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前線レッドウォール3
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「そうか、お前の名前はアトラって言うんだ。」
『そう!このあいだ五十さいになったんだー。』
「ドラゴンの平均寿命が人間とは掛け離れてる事はよく分かった。」
『おかあさんは三百さいだよ。』
「三百歳……人間で言ったらどの位なんだろうね。」
「分かんないな……。」
「おーい二人とも、この後工業地帯の方に移動する予定だけど、どうするよ?」
血竜の治療は既に終わっており、この子は今にも飛び立てそうなくらいに元気百倍そうだ。涼も魔力の消耗している様子も無く、俺自身も特に問題は無い。
ヨハン達は先程の戦闘にて事前に避難させておいた荷物類を持ってきてくれて、後は行動をするのみとなっていた。
「あー……アトラか。」
「ふぅん、名前があるんだ?」
「あ、そうそう。この子はアトラって言うみたい。五十歳だって。」
「……人間とは時間の流れが違うんだね。」
「それな。…じゃなくて、流石に連れていくのはダメか。」
「宿屋に宛があるけど、このサイズは無理だろう…というか、連れていく前提なのか。」
「俺の血液をあげる約束だったんだ。そうか、今あげちゃえばもう終わりか。」
「え!!そんな約束してたの?!」
「それでアトラは大人しかったのか!!!」
「…なぁんかそのやり取りデジャブじゃない??」
「うっ…。ち、近い……。」
グイッとヨハンと涼が全力タックルレベルで俺に詰め寄ってきた。アルフレッドはやはりそれを助けることも無く、俺を可哀想なものを見るような目で見てきていた。
悪かったって…でもこれが手っ取り早いというか。悪意を感じなかったからつい承諾しちゃったというか。
「もっと自分の事を大切にしろと何度言えばわかるんだお前は!!!!!」
「あのエルフさんの二の舞になるよ…それにアレンのじゃれつき具合で大惨事になるかもしれないし。」
「…ご、ごめんなさい。」
二人に掴まれた肩から僅かに震えが伝わってきた。それが怒りによるものなのか悲しみによるものなのか分からないけれど、確かに俺を心配してのものだ。自分の浅はかさに今更になって恥じた。
大分、馬鹿だなぁ俺は。
「本当にごめん。」
「…約束しちまったんなら、果たさないと後々どうなるか分かんねぇから…今回だけだからな。」
「余りにも取るようなら私が奪い返すから、任せて。」
「マジで涼怖い。」
ヨハンの言う通り約束を守らなければどうなるかは分からない。俺が予想できるとしたら、逆上して喰われるか切り裂かれるかそれを見越して涼が鎌で切り裂く、のどれかである。多分第三候補が有力候補だろう。
「取り敢えずヨハンとアルフレッドは涼を止めてて。」
「僕達に死ねと?」
「俺ァまだ生きたいだけどよ。」
「強かであれ。…冗談はここまでにして、アトラに手っ取り早く血液上げてくるから待っててくれ。」
改めてアトラと対面する。当然だが、先程まで和やかに話していたのは俺達の世界では空想上の生き物とされるドラゴンであるのだ。若干の浮つき気分はあるが、もしかしたら俺を殺すかもしれない対象であるのだ。感情がごちゃ混ぜになる。
「約束通り、俺の匂いが付いた血液を少しわける。アトラからしたら少ないかもしれないけど、それ以上あげると俺倒れちゃうんだ。ごめんな。」
『カナタたちは、ちいさいからしかたない。』
「ありがとな。」
鞄の中に入っている小型ナイフを取り出し、瞳をギュッと閉じて、左手のひらを横一線に斬った。
初めてこういったことをしたから、凄く怖いし痛い。でも、きっと必要な事だから。我慢だ。
後方から唸る声が小さく聞こえてきたけど、振り向かないようにした。どうなっているのか予想しなくてもわかる。
