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第60話 銀級冒険者ヒカゲ
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「私は黒虎所属の銀級冒険者。この二人とは格が違う」
「くっ……言い返せないのが悔しい!!」
「ヒカゲちゃんは私の先輩なんだよ~」
「へえ~」
ヒカゲは自慢げに銀級冒険者のバッジを見せつけ、ぴかぴかに磨き上げられたバッジを見てレノは感心する。年齢は恐らくはレノと変わらないぐらいだが、先輩であるダインよりも先に昇格していることを考えると彼女の優秀さが分かる。
「もしかして君も冒険者だったりする?」
「いや、俺は冒険者じゃないよ」
「……でも、世界樹製の弓を持っているなら普通の人間とは思えない」
「えっ!?」
レノが背負っている弓の正体をヒカゲは見抜いており、彼女はレノが一般人だとは信じられなかった。話を聞いていたダインとハルナが口を挟む。
「そいつは子供の頃にエルフに拾われて育てられたんだよ。こう見えても弓の達人なんだぞ」
「レノ君は凄いんだよ~!!怖い魔物さんを一発で仕留めるんだから!!」
「いや、そんな……なんか照れるな」
「弓の達人……」
ヒカゲは二人の話を聞いてレノの手を掴み、彼の腕を掴み取る。いきなりヒカゲに腕を掴まれたレノは驚いたが、彼女はレノの腕を触って納得した。
「……確かに良い筋肉をしている」
「そ、そんなことが分かるの?」
「ヒカゲちゃんは相変わらずだね~私も最初に会った時は色々と身体を触られたよ」
「触った!?ど、何処をどう触ったんだ!?」
「ダイン、きもい」
ハルナの発言にダインは大げさに反応するが、そんな彼にヒカゲは眉をしかめながらレノの身体をべたべたと触る。女の子に身体のあちこちを触れられるなど初めてなのでレノは戸惑うが、彼の身体を一通り確かめるとヒカゲは満足そうに頷く。
「見た目は華奢に見えるけど、しなやかで良い筋肉を持っている。子供の頃から身体を鍛えないとこんな風にはならない」
「ど、どうも……」
「でも、気になることがあるとすればこれ」
「うわっ!?」
ヒカゲはレノの右手の掴むと彼の魔術痕が刻まれた箇所に触れた。魔法を発動させない限りは魔術痕は浮き上がらないので他の人間に気付かれるはずはないのだが、ヒカゲは直感でレノの右手に違和感を抱く。
「この右手、何か隠している?」
「か、隠してるって……何を?」
「触れた時に変な感じがした。よく触らないと分からないぐらいに甲の部分が凹んでいる」
「え?そうか?別に普通に見えるけど……」
「綺麗な手だよ?」
「普通の人間が触っても気づかない程度の凹凸がある」
ダインとハルナはレノの手を見て触れてみても違和感は感じないが、ヒカゲは普通の人間よりも勘が鋭く、触れただけで彼女はレノの右手に出っ張りがあることに気付く。
レノ自身も知らなかったが魔術痕を刻まれた箇所は僅かに凹んでいるらしく、見た目は全く変化はないが、触れると僅かに凹凸があることを感じられる。
(この子、何なんだ!?まさか触っただけで魔術痕に気が付くなんて……どうしよう。話すべきかな?)
魔術痕の存在をヒカゲに話すべきかレノは悩んだが、仮に黙っていたとしてもダインとハルナはレノが付与魔法の使い手だと知っている。それならば自分が話さなくても二人がヒカゲに話す可能性もあるのでレノは語ることにした。
「俺は右手に魔術痕を刻んでいるんだ」
「魔術痕?貴方は魔術師なの?」
「まあ、一応はそうなるかな……」
「さっきエルフに育てられたと言ってたけど、まさかエルフが貴方に魔術痕を刻んだの?」
「まあ、そうなるかな……」
厳密に言えばレノが刻んだ魔術痕は古文書に記された代物であり、バルは魔術痕を刻むのを手伝ってくれたが彼女から直々に魔法を教わったわけではない。その点に関しては話が長くなるのでレノは黙ると、ヒカゲは腕を組んでぶつぶつと呟く。
「エルフに育てられて魔法も扱える……そしてダインとハルナの知り合い。可能性はなくもない」
「ヒカゲちゃん?どうしたの?」
「何をぶつぶつ喋ってるんだ?」
「……ちなみに三人とも何時から帰ってきた?」
ダインとハルナの質問を無視してヒカゲは三人が街に来たのはいつ頃か尋ねる。先ほどから態度がおかしい彼女に疑問を抱きながらもレノは答えた。
「俺達はさっき街に来たばかりだよ」
「それを証明してくれる人はいる?」
「いないと思うけど……」
「おい、さっきから何なんだよ!!お前何か隠してないか!?」
「……はあっ」
痺れを切らしたダインがヒカゲを問い質すと、彼女はため息を吐きながら一枚の羊皮紙を取り出す。レノ達は羊皮紙を覗き込むと、そこに書かれている内容を見て驚く。
「さ、殺人事件!?」
「えええっ!?」
「しっ、声が大きい……他の人に知られたらまずい」
「ど、どういうこと?」
