種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
973 / 1,095
大迷宮編 〈前半編〉

ミドリの街

しおりを挟む
――翌日、聖導教会総本部からアトラス大森林が近い「ミドリ」と呼ばれる街にレノ達は転移した。基本的に聖導教会はこの世界のほぼ全て街や村にも設立されており、彼等は独自の転移魔方陣を所有しているため、転移を阻害される事なく移動が可能である。

レノ達が移動したのは「ミドリ」と呼ばれる規模は小さいが、名前の通りに美しい自然が周囲に広がっている街であり、教会の内部に設置されている転移魔方陣から訪れると、既に教会の人間達が出迎えの準備を行っていた。


「こ、これはこれは‼雷光の英雄様ではないですか⁉本当にこんな辺境の地に……」
「貴方がこの教会の主?」
「は、はい‼」
「ここは……裏庭のようだね」
「へぇ~……本当に一瞬で移動できるんですね」


教会総本部から転移した場所は「ミドリ」の街の教会であり、正確に言えば裏庭に設置されている転移魔方陣に転移しており、どうやらこの教会では建物の中ではなく、裏庭に転移魔方陣を設置されているようである。一応は雨などで掻き消されないように屋根も取り付けられてはいるが、それにしては少し不用心すぎる気がするが。

転移魔方陣の前には事前に連絡を受けていた教会の人間が並んでおり、聖天魔導士でもあったレノの事を知っているのか彼の前で頭を下げる。雷光の英雄の名前はこの場所まで広まっており、彼等は平伏する。。


「そ、それで今回はどのような用件で……?」
「いや、別に貴方達に用はないです。ちょっとこっちの方に用事が出来たから転移魔方陣を使わせてもらっただけ」
「というより、君たちは大丈夫なのかい?いくら教会の人間だからと言って、ここはアトラス大森林に近い街なんだろう?エルフ達に乱暴されてないのかい?」
「いえ、彼等は基本的には私達の前には現れませんから……姿を見せるとしたら薬品の購入ぐらいでして……」
「薬品?」
「基本的に彼等は傷や病を癒す薬草の類しか扱いませんので、我らが販売しているマナ・ポーションなどを製造できる技術はなく、だから時折現れては大量に購入してきます。最も、最近は随分と姿を見せませんが……」


どうやらこの教会にも以前は頻繁にエルフが訪れていたらしく、万が一にも鉢合わせしないようにすぐに出発する必要がある。ホノカは事前に用意していた移動用の騎竜を呼び寄せ、レノは「ウル」を召喚する。



「魔力を生贄にしてウルを召喚する‼」



某カードゲーム漫画のように叫びながらレノは地面に掌を押し付けると、召喚魔方陣が展開され、獣人族の大迷宮の砦に置いてきたウルを呼び出す。



「ウォオオオオンッ‼」
「うおおっ⁉」
「お、狼⁉」


裏庭の魔方陣からウルが出現し、教会の人間が驚きの声を上げるが、説明している暇もないのでレノはウルの背中に乗り込む。既に彼の背中には鞍が付いており、レノを搭乗させるためにわざわざ用意されていた。


「ひとっ走り頼むよ」
「ウォンッ‼」
「もふもふですね……」


レノの後ろにはベータも乗り込み、彼女は身体の大部分を機械で構成されているので100キロは超えているはずだが、ウルは物ともせずに軽々と2人を背負い、その後ろにはレミアとホノカが用意していた騎竜に乗り込む。


「ここからアトラス大森林の方角は分かる?」
「そ、それならこの街から南西の方角ですが……あそこは森人族の聖地なので迂闊に近づくことは危険ですよ?」
「問題ない。南西の方角か……距離はどれくらい?」
「馬で二日ほど……騎竜ならば一日で到着すると思いますが……」
「よし、ならウルなら半日か」
「僕のお気に入りの騎竜達も舐めないでくれるかい?白狼種にも負けない速度だと自負してるよ」
「シャアッ‼」


全力疾走で走れば並の乗り物よりも早いウルならば半日足らずで到着するのは間違いなく、ホノカが用意した騎竜たちが鳴き声を上げる。騎竜の中でも速度が早い種であり、彼女によればウルにも劣らぬ速さを誇るらしい。さらにはあらゆる地形に対応して走り続ける事が可能らしい。


「よし、行くよ‼」
「お、お待ち下さい‼ 出入口はあちらが……うわぁっ⁉」



ドォンッ‼



レノの掛け声に反応してウルと騎竜たちが走り出し、そのまま周囲を覆う壁に向けて突進し、ウルは大きく跳躍する。


「ウォオオオオンッ‼」
「おお~」
「ちょっ、揺れますねこれ⁉」


2人を乗せたままウルは7~8メートル近く跳躍し、そのまま壁を乗り越えて街中に出る。幸いにも教会は街の外れの方にあったらしく、そのまま建物の屋根の上を駆け抜けて街の外に向けて移動する。後方ではホノカとレミアを騎乗させた騎竜たちが後に続き、伊達に速度を自慢していたため、ぴったりとウルの背後に続く。


「うわっ⁉」
「なんだ⁉」
「け、獣⁉」


街中を疾走する三体の騎獣に住民達が騒ぎ出すが、彼等が混乱している間にもレノ達は「ミドリ」の街を駆け抜け、そのまま街の外壁を乗り越えて外に移動する。


「見渡す限りの草原‼」
「そのまんまの表現ですね」


外壁を乗り越えた先の光景は美しい草原が延々と広がっており、アトラス大森林に向けてレノ達は全速力で疾走する。


「ぶわっ……⁉ は、速すぎませんか⁉」
「風圧は、予想外……⁉」
「風圧?私達は別に普通ですけど……」
「俺が風を操ってるからね」
「便利ですね~魔法って」


ウルの後方を走る騎竜に搭乗したホノカとレミアは、あまりの速度で前方から押しかかる風圧に苦しみ、ゴーグルを装着する。一方でレノ達の方は「嵐属性」を極めた彼が掌を前に差し出すだけで風の障壁を生み出し、風圧を軽く掻き消す。



「この調子で半日間を走り続けるんですか?」
「お、王国の危機です‼ これぐらいの風圧……‼」
「よくよく考えたら、僕は交易都市があるから別に無理して付き合う必要はないような……」
「ちょっ‼ここまで着て置いて今更何を……⁉」
「分かってるよ……ここで君たちを見捨てるとヨウカに嫌われそうだからね。だけど、よくよく考えたら転移魔法を使える僕とレノ君なら、こんな苦労をしないでいいんじゃないかな?」
「あ、言われてみれば……先に俺がアトラス大森林に辿り着いて、転移魔法陣で皆を呼び出す方が早かったかも」
「どうしてそれを早く気付かなかったんですかぁっ⁉」


今更ながらのレノの発言に珍しくレミアの突っ込みが走り、折角用意した騎竜ではあるが、その場で急停止を行い、レノは三人を置いて先にウルに搭乗して移動し、アトラス大森林に到着する寸前で彼女達を呼び寄せることにした。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:333pt お気に入り:8,127

シモウサへようこそ!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:335

冷遇ですか?違います、厚遇すぎる程に義妹と婚約者に溺愛されてます!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:823pt お気に入り:8,885

新宿アイル

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:138

処理中です...