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08.兄っぽく
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ようやく帰りの馬車の時間。もう何も考えたくないので溜め息を吐いて目を閉じる。
が、そんな簡単に休ませてはくれなかった。
「兄上、今日はお変わりがありましたよね?」
何その言い方……聞いてるようで “ありました” 以外の言葉の受付タップがないじゃん。あるよね。ゲームとかでもたまに、それしか選択ないくせに選択させるやり方。それってあなたが選択しましたよね?って思惑が取れる。ちゃんと確認してくださいねって意味もあるんだと思うけど……
ただ相手は機械じゃないので俺もすぐに “うん” とは言ってやりたくなかった。お疲れだからでしょうか。
「なんで?」
少し間が空いてからルーファスの返事が来る。
「お疲れのようでしたので……」
ルーファスがちゃんと言わなかったので俺のお疲れ八つ当たりモードは解除されない。
「じゃあ、ただ疲れただけだから気にしないでっ!」
プイッと拗ねた子どものようにそっぽを向く。
ルーファスは目に見えて動揺していた。
「あっ兄上あのあの」
大きい体で慌てふためく様子は弟って感じで可愛い。普段が弟って感じがしないから、自分が兄らしくなれる時……それは
今!
自分の口角が片側だけ上がった気がした。
俺は胸の前で手のひらを上に向け、軽く差し出す。
「よしよし、ルーファスおいで」
言った瞬間、違和感。
これ兄貴風じゃなかったかも。赤ちゃんのあやし方になってるかも。一人っ子だったから分からん。
俺の違和感はよそに、ルーファスの表情は一気に花が咲いたようになり、勢いよく俺の隣へ移動してきた。あまりの勢いに馬車がガタッと動き、「わっ」と声が出て思わずルーファスにしがみつく。そのまま、ルーファスも俺に抱きついてきた。思い描いていた “兄として包み込む” シチュエーションとのズレ。
なんか……体格のせいもあるだろうけど、俺が抱き締めてもらってるみたいになった。要はなんか思ってたんと違うってこと。だけど……
ルーファスの顔を見上げると、あるはずのない犬の耳や尻尾がブンブンしてるように見える。想像のお兄さんとは違うが、これはこれで弟っぽいから “まあいっか” と思えた。
「あのさ、見上げるの首が疲れてきたから離れていい?」
「あっえ!はい!あの……そんなきっちり見つめ返さなくても……」
ルーファスにしては珍しく最後はゴニョゴニョ目をそらしながら言っていた。
なんでだよ、話す時は人の目を見ましょうって日本の教えだよ。俺なんて、会話の途中でスマホ見てたら母さんに顎掴まれて、無理やり目を合わせさせられたくらいだぞ。
「で、ルーファスが聞いてきた理由は確信があるからじゃないの?」
改めて仕切り直す。
「兄上は聡明でいらっしゃ」
「そーゆうのいいから」
言葉を遮ると耳と尻尾が垂れ下がった。ような気がした。
「図書室にトマス・アレクサンダーいましたよね」
やっぱり今日もチェックしてたな。ルーファスはあれから毎日チェックしてるんだろう。
「うん」
「何か話されましたか?……いえ、話されましたよね?」
「うん」
結局あの後、思考が止まってしまった俺だったんだけどトマスの手が頭に触れたところで思わぬ助け舟が入った。
「申し訳ありませんが、こちらは図書室ですので図書に関するお話以外は他でお願いできますか?トマス・アレクサンダー様」
声を掛けてきたのは司書さんだった。
「これは失礼しました。では、私はこれで……お探しの本がありましたら今度一緒に手伝わせてください」
トマスが本を手に取り俺の手に戻すと耳元に顔を近づけ「考えておいてくださいね」と囁いて去っていった。
俺はポカンとしたまま、視線だけで見送った。