「~~っ、はい。どうぞ。」
『わぁ!!ほんとうにいいにおいだ。』
「ぅひぃ?!!へ、変な感じだ…。」
赤黒く長い舌伸ばされて、血液が溜まった手のひらをベロッと舐め回された。動物園で、動物に餌をあげたら手まで食べられそうになったかつての記憶が思い起こされる。正にそれというか、それに限りなく近い具合だ。
生温くて、生物って感じ。
「美味いのか?」
『……けつえきだからほかのとおなじあじ、だけど。いいにおいと、からだがげんきになってる。』
「そうなのか。」
やはりダニエル様の言う通り、魔力の底上げの効果が出てきているのだろう。呑んでから彼の金色の瞳がより輝いている気がした。
「これ以上はあげられないんだ。これで約束は果たした。もう、俺の事を追いかけて来ないでな。」
『……。』
「アトラ?」
グルルルルと地鳴りの様な音がアトラの喉からしていた。余り表情の変化とか分からないが、何かを考えているようである。
これは……不味いのだろうか。
『カナタはこのあとどうするんだ?』
「え?…レッドウォール内で起きてる瘴気や魔獣討伐をお手伝いしてくるんだよ。」
『それって、どれくらいするの?カナタもたたかうの?』
「?期間は分からないな…。俺はあくまでも涼…さっきアトラの怪我を直してくれた子のサポートかな。」
『ふぅん…。そうなんだ。』
「どうした?」
『んんんーーーーーー。』
大きな頭が左右にふるふると振っていた。これは本当に何かを考えているみたいだぞ。いきなり喰われるとか殺されるとかそういうものではない、のかな?
「どうしたんだ?」
『そのね、ぼくもっとカナタといっしょにいたいなっておもってて。いいかおりだからとかだけじゃない、カナタやさしいから、もっとしりたくなって。』
「え?」
『……このレッドウォールだけでもいいんだ、いっしょにいてもいいか?』
「えぇ?!!!?」
俺達の周囲に薄桃色の煙のようなものが立ち込めていた。発生源は目の前のアトラからであった。
『そう!このあいだ五十さいになったんだー。』
「ドラゴンの平均寿命が人間とは掛け離れてる事はよく分かった。」
『おかあさんは三百さいだよ。』
「三百歳……人間で言ったらどの位なんだろうね。」
「分かんないな……。」
「おーい二人とも、この後工業地帯の方に移動する予定だけど、どうするよ?」
血竜の治療は既に終わっており、この子は今にも飛び立てそうなくらいに元気百倍そうだ。涼も魔力の消耗している様子も無く、俺自身も特に問題は無い。
ヨハン達は先程の戦闘にて事前に避難させておいた荷物類を持ってきてくれて、後は行動をするのみとなっていた。
「あー……アトラか。」
「ふぅん、名前があるんだ?」
「あ、そうそう。この子はアトラって言うみたい。五十歳だって。」
「……人間とは時間の流れが違うんだね。」
「それな。…じゃなくて、流石に連れていくのはダメか。」
「宿屋に宛があるけど、このサイズは無理だろう…というか、連れていく前提なのか。」
「俺の血液をあげる約束だったんだ。そうか、今あげちゃえばもう終わりか。」
「え!!そんな約束してたの?!」
「それでアトラは大人しかったのか!!!」
「…なぁんかそのやり取りデジャブじゃない??」
「うっ…。ち、近い……。」
グイッとヨハンと涼が全力タックルレベルで俺に詰め寄ってきた。アルフレッドはやはりそれを助けることも無く、俺を可哀想なものを見るような目で見てきていた。
悪かったって…でもこれが手っ取り早いというか。悪意を感じなかったからつい承諾しちゃったというか。
「もっと自分の事を大切にしろと何度言えばわかるんだお前は!!!!!」
「あのエルフさんの二の舞になるよ…それにアレンのじゃれつき具合で大惨事になるかもしれないし。」
「…ご、ごめんなさい。」
