下級魔導士と呼ばれた少年

魔法学園編

第56話 弱点を長所に

(無詠唱！？しかも一瞬で発現させた！？)


バルルはマオが無詠唱でしかも一瞬にして氷塊を作り出した事に驚く。確かに彼女は吸魔石で練習を行うようになればいずれ無詠唱も習得できると語ったが、それでもマオがたった数日で無詠唱で魔法を完璧に発現できるようになるとは夢にも思わなかった。

無詠唱を扱えるようになるには相当な鍛錬を積み重ねなければならず、師であるバルルでさえも無詠唱を完璧に扱えるようになったのは１５才の時である。それなのにマオの場合は１２才でしかも魔法を覚えてから一か月もしない内に無詠唱まで習得した事にバルルは驚愕する。


(こいつ、まさか天才かい！？いや……それだけじゃ説明ができない！！)


マオがリオンのように魔法の才能に溢れた人物かとバルルは思ったが、それだけでは納得ができない。確かにマオは魔法の才能があるとは思うが、それにしては成長速度が早すぎる。


(もしかしたら……魔力量が少ないからかい？)


魔力量が生まれつき少ないマオは他の魔術師と比べて魔力が少なく、それが欠点になると思われていた。だが、魔力量が少ない事が彼にとっての長所かもしれない。

魔術師が魔法を扱う時、体内に眠る魔力を必ず使用しなければならない。だが、この魔力を利用して魔法を発動させる行為は身体に負担を与える。特に魔力量が大きい人間程、有り余る魔力を制御するために苦労が掛かる。


(こいつが魔力操作の技術を身に着けるのが早いは魔力量が少ないからかもしれないね……)


普通の魔術師よりも格段に魔力量が少ないマオは魔法を使用する際、他の人間よりも魔力量が少ないお陰で肉体の負担が軽い。そのせいなのかマオは自分の魔力が使える範囲で魔法の練習を行い、他の同世代の生徒よりも圧倒的な速度で魔力操作の技術を身に着けている。


(まさか魔力量が少ない事が逆に功を奏すなんてね……でも、本人は気付いていないようだね)


マオが魔力操作の技術を短期間で身に着ける事ができたのは彼が魔力量が少ないからであり、当の本人はその事に全く気づいていない。しかし、マオは無意識に自分の短所を長所へと成長させていた。


「……やるじゃないかい、まさか無詠唱を使えるなんて驚いたよ。だけど、そんなにでかい氷を作り出して平気なのかい？」
「あ、はい。これぐらいなら全然平気です。それに練習している内に前よりもたくさん魔法を使えるようになったんです」
「魔法を使えるようになった？そんな馬鹿な……」


練習を始めてからマオは１日の間に使用できる魔法の回数が増えた事を話す。確かに魔力操作の技術を身に着けた事でマオは無駄な魔力を消費せずに魔法を発動できるようになったが、あくまでもバルルが教えた訓練は魔力を巧みに操作する技術であって魔力が増えるわけではない。

実際に魔力操作の技術を身に着けたマオの魔法は、最初の頃と比べると数倍の大きさを誇る氷塊を作り出せるようになった。しかし、魔法を一度に使用する時の魔力の消耗量に変化はない。だから魔力量が少ないマオは一日に発動できる魔法の回数は限られていた。


「本当ですよ。前は２０回ぐらいしか魔法が使えなかったのに、今は倍近くの回数の魔法を使っても平気になりました」
「……嘘は言ってないね？」
「はい、本当です！！」


マオの真っ直ぐな瞳を見て彼が嘘をついているとは思えず、不思議に思ったバルルは吸魔石に視線を向ける。普通ならば考えられない事だがマオはこの吸魔石の訓練を利用していくうちに魔力量が増えたのかと考える。


(毎回根こそぎ魔力を吸われた後、地力で回復していくうちに魔力量が増えた……いや、それは有り得ないね。吸魔石の訓練で魔術師の器が大きくなるなんて聞いた事がない)


魔力を水に例えるとしたら人間は水を収めるための器であり、吸魔石はその器から水を吸い取る道具である。器はいくら水を注ぎ込もうと大きくなる事は有り得ず、治められる水の量は限られているはずだった。

それにも関わらずにマオが使用できる魔法の回数が増えた理由を考えるとなると、器その物が大きくなったのではなく、彼自身の魔力の回復速度が格段に上昇したのかもしれない。


(そうか、こいつは毎日のように吸魔石で訓練していたお陰で魔力操作の技術だけじゃなく、魔力を回復させる肉体機能も鍛えていたんだ！！だから魔力量が伸びたわけじゃないのに魔力の回復が早くなったから魔法の回数が増えたんだね！！)


バルルはマオの肉体の異変に気付き、確実にマオは魔術師として成長している事を知る。自分が見ていない間に急速に成長したマオにバルルは何故か身体が震えた。