種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘 覇者編

管理者

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「管理者……? どういう意味だい?」
「言葉通りです。管理者とはこの世界を管理する方の呼称です」
「意味が分からんな……」


カオリとカナの言葉にバルとライオネルは首を傾げるが、唯一レノだけは彼女達が告げた言葉の意味を考察し、随分と前の話だが放浪島の内部に存在する地下の研究施設で出会ったベータを思い出す。



――この世界の魔物の原点は地下迷宮から始まり、全ての魔物はあの迷宮内に存在する研究施設から生み出され、世界中に送り込まれたと聞いている。現在、その機能は停止しているが既に魔物の生態系は完成しており、嘗てこの地上に存在した動物の殆どは死滅している。但し、ごく一部の生物(犬猫等)は生き残っており、巨大隕石によって地球の環境が大きく変動したため、魔物が誕生しなくても動物の大半は環境の変化に適応できずに絶滅したが。



放浪島は元々は地上に存在し、魔王の手によって空中に隔離されてしまい、地上への帰還は不可能となる。地上に残っている施設との連絡も途絶え、放浪島は丁度活性化の時期に隔離されてしまったため、今尚も放浪島の環境は活性化の状態を保っており、独自の魔物の生態系が存在する。

ベータによれば以前は人間が住んでいたが、今では絶滅しており、残されたのはアンドロイドであるベータとその姉妹機、さらには終末システムが搭載された「終末者」のみであり、この内のデルタと終末者のみが生き残っている。

カオリとカナが告げる「管理者」とはベータたちの存在を意味し、天人族の生き残りであるシュンとどういう関係性なのかは不明だが、少なくとも地下研究施設に居たベータはレノに対して敵意はなかった。


「シュン様は調整者であり、本来ならば管理者から指示を承り、地上の生態系の観測を行うはずでした。ですが、破壊者の手によって管理者と隔離され、連絡手段を失ってしまい、さらには破壊者の侵攻によってシュン様を除く同胞は死亡しました」
「よくその……シュン様? は生き残れましたね」
「シュン様は当時は赤子であり、コトミ様の原型となったホムンクルスに救出されて辛うじて生き残れました」
「ちょっと待って、今さらっととんでもないことを聞いた気がする」
「……私の原型?」


センリの質問に姉妹が応えると、レノは聞き捨てならない言葉に反応する。コトミの「原型となったホムンクルス」という言葉に彼女自身も驚いた風に猫耳(癖っ毛)を震わせ、本人も知らなかったのか首を傾げる。


「原型ってどういう意味? まさか……」
「はい。コトミ様は他のホムンクルスと違い、初代の世代に生きていたホムンクルスのクローンです。シュン様は命を救ってくれた彼女を大切に想い、彼女の死後に細胞を採取してクローンを生み出しました」
「……それが、私?」
「そうです。コトミ様は私達と違い、より人間的に造り出されました。身体の構造も根本的に私達と違い、基本ペースはシュン様と同じです」
「だけど、コトミには羽根は生えていないよ」
「コトミ様を生み出す際、シュン様は地上に出す際は羽根があっては色々と不都合があると予測し、細胞の一部を変化させました」
「……普通の人間じゃないとは思っていたけど、まさかこの猫っ子が羽根の無い天人族みたいなものだっていうのかい? あんた、鳥っ子だったのかい」
「……鳥は好き。焼くと美味しい」
「同族食ってんじゃないよ」


まさかのコトミの誕生秘話を聞かされ、今まで疑問に抱いていたがやはり彼女も普通の人間ではないらしく、実は相当に凄い存在かもしれない。クローンという点はレノも同類であり、何となく親近感を抱いていると、カオリが話を続ける。


「シュン様の目的はレノ様が管理者とどのような接点を持っているのかを調べ、場合によっては私達の国に招いて、統率者として支持を仰ぐ予定です」
「統率者?なんで?」
「シュン様は今までの調査により、レノ様が管理者の「遺産」であり、この地上で唯一の希望だからです。彼は長年の間、管理者からの指示を仰げず、自分が役割を果たせずにいなかったことに苦悩していました」



――2人の話によると、天人族とは地上を管理するためだけに生み出された種族であり、彼等は管理者の指示を仰いで地上の変化を報告し、時には生態系を管理するために働くらしい。だが、魔王によってシュン以外の天人族は皆殺しにされ、さらには自分たちの絶対的支配者である管理者さえも隔離されてしまい、生き残ったシュンは途方に暮れた。



自分の存在の意義は管理者に従い、地上を代わりに管理する事にも関わらず、魔王という存在によって絶対的存在の管理者との連絡が無くなり、さらには地上は魔王によって支配されてしまい、彼は何もできずに安全な場所で隠れ続けるしかなかった。

無論、その間に何もしなかったわけではなく、何度も管理者と連絡を取ろう試みたが、放浪島は魔王によって隔離され、魔王を打ち倒そうにも力の差があり、彼一人ではどうしようもできなかった。彼に出来る事は地上に残された研究施設でホムンクルスを造り出す事だけであり、様々な研究を行う。

彼が生み出したホムンクルスは環境によって大きく能力が変化し、特に強い魔力を持つ人間の傍にいるほどホムンクルスは強化される事が判明する。実際にコトミやカオリたちは周囲の人間の影響で大きく成長し、シュンはこの方法を利用して世界各地の優れた魔術師にホムンクルスを送り込み、より優れた存在となったホムンクルスの集団を統率する。

だが、いくら優秀なホムンクルスを集めたところで管理者の指示が無ければ彼は何もできず、勝手な判断で地上の生態系を乱すわけにはいかない。だが、数年前に復活した魔王がレノ達に倒されことを知り、彼は興味を抱いて魔王を討伐したというメンバーの研究を行う。



――偶然にも魔王を打ち倒したレノの傍には記憶を消去させたコトミが仕えており、シュンは彼女の記憶を取り戻させ、レノの正体を見抜くためにわざわざ地上に赴いて彼の前に姿を現す。そして事前の調査でレノが間違いなく放浪島の研究施設と何らかの関わりがある事を突き止め、彼から管理者の情報を聞き出すために友好を築き上げようとしたが、予想以上に警戒されてしまったため、急遽としてレノと親交があるリノン達を人質に自分たちの国へと誘いこもうとしたらしい。



「つまり、なんだ?お前たちはレノが目的でこの大会に出場し、そしてこいつの友人を利用して自分たちの国に引き込もうとしたのか⁉」
「どうして素直に事情を説明しないのですか……最初から教えて来れれば、こんな事態には陥らなかったのに……」
「シュン様はあまり人を信用されません。信じられるのは自分だけ……そういう思考の持ち主です」
「あんたら、自分の主人なのに随分と失礼な言いぐさだね」
「今は違います。私達はレノ様に仕えています」
「それならさっさとシュンの正体と、その思惑も話して欲しかったんだけど」
「聞かれなかったので……」
「典型的な言い訳だな……昔のデルタを思い出す」


カオリとカナの返事にレノは溜息を吐き、とりあえずは聖導教会に閉じ込めているシュンと対話する必要がある。彼が崇拝していた管理者は既に数年前にデルタを除いて消滅しており、レノ自身も地下研究施設の生まれではあるが、決して管理者ではない事を告げなければならない。
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