二人に掴まれた肩から僅かに震えが伝わってきた。それが怒りによるものなのか悲しみによるものなのか分からないけれど、確かに俺を心配してのものだ。自分の浅はかさに今更になって恥じた。
大分、馬鹿だなぁ俺は。
「本当にごめん。」
「…約束しちまったんなら、果たさないと後々どうなるか分かんねぇから…今回だけだからな。」
「余りにも取るようなら私が奪い返すから、任せて。」
「マジで涼怖い。」
ヨハンの言う通り約束を守らなければどうなるかは分からない。俺が予想できるとしたら、逆上して喰われるか切り裂かれるかそれを見越して涼が鎌で切り裂く、のどれかである。多分第三候補が有力候補だろう。
「取り敢えずヨハンとアルフレッドは涼を止めてて。」
「僕達に死ねと?」
「俺ァまだ生きたいだけどよ。」
「強かであれ。…冗談はここまでにして、アトラに手っ取り早く血液上げてくるから待っててくれ。」
改めてアトラと対面する。当然だが、先程まで和やかに話していたのは俺達の世界では空想上の生き物とされるドラゴンであるのだ。若干の浮つき気分はあるが、もしかしたら俺を殺すかもしれない対象であるのだ。感情がごちゃ混ぜになる。
「約束通り、俺の匂いが付いた血液を少しわける。アトラからしたら少ないかもしれないけど、それ以上あげると俺倒れちゃうんだ。ごめんな。」
『カナタたちは、ちいさいからしかたない。』
「ありがとな。」
鞄の中に入っている小型ナイフを取り出し、瞳をギュッと閉じて、左手のひらを横一線に斬った。
初めてこういったことをしたから、凄く怖いし痛い。でも、きっと必要な事だから。我慢だ。
後方から唸る声が小さく聞こえてきたけど、振り向かないようにした。どうなっているのか予想しなくてもわかる。
「~~っ、はい。どうぞ。」
『わぁ!!ほんとうにいいにおいだ。』
「ぅひぃ?!!へ、変な感じだ…。」
赤黒く長い舌伸ばされて、血液が溜まった手のひらをベロッと舐め回された。動物園で、動物に餌をあげたら手まで食べられそうになったかつての記憶が思い起こされる。正にそれというか、それに限りなく近い具合だ。
生温くて、生物って感じ。
「美味いのか?」
『……けつえきだからほかのとおなじあじ、だけど。いいにおいと、からだがげんきになってる。』
「そうなのか。」
やはりダニエル様の言う通り、魔力の底上げの効果が出てきているのだろう。呑んでから彼の金色の瞳がより輝いている気がした。
「これ以上はあげられないんだ。これで約束は果たした。もう、俺の事を追いかけて来ないでな。」
『……。』
「アトラ?」
グルルルルと地鳴りの様な音がアトラの喉からしていた。余り表情の変化とか分からないが、何かを考えているようである。
これは……不味いのだろうか。
『カナタはこのあとどうするんだ?』
「え?…レッドウォール内で起きてる瘴気や魔獣討伐をお手伝いしてくるんだよ。」
『それって、どれくらいするの?カナタもたたかうの?』
「?期間は分からないな…。俺はあくまでも涼…さっきアトラの怪我を直してくれた子のサポートかな。」
『ふぅん…。そうなんだ。』
「どうした?」
『んんんーーーーーー。』
大きな頭が左右にふるふると振っていた。これは本当に何かを考えているみたいだぞ。いきなり喰われるとか殺されるとかそういうものではない、のかな?
「どうしたんだ?」
『そのね、ぼくもっとカナタといっしょにいたいなっておもってて。いいかおりだからとかだけじゃない、カナタやさしいから、もっとしりたくなって。』
「え?」
『……このレッドウォールだけでもいいんだ、いっしょにいてもいいか?』
「えぇ?!!!?」
俺達の周囲に薄桃色の煙のようなものが立ち込めていた。発生源は目の前のアトラからであった。
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