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魔法学園編
第74話 あの時とは違う
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「さあ、もう十分離れただろう……クン、悪いけど馬車を頼むよ」
「お、おい!!俺だけ残すつもりか?」
「だからって全員が行くわけにはいかないだろう。あんたはここでお留守番してな、どうせすぐに戻ってくるんだからさ」
「たくっ……早く戻って来いよ」
森に潜む魔物に襲われない安全な距離まで離れると、バルルはクンに馬車に残るように指示する。そして他の者を連れて遂にマオ達は森の中に入り込む。
以前の時は夜だったので周囲の状況もよく分からなかったが、日中となると辺りを見渡す事ができた。夜に襲われた時は視界が暗いせいでいつ魔物と出くわすのか分からずに不安で仕方なかったが、今回は明るい時間帯だったのでマオは少し安心する。
(やっぱり明るいと見やすいな……いや、油断するな)
明るさのお陰で少しは気が晴れたマオだったが、トムから言われた言葉を思い出す。この森に潜む魔物は「昼行性」であるため、夜間よりも昼間の方が活発的に行動している。つまり、夜の間よりも魔物に見つかりやすい危険な時間帯にマオ達は森の中に入り込んでいる。
(何時でも魔法を使えるように準備しておかないと……)
今回はマオはリオンから受け取った杖と学園が支給する小杖を二つとも身に着けており、いつでも襲われた時に対処できるように小杖を握りしめていた。そんな彼を見てバルルは注意を行う。
「マオ、小杖を戻しな」
「え、でも……」
「そんな風に握りしめたまま移動してたら汗が滲んでいざという時に杖を落とすかもしれないだろう。警戒するのは悪い事じゃないけど、あんたの場合は怯えすぎなんだよ」
「そうそう、俺達が傍にいるんだからいきなり魔物に襲われる事はないさ」
「魔物が近付いても俺達がすぐに見つけてやるよ」
「大丈夫、私もいる」
バルル達が緊張するマオにそれぞれが声をかけ、皆の優しさにマオは有難く思って小杖を戻そうとした。しかし、先行していたバルルが何かに気付いたように口元に人差し指を構える。
「しっ、静かにしな……大きな音を立てるんじゃないよ」
「見つけたのか?」
「ああっ……あそこの樹の裏に隠れているね。あたし達にはもう気付いているけど、隠れて様子を伺ってるね」
「えっ……」
バルルは鋭い目つきで自分達の前方に存在する樹を指差し、それを見たマオは戻しかけていた小杖を慌てて構えた。彼の位置からでは見えないが、間違いなく魔物が樹の裏に隠れているとバルルは確信していた。
彼女は冒険者だった頃に磨かれた直感で樹の裏に魔物が隠れていると見抜き、彼女と長い付き合いのトムとヤンはそれを信じて武器を抜く。二人は剣と斧を握りしめ、緊張した様子で前に出る。
「バルル、どうする?」
「幸いにも隠れている奴以外に気配は感じないね、なら都合がいい」
「おい、まさか……」
「マオ、あんたの出番だよ。あたし達が樹の裏に隠れている奴を引き寄せる。その後はあんたの手で倒しな」
「はっ、はい……!!」
マオはバルルの言葉を聞いて非常に緊張しながらも頷き、遂に自分に恐怖を植え付けた敵と再会する時が訪れた。マオの様子を見てトムとヤンは不安そうな表情を浮かべるが、バルルとミイナはマオに語り掛けた。
「あんたなら勝てる、落ち着いて戦えば負けるはずがない」
「マオなら大丈夫、いざという時はあたしが助ける」
「あ、ありがとう……」
二人の言葉にマオは少しだけ気が楽になり、緊張を解すために深呼吸を行う。やがてバルルはマオの準備が整ったと判断すると、足元に落ちている石をいくつか拾い上げる。
バルルの行動にマオは不思議に思うと、彼女は石を木の裏に向けて次々と投げ込む。石が地面に落ちる音を利用し、誰かが樹の裏に近付いているように聞こえなくもない。
(まさか、音で魔物を引き寄せようとしている?こんな方法もあるのか……)
やがてバルルが拾い上げた石を全て使い切ると、最後の石が落ちた途端に樹の裏に隠れていた茶色の毛皮に覆われた怪物が姿を現わす。
――プギィイイイイッ!!
その鳴き声を聞いただけでマオの身体は震え上がり、生まれて初めて彼が目にした魔物が姿を現わす。樹の裏に隠れていたのは「オーク」であり、普通の熊ならば一撃で殴り殺せる程の怪力を誇る怪物が遂に出現した。
オークは石が落ちる音を足音と勘違いし、誰かが自分が隠れている樹に迫ってきたと勘違いして姿を現わした。しかし、実際には誰も樹の傍に近寄っておらず、少し離れた場所に立っているマオ達に気付いて困惑する。
「プギィッ……!?」
「今だよ、やりな!!」
「はいっ!!」
バルルの掛け声に合わせてマオは慌てて小杖を構えると、オークに狙いを定めて魔法を発動させた。杖の先端に魔力を集中させ、一角兎の時のように無駄に魔力を消費しないように気をつけながら魔法を発動させる。
(あの時とは……違う!!)
