上 下
22 / 87
廃墟編

夜襲

しおりを挟む
「まだ制限重量は余裕があるな……あれ、よくよく考えたらこの制限重量も変えられるのかな?」


自分のステータス画面を確認しながら「アイテムボックス」に表示されている「制限重量」の変更も出来るのではないかと考え、レアは文字変換の能力を発動させようとした時、視界に地図製作マッピングの画面が表示された。


「うおっ!?何だっ……あ、敵が来たのかっ!?」
「ふにゃっ!?て、敵襲ですかっ!?」


唐突に表示された画面にレアは驚きの声を上げるが、イリスも起き上がる。画面に無数の赤色の点が表示され、レアとイリスが「青色」動物の馬が「黄色」で表示されている事から「赤色」として示されている反応は「敵」だと判断し、レアは咄嗟に腰の拳銃を引き抜く。眠りこけていたイリスも彼の声に驚いて飛び上がり、慌てて傍に立て掛けていた杖を握りしめる。


「ど、何処に居るんですか?敵の数は?」
「落ち着け……敵の反応は8つ、周囲を取り囲むようにゆっくりと近づいて来てる」
「え?聞いておいて何ですけど、レアさんはどんな視力をしてるんですか?よくこんな暗闇の中でそこまで正確な敵の位置を把握しましたね……」


イリスはレアの言葉に不思議そうに馬車の外に視線を向け、日中は見渡しの良い草原だが夜を迎えると月明りしか頼りにならず、薄暗闇に覆われているので松明等の灯りを用意しなければ周囲の光景を確認する事も難しい。レアの場合は感知の能力と地図製作の能力を頼りに敵の位置を把握できるが、それらの能力を持ち合わせていないイリスには外の様子を確認しても正確な「敵」の位置を把握する事は出来ない。


「何処に敵が居るんですか?というより、どんな敵でしたか?」
「それは俺にも……ちょっと待って」


レアは地図製作の画面を頼りに一番近くの敵の位置を確認し、目元を凝らして視線を向けると、地面を這うように近付いてくる存在を確認する。


「あれは……狼か?」
「え?一角狼ですか?」
「いや、だけど額の角はない……それに妙に四肢が人間っぽいんだけど」



――グルルルルッ……!!



耳を研ぎ澄ませると僅かではあるが狼の鳴き声が響き渡り、最初は昼間に襲撃した一角狼が現れたのかとレアは考えたが、彼が発見した狼は妙に胴体が人間に近く、両手と両脚も人間のように太かった。まるで童話に出てくる「狼男」を想像させる容姿であり、彼がイリスに自分が発見した生物の特徴を伝えると、彼女は全身から冷や汗を流しながら発見した魔物の正体を彼に伝える。


「れ、レアさん……おお、落ち着いて聞いてくださいね」
「いや、お前が落ち着け」
「多分、レアさんが発見したのはコボルトと呼ばれる狼人間です。魔物の中ではゴブリンと同程度の危険性を持つ魔物です」
「え?そうなの?」


ゴブリンと同程度という発言にレアは敵が対した事がないのかと考えたが、イリスは説明の途中に馬車の外の光景を指さし、夜空に浮かぶ「満月」を指し示す。


「ですが……この魔物、実は生物としては非常に珍しい特徴を持っているんです」
「特徴?」
「それは……夜の間、特に月の光が強い晩は肉体が強化されるんです」
「という事は……」
「ええ……非常に不味い状況です」
『ウォオオオオンッ!!』


説明を終えたイリスの言葉に反応したかのように周囲から狼の咆哮が響き渡り、レアが発見した地面に伏せていた個体も起き上がる。その全長は2メートルを超えており、彼が知っている童話の「狼人間」その物の容姿をしていた。狼と人間の二つの特徴を持っており、人間のように二足歩行も出来るのか起き上がった「コボルト」は馬車に向けて駆け出す。


「不味いっ!!」
「あ、ちょっと……!?」


咄嗟に接近してくるコボルトに向けてレアは拳銃を構えるが、そんな彼にリリスは声を掛けようとしたが、既にレアは弾丸を発射させてしまう。


「ギャンッ!?」
「どうだっ!?」


弾丸はコボルトの右肩に的中し、予想外の衝撃を受けたコボルトは後方に数歩引き下がるが、すぐに自分の右肩に視線を向け、右手の爪を近づけて傷口に突き刺す。


「ガアアッ……!!」
「なっ……!?」


コボルトは傷口から「弾丸」を抜き取り、自分の肩を撃ち抜いた物を観察するように視線を向け、すぐに飽きたように地面に放り投げる。その光景にレアは絶句し、その一方でイリスは彼の背中に隠れるように移動し、耳打ちする。


「あの……言い忘れていましたけど、コボルトは仲間想いの性格なんです。だから怪我なんかすると……」
「一気に襲ってくるわけかっ!?」
『ガァアアアアアッ!!』


馬車の周囲から先程よりも興奮した声音の咆哮が響き渡り、レアは自分の剣銃の発砲音で興奮したコボルトの群れが近づいてくる事を知る。


「ガアアアアッ!!」
『ヒヒィンッ!?』
「ああ、ポチッ!?ジョンッ!?」
「ちょ、危ないですよっ!?」


真っ先に襲われたのは馬車の傍で控えていた馬達であり、無数のコボルトが馬に噛み付く。文字変換の能力で作り出した馬とはいえ、本物の生物である事に間違いなく、ここまで運んでくれた2頭の馬が殺される光景に我慢できずにレアは日本刀を科宛にコボルトに切り裂く。


