31 / 86
第31話 世界樹
しおりを挟む
「倒せって言われても……何処にいるのかも分からないのにどうやって見つけるんですか?」
「そんなことぐらい自分で考えて何とかしな!!これが私からの最後の課題だよ!!」
「は、はい!!」
アルに怒鳴られてレノは泉を見下ろし、何処かに隠れているはずの大魚を探そうとする。しかし、いくら目を凝らしても光り輝く苔しか見えず、何処に大魚が潜んでいるのかも分からない。
(駄目だ、苔の光が強すぎてよく見えない……こんなのじっと見ていたら目がおかしくなりそうだ)
常に輝く苔を見ていると目が痛くなり、これでは大魚を探すどころではなかった。そんなレノの様子を見てアルは告げる。
「一つだけいいことを教えてやるよ。この修行を終えればあんたは見えない敵も見えるようになるはずさ」
「見えない敵も……見えるようになる?」
「それじゃあ、私はもう行くよ。時々はここに来てやるから頑張りな」
「あ、師匠!?」
アルはレノを置いて本当に立ち去ってしまい、残されたレノは彼女の告げた言葉の意味を考える。見えない敵を見えるようになると言われても意味が分からないが、とりあえずは泉をもう一度覗き込む。
「う~ん……やっぱり見えない。いったい何処にいるんだ?」
「シャアアッ!!」
「うわぁっ!?」
突如として大魚が水面から飛び出し、再びレノに噛みつこうとしてきた。咄嗟にレノは後ろに下がったことで噛みつかれるのは避けるが、大魚は再び水面に沈んで消えた。
「あ、危なかった……死ぬかと思った」
不用意に泉を覗き込むのは危険であり、泉から離れた場所でレノは座り込む。大魚を捕まえる前にレノはとりあえず一休みすることにした――
――数時間後、レノは森の中で捕まえた一角兎を焼いて焚火で焼いて食べていた。アルによれば泉の周辺には滅多に魔物や動物は寄り付かないらしく、そのせいで食用となる獲物を狩るのに時間が掛かったが、腹さえ膨らめば大魚の捕獲に専念できる。
「ふうっ、食ったな……さてと、それじゃあやりますか」
アルから受け取った新しい弓を手にしたレノは泉へと近寄り、矢を番えた状態で様子を伺う。大魚を狙うとしたら水面から出てきた時であり、レノは敢えて自らを囮にして大魚を始末する作戦を取った。
泉に巣食う大魚はレノが顔をのぞかせただけで襲い掛かってくるため、それを逆に利用してレノは大魚が迫るのを待ち構える。大魚が出てきた瞬間にレノは後ろに下がって弓で仕留めるつもりだった。
(弓魔術ならどんな大物でも仕留められるはず……掛かってこい!!)
敢えて自分を囮にしてレノは大魚が再び姿を現わすのを待ち続けるが、何故か最初の時と違って大魚はいくら待ち構えてもレノを襲い掛かる様子がない。いくら待っても現れない大魚にレノの方が集中力が途切れてしまう。
「……だあっ!!早く出て来いよ!?」
1時間ほど泉を見下ろし続けていたが大魚が姿を現わす様子はなく、我慢の限界を迎えたレノは大声をあげる。しかし、いくら怒鳴ったところで大魚が姿を現わすことはなく、流石に気づかれしたレノは座り込む。
(くそっ、こっちが狙っているのがバレたのか?殺気が漏れてたのか、それとも今は眠っているのか?)
