最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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冒険者編

謎の遺体

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「どう見ても人が住んでいるようには思えませんね。経営難で夜逃げでもしたんでしょうかね?」
「勝手にまた入るの?警官の前で不法侵入は不味いんじゃないの?」
「別に俺は構いませんよ。御二人の好きなようにしてください」
「いいんですか?」
「犯罪者を取り締まるためなら仕方なし、という事で……」


この国の警官的存在であるソウシの許可を得たルノとリーリスは敷地内に入り込み、とりあえずは外側から探索を行う。クロガネの屋敷よりも随分と前から放置されているらしく、外側に存在した花壇の植物は全て枯れていた。それだけではなく、犬も飼っていたのか庭に存在する犬小屋の中で餓死した子犬を発見した。


「酷い……鎖に繋がれたまま死んじゃったみたいですね」
「可哀想に……」
「飼い主に恵まれなかったんすね」


子犬の死体に両手を合わせ、少なくとも餓死される程に子犬が放置されていた事から、家主が餌を与えていなかった事が発覚する。その理由が家主の不在だとした場合、屋敷が長い間放置いたのは間違いない。


「もうここには人が住んでいないようですね。他を当たりますか」
「一応は道場があるみだいだし、そっちも見てみない?」
「そうですね。あそこでしょうか?」


敷地内に存在する大きな建物を発見し、寂れてはいるが相当に広い屋敷であり、元々住んでいた人間は裕福だったのかもしれない。


「道場はここのようですね」
「入ってみようか」
「…………」


ルノとリーリスが道場と思われる建物の前に立つと、ソウシは黙って後に続き、出入口の扉を開く。その瞬間、異様な異臭が内側から漂い、3人は口元を抑える。


「うっ……!?何ですかこの臭い!?」
「これは……」
「……どうやらもう遅かったようっすね」


鼻を抑えながら室内に視線を向けると、そこにはクロガネの時と同様に扉の前で放置された男性の死体が存在し、腐り果てた状態で倒れていた。大分時間が経過しており、まるでゾンビのように全身を腐らせながら目を見開いた状態で横たわっていた。


「これは……既に死亡してから大分時間が経過していますね」
「どうして……」
「見てくださいよ。どうやら胸元を切り裂かれたようですね」


家主と思われる死体は胸元に無数の切り傷が存在し、まるで刃物か何かで切られたような傷跡が残っていた。ソウシは顔を顰めながらも死体に近付き、傷跡を確認する。


「どうやら斬り殺されたようっすね。だけど、お世辞にも剣の達人の太刀筋とは言えない。まるで力任せに切り裂かれたような痕跡だ」
「クロガネさんを殺した人かな……」
「そこまでは分かりませんよ。だが、問題なのはこいつの所持していた刀の方……少し調べる必要がある」
「あ、ちょっと!?」


ソウシは死体には家主が所持していたはずの刀が存在しない事に気付き、死体を避けて道場に入り込む。その間にルノとリーリスは死体の様子を確認し、何か手掛かりがないのかを調べた。


「死因は間違いなく斬殺ですね。それと……こちらの死体も血液が抜け取られた後に殺されたようです」
「そうなの?という事は同じ犯人に殺された?」
「そう考えるべきでしょうね。しかし、有力な容疑者が殺されているなんて……犯人の正体がこれで遠のきました」
「お待たせしました」


死体を調べている間、ソウシが奥から姿を現し、刀の鞘だけを握りしめた状態で現れる。ソウシは面倒そうに鞘を二人に見せつけ、本体の刀は存在しなかったことを伝える。


「どうやら犯人は刀を奪って逃げたようですね。鞘だけが奥の方で飾られていましたよ」
「なるほど……という事は凶器はその刀という訳ですか?」
「断定は出来ないが、この国では普通の人間は簡単には刀は手に入らない。恐らく、この男を殺した犯人はこの道場に飾られていた刀を使ったんでしょうよ。あ~あ、これで面倒は報告書を書かなきゃならない」


忌々しそうに空になった鞘を肩の上に乗せ、ソウシは面倒事を巻き込んだ死体を睨みつける。しかし、ここで犯人が凶器の刀を手に入れていたとした場合、どうして死体に血液が残っていないのかが謎のままである。


「もう少しここを調べてみましょう。何か分かるかもしれません」
「本気ですか?こんな臭い建物の中に居るのは御免ですよ」
「それなら外で待っててくださいよ。私達は探しますから」
「へいへい」


ソウシは大人しく道場の外へ待機すると、ルノとリーリスは死体の顔に布を被せ、現場を調査する。もしもソウシの予測通りにこの場所で犯人が武器を手に入れていた場合、死体に血液が消失した理由が判明するかもしれない。


「死体を確認する限り、傷跡は派手に見えますがこれだけでは即死には至りません。最終的な死亡は出血死で間違いないでしょうね」
「でも、肝心の血液が何処にも見当たらない。どうしてだろう?」
「考えられるとしたら犯人が血液を奪う能力を持っていたか……あるいは凶器に何か細工が施されていたかです」
「凶器か……もしかして血を吸い上げる魔道具とか?」
「ビンゴ!!それですよ!!」


ルノの言葉にリーリスは彼を指差し、当の本人は適当に答えただけなのだがこれまでの発見された死体の状態から凶器その物が特殊な魔道具という可能性は高かった。
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