種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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大迷宮編 〈前半編〉

決闘編 〈アオバ対ジャンヌ〉

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闘技場の上に森人族側は守護戦士の戦士長の一角である「アオバ」と呼ばれる戦士、そして王国側からは鮮血の異名を誇るジャンヌが姿を現し、周囲の者達に動揺が走る。この試合の観客である守護戦士と王国軍の兵士達は、初戦から腐敗竜やリバイアサンという伝説獣の討伐に貢献したジャンヌが出てきたことに驚きを隠せない。

アオバと名乗る戦士は鞭を握りしめ、ジャンヌは新調した戦斧を構える。剣乱武闘の戦闘で紅蓮のエンによって以前の斧は使えなくなったため、今回の戦斧は頑丈製を考慮して打ち直され、重量も増している。


「まさかいきなり最初から腐敗竜殺しで有名な人と戦う事になるとは思わなかったよ。まあ、聖剣レーヴァティンの力に溺れた人間でない事を祈ってるよ」
「減らず口はそこまでです」


鞭を片手にアオバは森人族の戦士らしからぬ態度で中指をジャンヌに向け、何処となくその姿はコウシュンと重なるが、彼の様な威圧感は纏っていない。今の時点では彼がただの愚か者なのか、それとも安い挑発を行ってジャンヌの様子を伺っているのかは不明だが、油断はできない。


「では、これより第一試合を開始します。先に説明した通り、この試合は相手が降参を宣言するか、どちらかの命が尽きるまで続行されます。覚悟はいいですね?」
「はいはい」
「分かりました」


適当に返事を返すアオバに対し、ジャンヌも頷く。それを確認したセンリは杖を天に掲げ、


「では……試合開始‼」



ドパァアアンッ‼



杖先から光球を解き放ち、まるで花火のように試合開始の合図を鳴らす。それを確認すると、アオバは鞭を振るい、ジャンヌに向けて放つ。


「まずは小手調べだ……ウィンド・ウィップ‼」


スパァアアンッ‼


鞭を振るった瞬間、不規則な起動の風属性の衝撃波が放たれ、ジャンヌはその場を離れて回避する。衝撃波は彼女が先ほどまで立っていた場所に到達すると、木造の床に無数の切り傷が生じる。


「風属性の斬撃ですか……」
「よそ見してんじゃねえよ‼」


スパァアアンッ‼


アオバはそのまま続けて鞭を振るい、今度は直接彼女を狙う。鞭の先端が見えない速度で接近し、ジャンヌは咄嗟に戦斧の刃で防ぐ。


バチィイイインッ‼


「くっ⁉」
「ほらほら‼ どうした‼」


刃に触れた瞬間に振動が走り、ジャンヌは初撃を凌ぐがアオバは続けて鞭を震わせ、無数の風属性の衝撃波を連発する。


スパァアアンッ‼


地面に切傷を残しながら接近してくる衝撃波に対し、ジャンヌは戦斧を横向きに構え、刃に魔力を集中させると、


「フォトン・レイ‼」


ズドォオオンッ‼


横薙ぎに振った瞬間に三日月状の光の刃を発現し、アオバに向けて放つ。彼女の持つ技の中でも指折りの破壊力を誇り、さらにレノの乱刃を参考に改良した砲撃魔法であり、正面から向い来る衝撃波を薙ぎ払う。


「ちっ‼」



ダァンッ‼



アオバは舌打ちしながらその場を移動し、俊敏な動きで光の刃を回避したように思えたが、ジャンヌはそれを見て笑みを浮かべ、


「はあっ‼」
「なにっ⁉」


ブォンッ‼


戦斧をさらに払う動作を行った瞬間、光刃の軌道が変化し、回避行動を行ったアオバに向けて移動する。彼は迫りくる砲撃魔法に対して舌打ちする。


「くそったれ‼」


ダンッ‼


そのまま寸前で上空へと跳躍し、跳び箱の要領で光刃を避ける。流石に今度は軌道は変更できず、そのまま光刃は闘技場枠外の結界に衝突し、消散してしまう。


「くっ……まさかあれを避けるとは」
「さ、流石にヤバかったぜ……噂通りに普通の人間じゃないみたいだな」


アオバは鞭を握りしめ、先ほどまでの余裕の態度ではなくなり、戦士としての表情を浮かべる。そして、ジャンヌに向けて鞭を構え、


「乱鞭‼」



バチィイイインッ‼



そのまま鞭を周囲に向けて振るい続け、速度は尋常ではなく、手元さえも目視できない。無茶苦茶に鞭を振るっているようにも見えるが、彼の周囲に無数の切り傷が走り、どうやら先端部に風属性の刃を纏わせて鋼鉄の刃のように斬り付けているようだ。


「なんて荒業を……くっ‼」


アオバはゆっくりとジャンヌに向けて歩み続け、走る事はできないようだが限られた範囲でしか存在しない試合場では後退するのも難しく、ジャンヌはすぐに結界で遮断されて後に引けなくなる。森人族がこの闘技場を造り出した理由を理解し、彼女は唇を噛み締める。


バチィイイインッ……‼


「命が惜しけりゃ、さっさと降参しろ‼こっちも余裕はねえんだ……ここであんたが負けを認めても勝ち誇ったりなんかしねえ‼文句があるなら次の機会に相手をしてやる‼」


アオバも試合場の狭さを利用した勝利は不本意なのか、彼はゆっくりとジャンヌに近づきながらも降参を進めてくる。最初の事は失礼な態度の彼に苛立ちを抱いていたが、それでも戦士としての誇りを持っていたことにジャンヌは感心する一方、彼は大きな間違いを犯している事に戦斧を強く握りしめる。

それは彼が「勝ち誇らない」と宣言する一方で、もう既に自分が勝利した事を確信している傲慢さであり、ジャンヌは自分がまだ試合を諦めていない事を証明するため、戦斧の刃に魔力を集中させた。



「……聖天」



ゴォオオオオッ……‼



刃が光り輝き、ジャンヌの魔力が極限にまで流し込まれ、戦斧全体が輝きだす。雰囲気が変化した事に気付いたアオバが慌てて阻止しようとするが、鞭を振るいながら移動するのは彼にとっても困難な事であり、迂闊に速度を速めれば手元が狂って自分の鞭に自分の肉体が衝突してしまう危険性もある。


「お、おい‼何をする気だ⁉」
「何をしているアオバ‼早く止めを刺せ‼」
「ジャンヌ‼」
「頑張れジャンヌちゃん‼」
「よ、ヨウカ様……今の私達は中立の立場でなければ……」


外野から声が掛けられ、アオバはジャンヌが何を仕出かすのかは分からないが、すぐに決着を付けるために自分の鞭の間合いに入り込んだ瞬間、


「はあっ‼」



ドパァアアンッ‼



音速を超えた事で衝撃波が生じるほどの一撃をジャンヌに向けて放ち、彼女の頭に目掛けて先端が接近するが、既にジャンヌは戦斧の柄を地面に押し付け、


「六芒星陣‼」


パァアアアアンッ‼


「なにぃいいいっ⁉」


彼女の足元に突然、防御魔法陣の中でも二番目の硬度を誇る魔方陣が生み出され、彼女の身体が白色に輝く障壁に覆われ、アオバの鞭を弾き返す。その光景に誰もが唖然とし、特に彼女が「聖天砲天撃」を放つと思い込んでいたレノ達も驚かされる。


「あの技は……完成させていたのですか」
「何か知ってるのセンリ?」
「あれはミキがワルキューレ騎士団の現役の時に使用していた魔法です。武器に付与させた魔力を結界魔方陣の形成のために利用し、一瞬で防御魔法陣を展開させる技ですが……まさかこの技も受け継いでいたなんて」
「そ、そんな魔法が存在するとは……」


センリの説明に誰もが驚愕し、特に必勝を確信して放った一撃を予想外の方法で弾かれたアオバは呆然とする。、その間にもジャンヌは戦斧を掲げ、地面に発生させた魔方陣を解除し、一気に勝負を終わらせるために接近を行う。


「はあっ‼」
「しまっ……⁉」



――ブォンッ‼



肉体強化(アクセル)で一気に身体能力を強化させ、ジャンヌは戦斧を振り翳し、アオバは咄嗟に鞭を振るおうとしたが彼女の方が遥かに早く、


「うっ……⁉」
「勝負あり、ですね?」


戦斧の刃がアオバの首元に寸前で停止し、ジャンヌは睨み付ける。彼は唇を噛み締め、それでもゆっくりと大きなため息を吐きだし、


「ああ……俺の負けだ」
「そこまで‼ 第一戦目はバルトロス王国の勝利です‼」



――ウオォオオオオッ……‼



彼が降参した瞬間にセンリが勝者宣言を行い、バルトロス王国軍の兵士が勝鬨を上げた。
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