「離れろくそがっ!!」
「ギャウンッ!?」
「ガアアッ!?」
「ええっ!?」


日本刀の刃がコボルトの肉体に衝突し、一瞬にして切り裂く。そのあまりの馬鹿げた威力にイリスは驚きの声をげ、レアは両手で握りしめた日本刀を振り回す。


「おらぁっ!!」
「ギャンッ!?」
「邪魔っ!!」
「ウギャッ!?」


力任せに日本刀を振り回し、近づいてくるコボルトを次々と切り裂く。大振りで隙の大きい攻撃だが、刃を振り抜く速度が尋常ではなく、反撃の暇も与えずに切り伏せる。


「わああっ!?こっちからも来ましたよっ!?」
「くそっ!!」
「ギャンッ!?」


馬車の後部からもコボルトが乗り込もうとしたが、咄嗟にレアは左足を繰り出してコボルトの腹部を蹴りつける。まるで巨人に蹴りつけられたようにコボルトの肉体が派手に吹き飛び、蹴りつけられた個所が凹み、破壊された骨が内蔵にまで達して絶命していた、


「ウォッ……!?」
「ガアアッ……!?」


仲間が次々と殺される光景に月の光で興奮していた他のコボルトにも動揺が走り、その間にもレアは馬車から飛び出して日本刀を片手に拳銃も構える。


『グルルルルッ……!!』
「ちょ、レアさん!?これ、大丈夫なんですかっ!?」
「リリスはそこに居ろっ!!すぐに終わらせるっ!!」


コボルトを見張りながらレアは解析の能力を発動させ、拳銃の弾丸を引き抜いて新しい武器を作り出す。


『弾丸――拳銃の弾丸 状態:使用可能』
「仇は撃つからな……!!」
『散弾銃――ショットガン 状態:弾数無限』


レアが画面の文字の改竄を終えた瞬間、彼の掌に収まっていた弾丸が光り輝き、やがて手元には「散弾銃ショットガン」が出現した。左手に拳銃をホルスターに戻し、左手で散弾銃と右手に日本刀を構える。初めて扱う武器に違いはないが、既に銃器の使用は慣れており、不用意に近付いてくるコボルトの頭部に向けて発砲した。


「ガアアッ!!」
「うるさいっ!!」
「アガァッ……!?」


散弾銃の発砲音が響き渡り、正面に存在したコボルトの顔面が吹き飛ぶ。その光景に他のコボルトは目を見開き、一方で散弾銃の発砲の反動を体感したレアは意外と扱いやすい事に気付き、自分から接近してコボルトの排除を行う。


「次はお前だっ!!」
「ウォンッ!?」


自分に向けて近づいてきたレアに彼の近くに存在したコボルトは慌てて逃げようとするが、脚力に関しても彼は人並み外れた速度を生み出しており、背後に追いつくと容赦なく背中に散弾銃を撃ち込む。


「喰らえっ!!」
「ギャインッ!?」


背中に弾丸を撃ち込まれたコボルトは地面に倒れ込み、背中から大量の血液を噴き出す。だが、それでも確実に止めを刺すためにレアは日本刀を後頭部に突き刺す。


「5匹目」
「ウガァッ……!?」


遂に半分以上も仲間が倒された事で残りのコボルトも危険を察知し、慌てて逃走を始める。幾ら月の光で興奮状態に陥ろうが圧倒的な「強者」を相手にして無謀にも挑むような真似はせず、生存本能に従って草原を駆け抜ける。その光景にレアは溜息を吐きながら散弾銃を肩に乗せ、馬車の方角に戻る。


「終わったよ……何してんの?」
「あ、終わりました?」


馬車に乗り込むと何故か中華鍋を想像させる大きな鍋を頭に抱えた状態で床に伏せるイリスの姿があり、彼女の行動に呆れながらもレアは殺された馬に視線を向け、念のために鑑定の能力を発動させる。


「……駄目か」


だが、視界には何も画面が表示されず、死体には鑑定の能力が発動しない事が判明する。もしかしたら2頭の馬のステータス画面を表示させ、文字変換の能力を利用すれば死亡した状態から生き返らせる事が出来るのではないかと考えたが、死体には鑑定の能力が発動しない事が判明した。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

仲良しな天然双子は、王族に転生しても仲良しで最強です♪

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:688pt お気に入り:305

食の雑学

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:4

アナザーワールドシェフ

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:207

能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,587pt お気に入り:2,217

どうしてこうなった

恋愛 / 完結 24h.ポイント:177pt お気に入り:1,541

追い出された万能職に新しい人生が始まりました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,968pt お気に入り:31,462

第三勢力のレオ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:349pt お気に入り:10

結婚して二年、愛されていないと知りました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,285pt お気に入り:803

処理中です...