マオは過去の出来事を思い出し、あの時に味わった恐怖と無力感を打ち破るために魔力を小杖に込める。そして彼の小杖の先端から氷刃が誕生し、高速回転させて放つ。
「お、おい!!俺だけ残すつもりか?」
「だからって全員が行くわけにはいかないだろう。あんたはここでお留守番してな、どうせすぐに戻ってくるんだからさ」
「たくっ……早く戻って来いよ」
森に潜む魔物に襲われない安全な距離まで離れると、バルルはクンに馬車に残るように指示する。そして他の者を連れて遂にマオ達は森の中に入り込む。
以前の時は夜だったので周囲の状況もよく分からなかったが、日中となると辺りを見渡す事ができた。夜に襲われた時は視界が暗いせいでいつ魔物と出くわすのか分からずに不安で仕方なかったが、今回は明るい時間帯だったのでマオは少し安心する。
(やっぱり明るいと見やすいな……いや、油断するな)
明るさのお陰で少しは気が晴れたマオだったが、トムから言われた言葉を思い出す。この森に潜む魔物は「昼行性」であるため、夜間よりも昼間の方が活発的に行動している。つまり、夜の間よりも魔物に見つかりやすい危険な時間帯にマオ達は森の中に入り込んでいる。
(何時でも魔法を使えるように準備しておかないと……)
今回はマオはリオンから受け取った杖と学園が支給する小杖を二つとも身に着けており、いつでも襲われた時に対処できるように小杖を握りしめていた。そんな彼を見てバルルは注意を行う。
「マオ、小杖を戻しな」
「え、でも……」
「そんな風に握りしめたまま移動してたら汗が滲んでいざという時に杖を落とすかもしれないだろう。警戒するのは悪い事じゃないけど、あんたの場合は怯えすぎなんだよ」
「そうそう、俺達が傍にいるんだからいきなり魔物に襲われる事はないさ」
「魔物が近付いても俺達がすぐに見つけてやるよ」
「大丈夫、私もいる」
バルル達が緊張するマオにそれぞれが声をかけ、皆の優しさにマオは有難く思って小杖を戻そうとした。しかし、先行していたバルルが何かに気付いたように口元に人差し指を構える。
「しっ、静かにしな……大きな音を立てるんじゃないよ」
「見つけたのか?」
「ああっ……あそこの樹の裏に隠れているね。あたし達にはもう気付いているけど、隠れて様子を伺ってるね」
「えっ……」
バルルは鋭い目つきで自分達の前方に存在する樹を指差し、それを見たマオは戻しかけていた小杖を慌てて構えた。彼の位置からでは見えないが、間違いなく魔物が樹の裏に隠れているとバルルは確信していた。
彼女は冒険者だった頃に磨かれた直感で樹の裏に魔物が隠れていると見抜き、彼女と長い付き合いのトムとヤンはそれを信じて武器を抜く。二人は剣と斧を握りしめ、緊張した様子で前に出る。
「バルル、どうする?」
「幸いにも隠れている奴以外に気配は感じないね、なら都合がいい」
「おい、まさか……」
「マオ、あんたの出番だよ。あたし達が樹の裏に隠れている奴を引き寄せる。その後はあんたの手で倒しな」
「はっ、はい……!!」
マオはバルルの言葉を聞いて非常に緊張しながらも頷き、遂に自分に恐怖を植え付けた敵と再会する時が訪れた。マオの様子を見てトムとヤンは不安そうな表情を浮かべるが、バルルとミイナはマオに語り掛けた。
「あんたなら勝てる、落ち着いて戦えば負けるはずがない」
「マオなら大丈夫、いざという時はあたしが助ける」
「あ、ありがとう……」
二人の言葉にマオは少しだけ気が楽になり、緊張を解すために深呼吸を行う。やがてバルルはマオの準備が整ったと判断すると、足元に落ちている石をいくつか拾い上げる。
バルルの行動にマオは不思議に思うと、彼女は石を木の裏に向けて次々と投げ込む。石が地面に落ちる音を利用し、誰かが樹の裏に近付いているように聞こえなくもない。
(まさか、音で魔物を引き寄せようとしている?こんな方法もあるのか……)
やがてバルルが拾い上げた石を全て使い切ると、最後の石が落ちた途端に樹の裏に隠れていた茶色の毛皮に覆われた怪物が姿を現わす。
――プギィイイイイッ!!
その鳴き声を聞いただけでマオの身体は震え上がり、生まれて初めて彼が目にした魔物が姿を現わす。樹の裏に隠れていたのは「オーク」であり、普通の熊ならば一撃で殴り殺せる程の怪力を誇る怪物が遂に出現した。
オークは石が落ちる音を足音と勘違いし、誰かが自分が隠れている樹に迫ってきたと勘違いして姿を現わした。しかし、実際には誰も樹の傍に近寄っておらず、少し離れた場所に立っているマオ達に気付いて困惑する。
「プギィッ……!?」
「今だよ、やりな!!」
「はいっ!!」
バルルの掛け声に合わせてマオは慌てて小杖を構えると、オークに狙いを定めて魔法を発動させた。杖の先端に魔力を集中させ、一角兎の時のように無駄に魔力を消費しないように気をつけながら魔法を発動させる。
(あの時とは……違う!!)
マオは過去の出来事を思い出し、あの時に味わった恐怖と無力感を打ち破るために魔力を小杖に込める。そして彼の小杖の先端から氷刃が誕生し、高速回転させて放つ。
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