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聖域でのんびり暮らしたい
35 姫巫女は聖域に到着する
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「やっと着いたぁ」
聖樹のお膝元、いわゆる門前町的なところに着いて、巡礼者を出迎える木彫りの大看板を見た途端、私は肩を落とした。
本気でどっと疲れた。
話もなくずっと重苦しい空気のまま走るとか、どんな苦行よ。
ほっと息を吐く私に、王子が代表して声を掛けてきた。
「フレ……ええと、治癒術士殿。我らは別件で用事を済ませる為、ここで別れる事となる」
「そうですか、お疲れ様です」
よそよそしく礼儀通りにお互い言い合うと、その場で解散する。
……三人の幼なじみの、もの言いたげな視線を振り切りながら。
私は賑やかな門前町をそそくさと走り抜け、聖域の入り口、厳しいガードのある門の前までやってくる。
そこは天然の要害、茨の絡む木製の塀に囲まれた場所だ。
ちなみに聖域と指定されている場所は、天を衝く巨大な世界樹と、その周りを囲む深い森を含めてとあり、それだけで国ひとつ分にも足る程の面積を持つ。
巨大な森を全て囲む訳にもいかないので、塀自体は要所しか囲んでいないんだけど、不思議と森に深く入ろうとすると迷うらしくて、世界樹に祟られると噂され、近隣の者は近づかない。偶に勝手に密猟や伐採をしようとする悪徳商人が出るけど、そういう人は何故だか森から出れなくてのたれ死ぬんですって。
それにしてもいつ見ても立派な塀ねと首が痛くなるほど上を向く。未だに高さ何十メートルあるのか分からないけど、塀をよじ登って侵入出来た人は一人もいないと聞くし。しかもこれって、茨も塀も不思議なことに火をつけても燃えないのよねぇ。その手の防御魔法が掛かってるんでしょうけど。
なんてつくづくと不思議な塀を眺めつつ、巡礼者が近づく正門でなく、横手にある通用口の方に向かって私は道を逸れる。
門に近づくたびに清浄な空気に変わっていくのが心地よく、私は思わず大きく呼吸した。
ああ、帰ってきたなぁ……。自然と頬が緩む。
顔見知りの門衛に声を掛け、一応の印として本人確認のための世界樹の葉で出来た青葉のペンダントを見せて門を潜る。
比較的に建物にも自由なデザインが許される門前町と違い、聖域の建物は全て木製で、しかも全て世界樹が抱える深い森から伐られたもので出来ている。
道は自然なむき出しの土のまま、街路の側に咲く草花は不思議と燐光を纏っていて、夜になってもふんわりとした柔らかい光を放つ。
美しい彫刻がなされた無垢材の建物はとても優美で、どこかぬくもりがあって私は大好きだ。
有史以来、この世界樹の光景は変わらずにあるという。
ぽくぽくと馬を歩かせていると、顔見知りの神官や巫女らが静かに会釈をしてくる。私も笑顔で返しながら、世界樹のすぐ足下、世界一古い建物とされる聖樹教の総本山である教会へと向かう。
それは不思議な様式で、まるで大木が意思を持ち肩を組んで一つの建物を作ったかのように見える。
屋根に向かってはぎゅっとらせんを描いて渦を巻き、年中葉を付けた枝がふんわりと庇を作っている。
実際、この建物を形作る木々は未だ地に根を張って生きているというのだから凄いことだ。
「お疲れ様。よく頑張ってくれたね。今日からはしばらく教会で過ごすから、故郷で楽しんでおいで」
そう言って撫でてやり、愛馬を森に帰還させると、私は教会の門を潜った。
聖樹のお膝元、いわゆる門前町的なところに着いて、巡礼者を出迎える木彫りの大看板を見た途端、私は肩を落とした。
本気でどっと疲れた。
話もなくずっと重苦しい空気のまま走るとか、どんな苦行よ。
ほっと息を吐く私に、王子が代表して声を掛けてきた。
「フレ……ええと、治癒術士殿。我らは別件で用事を済ませる為、ここで別れる事となる」
「そうですか、お疲れ様です」
よそよそしく礼儀通りにお互い言い合うと、その場で解散する。
……三人の幼なじみの、もの言いたげな視線を振り切りながら。
私は賑やかな門前町をそそくさと走り抜け、聖域の入り口、厳しいガードのある門の前までやってくる。
そこは天然の要害、茨の絡む木製の塀に囲まれた場所だ。
ちなみに聖域と指定されている場所は、天を衝く巨大な世界樹と、その周りを囲む深い森を含めてとあり、それだけで国ひとつ分にも足る程の面積を持つ。
巨大な森を全て囲む訳にもいかないので、塀自体は要所しか囲んでいないんだけど、不思議と森に深く入ろうとすると迷うらしくて、世界樹に祟られると噂され、近隣の者は近づかない。偶に勝手に密猟や伐採をしようとする悪徳商人が出るけど、そういう人は何故だか森から出れなくてのたれ死ぬんですって。
それにしてもいつ見ても立派な塀ねと首が痛くなるほど上を向く。未だに高さ何十メートルあるのか分からないけど、塀をよじ登って侵入出来た人は一人もいないと聞くし。しかもこれって、茨も塀も不思議なことに火をつけても燃えないのよねぇ。その手の防御魔法が掛かってるんでしょうけど。
なんてつくづくと不思議な塀を眺めつつ、巡礼者が近づく正門でなく、横手にある通用口の方に向かって私は道を逸れる。
門に近づくたびに清浄な空気に変わっていくのが心地よく、私は思わず大きく呼吸した。
ああ、帰ってきたなぁ……。自然と頬が緩む。
顔見知りの門衛に声を掛け、一応の印として本人確認のための世界樹の葉で出来た青葉のペンダントを見せて門を潜る。
比較的に建物にも自由なデザインが許される門前町と違い、聖域の建物は全て木製で、しかも全て世界樹が抱える深い森から伐られたもので出来ている。
道は自然なむき出しの土のまま、街路の側に咲く草花は不思議と燐光を纏っていて、夜になってもふんわりとした柔らかい光を放つ。
美しい彫刻がなされた無垢材の建物はとても優美で、どこかぬくもりがあって私は大好きだ。
有史以来、この世界樹の光景は変わらずにあるという。
ぽくぽくと馬を歩かせていると、顔見知りの神官や巫女らが静かに会釈をしてくる。私も笑顔で返しながら、世界樹のすぐ足下、世界一古い建物とされる聖樹教の総本山である教会へと向かう。
それは不思議な様式で、まるで大木が意思を持ち肩を組んで一つの建物を作ったかのように見える。
屋根に向かってはぎゅっとらせんを描いて渦を巻き、年中葉を付けた枝がふんわりと庇を作っている。
実際、この建物を形作る木々は未だ地に根を張って生きているというのだから凄いことだ。
「お疲れ様。よく頑張ってくれたね。今日からはしばらく教会で過ごすから、故郷で楽しんでおいで」
そう言って撫でてやり、愛馬を森に帰還させると、私は教会の門を潜った。
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