トマスが図書室を出ていくのを司書さんが一礼すると俺へと視線を戻した。いつも優しい笑みを浮かべて本に関連したことだけ話していた司書さんが珍しく眉尻を下げた顔で口を開いた。
「レイ・リヴニール・リベラシオン様、大丈夫でしたか?」
その言葉でようやく気付く。注意に来たんじゃなくて助けに入ってくれたんだと。
「あっあの、ありがとうございます」
「いいえ。こちらこそお話が聞こえてしまって申し訳ありません」
図書室で話してる事がダメだからね、司書さんを責める気持ちは微塵もないんだけど謝らせてしまうのは俺の身分のせいなのか、司書さんの人柄なのか……って考えてしまう身分制度本当に嫌だな。
司書さんはいつも本を読みたい時と休みたい時の俺の様子を察してくれていて、おすすめの本が入ってきた日でも休みたい時には声をかけてはこないといった絶妙なおもてなし対応をしてくれる。うん。人柄だ。優しい。ありがたい。
「先に差し出がましいことをお許しください。トマス・アレクサンダー様の先程の件は、公爵様にご相談された方がいいかと……それから、またあのような事がありましたら “父上を通してください” とおっしゃって場を去る方が身の安全かと思います」
丁寧に頭を下げながら最後にまた「無礼をお許しください」と下がろうとしたので慌てて止める。
「差し出がましくも無礼でもないです!俺の為に助言ありがとうございます」
つい力んで図書室なのに声を上げてしまった。
「あっごめんなさい……大きな声を」
「いいえ、今は他に利用者はおりませんので大丈夫ですよ」
いつもの笑みに戻った司書さんを見てホッとする。
「あの、俺は司書さんと管理人さんのいる図書室のおかげで学園に来られています。二人のおかげで雰囲気がとても良いので、本当にありがたいです」
「身に余るお言葉ありがとうございます。いつでもご利用お待ちしております」
司書さんの優しい微笑みに癒され俺の顔も自然と緩む。どの世界でも人の優しさは染みる。
「……弟君の心配性も納得ですね」
ボソリと呟く司書さんの声は聞き逃さなかった。 少々、いやけっこうショックなお言葉。
「え?俺そんなにやらかしそうですか?」
締まりのない顔をさらしてしまったし……
「あっそうではなくて……すみません。お気になさらず」
最後のやり取りは内緒にしておこう。兄としての威厳に関わる。
「その司書には褒美を与えましょう」
騎士団服が破けるのでは?と心配になるほど筋肉が膨張してるのが分かる。
「褒美を与えるって顔じゃないぞ」
過剰な褒美はやめてほしいのが本音。権力振りかざしみたいになって気を遣わせてギクシャクしたら困るし俺の憩いの場所がなくなっても困る。
「司書さんを困らせるのは俺が困る。俺が上手く対応できなくてごめん……父上にも謝る」
「兄上が謝ることは何もありません。きちんとした手順を踏んでないあちらが悪いのです」
「婚約ってそんな簡単にして卒業したら解消とかして大丈夫なのか?」
「よくはありません。解消したって事は何かしらの問題があったと周りも思いますから。あちらが一切の責任を負うと言ってきた所で、兄上が悪しように言われる事もあります。だから婚約者候補なんて曖昧な言葉を使ってきたと思います」
「婚約者候補だと、その辺が問題にならないってこと?俺は第二王子殿下の婚約者候補になってたって、あの事件の日に知ったんだけど、ルーファスは知ってた?」
「正確には婚約者候補の打診がきただけで、婚約者候補にはなっておりません」
やっぱりルーファスは知ってたのか。
王家からの打診なら、聖女が現れなかったら断れるものでもないよな。
「俺はそれを聞いていたのかな?それとも聞かされてなかった?」
「……父上の判断で兄上には……まだ病で大変な時期でしたので」
「そうなんだ」
やっぱりあの時期だったんだ。病で大変って記憶喪失云々の事だろうけど、そもそも記憶が戻ってないから今も大変な時期から抜けてないよね。戻る記憶があるかは知らないけど。
