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廃墟編
閑話 〈勇者の訓練〉
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――レアと同日に異世界に召喚された4人の高校生、彼等は現在は帝都の城にて訓練を受けていた。その中のリーダー格である「因幡大地」は熱心に剣の稽古に励んでいた。
「はあっ!!たあっ!!」
「その調子ですぞダイチ殿!!」
「くっ……このっ!!」
「頑張れ大地君!!」
「くそ、体力馬鹿め……」
「あんたは情けないわね」
大地が稽古役のバルト将軍に木刀を打ち込む姿に幼馴染の桃と美香は声援を送り、先に体力が切れて地面に伏した龍太は悪態を吐く。既に稽古を始めてから数時間が経過しており、彼等はこの数日の間は訓練に励む。
「僕は……強くなるんだ!!」
「意気込みは素晴らしいが、まだまだ甘い!!」
「うわっ!?」
がむしゃらに木刀を打ち込む大地に対してバルトは攻撃を回避するのと同時に彼の腹部に拳を打ち込む。数日前ならば悶絶して倒れていただろうが、この数日の間に大地もレベルを「8」にまで上昇しており、身体能力も上がっていた。
「げほげほっ……まだまだ!!」
「その心意気は素晴らしいが、ここまでにしておこう」
「うわっ!?」
腹部を抑えながらも木刀を構える大地に対し、バルトは彼の木刀を簡単に打ち払い、肩を軽く押しただけで大地を地面に座り込ませる。流石に将軍の地位に就くバルトと大地の技量の差は大きく、気合や根性だけでは打ち勝つ事は出来ない。それでも数日前と比べたら確かに大地も成長しており、レベルの上昇以外にも剣の技術も身に付き始めている。
「流石は剣士の勇者、この数日の間で城の兵士ぐらいの技量は身に着けましたな」
「城の兵士……くっ!!」
「そんなに悔しがることはないですぞ。城の兵士と言ってもこの王城の守備を任された一流の兵士、地方に配備されている兵士とは雲泥の差がありますからな」
「そうですか……」
兵士と同程度という言葉に「剣士」の職業を持つ大地は複雑な感情を抱いたが、バルトの言葉を聞いて少しは慰められる。ほんの数日で地方から選抜された優秀な兵士と同程度の技量を身に着けた彼の成長力は素晴らしいが、それでも魔物と戦わせる段階ではない。
「バルト将軍、次に実戦訓練はいつですか?」
「大地殿……確かに強くなったとはいえ、まだ実戦は危険すぎる。前の時も危うく油断して死にかけただろう」
「あの時よりも僕は強くなっています!!」
「落ち着きなさいよ大地。バルトさんを困らせちゃ駄目よ?」
大地の言葉にバルトは困った表情を浮かべ、美香が彼を落ち着かせるように肩に手を置く。二日前、勇者達のレベルを上昇させるために帝国軍が捕獲した魔物と実戦訓練を行った。その内容は檻の中に負傷した状態の魔物を送り込み、勇者達も中に入って魔物を倒すという方式だった。
訓練自体は成功に終わり、勇者達は1日で7~8レベルにまで上昇する事に成功した。しかし、彼等が最初に戦っていたのは力が弱く、知能も低い魔物ばかりであり、勝利する事は出来た。だが、最後に相対したゴブリンとの戦闘で大地は軽傷とはとても言えない大怪我を負ってしまう。
ゴブリンが檻に閉じ込められた瞬間、大地達に命乞いするように両手を合わせてその場に跪く。その姿に大地達は困惑し、魔物でありながら人間のような行動をするゴブリンを殺す事に躊躇する。
『何をしておられる!!早く止めを刺すのだ!!』
『え、でも……』
『ちょっと可哀想……』
『ギギイッ……!!』
涙目で命乞いを行うゴブリンに大地達は戸惑いを隠せず、檻の外のバルトが指示をしても彼等は動けずにいた。しかし、狡猾なゴブリンはその隙を逃さず、位置的に一番近くにいた大地に飛び掛かった。
『ギィヤッ!!』
『うわっ!?』
『大地!?』
ゴブリンは大地から剣を奪い取ろうとしたが、必死に大地は抵抗し、ゴブリンを引き剥がそうとする。しかし、剣を奪う事は不可能と判断したゴブリンは口を開き、彼の首に牙を突き立てた。
『グギイイイッ!!』
『ぐああああっ!?』
『きゃああっ!?』
『いかんっ!!』
ゴブリンが大地の首の肉を抉り取る前に兵士達が乱入し、即座に大地の救助を行う。ゴブリンはバルトによって止めを刺されたが、この件を切っ掛けに勇者達は実戦の恐ろしさを思い知らされる――
「――あの時、大地殿は我々が動かなければ確実に殺されていた。それをもうお忘れか?」
「それは……でも、もう油断しません!!」
「確かに大地殿は強くなった。しかし、それでも野生の魔物と戦える段階ではない。吾輩が許可を出すまで実戦訓練は禁止だといったはずだ」
「くっ……!!」
「大地君……」
「ちっ……まあ、しょうがねえよな」
「あの時、私達は何もできなかった……悔しいけどその通りよ」