中々現れない大魚にレノはため息を吐いて空を見上げ、もう既に夜を迎えていた。今夜はここで過ごすしかなく、仕方なく休むことにした――
――翌日の早朝、近くに流れている川で顔を洗って魚を弓で仕留めてきたレノは食事を終えると再び泉の前に立つ。昨日はいくら待とうと襲われることはなかったが、今回は武器を持たずに立っているとすぐに大魚が姿を現わす。
「シャアアッ!!」
「うわっ!?」
武器がない状態のレノに大魚は牙を剥き出しにして飛び込むが、それに対してレノは頭を下げて回避した。大魚は水面に再び潜り込むと水中に姿を消し、その姿を目で追うが途中で水底の苔に紛れて完全に見失ってしまう。
「この野郎……武器を持ってないとすぐに襲い掛かってくるな」
泉に潜む大魚は元は普通の魚とは思えない程に知能が高く、レノが武器を所有した状態で泉に近付いても襲い掛かることはない。だが、武器を手にしていない状態で泉を覗き込もうとしただけで飛び掛かってくる。
アルによれば泉に潜む大魚の正体は普通の魚だったらしいが、どう考えても見た目も異形で知能の高さから考えても魚というより魔物に近い存在だった。それならば魚を仕留めるのではなく、魔物を倒すことを前提に考えた方がいいとレノは判断した。
(魔物が相手なら一瞬の油断もできない。まずは相手の能力を確かめるんだ)
一角兎やゴブリンの場合はすばしっこく動くため、仕留めるならば逃げる暇も与えずに素早く対応する。ホブゴブリンの場合は腕力も皮膚の硬さも厄介だが人間と同じ場所に急所があるため、そこを狙って攻撃を仕掛ける。但し、今回の化物魚はずっと水面に潜って姿もまともにあらわさない。
(せめて位置さえ分かれば弓魔術で仕留める自信はあるけど……)
レノの弓魔術は水中に沈んでいる相手だろうと位置さえ特定すれば狙い撃つことができる。水中であろうと風の魔力を宿した矢は直進し、移動速度を落とさずに敵を狙い撃てる。だが、肝心の相手の居所が分からなければどうしようもない。
水中に潜んでいるだけならともかく、常に水底で光り続ける苔のせいで視界は悪く、しかも厄介なことに化物魚も苔を纏っているせいで姿を捉えるのも難しい。泉から出た瞬間に化物魚が纏っていた苔は普通の苔に戻って輝くことはなくなるが、また水中に戻れば苔は輝きを取り戻して姿を見失ってしまう。
(師匠は見えない敵を見えるようになると言っていた……それってもしかして魔力感知のことを言ってるのかな?)
アルが最後に伝えた言葉を思い出し、彼女が言いたいのは自分の目で敵を捉えるのではなく、魔力感知の技術で敵の位置を捉えるように助言したのではないかとレノは考える。魔力感知を発動すれば目を閉じた状態でも他の生物の居所を掴めるため、試しにレノは水中に潜んでいる化物魚を探す。
(位置さえつかめばあとはこっちの物だ……えっ!?)
だが、泉に近付いて魔力感知を発動した途端にレノは圧倒された。最初に感じたのは泉の中に潜む化物魚ではなく、泉の中心に生えている世界樹だった。今まで気づかなかったのが不思議な程に世界樹からは膨大な魔力が放たれていた。
(何だこの魔力!?凄いとかやばいとか……もうそんな次元じゃない!?)
