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前線レッドウォール4

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辺り一面薄桃色の煙だらけとなってしまった。視界は当然ながらゼロに近く、少し後ろにいた三人の姿も視認出来ない。天高く輝いていた太陽も丁度雲が掛かったのか、数分前よりも僅かに暗い。

「おーい!!アトラ?なにしたんだ?」
『フシュゥゥゥゥ……、よし、できたかな?』
「あ、アトラァ?」

声が少し近づいた?
声の主の血竜の圧迫感が全くないのが不思議だ。それにあれだけの巨体が動けばこの立ち込める煙も一掃出来るはずだが。

『カナタ。』
「うぉっ?!!!?」
「お兄ちゃん!!!大丈夫?!!!!?」

涼の声に反応出来なかった。それもそのはずだ、制服の裾を勢い良く下へと引っ張られて若干前へと転びそうになったのだから。
だが、そうなる事はなかった。

「お、お前……、もしかして。」
『いっしょにいるためには、ヒトのほうがいいんだろ?』
「あ、あぁ……そりゃぁね。」

引っ張られた先には、アレンくんよりも少し年上そうな男の子が一人いた。
惹かれていた手がいつの間にか離れており、ちゃんと立ってみれば俺の胸元位の背丈だった。
髪の毛は全体に赤黒く、首の後ろから腰元にかけて三つ編みが下げてあった。エスニックテイストな服を身に纏っている。
そして、ギラっと爬虫類のような金色の瞳が二つ。間違いない。

「アトラ、だな。」
『どうだ?』
「…確かに、これであれば一緒な行けるかもな。」
『ヒヒッ、やったぁ!!』
「ぐえっっ!!」

ニコッと微笑んだその口元は、人とは少しかけ離れた鋭い牙が見え隠れしていた。そして嬉しさのあまりなのか、腹へと抱きついてきたのは……まぁ良しとするが。肝心な力加減はまだ難しいようで、思わず朝食が口から漏れそうになったのはここだけの話だ。
この二つに関しては後で教えなければいけないな、と頭の片隅にメモをした。

「お兄ちゃーーん!!!っだ、誰この子!!!!!!」
「落ち着け涼。……はぁ、もしかして?」
「アトラだ。」
「でしょうねー。」

煙が二人の風魔法のお陰で飛び散っていったようで、三人が駆けて傍に来てくれていた。予想通りというかなんというか、涼がアトラを見るなり素早く俺から外しに掛かっている。対抗してギュゥゥゥゥと血竜はしがみついているから俺の内蔵というか、身体が引きちぎられそうだと伝えておく。
やったね無事、脳筋パワー系要因が増えたぞ。



「ここが今日の宿屋だ。荷物を置いて、整理したら今日配達出来るだけの配達物を持参して昼飯にするぞー。」
「はぁい!!」
「はーい。」
「腹減ったー。」


レッドウォール中心街。
戦闘前線である郊外とは離れたこの街。
工業地帯の中にあるものであるのだが、所謂スチームパンク系統な雰囲気であった。正直な話、少年心が擽られて仕方がない。個人的に一人で街中を練り歩きたい衝動がある。

ヨハンに促されて訪れた宿屋。全体的に大きめな鉄筋を取り入れた洋風の館であった。
本日はこの宿の一室をお借りする事に。部屋の中はとても綺麗で、自分達が普段使っている社員寮とはまた違って剥き出しコンクリートが印象的一室であった。冷たい印象はなく、暖かな照明が多数設置してあり正直好みな雰囲気である。
そして部屋の中はとても広くベッドが六個入っている事が驚きだ。元いた母国とは違って冒険する旅団もそこそこある世界なのだ。こういった事はよくあるのかもしれない。
ただ、男女共同部屋というのが少し心配だが……涼は対して気にしていないみたいだし、彼女からその部分を言われたら直ぐに別室を用意してもらうようにヨハンに伝えるとしよう。



『はいたつ?』

そういえば、そこまでは伝えなかったか。俺が使用する予定のベッドに隣に腰掛けていたアトラがそう疑問そうに見上げていた。

「俺たちは郵便局員でもあるんだ。俺と涼は聖女様の役目もこなさなきゃいけないんだけど、基は郵便配達をする人達なんだ。」
『きいたことがある。母さまがいってた、手紙がきたと。そうか、カナタたちがとどけてくれていたんだ。』
「俺達はそれも局長から頼まれてるから届けられるだけ届けてくるが、アトラはここで休んでいても構わねぇけど。」

どうやらアトラが人型になった場合だと、二人にも声は聞こえるらしい。意思疎通が取りやすくなったから有難いシステムである。

『いや、僕もいく。カナタのてつだいする。』
「それは私がしてるから別にここで待ってていいよ?」
「涼ー。」
「むーーー。」

アトラとは反対側に座って、じとーと彼を睨んでいる涼がそう不満そうに言っていた。ポンポンと彼女の頭を軽く撫でるが機嫌が治らない。
何より二人に引っ付かれてとても暑い……。微笑ましそうにヨハン達は見ているけど、俺としてはいつ争いが起きるか不安なのだが。

「だぁって、お兄ちゃんの血を狙ってるドラゴンだし……。」
『もうねらってない。さっきからきになってたけど、ふたりはきょうだいなのか?』
「そうだよ!ふふん、いぃーでしょ。」
『ヒトはかおりがいっしょではないのにきょうだいになれるのか?』

犬や猫の様に鼻をくんくんと臭いを嗅ぐ様に、俺や涼の首元に鼻先を向けてきた。ドラゴン姿ではなくとも、嗅覚は現在のようだ。

「……すごい!血が繋がってないってわかるんだ。」
「みたいだな。アトラの言う通り、人は血が繋がってなくても兄妹になれるよ。」
『ならば、僕ともきょうだいになれるか?』
「え。」
「え!!!駄目!!!」
『なんでだ?というよりも、なんで僕のことをそんなに、てきししてるのかわからない。』
「そ、そりゃぁお兄ちゃんのこと殺そうとしたから。あと、妹弟ポジションは私だけでいいの。いっぱいいたらお兄ちゃんが大変。」
「世話を焼かれてる自覚はあったんだな。」
「それは言わない約束だよ。」
「そんな約束してないなぁー……。」
『だめなのか、カナタ。』
「駄目って訳じゃないけど…、ブラッドドラゴンは人と仲良くしていいものなのか?」
『……かんがえたことなかったな。手紙をはいたつするついでに、僕がいた森にきてもらうことはできるか?』
「……ヨハン?」

我等が班長は俺と目が合うなり、サッと目線を外した。隣に坐るアルフレッドが苦笑いしてる。逃げやがったぞ彼奴ら。

「三人で行くなら許可してやるけど。」
「……承知しました。」

後程俺と涼とアトラの三人でブラッドドラゴンの森に行く事になってしまった。ドラゴンが生息する森って……生きて帰れるのか。

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