最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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巨人国 侵攻編

巨人軍の諍い

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――その頃、白騎士ダルクと黒魔導士ナオトと名乗る二人組によって街から退去をした巨人軍はノーズ公爵の元へ向けて移動していた。少し前まで宴会を行っていたので酔いつぶれていた兵士達も多く、どうしても目を覚まさない者達は荷車に乗せて運ぶ。

幸いな事に武器と薬剤の大部分は失ったが、兵糧の類だけは無事が確認され、人間よりも大量の食事を必要とする巨人族にとって食料が無事だという事実は有難かった。もしも食料まで奪われていたら兵士達は先の二人の約束を破って村や街を襲撃し、民衆から食料を奪っていた可能性もある。

だが、巨人軍は元々は街の物資を狙っていたのでそれほど余裕があるわけでもなく、この調子で行軍を進めれば三日で現在の兵糧も尽きてしまう。上官を失ってしまった彼等に残された手段はこの国で唯一の協力者であるノーズ公爵に頼るしかなかった。


「なあ、俺達これからどうなるんだ?」
「知るかよ……将軍も兵士長も全員居なくなっちまったしな」
「ノーズさんに相談するしかねえだろ……」


この場に集まっている巨人軍は元々はノーズ公爵の領地で潜伏していた者達であり、彼等の面倒は全てノーズ公爵が見ていた。彼は公爵家の財を全て費やして1年近くも数千を超える巨人の面倒を見ていたので巨人軍の兵士達は彼の事を信頼していた。

ギルスと兵士長を失った事で統率する人間がいなくなった巨人軍の兵士達が取るべき行動はノーズ公爵に頼るか、あるいは命を懸けて祖国へ引き返す事だけである。本国の軍隊が国境に攻め入るまで待つという選択肢もあったが、帝国の国境には数多くの兵士が配備され、勇猛な将軍も多い。だからこそ国境の城を落とすのには相当な時間が掛かると考えられ、迂闊に国境へ近づく事も出来ない。


「くそ、腹減ったな……喉も乾いたし、休憩しないか?」
「駄目だ!!さっき休んだばかりだろうが!!」
「何だと!?てめえ、誰に口を利いてやがる!!」
「お前こそ偉そうにすんじゃねえよ!!同じ一兵卒だろうが!!」


兵士を指揮する立場の巨人全員が消えてしまったため、軍隊の中では自分が仕切ろうとする者も現れるが、彼等は全員が同じ階級の兵士である。なので自分よりも上の立場の人間ならばともかく、同じ階級の兵士に指図される事を嫌がる兵士も多い。


「いい加減にしろ!!くだらない事で争うんじゃない!!喧嘩する暇があるなら歩きやがれ!!」
「全く……これだから若い連中は血の気が盛んでいかんな。こんな事では身が持たんぞ……」
「ぐうっ……分かったよ」


それでも年上で軍隊の経歴が長い者達が若手の兵士達を宥めて先を急がせるが、やはり指揮する立場の人間がいないと足並みも乱れ、予想以上に行軍が遅れてしまう。


「なあ、よくよく考えたら別に全員で行く必要もないだろ?公爵の所に使者でも送って迎えに来てもらうか、それとも物資だけを送ってもらえばいいんじゃないのか?」
「そうだな……もう、歩くのも面倒になってきた」
「馬がいればな……」


巨人軍の弱点があるとすれば彼等は人間のように普通の馬に乗れない点があり、機動力が低い。力は強いが図体が大きく体重も重い彼等を乗せられる馬など滅多に存在せず、主に馬型の魔獣を利用して彼等は移動する。しかし、流石にノーズ公爵も兵士だけならばともかく、彼等が乗りこなせる程の騎獣まで用意出来なかった。

現在の巨人軍は徒歩以外での移動手段はなく、当初の予定では巨人国の本隊が到着するまでは付近の村や街から物資を回収して待機するという手はずだったが、ダルクとナオトの所業でそれさえも封じられ、彼等は肌寒い環境の中でノーズ公爵の元まで歩き続けるしかない。


「くそ、もう我慢できねえ!!食い物を寄越せ!!」
「ま、待て!!これから何が起きるのか分からないんだぞ!?少しは我慢しろ!!」
「うるさい!!俺は昨日は見張り番だったから碌に飯も食ってないんだぞ!!」
「俺だってそうだ!!せめて肉ぐらい寄越せ!!」
「や、止めろ!!」



食糧を運ぶ荷車に不満を露わにした兵士達が駆けつけ、無理やりに食料を奪おうと木箱を空ける。その行為を止めるために他の兵士が動き出し、やがて喧嘩が勃発してしまう。


「落ち着け!!ここで取り乱してどうする!?」
「味方同士で争うな!!」
「うるさい!!いいから飯を寄越せ!!」
「このっ……いい加減にしろ!!」
「あいでっ!?こ、この野郎……!!」
「止めろお前達!!」


兵士達が食料を巡って殴り合いを行い、それを見かねた兵士達が止めようとしても彼等も喧嘩に巻き込まれて殴りつけられ、最終的には数百人の兵士が食料を前に大喧嘩を始めた。


「このくそ爺!!それは俺の飯だ!!」
「何を言うか若造が!!老い先短い爺に少しは遠慮せんか!!」
「いい加減にしろと何度言えば分かる!!こんな状況をギルス将軍が見たら悲しむぞ!?」
「そもそも将軍が捕まったのが悪いんだろうが!!普段から何を考えているのか分からないあんな奴に何でお前等は従ってんだよ!!」
「何だと!!将軍の悪口は許さんぞ!!」


遂には仲介をしようとした兵士達も喧嘩に参戦し、数百人どころか数千人の兵士達がいがみ合いを始めてしまう――
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