勇者達は確かにこの世界を救い出す程の才能を秘めているのは間違いないが、その才能を開花させるには幾多の経験と時間を必要とする。彼等が勇者としての本当の力に目覚めるには時間が掛かるだろう。
「はあっ!!たあっ!!」
「その調子ですぞダイチ殿!!」
「くっ……このっ!!」
「頑張れ大地君!!」
「くそ、体力馬鹿め……」
「あんたは情けないわね」
大地が稽古役のバルト将軍に木刀を打ち込む姿に幼馴染の桃と美香は声援を送り、先に体力が切れて地面に伏した龍太は悪態を吐く。既に稽古を始めてから数時間が経過しており、彼等はこの数日の間は訓練に励む。
「僕は……強くなるんだ!!」
「意気込みは素晴らしいが、まだまだ甘い!!」
「うわっ!?」
がむしゃらに木刀を打ち込む大地に対してバルトは攻撃を回避するのと同時に彼の腹部に拳を打ち込む。数日前ならば悶絶して倒れていただろうが、この数日の間に大地もレベルを「8」にまで上昇しており、身体能力も上がっていた。
「げほげほっ……まだまだ!!」
「その心意気は素晴らしいが、ここまでにしておこう」
「うわっ!?」
腹部を抑えながらも木刀を構える大地に対し、バルトは彼の木刀を簡単に打ち払い、肩を軽く押しただけで大地を地面に座り込ませる。流石に将軍の地位に就くバルトと大地の技量の差は大きく、気合や根性だけでは打ち勝つ事は出来ない。それでも数日前と比べたら確かに大地も成長しており、レベルの上昇以外にも剣の技術も身に付き始めている。
「流石は剣士の勇者、この数日の間で城の兵士ぐらいの技量は身に着けましたな」
「城の兵士……くっ!!」
「そんなに悔しがることはないですぞ。城の兵士と言ってもこの王城の守備を任された一流の兵士、地方に配備されている兵士とは雲泥の差がありますからな」
「そうですか……」
兵士と同程度という言葉に「剣士」の職業を持つ大地は複雑な感情を抱いたが、バルトの言葉を聞いて少しは慰められる。ほんの数日で地方から選抜された優秀な兵士と同程度の技量を身に着けた彼の成長力は素晴らしいが、それでも魔物と戦わせる段階ではない。
「バルト将軍、次に実戦訓練はいつですか?」
「大地殿……確かに強くなったとはいえ、まだ実戦は危険すぎる。前の時も危うく油断して死にかけただろう」
「あの時よりも僕は強くなっています!!」
「落ち着きなさいよ大地。バルトさんを困らせちゃ駄目よ?」
大地の言葉にバルトは困った表情を浮かべ、美香が彼を落ち着かせるように肩に手を置く。二日前、勇者達のレベルを上昇させるために帝国軍が捕獲した魔物と実戦訓練を行った。その内容は檻の中に負傷した状態の魔物を送り込み、勇者達も中に入って魔物を倒すという方式だった。
訓練自体は成功に終わり、勇者達は1日で7~8レベルにまで上昇する事に成功した。しかし、彼等が最初に戦っていたのは力が弱く、知能も低い魔物ばかりであり、勝利する事は出来た。だが、最後に相対したゴブリンとの戦闘で大地は軽傷とはとても言えない大怪我を負ってしまう。
ゴブリンが檻に閉じ込められた瞬間、大地達に命乞いするように両手を合わせてその場に跪く。その姿に大地達は困惑し、魔物でありながら人間のような行動をするゴブリンを殺す事に躊躇する。
『何をしておられる!!早く止めを刺すのだ!!』
『え、でも……』
『ちょっと可哀想……』
『ギギイッ……!!』
涙目で命乞いを行うゴブリンに大地達は戸惑いを隠せず、檻の外のバルトが指示をしても彼等は動けずにいた。しかし、狡猾なゴブリンはその隙を逃さず、位置的に一番近くにいた大地に飛び掛かった。
『ギィヤッ!!』
『うわっ!?』
『大地!?』
ゴブリンは大地から剣を奪い取ろうとしたが、必死に大地は抵抗し、ゴブリンを引き剥がそうとする。しかし、剣を奪う事は不可能と判断したゴブリンは口を開き、彼の首に牙を突き立てた。
『グギイイイッ!!』
『ぐああああっ!?』
『きゃああっ!?』
『いかんっ!!』
ゴブリンが大地の首の肉を抉り取る前に兵士達が乱入し、即座に大地の救助を行う。ゴブリンはバルトによって止めを刺されたが、この件を切っ掛けに勇者達は実戦の恐ろしさを思い知らされる――
「――あの時、大地殿は我々が動かなければ確実に殺されていた。それをもうお忘れか?」
「それは……でも、もう油断しません!!」
「確かに大地殿は強くなった。しかし、それでも野生の魔物と戦える段階ではない。吾輩が許可を出すまで実戦訓練は禁止だといったはずだ」
「くっ……!!」
「大地君……」
「ちっ……まあ、しょうがねえよな」
「あの時、私達は何もできなかった……悔しいけどその通りよ」
勇者達は確かにこの世界を救い出す程の才能を秘めているのは間違いないが、その才能を開花させるには幾多の経験と時間を必要とする。彼等が勇者としての本当の力に目覚めるには時間が掛かるだろう。
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