緑の魔法と香りの使い手

兎希メグ/megu

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12章:王都への旅路、新たな出会い

137.旅の同行者が増えた(強引)

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 詩人さんが何故か御者台に同乗している。
 
「降りろ」
「ははは、何でですか」
「お前を乗せる筋合いがない」
「そう言わずに。上に戻るなら私を連れていると色々面倒が減りますよ?」

「チッ」
 アレックスさんは舌打ちすると、苦虫を噛み潰したかのような顔をした。
 おーい、ワゴンの伝言用の小窓から見えてますよー。
 
 何でこんな風になったかと言うと……。
 
 竜使いの吟遊詩人と酒場で偶然出会った翌日。
 何故か、私達の泊まっていた宿屋に彼がのこのこと姿を現したのだ。
 
 ……ええっと、何で私達がここに泊まっている事を知って……ああ、魔法騎士が泊まる宿だと、宿の呼び込みが叫んでたって?
 うん、まあそりゃあ有名人が宿泊した宿とかね、呼び込みに使うには格好のキャッチフレーズだよね。
 
 疑問が解消しすっきりした私は、肩下げ鞄ひとつを身につけてすぐに出立出来るような格好で、宿に別料金を払い朝食を食べている。
 黒パンと塩漬け肉のスープという、シンプルなメニューだ。
 
 私は既に朝ごはんを終えたぽちを横に置き、薄味すぎて微妙なスープを飲み干した。
 
 さて出発、と。
 私と一緒のテーブルでのんびり食事をしていたオババ様と一緒に食事スペースの席を立つと。

 厳しい顔つきのアレックスさんが、宿屋の前で吟遊詩人を睨みつけてたんだよね。

「お前……何のつもりだ」
「そろそろ私も下での出稼ぎが終わりましたから、王都まで同行しようかと」
「お断りだ」

 アレックスさんはけんもほろろにズバッと言うが、にこにこ顔の吟遊詩人は全くめげない。
 
「まあまあ。何でしたら、貴方の護衛の料金も支払いますよ。大丈夫です、お金の心配はありません。私はこれでも稼いでるんで」
「いらん。そもそもオレはオババ様とこの娘の護衛で来てるんだ。いきなり現れて横入りするな」
「おや、そうなんですか? 南の……ああ、この方はあの高名な薬師の方ですか。王都生まれの」
  
 オババを見て丁寧に頭を下げる吟遊詩人に、私は思わず「えっ」 と声を上げた。
 詩人さんの謎の事情通ぶりもさる事ながら……なに、え? オババ様って元々、天国だの楽園だの言われてる、浮かぶ城こと王都に住んでいたっていうの?
 
 ええー、そんなエリート様がどうしてこんな世紀末めいた地上に降りて来たわけ? と、私は内心にパニックだ。
 
 私が呆然としていると、オババ様はさも余計な事をと言わんばかりに吟遊詩人を睨め付けて。
「わしは歌の上手い詩人は好きだが、お喋り男は好かん」
 ぷいっと横を向いた。
「おや、機嫌を損ねてしまいましたか。これは失敬」

 にこにことした笑顔はそのまま、大事な仕事道具であろう弦楽器の入った布包を抱えた彼は、馬車の準備をしに裏手に回ったアレックスさんを追って行ってしまったんだよね。
 
 
 ……そして現在に至る。と。
 
 裏でどんな話をしてたか分からないけど、何だか同行することになってしまった詩人さん。
 そういえば、私はまだよく話してないなあ……。
 と、考えていたら。
 
「そういえば、ベルさんはモンスターテイマーなのですね」

 なんて、御者台から詩人さんが話し掛けてきた。

「え? ええ、そうですけど何か」
 いきなりの事に適当な返しをした私に、彼はその整った顔に笑みを浮かべて。
「女神の森なる、選ばれし者のみが迎えられる禁断のダンジョンのモンスター、シルバーウルフ。地上最強のAAランクを誇る高ランクモンスターを連れたあどけない薬師見習いの少女の冒険……なかなか、そそる歌の題材だと思いまして」

 何だか、とんでもない事を言い出した。
  
「え、私が歌の題材? なんで?」
 昨日の夜、アレックスさんを呆れた目で見てる場合じゃなかった。
 私まで何だか詩人さんに狙われているよー!

「わ、私なんてつまらないですし、何のネタにもなりませんよっ! 美人でもないし浮いた話もなければ、特に目立った冒険もありませんし! ただの喫茶店のマスターの話なんてね、いやいや、本当にっ、誰も聞いたりしないかとっ」
 あたふたとお断りの言葉を並べていると、なんだ、自虐かって内容になったよ。
 へこむ……。
 うん、そう。
 Aランクを取る前はまあまあ大変だったけど、それ以降は冒険者として活動する以外は、喫茶店でのんびりお客さん相手してるだけだしさ。
 私の話なんてしても誰も喜ばないと思うんだよね……。

 なんて、しみじみと考えてたら。
「おいっ、ベルにまで手を出すつもりか、いい加減に御者台から蹴り落とすぞ」
「ははは、嫌ですねぇアレックス。そんな事を言うならば貴方の学生時代のあのやんちゃぶりを話してしまいましょうか」
「おいやめろ」

 御者台の方が賑やかになって、とりあえず話は棚上げに。
 
 えーと……。と、私はオババ様と視線を合わせる。
 彼女はどうでもいいとばかりに肩を竦めた。そ、そんなひどい。
 
 仕方がない。のんびりペースで走る馬車の扉を開け、ぽちをワゴンの中に呼び寄せてから、彼をブラッシングして心を落ち着けることに。
 まあ、二頭立てで馬力に余裕があるから出来ることだね。
「ぽちー、何だかまた変な人が増えたよ」
「くうん?」
 どうしたの、とばかりにへこむ私の顔をぺろりと舐めてくれるぽちの優しさは無限大。はあ、癒される。
 愛用の馬毛ブラシで、いつもより熱心にマッサージしちゃうよ。

 そんな風にぽちと戯れる私をよそに、アレックスさんは友人……というよりも悪友の類? の詩人さんと一緒にお喋りに夢中になっていた。
「そうですねぇ、面白いところで貴方の初恋の人とか……」
「お前っ、何でそんなの知ってるんだ!」
「おや、これは無しですか? では学生の頃の武勇伝で、ちんけな嫌がらせをする貴族の杖を奴がまともに点検などせず放置する事をいい事に、魔法実習合わせで整備不良になるよううまいこと仕組んで、攻撃魔法の不発で、親の前で恥を搔かせたとか」
「そんなのよく覚えてたなっ」
「ははは、まだまだありますよ。それと知らずに友人と思っていた貴族が君を貶めようとして声高に君の小さなミスを話していた時、友人もどきの貴族が密かに慕っていた女生徒が、彼もそんなミスをするのねと安心して君に話し掛けてきて真っ青になった、とか」
「細かい、細かいよお前……それを言うならお前だってな」

 うーん、何かただの昔話で盛り上がってない? っていうか、職業病なんだろうけど詩人さんはよくそんな細かい話を覚えてるよねぇ。逆に感心する。
 
 ブラッシングでツルスベになったぽちを思い切り撫で回しつつ、私は思う。

 何だか、賑やかな旅の連れが出来てしまったようだね、と。
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