種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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大迷宮編 〈前半編〉

最期の石台

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ミノタウロスを難なく撃破すると、ソフィア達は残った2枚の石札を入手して先に進む。予想通り、少し進んだところでまたもや同じ石台が現れ、違う点があるとすればここが通路の終着点なのか通路が石柱によって塞がれていた。

「これで終わりなんでしょうか?」
「多分……」
「あれ? でも石札がありませんね」
「今までの中から選べというんじゃないのか?」


今回の石台には石札が用意されておらず、変わりに差し込み口だけが存在した。ソフィア達は今までに入手した石札を並べ、残っているのは「ゴブリン」「オーガ」「クラーケン」の三つだけだった。


「……一応は聞きますが、どうしますか?」
「ゴブリンは除外するとして、オーガかクラーケンか……」
「本当にゴブリンとは戦いたくないのですね……」


頑なにゴブリンとの戦闘を避けるソフィアにミアは溜息を吐きだし、オーガの石札を選ぶと差し込み口に挿し込む。


ガコォンッ……‼


いつも通り、石台が地面に沈んだと思うと後方の通路から轟音が鳴り響く。どうやら今回は後ろ側の通路から出現するらしく、ソフィア達はオーガが辿り着くまで待機する。


「……あれ? また上がってきましたよ」
「ん? 本当だ」


ポチ子が不思議そうな声を上げ、全員が視線を向けると一度収納されたはずの石台が再度出現し、今度は「銀色に輝く鍵」を乗せていた。鍵に刻まれたシンボルマークは「六芒星」であり、恐らくこれがレノ達が最初に通ろうとした通路の罠を解除する鍵なのだろう。


「どうしてまだ倒してもいないのに鍵が……」
「いや、ちょっと待って、これガラス張りだ」
「……外れない」
「どれどれ……ふんぬらばぁっ」
「な、何だその掛け声は……」


出現した石台にはガラスのケースが嵌め込まれており、中身の鍵を取り出すことが出来ず、ソフィアが力ずくで外せないかを試したが、彼女の力でもびくともしない。


「う~ん……魔物を倒さない限りは外れない仕組みかも」
「わざわざ鍵を見せつけるだけの仕掛けですか……悪趣味な方が製作したようですね」
「皆、来たぞ」


リノンの言葉に振り返ると何時の間にかこちらに向かって近付いてくる影があり、全身が黒い体毛と赤い筋肉で覆われた巨人が姿を現す。サイクロプスやミノタウロスと比べると危険度は低いが、それでも獰猛性の高さから第二級危険種指定されているオーガが現れる。


「グヒヒヒッ……‼」
「喜色悪い奴だな……でも、前の奴と比べたら大したことなさそう」
「油断は禁物ですよ。今まで現れた敵を考えても普通の種ではないはず」
「関係ない」


ソフィアは手首を回し、自分の腰に装備したカリバーンを抜き放つ。今の今まで装備している事を忘れていたが、これ以上時間は掛けられないため、一気に終わらせる。


「そ、その剣は……」


ミアは彼女が抜いた聖剣を確認し、遂に伝説に名を刻むカリバーンの力を見られるのか息を飲む。やがて、ソフィアの魔力を吸収するように刃に光が灯り、



ゴォオオオッ……‼



刀身に青白い光が発生し、レーザーサーベルのように輝く。その刀身は神々しさを感じさせるほどに美しく、全員が見惚れてしまう。


「美しい……そして力強い魔力の波動……凄い」
「レミアさんが言っていた……カリバーンは魔力を吸収する事で力を発揮する。あの輝きはソフィアの魔力を現わしているんだ」
「綺麗です~」
「綺麗だね~」
「……魅惑的」
「あれ、欲しい。魔槍と交換してくれないかな……」
「やだよ」


誰もがカリバーンの輝きに圧倒される中、ソフィアは聖剣を構え、オーガが怯えたように後退る。魔物とはいえ、尋常ではない威圧を感じ、怯んでいるようだった。

その一方、ソフィアはカリバーンを握りしめながらこの半年の間に剣の訓練を受けていた頃を思い出す。アイリィからは才能は無いと言われたが、大将軍として兵士の訓練を見る以上はある程度の武芸を覚える必要があり、彼女は様々な人物に教えを受けていた。

