緑の魔法と香りの使い手

兎希メグ/megu

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記念ショートストーリー

SS1−1 ぽちの優雅(?)な一日(漫画一巻発売記念)

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◆小鳥の声で起きて
 鳥のさえずりが聞こえる頃、しらじらとした朝の光が明かり取りの窓から入り込んでくると、ぽちは古布を厚く敷いた寝床からむっくりと起きあがって、ベッドで寝ているベルを起こす。

「あ、ぽちおはよう。今日も起こしてくれてありがとうね……」

 寝間着姿のベルは掛け布からもぞもぞと差し出した手でぽちの頭を撫で、ふわあとあくびを上げながら上半身を起こす。そして、うーんと伸びをすると、ようやくベッドから足を下ろした。

 ここは冒険者ギルド裏の従業員宿舎。
 ベルの部屋はこぢんまりとしていて、作り付けの棚と小さな書き物机、椅子一客とチェストぐらいしかない。
 寝ぼけ眼のまま、ベルは古毛布を床に敷いて朝のトレーニング。
 いわく、一日でも欠かすと魔力膜と言われるものや、魔力のコントロールが鈍るからだそうだ。
 その間、ぽちは横でまったりしている。

 ぽちにとってベルとは、と言われれば彼はこう答えるだろう。優しくてあったかい存在、と。
 対外的には契約獣とモンスターテイマーという間柄だが、獣のぽちにそんな事が分かる筈もなく。
 ただただ、慕わしい。それだけで幼いながらに森を出てきたのである。

 そんな大事な存在のベルだが、彼女は毎日忙しい。
 冒険者ギルドの食事処補助に、それが終われば喫茶店の店長として働き、喫茶店がない日は薬師見習いとしてオババ様と呼ばれる師匠のところで薬師修行の身だ。
 ぽちとベルはふたりでべったり出来る時間は実は少なくて、この時間は好きなだけそばに居られるから、割とこの何にもない時間が好きである。

 成長期のぽちはいつも眠い。うとうとしている間にベルは洗顔と着替えをすませたようで、いつの間にかいつもの服に着替えている。

「よし、じゃあぽち、そろそろ行こうか」

 声を掛けられたぽちは「わん」 と返事してベルの後をついていく。
 今日もベルは忙しいんだろうなあ。ボクもしっかりお手伝いしなきゃ。そんな事を考えつつ、ぽちは階下へ降りるのだった。

◆朝は仕込みから
 冒険者ギルドの裏口から入り、受付カウンターを横目に食事処へ向かうと、野菜の入った重そうな頭陀袋をキッチンストーブの横に下ろす、ヴィボの姿が見えた。

「おはようございます、ヴィボさん。すぐに野菜の皮剥きしちゃいますね」
「ああ、おはようベル」

 上司の姿に、エプロンを付けて大慌てでキッチンに向かうベル。
 寡黙な大男ことヴィボは、一つ頷くと桶に水を汲み野菜の汚れを落としつつ、挨拶を返した。
 ヴィボが屈み込んだことによって視線が下がる。
 自然と尻尾を振るぽちの姿を目にすることになった彼は、ぽちにも挨拶した。

「ぽちもおはよう、今日も元気そうだな。お前には……そうだな、ストーブの火入れを頼めるか」
「わんっ!!」

 役目を貰ったぽちは、早速火の落ちたキッチンストーブに火を付ける。
 仲間を手伝うことぐらい、ぽちだって出来るのだ。

 ぽちにとってヴィボとは、頼もしい仲間だ。
 ベルが冒険者ギルドという群れ……彼の認識ではギルドという組織は一つの群れである……に所属した際、場に馴染むよう、色々と心配りしてくれたありがたい仲間だ。
 地上最強、AAランクと言われるシルバーウルフであるぽちにも、特段怖がる訳でも、さりとて侮る訳でもなくごく自然にベルの友として扱ってくれる態度は、とても好ましい。
 そんな彼と共に過ごす朝は、忙しいがとても心地のよい空気に包まれている。

「ヴィボさん、剥いた野菜はいつも通りに空いている鍋にいれておきますね」
「ああ」

 大好きな人たちの気配にぽちがうつらうつらしていると、ぱたぱたと軽い、ベルの足音が聞こえる。

「くず野菜も出ましたし、ついでにモツの下ゆでもしておきますか……」
「ベルは、特に自分が言わなくても準備を進めてくれるから助かる」

 ベルの明るい声に答えるのはゆったりとした低い声。そろそろ聞き慣れてきた、ヴィボのものだ。

「あはは、褒めても何も出ませんよー。膝用の湿布薬、そろそろ切れるだろうから明日もってきますね」
「……何度言っても湿布代も払わせない癖に、何が、何も出ない、だ」
「だって私、見習いですもん」

 ぱたぱた、とんとん、しだいにぐつぐつ。
 いろんな音や匂いが混ざるキッチンの隅で、ぽちはまた、ゆっくりとした時間を過ごす。
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