ヒカゲはダインとハルナの口元を塞いで大声を出せないようにすると、レノはその間に羊皮紙の内容を再確認する。この羊皮紙には最近街で起きた冒険者の殺人事件の詳細が記されていた――
――今から一週間前、黒虎に所属する銀級冒険者が何者かに殺害された。死体が発見されたのは人気のない路地裏であり、第一発見者は街の見回りを行っていた警備兵だった。
殺された男性冒険者は鋭い刃物で首元を切り裂かれて死亡しており、武器を握りしめた状態のまま死んでいることから何者かと交戦した上で敗れたと考えられた。殺害現場を徹底的に調査したが犯人の手掛かりは掴めていない。
次の殺人が発覚したのは三日後で殺されたのは女性の冒険者だった。こちらも黒虎に所属する冒険者であり、階級は最初に殺された男性と同じく銀級冒険者だった。彼女が殺された場所は街の外れにある廃屋であり、廃屋の隣の家の子供が発見した。
女性冒険者が殺された廃屋は近くに住む子供達が遊び場として利用していたらしく、子供達の発言から女性が殺されたのは夜の間だと判明した。子供達は女性が発見する前の日に夕方まで廃屋で遊んでいたが、翌日の朝に廃屋に訪れると女性の死体を発見したという。殺された女性は元傭兵で腕利きの剣士として名が知れ渡っていたが、最初に殺された男性と同じく首元を鋭い刃物で切られて死亡していた。
そして最後に殺された男性はレノが先ほど確認した男性冒険者だった。これまでに殺された冒険者達と同じく、彼も黒虎に所属する銀級冒険者で殺害方法も一緒だった。但し、この死体に関しては謎が一番多く、人通りの多い街道で殺されたはずなのに誰も犯人の姿を目撃していない。
男性冒険者が死んだときに街道を歩いていた一般人達の証言は「道を歩いていたらいきなり男性冒険者が剣を抜いて暴れ回った」だった。誰も男性冒険者が殺した犯人は見ておらず、急に男性冒険者が剣を抜いて暴れ回ったと思ったら、いきなり首から血を流して死んだという。
大勢の目撃者がいるのに誰も犯人の姿を見ていないことに警備兵も困惑し、入念に聞き込みを行うが結局は犯人の手掛かりも掴めなかった――
「くっ……言い返せないのが悔しい!!」
「ヒカゲちゃんは私の先輩なんだよ~」
「へえ~」
ヒカゲは自慢げに銀級冒険者のバッジを見せつけ、ぴかぴかに磨き上げられたバッジを見てレノは感心する。年齢は恐らくはレノと変わらないぐらいだが、先輩であるダインよりも先に昇格していることを考えると彼女の優秀さが分かる。
「もしかして君も冒険者だったりする?」
「いや、俺は冒険者じゃないよ」
「……でも、世界樹製の弓を持っているなら普通の人間とは思えない」
「えっ!?」
レノが背負っている弓の正体をヒカゲは見抜いており、彼女はレノが一般人だとは信じられなかった。話を聞いていたダインとハルナが口を挟む。
「そいつは子供の頃にエルフに拾われて育てられたんだよ。こう見えても弓の達人なんだぞ」
「レノ君は凄いんだよ~!!怖い魔物さんを一発で仕留めるんだから!!」
「いや、そんな……なんか照れるな」
「弓の達人……」
ヒカゲは二人の話を聞いてレノの手を掴み、彼の腕を掴み取る。いきなりヒカゲに腕を掴まれたレノは驚いたが、彼女はレノの腕を触って納得した。
「……確かに良い筋肉をしている」
「そ、そんなことが分かるの?」
「ヒカゲちゃんは相変わらずだね~私も最初に会った時は色々と身体を触られたよ」
「触った!?ど、何処をどう触ったんだ!?」
「ダイン、きもい」
ハルナの発言にダインは大げさに反応するが、そんな彼にヒカゲは眉をしかめながらレノの身体をべたべたと触る。女の子に身体のあちこちを触れられるなど初めてなのでレノは戸惑うが、彼の身体を一通り確かめるとヒカゲは満足そうに頷く。
「見た目は華奢に見えるけど、しなやかで良い筋肉を持っている。子供の頃から身体を鍛えないとこんな風にはならない」
「ど、どうも……」
「でも、気になることがあるとすればこれ」
「うわっ!?」
ヒカゲはレノの右手の掴むと彼の魔術痕が刻まれた箇所に触れた。魔法を発動させない限りは魔術痕は浮き上がらないので他の人間に気付かれるはずはないのだが、ヒカゲは直感でレノの右手に違和感を抱く。
「この右手、何か隠している?」
「か、隠してるって……何を?」
「触れた時に変な感じがした。よく触らないと分からないぐらいに甲の部分が凹んでいる」
「え?そうか?別に普通に見えるけど……」
「綺麗な手だよ?」
「普通の人間が触っても気づかない程度の凹凸がある」
ダインとハルナはレノの手を見て触れてみても違和感は感じないが、ヒカゲは普通の人間よりも勘が鋭く、触れただけで彼女はレノの右手に出っ張りがあることに気付く。
レノ自身も知らなかったが魔術痕を刻まれた箇所は僅かに凹んでいるらしく、見た目は全く変化はないが、触れると僅かに凹凸があることを感じられる。
(この子、何なんだ!?まさか触っただけで魔術痕に気が付くなんて……どうしよう。話すべきかな?)
