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魔法学園編

第72話 死骸の後始末

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「はあっ、はあっ……!!」
「よくやったね、と言いたいところだけど……その様子だと大分参ってるね」
「だ、大丈夫です……」


顔色を真っ青にしながらもマオは立ち上がろうとするが、身体が上手く動けない。初めて自分の力だけで魔物を倒した事で緊張感が解けてしまい、思うように力が入らない。


(頭が痛い……練習の時ならこれぐらいの魔法で疲れたりなんかしなかったのに)


魔力を消耗し過ぎたのかマオは頭痛を覚え、普段の彼ならば数回程度の魔法で頭が痛くなる事はあり得なかった。しかし、初めての魔物との実戦で精神力を取り乱した影響で気づかないうちに魔法を発動させる際、余分に魔力を消耗してしまったらしい。


「あんた、さっきは気付いてなかったようだけど杖が光っていたよ。精神力を取り乱したせいで魔力操作の技術が雑になっていたね」
「そ、そうなんですか?」
「まあ、初めての戦闘にしては頑張った方だね。だけど、これだけは覚えておきな。魔術師はどんな時でも冷静でいなければならない。精神を乱した状態で魔法を使ったら大変な事になるのはもう分かっただろう?」
「……はい」


バルルの言葉にマオは言い返す事ができず、先ほどの戦闘でマオは取り乱した事で精神が乱れ、本来の自分の魔法を発揮できなかった。改めてマオは油断していた自分を戒める。

いくら可愛らしい外見をしていようと魔物を相手に油断してはならず、今後はどんな魔物でも警戒心を解かないようにマオは心掛ける。その一方でバルルはマオが倒した一角兎に視線を向け、彼女は短剣を取り出す。


「よし、それじゃあこいつらを解体するよ」
「えっ……か、解体?」
「こいつらの死骸を剥ぎ取って素材を回収するんだよ」
「ええっ!?」


思いもよらぬバルルの発言にマオは驚き、どうしてわざわざそんな事をするのかと思うが、彼女は慣れた手つきで一角兎の死骸から角を剥ぎ取る。


「こいつらの角は滋養強壮の効果を高める薬の素材になるからね、持って帰ってギルドで売ればそこそこの金になるんだよ」
「金になるって……」
「いいからよく見ておきな、覚えておいて損はないよ」


バルルはマオに一角兎の解体方法を教え、実際に彼に解体作業を行わせた――





――無事に一角兎の討伐と解体作業を終えた後、馬車は王都には戻らずに別の場所へ向かう。その場所はマオも見覚えがあり、かつて自分が王都に向かう道中で立ち寄った森だと気付く。


「師匠、この森って……」
「ああ、そうえいばあんたはここを通って来たんだね。ここは深淵の森さ」
「……嫌な気配がする」
「おい、バルル……本気でこの森に入るつもりか?」
「いくら何でも危険じゃないか?」
「ここはマジでやばいぞ……」


馬車が辿り着いたのはかつてマオがオークとファングの群れに襲われた森で間違いなく、バルルによるとここは「深淵の森」と呼ばれ、危険な魔獣が暮らす森だった。

どうしてこの森にバルルは訪れたのかと言うと、この場所で彼女はマオを魔物と戦わせるつもりだった。だが、同行していたトム達はこの森に入る事に反対する。


「バルル、幾らなんでも冗談が過ぎるぞ!!ここは危険過ぎる、いくら何でも子供を連れて入れる場所じゃない!!」
「大丈夫さ、こいつらはただの子供じゃない。あたしの弟子だよ」
「おい、本気で言ってるのか!?この森がどれほど危険な場所なのかはお前も知っているだろう!!」
「そうだ、魔物と戦う場所なら他にもあるだろう!!どうしてわざわざここを選ぶんだ!?」
「……それがこいつのためになるからさ」


トム達は森の中に入る事を反対し、現役の冒険者の彼等でさえもこの森に入るのはためらう程の危険地帯だった。それでもバルルがこの森を訪れた理由はマオにどうしてもここで戦闘を積ませるためだった。


「マオ、あんたはここで魔物と初めて遭遇したんだろう?」
「は、はい……オークと、ファングに襲われました」
「そいつらに襲われた時、あんたはどうした?」
「どうしたって……」


バルルに言われてマオは襲われた当時の事を思い出し、オークが傭兵達を惨殺し、その後に自分を追い掛け回した事を覚えている。あの時は恐怖のあまりに失禁してしまい、しかもその後もファングの群れに襲われて森の中をリオンと共に逃げ回った。


「こ、怖くて……逃げ回る事しかできませんでした」
「そうだろうね、その時のあんたは戦う力を持っていなかった。だから逃げるのは間違っちゃいない。だけど、今のあんたならどうだい?」
「どうって……?」
「あんたはを身に着けた。今のあんたなら魔物と戦える力を持っている……それでも逃げる事しかできないと思っているのかい?」
「っ……!!」


マオはバルルの言葉を聞いてはっとした表情を浮かべ、彼女の言う通りにマオは昔とは違い、今は魔物に対抗する魔法《ちから》を手にしていた。今の自分ならば昔はみっともなく逃げ回る事しかできなかった敵《まもの》とも戦える力を持っている事を知る。
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