最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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冒険者編

目撃者

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――数時間後、屋敷に事件の調査を行っていた青空組の部隊が到着し、死体の解析と現場の調査を行う。近隣の住民からも聞き込み調査を行い、ルノ達も一応はその結果をソウシから教わる。


「お待たせしました。ちゃんといい子に待ってました?」
「あんまりにも暇だから将棋やってましたよ。15戦8勝7敗で私の勝ち越しです」
「ちなみに囲碁は7戦4勝3敗で俺が勝ちました」
「あんた等、結構呑気っすね……」


調査の最中は邪魔にならないようにルノとリーリスは宿屋に戻り、青空組の捜査の報告を受ける。一応は政府側も二人の調査を許可しており、青空組の情報も共通するように言い渡している。仮に青空組が動かなくともヒカゲが後で内密に情報を教える事は間違いなく、ソウシは面倒そうに調査報告を包み隠さずに語った。


「被害者の名前は信也勝彦、死因は殺害で間違いなし。近隣の住民の話によると一か月ほど前から姿を確認していないようです」
「信也って苗字だったんだ……」
「苗字の割にはありきたりな名前ですね」
「そこはどうでもいいでしょう。屋敷の調査を行った結果、金品の類を奪われた痕跡は無し、強盗の可能性は低い。被害者の性格は普段は温厚だが、酒癖が悪い。半年前までは何人か弟子が存在したが、ある事件を切っ掛けに弟子も通わなくなったとか」
「事件?」
「酒に酔って弟子たちを不用意に痛めつけて青空組うちがしょっ引いたんですよ。捕まえた翌日に釈放したようですが、それ以来は弟子も訪れなくなったとか」
「元々問題のある人だったんですね。それなら殺される程、恨まれていてもおかしくはないか」


今回の被害者はクロガネと同様に普段の態度に問題があったらしく、単純に恨み沙汰で殺された可能性もある。しかし、クロガネと死因が共通している事から二つの殺人事件の犯人が同一人物である可能性もある。


「犯人の目撃者は?」
「屋敷の中で殺されてたんですよ?いるわけないでしょ……と言いたいところですが、実は丁度一か月前に屋敷の前で妙な人物を見かけたという報告が届いてますよ」
「えっ!?」
「目撃者の証言によると、一か月前に被害者の屋敷に帯刀した謎の黒服の侍が居たそうです。外見は細身だけど身長は高く、背中に赤色の三日月を想像させる文様が縫われた袴を着ていたとか……」
「どんな顔ですか?」
「そういうと思って目撃者の情報を頼りに似顔絵も持ってきましたよ。ほらっ」


ソウシは一枚の紙を渡し、ルノとリーリスは覗き込むと、まだ年若い男性の顔が描かれていた。それを確認したリーリスは眉を顰め、すぐに思い出したようにルノに声を掛ける。


「ちょ、ルノさん!!私の渡した日記の資料を返してください!!」
「え、あ、うん……」
「へえ、それが魔術師のアイテムボックスという奴っすか?初めて見た」


ルノが掌を差し出した瞬間、異空間に繋がる黒渦が誕生し、リーリスから預かっていた資料を取り出す。それを目撃したソウシは驚いた表情を浮かべ、日の国には魔術師の職業の人間は滅多に存在しないので彼もアイテムボックスのスキルを初めて目撃したらしい。


「この人……居ました!!二か月ぐらい前にクロガネさんが依頼を受けている人です!!」
「本当に!?」
「ほうっ」


リーリスは資料の中から似顔絵の人物と非常によく似た顔の依頼人の資料を探し出し、ルノとソウシも確認すると確かに似顔絵とよく似た人物の顔が記されていた。


「しかもこの人、クロガネさんがゼーニ商会の人に依頼を受けた時期とほぼ同じ時期に依頼してます!!」
「という事は……クロガネさんがゼーニ商会の依頼を引き受けている事を知っていた?」
「こいつは驚いたな。その話、本当っすか?」
「間違いありません。依頼内容も刀の製作ではなく、刃を研磨を頼んでいるだけです。これだけの事ならわざわざクロガネさんに頼む必要がありません。普通の刀鍛冶に頼めばいいのに高い料金を払ってクロガネさんに研いで貰っています。しかも依頼が立て込んでいて忙しい時期なのにちょくちょく訪れていたようですよ」
「それならこの人が……!?」


似顔絵の人物にルノは顔を向け、見た所は普通の中年男性にしか見えない。だが、二か月前に信也を殺害し、ほぼ同時期にクロガネに刀の研磨の依頼を申し込み、彼がゼーニ商会の依頼を引き受けていた事を知っていたとなると全ての事件の犯人の可能性は高い。


「えっと、名前は黒兵衛という人です。苗字は分かりませんが、旅の人間という事で宿屋の住所だけが記されています」
「ようやく見つけた……それじゃあ、俺は失礼しますよ。隊長達に報告に向かいます」
「え、でも……」
「申し訳ありませんが、御二人の捜査はここまでです。後は青空組に任せて大人しく過ごしてください」
「あ、ちょっと!?」


ソウシは二人が言い返す前にやる気に満ちた表情を浮かべ、リーリスから似顔絵と彼女の資料を奪い取ると、部屋を退出した。そんな彼にルノは呆然と見送るが、慌てて後を追いかけようと廊下に出た時には既に姿は見えなかった。
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