魔術痕の存在をヒカゲに話すべきかレノは悩んだが、仮に黙っていたとしてもダインとハルナはレノが付与魔法の使い手だと知っている。それならば自分が話さなくても二人がヒカゲに話す可能性もあるのでレノは語ることにした。
「俺は右手に魔術痕を刻んでいるんだ」
「魔術痕?貴方は魔術師なの?」
「まあ、一応はそうなるかな……」
「さっきエルフに育てられたと言ってたけど、まさかエルフが貴方に魔術痕を刻んだの?」
「まあ、そうなるかな……」
厳密に言えばレノが刻んだ魔術痕は古文書に記された代物であり、バルは魔術痕を刻むのを手伝ってくれたが彼女から直々に魔法を教わったわけではない。その点に関しては話が長くなるのでレノは黙ると、ヒカゲは腕を組んでぶつぶつと呟く。
「エルフに育てられて魔法も扱える……そしてダインとハルナの知り合い。可能性はなくもない」
「ヒカゲちゃん?どうしたの?」
「何をぶつぶつ喋ってるんだ?」
「……ちなみに三人とも何時から帰ってきた?」
ダインとハルナの質問を無視してヒカゲは三人が街に来たのはいつ頃か尋ねる。先ほどから態度がおかしい彼女に疑問を抱きながらもレノは答えた。
「俺達はさっき街に来たばかりだよ」
「それを証明してくれる人はいる?」
「いないと思うけど……」
「おい、さっきから何なんだよ!!お前何か隠してないか!?」
「……はあっ」
痺れを切らしたダインがヒカゲを問い質すと、彼女はため息を吐きながら一枚の羊皮紙を取り出す。レノ達は羊皮紙を覗き込むと、そこに書かれている内容を見て驚く。
「さ、殺人事件!?」
「えええっ!?」
「しっ、声が大きい……他の人に知られたらまずい」
「ど、どういうこと?」
ヒカゲはダインとハルナの口元を塞いで大声を出せないようにすると、レノはその間に羊皮紙の内容を再確認する。この羊皮紙には最近街で起きた冒険者の殺人事件の詳細が記されていた――
――今から一週間前、黒虎に所属する銀級冒険者が何者かに殺害された。死体が発見されたのは人気のない路地裏であり、第一発見者は街の見回りを行っていた警備兵だった。
殺された男性冒険者は鋭い刃物で首元を切り裂かれて死亡しており、武器を握りしめた状態のまま死んでいることから何者かと交戦した上で敗れたと考えられた。殺害現場を徹底的に調査したが犯人の手掛かりは掴めていない。
次の殺人が発覚したのは三日後で殺されたのは女性の冒険者だった。こちらも黒虎に所属する冒険者であり、階級は最初に殺された男性と同じく銀級冒険者だった。彼女が殺された場所は街の外れにある廃屋であり、廃屋の隣の家の子供が発見した。
女性冒険者が殺された廃屋は近くに住む子供達が遊び場として利用していたらしく、子供達の発言から女性が殺されたのは夜の間だと判明した。子供達は女性が発見する前の日に夕方まで廃屋で遊んでいたが、翌日の朝に廃屋に訪れると女性の死体を発見したという。殺された女性は元傭兵で腕利きの剣士として名が知れ渡っていたが、最初に殺された男性と同じく首元を鋭い刃物で切られて死亡していた。
そして最後に殺された男性はレノが先ほど確認した男性冒険者だった。これまでに殺された冒険者達と同じく、彼も黒虎に所属する銀級冒険者で殺害方法も一緒だった。但し、この死体に関しては謎が一番多く、人通りの多い街道で殺されたはずなのに誰も犯人の姿を目撃していない。
男性冒険者が死んだときに街道を歩いていた一般人達の証言は「道を歩いていたらいきなり男性冒険者が剣を抜いて暴れ回った」だった。誰も男性冒険者が殺した犯人は見ておらず、急に男性冒険者が剣を抜いて暴れ回ったと思ったら、いきなり首から血を流して死んだという。
大勢の目撃者がいるのに誰も犯人の姿を見ていないことに警備兵も困惑し、入念に聞き込みを行うが結局は犯人の手掛かりも掴めなかった――
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