世界樹から放たれる魔力にレノは圧倒され、集中力が途切れて尻餅を着いてしまう。今まで生きてきた人生で一番の衝撃であり、両親が殺された時やホブゴブリンと遭遇した時よりも大きなショックを受ける。
「これが……世界樹なのか」
アルの話だとこの森は元々は荒廃の大地だったが、世界樹を植えた事で緑あふれる豊かな土地に変貌したという。最初にその話を聞かされた時はレノは半信半疑だったが、実際に世界樹の放つ魔力を感じ取ったことで彼女の話が事実だと分かった。
世界樹が放つ魔力は大地を蘇らせるだけではなく、他の生物にも多大な影響を与えていた。普通の魚でさえも世界樹が沈んだ泉に住み着いただけで突然変異を引き起こし、まるで魔物のような姿に変貌した。レノは世界樹の偉大さと同時に恐ろしさを知り、もしも世界樹を放置すればこの森の生態系は大きく狂う。だからアルの一族は代々この世界樹を守り抜いてきたのだと知る。
「そんなことぐらい自分で考えて何とかしな!!これが私からの最後の課題だよ!!」
「は、はい!!」
アルに怒鳴られてレノは泉を見下ろし、何処かに隠れているはずの大魚を探そうとする。しかし、いくら目を凝らしても光り輝く苔しか見えず、何処に大魚が潜んでいるのかも分からない。
(駄目だ、苔の光が強すぎてよく見えない……こんなのじっと見ていたら目がおかしくなりそうだ)
常に輝く苔を見ていると目が痛くなり、これでは大魚を探すどころではなかった。そんなレノの様子を見てアルは告げる。
「一つだけいいことを教えてやるよ。この修行を終えればあんたは見えない敵も見えるようになるはずさ」
「見えない敵も……見えるようになる?」
「それじゃあ、私はもう行くよ。時々はここに来てやるから頑張りな」
「あ、師匠!?」
アルはレノを置いて本当に立ち去ってしまい、残されたレノは彼女の告げた言葉の意味を考える。見えない敵を見えるようになると言われても意味が分からないが、とりあえずは泉をもう一度覗き込む。
「う~ん……やっぱり見えない。いったい何処にいるんだ?」
「シャアアッ!!」
「うわぁっ!?」
突如として大魚が水面から飛び出し、再びレノに噛みつこうとしてきた。咄嗟にレノは後ろに下がったことで噛みつかれるのは避けるが、大魚は再び水面に沈んで消えた。
「あ、危なかった……死ぬかと思った」
不用意に泉を覗き込むのは危険であり、泉から離れた場所でレノは座り込む。大魚を捕まえる前にレノはとりあえず一休みすることにした――
――数時間後、レノは森の中で捕まえた一角兎を焼いて焚火で焼いて食べていた。アルによれば泉の周辺には滅多に魔物や動物は寄り付かないらしく、そのせいで食用となる獲物を狩るのに時間が掛かったが、腹さえ膨らめば大魚の捕獲に専念できる。
「ふうっ、食ったな……さてと、それじゃあやりますか」
アルから受け取った新しい弓を手にしたレノは泉へと近寄り、矢を番えた状態で様子を伺う。大魚を狙うとしたら水面から出てきた時であり、レノは敢えて自らを囮にして大魚を始末する作戦を取った。
泉に巣食う大魚はレノが顔をのぞかせただけで襲い掛かってくるため、それを逆に利用してレノは大魚が迫るのを待ち構える。大魚が出てきた瞬間にレノは後ろに下がって弓で仕留めるつもりだった。
(弓魔術ならどんな大物でも仕留められるはず……掛かってこい!!)
敢えて自分を囮にしてレノは大魚が再び姿を現わすのを待ち続けるが、何故か最初の時と違って大魚はいくら待ち構えてもレノを襲い掛かる様子がない。いくら待っても現れない大魚にレノの方が集中力が途切れてしまう。
「……だあっ!!早く出て来いよ!?」
1時間ほど泉を見下ろし続けていたが大魚が姿を現わす様子はなく、我慢の限界を迎えたレノは大声をあげる。しかし、いくら怒鳴ったところで大魚が姿を現わすことはなく、流石に気づかれしたレノは座り込む。
(くそっ、こっちが狙っているのがバレたのか?殺気が漏れてたのか、それとも今は眠っているのか?)
