種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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大迷宮編 〈前半編〉

手合せ

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ミアに連れられてレノは砦の訓練場に移動する。既に彼女以外の5人のエルフの戦士たちが鍛錬を行っており、2人の姿を見た瞬間に頭を下げてくる。


「隊長……それに雷光殿」
「それは名前じゃない」
「これは失礼……レノ殿でいいですか?」
「いいよ」


明らかにわざと間違えて挑発しているようにしか聞こえないが、相変わらずエルフが自分に対して悪感情を抱く事に内心溜息を吐く。ハーフエルフとエルフの仲は険悪であり、特にエルフの方が一方的に嫌っている。

大昔はエルフとハーフエルフの間に溝は無く、平和に暮らしていた時期もあったらしいが、魔王という存在の誕生によって二つの種族の間の関係に取り返しの付かない罅が生じてしまい、この二つの種族は未だにお互いが殺し合う関係である。現在のハーフエルフの待遇は世界的に見れば改善されつつあるのだが、エルフとの距離は一向に縮む様子がない。


「レノ様、今日お呼びしたのは我々はレフィーア様の護衛として、貴方の実力を確かめさせてもらいたいのです」
「レフィーア……様の?」


危うく呼び捨てになりそうだったが周囲の者達が睨み付けるように視線を向けて来たため、すぐに言い直す。レフィーア本人はレノの態度を気にしなくとも、彼女の側近である彼等には我慢ならないのだろう。


「失礼ですが、護衛隊長のカイザン様と違い、我々は貴方の事を認めていません」
「そうですか」
「……ですから、この機会にどうか貴方の事を知りたいのです」


ミアは訓練場に用意されていた木刀を差し出し、レノは不思議に思いながら受け取ると、周囲のエルフ達が笑みを浮かべ、


「どうか、ここで私達と手合わせ願えませんか? 是非、聖剣を扱うという英雄様の技量を知りたいのです」
「そうきたか……」


レノは自分が呼び出された理由を察し、彼等は試しているのだ。レフィーアの側近の立場としては、ハーフエルフであるはずのレノが彼女と親しく接する事が気に入らず、彼女が傍にいない今の時期を見計ら内、自分達で彼の実力を見極めるつもりらしい。


「私達に一手ご教授できますか?」
「剣はあんまり……ていうか、武器は鍵爪ぐらいしか使えないかな」
「なんと……英雄という割にはまるで原始人のようですな」
「アラン‼」


正直に答えたレノの言葉に男性の中年エルフが小馬鹿にしたような態度を取り、ミアが注意を行う。レノはそんな彼等の態度に特に気にした風もなく、不意に訓練場に存在する射撃場に気が付く。


「あれは?」
「え、ああっ……我々が用意した射撃場です。弓矢は出来るのですか?」
「それなら少しだけ……」


弓矢に関しては子供の頃にフレイに教わっており、今でもムミョウやフレイと共にレノノ森で狩猟を行う際に使用している。森人族の狩猟は基本的には風属性以外の魔法の使用を禁じており、レノも弓矢のみで狩猟を行う。昔と比べれば随分と上達しており、フレイとムミョウからも太鼓判を押してもらっている。


「それでは我々と勝負をしませんか?」
「勝負?」
「弓矢の飛距離、そして命中力を競いましょう。勿論、魔法の使用も構いません」
「なるほど。いいよ」


確かにそちらの方がレノに都合がよく、彼が承諾するとエルフ達は笑みを浮かべ、すぐに全員が射撃場に移動する。


「では、こちらの弓をお使いください。我々は自分の弓を使いますので……」
「へえ……」


レノはミアから長弓を渡され、エルフ達が造り出した代物なのか訓練用の弓とは比べ物にならず、これならば問題なく扱えるだろう。流石に彼等も真剣勝負で不正を行うつもりはないらしく、武器に何らかの細工が仕掛けられている様子はない。


