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王都への旅路

第12話 魔術師としての欠陥

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「やはり意識を失っていたか……危なかった」
「リオン様、先ほどの上空に上がった光はまさか……彼が?」
「そうだ。俺にあんな真似はできないからな……正直に言えば賭けだったがな」


リオンがマオに上空に目掛けて魔法を撃つように指示をした理由、それは彼の魔法を利用して騎馬隊を呼び寄せるためだった。最初からリオンはマオを魔法で戦わせるつもりはなく、騎馬隊を指揮するジイに気付かせるために小杖を貸した。

はっきり言って賭けとしては失敗する可能性が大きく、偶然にも騎馬隊が近くに居た事で彼等は空に放たれた魔法に気付く事ができた。しかし、近くに騎馬隊がいなかった場合はリオンもマオも今頃はファングの群れの餌食になっていただろう。


「あの時は驚きましたぞ。急に空が青く光り輝いたのを見て、そこに向かったらリオン様とこの少年がファングの群れに取り囲まれていたのを見て儂は肝を冷やしましたぞ」
「……悪かった。お前達とはぐれるつもりは本当になかったんだ。だが、偶然見つけたこいつを放っておくわけにはいかなかったからな。騎士として、な」
「リオン様……その心がけはご立派ですが、貴方はまだ騎士ではありません。気負い過ぎてはなりませんぞ」


自分を騎士と語るリオンに対してジイは複雑そうな表情を浮かべ、そんな彼にリオンは苦笑いを浮かべながらマオの様子を伺う。顔色は悪いが命に別状はなく、今の彼は初めて魔法を使った影響で「魔力切れ」を引き起こしている。



――この世界における「魔力」とは魔法を構成する力であり、生物ならば誰もが持ち合わせる力でもある。だが、この魔力を失った生物はどんな存在だろうと例外なく死亡し、現在のマオは殆ど魔力を失っている状態だった。



今現在のマオは自分の生命を維持する程度の魔力しか残っておらず、先ほど魔法を発動させた時に彼は体内に宿す魔力の殆どを使い切ってしまった。この状態に陥るとしばらくは目を覚まさず、十分に魔力が回復するまでは意識が戻る事はない。


「それにしてもこの少年は何者ですか?リオン様は彼の事を知っているのですか?」
「いや……名前すらも聞いていない。どうせ興味もなかったからな」
「では彼が何者なのか分からないのですか?」
「そうでもない、こいつを見つける前に森の中に取り残された馬車を見つけた。馬車の周りには人間の死体が幾つかあったが、恐らくはオークに襲われたんだろう。そのオークは僕が倒した」
「おおっ!!流石ですな!!では、この少年はその馬車から逃げてきたと?」
「ああ、馬車を調べた時に子供用の衣服を見つけた。そしてこいつは自分の事を魔術師だと言ったが、その割には魔法に関する知識を全く持っていなかった……森の中で杖も無しにを叫んでいたくらいの世間知らずだ」
「じょ、上級魔法!?」


リオンがマオを発見した時、オークに向けてマオが絵本の中の魔術師が唱えていた呪文を叫んでいた。しかし、マオが叫んでいた呪文は一流の魔術師でも使い手が滅多にいない「上級魔法」と呼ばれる習得難易度が高い魔法だった。

杖も無しに上級魔法を叫ぶマオを見た時、リオンは彼の事を魔術師だとは思わずにオークに追い詰められて錯乱した子供だと思い込んでいた。実際にマオは魔法の知識を何も知らず、彼が魔術師だと名乗る時までリオンはマオの事を一般人だと思い込んでいたほどである。


「魔法の知識はないが、魔術師の素質はある。そして商人の馬車に乗っていたという事はこいつの目的地は王都だろう」
「王都!!という事はこの者は魔法学園の入学希望者という事ですかな!?」
「そう考えるのが妥当だろう。今年の適性の儀式を受けて魔術師の素質がある事が判明し、家族の元を離れて魔法学園に送り込まれたんだろう」
「な、なるほど……流石はリオン様!!素晴らしい洞察力ですな!!」


マオから話を聞いたわけでもないにも関わらず、彼はマオが置かれていた状況だけで彼の正体を見抜く。その子供離れした洞察力にジイは感心するが、一方でリオンの方は気絶しているマオを見て初めて憐れみの表情を浮かべた。


「だが、こいつは……可哀想だが魔法学園に入学しても先はないだろう」
「え?それはどういう意味ですか?」
「お前もこいつの魔法を見ただろう。どう思った?」
「ああ、さっきの魔法の事ですな。凄かったと思いますぞ、子供が出したとは思えない程に見事な魔法でした」


リオンの質問にジイは先ほど目撃したマオの魔法の事を思い出し、素人目から見ても凄い魔法だと思った。リオンもその事に関しては否定せず、確かに先ほどのマオの魔法は彼の目から見ても見事だった。


「ああ、確かに凄かった。だが、問題なのはこいつが魔法を使うのが初めてだったという事だ」
「んん?それが何か問題なのですか……?」
「魔術師でもないお前が知らないのは無理もないが……魔術師が初めて魔法を使う時、凄まじい威力を発揮する。その理由は今までさせる術を知らなかったからだ」
「ほほう?」
「分かりやすく言えば人間を桶で例えるなら魔力は桶の中に入っている水だ。そして魔法使いが魔法を発動させるとき、桶の底に穴を開く。そうすると中身の水が抜け出し、この外に飛び出した水が魔法の力になる」
「ふ、ふむ……まだ理解できますぞ」
「だが、穴を開けたままでは桶の中の水は全部なくなってしまう。だから適度に水を抜いた後は蓋をする。ところがこいつの場合は桶の中に溜めていた水を殆ど使い切ってしまった」
「なる、ほど……?」


ジイはリオンの説明を聞いて辛うじて理解するが、つまり今のマオは桶の中の水が殆ど抜け落ちた状態であり、彼が目を覚ますには桶に再び水をいれなければならない。


「魔術師が魔法を使う場合、最初に桶の底に穴を開いて蓋を作る。だが、こいつの場合は穴を開く事はできたが中身の水を殆ど使い切ってしまった。それはつまり、12年間もため込んでいた水を使い切ったという事だ」
「えっ……それが問題あるのですか?」
「問題大有りだ。さっきの魔法でこいつは12年間も貯め込んでいた魔力を一気に使。大抵の魔術師は初めて魔法を使った時は体調不良を引き起こすが、それでも魔力を使い切る事は滅多にない」
「という事は彼は……」
「ああ、残念ながらこいつは魔術師としての「器」が小さい。魔術師として大成する事はないだろう。学園に通って魔法の技術を身に着けたとしても、器が小さければどうしようもない。可哀想だがこいつは魔術師としては大きな欠陥を持っている」
「うっ……」


意識を失っているマオはリオンの言葉は聞こえず、自分の知らぬうちに彼に同情されているなど正に夢にも思わなかった――
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