最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ

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バルトロス帝国編

魅了耐性

「……どうかしたのかしら?本当に顔色が悪いわよ?」
「あ、いえっ……」


レナと向かい合う女性は心配した表情を浮かべ、語り掛ける言葉も優しいのだが、彼女の声からはレナは明らかに「悪意」を感じ取った。幼少の頃から事故の影響で他人の声を聴くだけ自分に向けられてくる意識を読み取る力が芽生えた彼だからこそ、彼女が自分に向けている「悪意」に気付くことが出来る。女性はレナに対して表面上は穏やかに接しながらも、彼が今までの人生で自分に向けられた「悪意」の中でも一番の兇悪さを感じさせた。


『魅了耐性のスキルを修得しました』
「え?」
「……?」


唐突にレナの視界に奇妙な文章の画面が表示され、先ほどまでは女性に見つめられているだけで痺れたように身体が動かせなかったが、突如に身体が自由に動かせるようになる。これ以上にこの場に残るのは危険と判断し、レナは身体が自由になった瞬間に逃げ出す。


「ご、ごめんなさいっ!!」
「あ、ちょっと!?」
「これ、置いてきます!!」


自分の元から離れようとするレナに対して女性は驚いた声を上げるが、彼は小袋から銀貨を1枚だけ取り出して机の上に置き、一目散に走り出す。彼女の目的が金銭だとしたら先に金を支払い、逃げるのが得策だと考え、結果としてはこの時のレナの判断は正しかった事が後に証明される――






「――逃げられたわね」


女性は走り去る少年レナに視線を向け、机の上に置かれた銀貨を手に取り、溜息を吐きながら懐にしまう。金銭が目的ではなかったが、少し話をした程度で銀貨を得たと考えれば損ではない。だが、彼女の目的は金ではなく若い人間の身体であり、絶好の獲物を逃してしまう。


「警戒されていたわね……どうしてかしら?それに私の瞳に魅入られないなんて……」


彼女は机の上に置いていた手鏡を握りしめ、自分の顔を確認するが特におかしな点はない。上手く「人間」に化けられていた筈であり、気付かれる要素はなかったはずだが先ほどの少年に逃げられた事が信じられない。


「少し気になるわね……そう言えばあの子、何処の国から訪れたのかしら?」


人間よりも遥かに長い人生を送っている彼女はレナが身に着けていた衣服に疑問を抱き、あのような変わった服装は見た事が無いが、別に1人の人間の子供に固執する理由はない。次の獲物を探すために彼女は場所を移動を行おうとすると、人混みの中に奇妙な人間を発見した。


「あら……珍しいわね。暗殺者の職業の人間かしら」


街道を行き交う人々の中に明らかに歩き方が不審な男を発見し、彼女の優れた聴覚が男の歩法の違和感を見抜く。足音を出来る限り無くす慎重な歩方で移動しており、暗殺者の職業の人間だけが使用できる「無音歩行」と呼ばれるスキルである。

大抵の暗殺者は普段から足音を出来る限り立てないように移動する場面が多く、仕事の際に足音を立てないように気を配り過ぎてしまい、その歩き方が癖になってしまう事が多いため、日常生活にも影響が及ぼす事もある。但し、一流の暗殺者ならば普段は日常生活だろうと普通の人間のように演じて生活を送るはずであり、彼女が見つけたのは二流の暗殺者となる。


「誰を追っているのかしら……まあ、久しぶりに若い男以外でも味わおうかしら……」


女性は舌なめずりを行いながら暗殺者の男に視線を向け、自分の次の標的として定める。別に狙いを定めた理由は単純に街中で姿を現すのが珍しい職業の人間だからであり、普通に目に着いた人間を選んだだけである。




不幸にも彼女に選ばれた男はデキンが送り込んだ帝国に所属する暗殺者の職業の兵士であり、彼はレナの追跡を行っている最中に最悪の女性に目を付けられてしまい、レナの次の獲物として悲劇を迎える事になった――





――その一方で無事に女性から逃げ出したレナは自分が迷子になった事を理解した。見知らぬ街中を必死に移動していたら、何時の間にか自分が何処にいるのかも分からなくなり、気付けば随分と人通りが少ない場所に辿り着いてしまう。この帝都のスラムにでも辿り着いてしまったのか、先ほどと比べて明らかに貧相な格好をした人間だけしか見当たらず、中にはレナに怪しい目つきを向けてくる者も居た。


「ひっひっひっ……兄ちゃん、林檎を買っていかないかい?」
「いや、いらないです……」
「ちっ!!後で欲しいと言ってもやらねえぞっ!!」


怪しげなローブの恰好をした男性が萎びれた林檎を差し出してくるが、彼の言葉からは明確な悪意を感じたのでレナは拒否すると男は悪態を吐く。レナは自分が随分と不味い場所に辿り着いた事に気付き、他の人間に絡まれる前にこの場所を離れなければならないが、何処の道を行けば戻れるのか分からない。


「……そういえばさっき、変なのが出てたな……魅了耐性?」


歩きながらレナは無意識にステータス画面を開き、どうやら儀式を受けた後ならば自由に現在のステータスを確認できるようだが、何時の間にか修得スキルの中に「魅了耐性」と呼ばれるスキルが追加されていた。


『魅了耐性――魅了チャームのような魔法や能力に対して耐性を身に着ける  熟練度:1』


こちらのスキルにも熟練度の項目が存在し、上昇させる事で効果が高まるのか、あるいは新しいスキルが芽生える可能性もある。レナはどうして自分がこのスキルを身に着けた理由を考察し、すぐに先ほどの女性の事を思い出す。彼女の瞳に見つめられているだけで身体が自由に動かなかったが、このスキルを身に着けた瞬間に身体が動けるようになった。


「俺が抵抗したから手に入れた……?」


状況的に考えて女性の言葉を聞いていたレナは彼女の声から自分に向けられている悪意に気付き、寸前まで逃げる事しか考えていなかった。声を聴く事で悪意を感じ取れるレナだからこそ女性の「魅惑」に抗う事が出来た。そして会話の途中で芽生えた「魅了耐性」のスキルはレナが内心彼女に抵抗を続けていた結果から芽生えたとしか考えられない。


「なるほど……このSPというのはSPスキルポイントというのか」


画面に表示されているSPは新しいスキルを修得する際に必要な数値であり、試しに画面を操作すると「未修得スキル一覧」と呼ばれる画面が出現し、SPを消費する事で新しい能力を覚えられた。


「へえ……技能スキルに固有スキル……戦技?ああ、攻撃系のスキルの事かな」


表示されたスキルの数は膨大であり、どれもSPを消費する事で覚える事が可能らしく、レナは裏路地に移動した後にじっくりと考えて自分が覚えるスキルを選択する事に決めた。
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