「では、まずは私が射ます」


最初に名乗り上げたのは隊長であるミアであり、彼女は自分の弓を背中から取り出し、そのまま後方へと下がる。やがて射的の的から300メートルまで距離を取ると、彼女は弓に矢を番え、一瞬の間を置いて弦を弾く。


ズドォンッ‼


拳銃でも発砲したかのような音が鳴り響き、ミアの風属性の魔力が付与された矢はレノ達の間を潜り抜け、300メートル先に存在する的の中心部を貫通し、さらに遥か後方にまで飛ぶ。それを確認したレノは感心した声を上げ、ミアは上機嫌に頷く。


「へぇ~……凄い」
「ふっ……」
「ミア隊長はその気になれば400メートル先の標的だろうと射抜くことが出来る……勝負を止めるなら今の内ですぞ?」
「ちょっと待って」


レノの反応に周囲にいたエルフ達は勝ち誇った笑みを浮かべるが、レノはこちらに戻ってこようとするミアに掌を差し出し、止まるように指示を出す。


「もう一度撃ってくれない?今度はこっちの方で」
「何を……」
「まさか、今のがまぐれだと思っているのか⁉」
「構いません‼」


ミアが射抜いた的の隣に存在する新しい的を指差し、レノがもう一度彼女に射的を願い出ると他のエルフ達が怒りの表情を浮かべるが、ミアが瞬時に声を張り上げて彼らを制止する。


「……そちらの的でいいのですね? なんなら、もう少し距離を取りましょうか?」
「それじゃあ意味ない。その距離でもう一度やって」
「……?」


ミアの実力を疑われたのかと思ったが、レノの発言に全員が首を傾げ、彼女は一応は要望通りに300メートル程の距離の的に視線を向け、



「――ふっ‼」



ズドォンッ‼



今度はさらに風属性の魔法を纏わせ、高速回転した矢を放つ。弾丸並の速度で的に向かって移動する矢に対し、レノは掌を伸ばすと、


「よっと」
「「はっ⁉」」


バシィッ‼


そのまま自分の前を通り過ぎようとした矢をレノは掴み取り、しばらくの間は掌の間で回転していたが、やがて勢いを失って風属性の魔力が拡散し、何事も無かったようにレノは掌を見つめる。


「こんなもんか……カノンの弾丸の方が怖いかな」
「なっ……⁉」
「う、受け止めただと⁉」
「ば、馬鹿な……⁉」


眼前で何が起きたのか理解できず、エルフ達は動揺しながらもレノに視線を向け、彼はそのまま受け止めた矢を長弓に番え、嵐属性の魔力を注ぎ込み、後方に存在するミアが狙った的に向けて射抜く。


「……よっと」



ズドォオオオオンッ‼



射出された矢は竜巻のような暴風を生じさせながら飛来し、的を貫通するどころか粉々に粉砕させると、地平線の彼方にまで移動する。その光景にエルフ達は唖然とし、レノは長弓を片手に握りしめて振り返り、


「命中力はともかく、飛距離は俺の勝ちでいいよね」
「え、あっ……」
「そ、そのようですな……」


レノの笑顔に対してエルフ達は苦虫を嚙み潰した表情を浮かべ、自分たちには彼のような真似は出来ない。神妙な表情を浮かべたミアも皆の元にまで戻り、


「……今回の勝負は私の負けです」
「今回?」
「確かに貴方の実力は確認させてもらいましたが……まだ納得できません。申し訳ありませんが、本日の所はお引き取りください。失礼をした詫びとして、その弓は進呈します」
「……まあ、別にいいけどさ」


長弓を手にしながらレノは了承し、後方から視線を感じながらもそのまま立ち去る。彼等の目的はまだ不明だが、少なくとも命を取るような真似を仕掛けてこなかった。


(本当に試しているだけなのか……それとも)


ミア達の目的は分からないが、調査を終えるまでは彼女達との関係を乱すわけにもいかず、レノはとりあえずは使い勝手のいい長弓を入手し、ムミョウやフレイに良いお土産が手に入ったと自慢できる事に満足し、そのまま今度こそリノン達がいる宿舎に向けて訓練場を後にした。
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