中々現れない大魚にレノはため息を吐いて空を見上げ、もう既に夜を迎えていた。今夜はここで過ごすしかなく、仕方なく休むことにした――
――翌日の早朝、近くに流れている川で顔を洗って魚を弓で仕留めてきたレノは食事を終えると再び泉の前に立つ。昨日はいくら待とうと襲われることはなかったが、今回は武器を持たずに立っているとすぐに大魚が姿を現わす。
「シャアアッ!!」
「うわっ!?」
武器がない状態のレノに大魚は牙を剥き出しにして飛び込むが、それに対してレノは頭を下げて回避した。大魚は水面に再び潜り込むと水中に姿を消し、その姿を目で追うが途中で水底の苔に紛れて完全に見失ってしまう。
「この野郎……武器を持ってないとすぐに襲い掛かってくるな」
泉に潜む大魚は元は普通の魚とは思えない程に知能が高く、レノが武器を所有した状態で泉に近付いても襲い掛かることはない。だが、武器を手にしていない状態で泉を覗き込もうとしただけで飛び掛かってくる。
アルによれば泉に潜む大魚の正体は普通の魚だったらしいが、どう考えても見た目も異形で知能の高さから考えても魚というより魔物に近い存在だった。それならば魚を仕留めるのではなく、魔物を倒すことを前提に考えた方がいいとレノは判断した。
(魔物が相手なら一瞬の油断もできない。まずは相手の能力を確かめるんだ)
一角兎やゴブリンの場合はすばしっこく動くため、仕留めるならば逃げる暇も与えずに素早く対応する。ホブゴブリンの場合は腕力も皮膚の硬さも厄介だが人間と同じ場所に急所があるため、そこを狙って攻撃を仕掛ける。但し、今回の化物魚はずっと水面に潜って姿もまともにあらわさない。
(せめて位置さえ分かれば弓魔術で仕留める自信はあるけど……)
レノの弓魔術は水中に沈んでいる相手だろうと位置さえ特定すれば狙い撃つことができる。水中であろうと風の魔力を宿した矢は直進し、移動速度を落とさずに敵を狙い撃てる。だが、肝心の相手の居所が分からなければどうしようもない。
水中に潜んでいるだけならともかく、常に水底で光り続ける苔のせいで視界は悪く、しかも厄介なことに化物魚も苔を纏っているせいで姿を捉えるのも難しい。泉から出た瞬間に化物魚が纏っていた苔は普通の苔に戻って輝くことはなくなるが、また水中に戻れば苔は輝きを取り戻して姿を見失ってしまう。
(師匠は見えない敵を見えるようになると言っていた……それってもしかして魔力感知のことを言ってるのかな?)
アルが最後に伝えた言葉を思い出し、彼女が言いたいのは自分の目で敵を捉えるのではなく、魔力感知の技術で敵の位置を捉えるように助言したのではないかとレノは考える。魔力感知を発動すれば目を閉じた状態でも他の生物の居所を掴めるため、試しにレノは水中に潜んでいる化物魚を探す。
(位置さえつかめばあとはこっちの物だ……えっ!?)
だが、泉に近付いて魔力感知を発動した途端にレノは圧倒された。最初に感じたのは泉の中に潜む化物魚ではなく、泉の中心に生えている世界樹だった。今まで気づかなかったのが不思議な程に世界樹からは膨大な魔力が放たれていた。
(何だこの魔力!?凄いとかやばいとか……もうそんな次元じゃない!?)
世界樹から放たれる魔力にレノは圧倒され、集中力が途切れて尻餅を着いてしまう。今まで生きてきた人生で一番の衝撃であり、両親が殺された時やホブゴブリンと遭遇した時よりも大きなショックを受ける。
「これが……世界樹なのか」
アルの話だとこの森は元々は荒廃の大地だったが、世界樹を植えた事で緑あふれる豊かな土地に変貌したという。最初にその話を聞かされた時はレノは半信半疑だったが、実際に世界樹の放つ魔力を感じ取ったことで彼女の話が事実だと分かった。
世界樹が放つ魔力は大地を蘇らせるだけではなく、他の生物にも多大な影響を与えていた。普通の魚でさえも世界樹が沈んだ泉に住み着いただけで突然変異を引き起こし、まるで魔物のような姿に変貌した。レノは世界樹の偉大さと同時に恐ろしさを知り、もしも世界樹を放置すればこの森の生態系は大きく狂う。だからアルの一族は代々この世界樹を守り抜いてきたのだと知る。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
805
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる