種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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大迷宮編 〈後半編〉

ウルの怒り

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――巨大迷宮に突入した調査部隊が地上に帰還した頃には既に全ての砦は崩壊しており、正に地獄としか表現しようがない焼野原だけが広がっていた。まるで核弾頭が落とされたような光景に誰もが驚愕し、同時に生き残りを捜索した。

しかし、無常にも四つの砦は完全に消失しており、誰一人として生存者は発見出来なかった。唯一の救いは遠方に落下した四つの飛行船の乗船員達が無事だった事であり、ホノカとヨウカも命は助かった。空中で爆発に巻き込まれた際、四つの飛行船は地上に緊急着陸を行い、死傷者が奇跡的に存在しなかった。

すぐにホノカは魔導電話で救援を呼び寄せ、レノも通信機器でベータに連絡を取り、デルタを通じて王国に救援隊を要請する。飛行船が破壊されてしまったため、この大人数を運べるだけの乗り物は用意できなかったのが残念だが、レノだけはウルに騎乗して周囲を捜索する。



「レミア!!コウシュン!!四柱将!!何処だ!!」



ウルの背中の上でレノは必死に周辺地域を捜索し、調査部隊の生き残りを探す。ここで何が起きたのかは分からないが、つい数日前まで共に過ごしていた仲間達の姿が消えた事に不安が押し寄せ、救援隊が到着するまで捜索を諦めるつもりはなかった。


「レミア!!返事をしろ!!レミア!!」
「ウォンッ……!!」


自分と同じ大将軍であり、そして誰よりも自分を慕ってくれた少女の名前を叫びながらレノは彼女の姿を探すが、捜索を開始してから一日以上経過しているが未だに誰一人として生存者は見つからない。


「コウシュン!!」


付き合いは短いが色々と世話になった母親の師の名前を叫ぶが、彼の姿は何処にも見当たらず、その事実がレノの心を徐々に圧迫し、信じ難い予測が頭に過る。


(違う……こんな事、有り得ない……きっと何処かに……!!)


「ウォンッ!!」
「見つけたか!?」


ウルが唐突に立ち止まり、地面を掘る仕草を行い、誰かが埋まっているのかとレノは降りて土を掘り返すと、


「これって……」


見つけ出したのは生存者ではなく、コウシュンが肌身離さず身に着けていた刀の残骸であり、全体が焼けこげており、最早武器としては使用できないのは明白だが、それでも彼の愛用していた剣である事に間違いない。


『こいつは俺が冒険者時代から使ってた奴でな……別に思い出を大切にしたいってわけじゃないが、何となく手放せないんだよ』


巨大迷宮に突入する前にコウシュンと交わした言葉を思い返し、この場所は砦から既に何キロも離れているにも関わらずにこの刀が埋まっている事に対し、レノは唇を噛み締める。


「コウシュン!!何処だ!!何処にいるだよ!!」
「クゥ~ンッ……!!」


無我夢中に周囲の地面を掘り返し、彼の姿を探すが見つかる様子はなく、素手で掘り続けたせいか指先に血が滲むが、構わずに周囲の土を掘り返す。


「レミア!!返事をしろ!!こんな……こんな別れ方なんてあるか!!」



――ハーフエルフとして生まれた以上、人間であるレミアとはいずれ別れる時が来る事は知っていた。二つの種族の寿命の差から考えても、レノが愛した人の殆どはいずれ彼が生きている間に死を迎える事は知っていた。



コトミも、ポチ子も、ヨウカも、ゴンゾウも、リノンも、アルトも、ホノカも、センリも、他にもバル達やライオネルといった者達とは別れの時が必ず迎える事は知っていた。数十年後、運が良ければ百年は共に時間を過ごせるのかもしれないが、それでも必ず彼等との間に別れの時が迎える。

しかし、レミアもコウシュンがこんなにも早く別れの時が迎えるなど受け入れられるはずがなく、レノは孤児院に共に育った子供達や、クズキやミキ、そしてアイリィを失った時に感じた感覚が蘇り、無意識に涙を流しながら呻いていた。


「ふざけんな……こんな、こんな終わり方……認められるかっ……!!」


両手が地に染まるほど地面を掻き荒し、レノはレミアとコウシュンの事を思い浮かべ、何度も地面に拳を叩き付ける。そんな彼を見下ろすようにウルは近寄り、そして咆哮を上げる。



――ウオォオオオオオオンッ!!



何処までも広がる荒野にウルの雄叫びが響き渡り、レノは顔を上げると、そこには自分に向けて前脚を振り上げるウルの姿があり、


「ガァアアアッ!!」
「げふっ!!」


バキィッ!!



そのまま勢いよく殴り飛ばされ、彼の身体は数メートル先まで吹き飛ばされる。いきなり何をする気かと口元から血を流しながらレノがウルを睨み付けると、そこには臨戦態勢に入っているウルの姿があり、


「ガァアアアアッ!!」
「ウル……!?」


ガキィンッ!!


本気で自分に向けて噛みつこうとする巨狼にレノは咄嗟に回避すると、ウルは構わずに前脚を振り上げ、親の白狼のように風属性の魔力を纏わせて攻撃する。


「ウォオオンッ!!」
「白狼の……!?」


ズガァアアアンッ!!


爪型の斬撃が周囲に飛び散り、その威力は親である白狼さえも上回り、レノは本気でウルが自分を殺しに来ている事を察する。


(どうして……)


ウルは前脚を勢いよく踏み込み、レノの瞬脚のように高速接近を行うと、鋭利な牙を解き放つ。


「ガァアアアアアアアアアッ!!」
「ウル……」


ドォオオオオンッ!!



衝撃音が広がり、ウルは自分の牙を魔鎧で掌を覆って受け止めたレノに対し、それでも力を緩めずに噛みつこうとする。


「ガフゥウウウッ……!!」
「ああ……そうだったな、俺はお前の親の仇だったよな……」


放浪島の地上の主である白狼、その親を討ったのはレノであり、ウルは兄弟同然に育った彼に親を殺された事になる。だが、それでもこれまでの旅路を共にしたウルにとってレノが最後の家族であり、同時に自分が従うに相応しい主人だと信じていたからだ。

だが、目の前で仲間の「死」を受け入れようとしない彼の姿にウルは悲しみを覚える。但し、それは同情の意味ではなく、仲間の死を受け入れようとしない情けない主の姿を見た事である。



――ウルは過酷な放浪島の環境で生き延びれたのは父親の存在であり、あの島で子供の頃の彼が生き残れたのは父に守られていたからだ。だが、父親がレノに討たれ、そして兄弟同然のレノが立ち去った後、ただ一人残されたウルが生き残れたのは父親の死を乗り越え、1人で生きていくことを決心した事である。



大切な人の死はとても悲しい事であり、決して忘れてはならない出来事である。しかし、何時までもそれに捉われてはいけない。彼は父親の死を乗り越えたからこそ過酷な環境を生き抜き、そして今では父親を超える存在にまで至れた。

だからこそウルは眼の前で心が挫けそうなレノが見ていられず、このまま情けなく仲間の死から立ち直れないような存在に陥るならば、自分の手で殺すべきだと考えた。


「もういい……もう、分かったよ」
「グルルルルッ……!!」


魔鎧で掌を覆っているとはいえ、刃のように研ぎ澄まされたウルの牙を素手で抑えるのは限界があり、掌から血を零れ落ちさせながらもレノは前を向き直り、


「がぁあっ!!」
「ウォンッ!?」


ドゴォンッ!!


前脚を蹴り出してウルの巨体を蹴り飛ばし、レノは掌を握りしめると、ゆっくりと前に向き直り、



「ありがとうな……ウル」
「ウォンッ……」
「けど、今度からもう少しやり方考えて……」


掌をざっくりと抉られ、今更ながらに痛覚が働き、掌を抑えながらレノは苦笑いを浮かべた。
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