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王都への旅路

第7話 魔法の属性

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「さっきのは……魔法?」
「そうだ。風属性の魔法「スラッシュ」だ」
「風属性……?」
「……お前、本当に何も知らないんだな」


風属性という単語にマオは疑問を抱くと、少年は呆れた様子で説明してくれた。魔法と言っても様々な種類が存在し、先ほどオークを倒す時に少年が使用したのは「スラッシュ」と呼ばれる魔法だと説明する。


「魔法には様々な属性が存在する。風、火、水、雷、地の五大属性、そしてこれらには属さない聖属性と闇属性は陰陽とも呼ばれている」
「そ、そんなにあるんだ」
「念のために言っておくが魔術師はこれら全ての属性の魔法が使えるわけじゃない。魔法の適性がなければ発現する事はできない……僕の場合は風属性の適性があったからこそあれほどまでの威力の魔法を生み出せた」


自慢する様に少年は小杖を見せつけ、彼は風属性の適性があったからこそ風属性の魔法が扱えたのだとマオは理解する。しかし、その話が事実だとすればマオは自分の属性を把握していない。


「その属性はどうやって分かるの?」
「そんな物いくらでも方法はある。一番手っ取り早い方法は水晶玉に触れるだけでいい。水晶の輝きによって自分に適した属性が判明する……本当にお前は何も知らないんだな」
「うっ……」


呆れ果てた様子で少年はマオに振り返り、彼の言葉にマオは何も言い返せない。自分が魔術師だと知ったマオは魔法学園に入れば魔法の事を学べると思ったが、別に王都に辿り着く道中で魔法の事を調べる事もできた。それなのに調べるのを怠ったのはマオの不手際である。

少年は口は悪いがマオの質問に答えてくれる辺り、根は悪い人間ではなかった。それにオークからマオを救ったのも事実であるため、マオは改めてお礼を言う。


「さっきは助けてくれてありがとう……言うのが遅れてごめん」
「気にするな、非力な民を守るのもき……いや、何でもない」
「民?」
「何でもないと言ったぞ!!」


マオは少年の口ぶりに疑問を抱いたが、少年は不機嫌そうに話を打ち切る。まだマオは色々と聞きたいことはあったが、これ以上に彼の機嫌を損ねると置いて行かれるかもしれず、黙って後を付いていく。


(この子、口は悪いけど僕を助けてくれたり、色々と教えてくれる……僕と大して年齢も変わらないのに凄い子だな)


恐らくマオと少年の年齢は同い年ぐらいだと思われるが、オークを相手にした時に何もできなかったマオと、オークを魔法で打ち倒した少年には同じ魔術師でも実力差があった。

少年と比べるとマオは自分の事が情けなく思い、彼の言う通りに自分はただの「臆病者」だと落ち込んでしまう。そんなマオの様子に気付かずに少年は黙々と歩いていたが、不意に彼は足を止める。


「…………」
「……どうかしたの?」
「いや、なんでもない」


急に立ち止まった少年にマオは不思議に思うと、少年は周囲を見渡した後に再び歩き始める。その行為にマオは疑問を抱くが、この数分後にマオ達は思いもよらぬ物を発見した。


「ねえ……もしかして道に迷ってるの?」
「…………」
「これ、さっき倒したオークだよね……」


マオと少年の前には地面に倒れたオークの死骸が横たわり、間違いなく先ほど少年が魔法で倒したオークで間違いない。両腕が切断され、左右に身体を切り裂かれているので見間違えるはずがなく、二人は歩き回った末に元の場所に戻ってしまう。


「ねえ、もしかして君……」
「……道を間違えただけだ。こっちだ、付いてこい」
「そっちは僕達が今来た道だけど……」
「…………」


誤魔化すように少年は再び歩こうとしたが、マオは自分達が歩いて来た道に戻ろうとする彼を止める。流石に今度は誤魔化す事はできず、少年は黙り込んでしまう。


「もしかして君も……迷子なの?」
「ち、違う!!お前と一緒にするな、俺の部下が近くにいるはずだ!!」
「部下?」
「そうだ、俺はこう見えても……!?」


少年は言葉を言い終える前にマオの背後を見て目を見開き、彼は小杖を取り出して構えた。マオは急に小杖を自分に向けてきた少年に驚くが、すぐに少年の狙いが自分ではない事を知る。


「頭を下げろ!!」
「わあっ!?」
「ガアアッ!!」


怒鳴られたマオは反射的に頭を抱えて伏せると、マオの後方の茂みから灰色の毛皮で覆われた狼が姿を現す。少年は狼に向けて小杖を構え、先ほどオークを倒した時と同じく魔法を放つ。


「スラッシュ!!」
「ギャインッ!?」
「うわっ!?」


マオの頭上に先ほどのように「三日月」のような形をした風の刃が通り抜け、背後からマオに襲い掛かろうとした狼に衝突する。狼は吹き飛ばされて地面に倒れ込み、その光景を確認した少年は舌打ちを行う。

先ほどは鋼鉄以上の硬度を誇るオークの肉体を切り裂いた少年の魔法だったが、何故か狼は吹き飛ばされた程度で大きな怪我は負っておらず、ふらつきながらも立ち上がる。


「グルルルルッ……!!」
「き、効いていない!?どうして!?」
「ファングか……くそっ、持ちの魔獣か」
「風耐性……!?」


少年の言葉にマオは戸惑い、一方で少年の方は小杖を握りしめて冷や汗を流す。その一方で彼に「ファング」と呼ばれた灰色の毛皮の狼は雄たけびを上げる。
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