王国側ではリノン、アルト、レミア、ジャンヌ、聖導教会ではテンやセンリ(彼女も一時期はワルキューレ騎士団に所属していた経験がある)にも教えて貰うが、どうにも剣は性に合わず、彼女は難儀していた。



――だが、黒猫酒場で相談をすると、黒猫盗賊団の団長であるバルがソフィアの話を聞き、彼女が若い頃に使っていたという猫型の獣人にだけ伝わるという「剣術」を教えてくれた。瞬く間にソフィアはバルの元で剣を学び、彼女が知る剣技を習得した。



「……猫爪流」
「ウガッ?」


ソフィアはカリバーンを逆手に構え、そのまま体勢を低くすると、オーガが困惑気味に覗き込み、


「飛剣‼」


ドォンッ‼


瞬脚の要領でソフィアはオーガに向けて跳躍し、彼女はそのまま刃を振り上げ、


ズバァアアンッ‼


「ガァアッ……⁉」


彼女が通り過ぎた瞬間には頭と胴体を切り裂き、そのままオーガの頭部が地面に転がり込み、残された胴体だけは膝を崩し、ゆっくりと沈んだ。


「ふうっ……」


カリバーンの光刃を解除し、鞘に納めて振り返るとそこには大きく口を開けた仲間達の姿があり、誰もがソフィアの行動に驚いていた。


「い、今のは……剣技なのか?」
「ね、猫爪流って聞こえたけど……」
「ま、まさかソフィアさんが猫爪流を習得していたなんて……⁉」
「知っているのかポチ子君‼」
「わふぅっ‼猫爪流は私が扱う犬牙流よりも古い剣術で、猫型の獣人の方々だけが扱う秘剣です‼技の数こそ少ないですが、それでも速度を生かした凄まじい剣技だと聞いています‼」
「……飛んで切っただけ」
「それを言ったらお終いだろ」


全員が驚愕する中、ソフィアは皆の元に近づき、すぐに石台の方に変化が起きている事に気付く。銀色の鍵を覆っていたガラスケースが外れ、さらには前方の石柱にも異変が起きていた。


ゴゴゴゴッ……‼


ゆっくりとだが石柱が天上に向けて上昇し、通路が解放される。ソフィアは石台から鍵を回収すると、前方の通路を確認して驚きの声を上げる。


「これは……」
「おお、お前たち‼ 無事だったのか‼」


通路の向こう側から聞き慣れた声が響き、全員が視線を向けるとそこには全身が返り血まみれのライオネルが立っており、先ほどまで戦闘中だったのか彼の足元には無数の魔獣の死骸が並んでおり、レノが仕込んだ転移魔方陣も確認できる。


「ここは……大広間じゃないか?」
「あれ?何時の間にか戻って来てたの?」
「そんなはずは……確かに私達は真っ直ぐ進んでいました」
「また、空間を歪ませて元の場所に戻したんじゃない?」
「一体何を話している?それにどうしてお前はそんな恰好を……」


真っ直ぐに突き進んでいたはずの自分たちが大広間に戻ってきたのかと不思議に思うが、ライオネルはソフィアに視線を向け、彼女がどうして性別を変化させているのか首を傾げる。その一方、転移魔方陣を取り囲むように調査部隊のメンバーがへたり込んでおり、どうやら彼等はずっと魔方陣を守護していたらしい。


「お、お前等……普通に帰ってくんじゃねえよ……」
「せ、折角守ったのに……無駄になりました~」
「なんか、ごめん」


全身が汗だくで倒れこむダイアと、同じようにへたり込んでいるラッキーにソフィアは謝罪し、どうやら自分たちが転移魔方陣に戻ってくると信じてずっと守り続けていたらしい。


「それで、一体何が起きた? その鍵はどうしたんだ?」
「とりあえず、一旦地上に戻ろうか。砦に戻ってから事情を話すよ」
「そうだな……お前たち、引き上げるぞ‼」
「…………」


レノの提案を受け入れ、調査部隊は砦に向けて帰還するが、ミアだけはソフィアの後姿を見つめ、自分がどうすべきか悩んでいた。
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