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12章:王都への旅路、新たな出会い

136.竜使いの吟遊詩人

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 それは旅をして二週間目のこと。とある町に泊まり、人気の大衆酒場で夕ご飯を食べようと、皆で連れ立ち向かった先での出会い。
 
 私達は、美しい歌声に出会う。
 
 目立つようにか、染めの美しい幅広のサッシュベルトのようなものをチュニックの腰に巻いて、きらきらした貝殻ボタンのようなもので出来た竜の刺繍を刺したもので頭部を包む彼は、あちこちのテーブルから聞こえる声によると『竜使いの歌い手』 と呼ばれているらしい。
 
「ほう、王都で人気の吟遊詩人にも負けぬ声だの」
 なかなか人を褒めることないオババ様が褒めるってことは、相当の技量の持ち主なんだなぁ。
「確かに上手いな。楽器の方もよく手入れしているみたいだ」
 アレックスさんもそういえば王都で長く居たから、耳が肥えてるのかな。
 なんて思いつつ、私は獣肉の旨辛煮込みを食べていた。うん、これなかなか美味しい。
 ぽちは可哀想だけど、酒場で騒ぎが起こってもアレなので、早めにご飯を食べさせた後、宿屋でのんびりして貰ってます。後でよくブラッシングしてあげよう。

 その時彼は、人気ナンバーを歌っていた。

 それは、劣竜使いの歌だ。
 あの、西の領都で聞いた、ウェストゥロッツの英雄、女テイマーの歌。

「それは、恋でした。その契約獣と己が拳で全ての理不尽を砕いた男の、初めての恋でした……」

 けれどそれは、大衆向けに配役を捻じ曲げられていて。

「それは身分違いの恋でした。名もなき男と、伯爵令嬢。決して結ばれぬ筈の恋でした」

 青年はテーブルのひしめくフロアの一角で、張りのある声を響かせ、その恋歌を朗々と歌う。
 細く長い指先は、リュートのような丸い胴を持つ弦楽器を爪弾き。

「その恋はしかし、ただ民の為だけに振るわれた彼の拳の向ける先を変えました。民だけでなく、己が属す領が為、国が為に……」

 それは、本来男女が逆転している話の筈。
 なのに妙にしっくりしているのは、話に聞く劣竜使いさんが、まんまヒーローっぽい行動をしていたからなんだと思う。

 クライマックスは、やはり、飛竜との戦い。
 でもそれはまた別の歌であるらしく……というか、劣竜使いの歌は何作かの歌で綴られる一大抒情詩となっているものらしくって、皆がおひねりを出し合って、好きな場面を吟遊詩人に歌わせるものなんですって。
 
 はあ、なるほどなぁ。
 まああれだね、昔の映画でいうところの、プールバーやダイナーで渋い役者さんがコインをじゃらつかせながら投入口に入れると、レコードが掛かる、あのジュークボックスみたいな。
 あれの歌い手さん版みたいなものが吟遊詩人なんだね。
 
 なんて、異文化に感心しながらどっしりした黒パンと一緒に煮込みを食べていると、ふと歌が止み。
 
 何だか今度は酒で喉を焼いたかのようなしゃがれ声の中年の歌い手が、「酒飲め、もっと飲め、今日もよく働いたお前が主役だ!」 などという、陽気な酒飲み歌を歌い始めた。
 宴会ソングっぽいからか、酔客達もジョッキ片手に歌ってるよー。すごい盛り上がり。

 そろそろ、前の詩人さんは喉休めの時間かな。何曲もおひねり飛ぶから歌いまくってたもんねぇ。
 
 しかし、酒飲み歌かぁ。思わずお酒が飲みたくなるね。うん。これはこれでなかなかいいものだなぁ。
 なんて、残り少なくなった美味しい煮込みをパンで攫っていると。

「おやおやこれはこれは。こんな所で思いがけず英雄と出会えるとは」
「げっ」

 ……思いの外に近くで、あの美声が聞こえたんだけど。

 パンの欠片を口に放り込み、ごくんと飲み込んで、すっかり綺麗になったお皿から顔を上げると、そこには切れ長の目横に泣きぼくろがある、整った顔立ちの男性がいた。

「……竜使いの歌い手さん?」
「ええ、そうです。これはまた可愛らしいお連れ様ですね、アレックス。ちなみに私は、そちらの異名だけでなく、もう一つの異名もあるんですよ……魔法騎士の歌い手、と」
「お、オレは認めてないっ!」

 悲鳴のような声に隣を見れば、苦虫を噛み潰したかのような表情のアレックスさんがいた。
 え、この方お知り合い?
 なのに何で、聴いてて分からなかったの?
 思わず私が首を傾げると。
 
「……オレの歌を歌ってる時は、もっと高い声で歌ってるし、それに別の被り物してるんだよっ」

 ああなるほど。ちょっとこの人、自分の整った顔よりも歌を聴いて欲しいのか、被り物を深めに被ってるものね。
 下からだから顔見えてるけど。

「おやおや、貴方と私の仲ではないですか。そう怒りなさんな」
「うるさいっ。偶に酒を奢られるぐらいじゃ割に合わないんだよっ」
 ……ついでに酒飲み仲間、っと。
 
 うーん、これは酒を飲まなきゃやってられないね。
 ということで、酒飲み歌をバックに、少しお酒強めの果実割を頼んだ私は、久しぶりにあっただろう旧友と友情を温め合うアレックスさんを、生温かい目で眺めていたのだった。


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毎日更新はできる限り続けていきますので、その点ご了承くださいませ。
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