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三章 現実、月曜日。冷たい場所に閉じ込められました。
四話 現実、月曜日。朝から波乱含み。
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ギロリと上から睨む工場長、灰谷の怒鳴り声に、伊都はガタガタ震え始める。
上背があり見せ筋肉とはいえ大柄な男から、直接に口撃されるのは、病から復帰したばかりの伊都には辛すぎるものだった。
それに気づいたのだろう、サッとおばちゃん達が伊都を庇うよう前に出て、灰谷を睨み返す。
「あーら、自分こそ遅刻して来た癖にいい根性ねぇ。もう、始業時間から十分程回ってるわよ?」
「本当よ。寝坊癖が治らないだらしのない性格は灰谷君の方でしょ? あたし達は既に準備終わってるし、事務所の方の開始時間はこれからでしょう」
「バッ、ババアどもうるせっ」
「あーやだやだ、潔く謝る事も出来ないなんて」
子供のように扱われて、顔を真っ赤にしている灰谷は、伊都を相手にする暇もなく割烹着のお母さん達にいいように扱われている。
そこで一人が、手を振って伊都に事務所に戻るよう合図した。
『あたし達が相手するから』
そう口パクで告げて。
灰谷はおばちゃん達の手のひらの上で転がされるばかりで、罵声も何だか張りがない。
慌ててぺこりと頭を下げ、伊都は事務所へ取って返す。
(あ、朝から何でこんな、修羅場に遭遇しちゃうのかしら……白銀さんに会う前に、体力尽きちゃうかも)
全く、朝から散々である。
現在は病から復帰し会社に復帰して何とか仕事を回しているが、精神的肉体的にも、健全とも言い難く。主治医からは『気持ち悪くなったり、だるくなったらすぐに休むこと』 と厳命されている。
『精神的なものから来る不調は、世間で言われるほど甘いものではありません。今後は私も一緒に支えていきますので、根気強く治していきましょう。伊都さん、貴女は我慢が過ぎたのです。だから、貴方の体が貴女の心を守るために先に倒れたのです。今後は体にも心にも貴女が優しくして差し上げて下さい』
それが主治医の厳しくもありがたい言葉である。
最初の二ヶ月は半日上がりで、徐々に延ばしてようやくこの一週間程はフルで勤務出来るようになったのだ。
(三ヶ月、殆どトラブルなしで来られたのが奇跡だったのかも。うん……社長は変わらないし、少しずつ耐性付けないと)
ここでくじけて、サキからの温情に応えず引きこもってはいけない。
心に命じて、自分の机に着き、土曜日から溜まった連絡事項などを確認していると。
「あ、伊都おはよー。いつも早いねぇ」
事務所の玄関口から、底抜けに明るい声が響く。
友人の奈々が出社したようだ。小走りに後ろへ抜けて、また戻ってくると、隣の席に座ってにこにことしている。
「おはよう、奈々ちゃん。葉山さんは今日は午後から?」
「うんー。子供さんいるし、ママは忙しいもんねぇ」
「そうだね」
上背があり見せ筋肉とはいえ大柄な男から、直接に口撃されるのは、病から復帰したばかりの伊都には辛すぎるものだった。
それに気づいたのだろう、サッとおばちゃん達が伊都を庇うよう前に出て、灰谷を睨み返す。
「あーら、自分こそ遅刻して来た癖にいい根性ねぇ。もう、始業時間から十分程回ってるわよ?」
「本当よ。寝坊癖が治らないだらしのない性格は灰谷君の方でしょ? あたし達は既に準備終わってるし、事務所の方の開始時間はこれからでしょう」
「バッ、ババアどもうるせっ」
「あーやだやだ、潔く謝る事も出来ないなんて」
子供のように扱われて、顔を真っ赤にしている灰谷は、伊都を相手にする暇もなく割烹着のお母さん達にいいように扱われている。
そこで一人が、手を振って伊都に事務所に戻るよう合図した。
『あたし達が相手するから』
そう口パクで告げて。
灰谷はおばちゃん達の手のひらの上で転がされるばかりで、罵声も何だか張りがない。
慌ててぺこりと頭を下げ、伊都は事務所へ取って返す。
(あ、朝から何でこんな、修羅場に遭遇しちゃうのかしら……白銀さんに会う前に、体力尽きちゃうかも)
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『精神的なものから来る不調は、世間で言われるほど甘いものではありません。今後は私も一緒に支えていきますので、根気強く治していきましょう。伊都さん、貴女は我慢が過ぎたのです。だから、貴方の体が貴女の心を守るために先に倒れたのです。今後は体にも心にも貴女が優しくして差し上げて下さい』
それが主治医の厳しくもありがたい言葉である。
最初の二ヶ月は半日上がりで、徐々に延ばしてようやくこの一週間程はフルで勤務出来るようになったのだ。
(三ヶ月、殆どトラブルなしで来られたのが奇跡だったのかも。うん……社長は変わらないし、少しずつ耐性付けないと)
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