に知らせてくれた人が証明してくれるだろうし……」
「それは構わないが……シュンの事はどう言えばいいんだ?」
「途中で逃げられたとでも言っといて」
レノは転移魔方陣をチョーク(流石に壁や地面を削るわけにはいかない)で書き込み、シュンを引きずって共に聖導教会の方へ転移を行おうとした時、
「レノ」
「ん? なに?」
「その、ありがとう。助かった」
改めてリノンから礼を言われ、レノは気にするなとばかりに親指を立て、そのまま聖導教会へと転移した。
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