当時の俺が15歳でルーファスは14歳だったから、14歳で家の動きを知ってるって凄いな。何も知らない俺より公爵家の事、貴族の事を知っていてフォローしてくれている。運動神経も良くてスパダリってやつなんだろうな。
兄弟が逆だったらこの体の両親も安心だったろうに……。
今の家族は今も俺の記憶は戻る可能性があるってずっと思ってるのだろうか。
「婚約者候補って話なら父上は受けるのかな?」
「受けないと思います。先ほど言った手順もありませんし、相手は男爵家ですし」
「手順……トマス様が言ってた変な噂の抑止って例えば俺が聖女様と第二王子殿下の婚約を邪魔してるって事かな?婚約者候補がいたら聖女様に迷惑はかからない?」
「……それもあります。確かに……多少の抑止力と牽制にはなるかと思いますが、あくまで多少です……。兄上もしや、婚約者候補を受け入れようと思ってますか!?」
ルーファスの眉間にシワが寄り、困惑した様子が伝わってくる。
「聖女様に迷惑がかかるなら、それもありかなって少し思っただけ」
「この間、顔を知ったばかりの相手だなんていけません!」
小さい子を叱るようにルーファスが両腕をつかんで顔を覗き込んで言ってきた。
やっぱり相当、俺は心配をかけてるようだ。
「確かにそうだけど……俺に知った顔なんて他にいないよ」
「婚約者候補の件は父上と対処しますので、兄上は何も考えなくていいですよ」
何も考えなくていい。それは何もしなくていいと一緒のことだよな。下手なことするなって言いたいんだろう。記憶が戻らない俺にできる事は何もないって事だ。そんな事は分かってたから、こんな風に厄介事を持ち込まないように人と関わらないようにしてたんだけど。
小さな溜め息を吐いて俺のフォローをたくさんしていて頼りになる全然似ていない弟ルーファスをじっと見つめる。
前のレイだったら似ているところはあったのかな。こんな頼りない俺でも兄上と呼んで慕ってくれる。跡継ぎの件も俺じゃなくてルーファスにしてもらえたら良いのにな。俺は生きていければそれで良いから。
なんとなく目の前に頼りがいのある逞しい胸があったので、もたれかかる。
「ルーファスは良い子だな。頼りないお兄ちゃんでごめんな」
「兄上は頼りなくないです!」
「やっぱ良い子だな」
笑ってると、そのまま抱き締められてルーファスの心臓が力強く聞こえてくる。
心臓まで逞しいのか。太鼓飼ってるのか?俺の前の身体も太鼓の鉄人でも心臓にいたら『もう一回やるドン!』ってコンテニューできたかも。リズム感はないから課金必須だな。破産しちゃうか……
「兄上、お疲れですね。もう着きますので部屋までお連れします」
心地よいまどろみに、もう少し力強いこの音を聞いていたくなった。
「じゃあ……このまま抱っこして連れてって……ってのは冗談です」
「任せてください!このままお連れします!」
言ってから我に返ったけど、ルーファスの大きな声に完全に目が覚めた。
もう目が覚めたので大丈夫と伝えてもルーファスは譲らなかった。
失言ってこーゆーこと?
が、そんな簡単に休ませてはくれなかった。
「兄上、今日はお変わりがありましたよね?」
何その言い方……聞いてるようで “ありました” 以外の言葉の受付タップがないじゃん。あるよね。ゲームとかでもたまに、それしか選択ないくせに選択させるやり方。それってあなたが選択しましたよね?って思惑が取れる。ちゃんと確認してくださいねって意味もあるんだと思うけど……
ただ相手は機械じゃないので俺もすぐに “うん” とは言ってやりたくなかった。お疲れだからでしょうか。
「なんで?」
少し間が空いてからルーファスの返事が来る。
「お疲れのようでしたので……」
ルーファスがちゃんと言わなかったので俺のお疲れ八つ当たりモードは解除されない。
「じゃあ、ただ疲れただけだから気にしないでっ!」
プイッと拗ねた子どものようにそっぽを向く。
ルーファスは目に見えて動揺していた。
「あっ兄上あのあの」
大きい体で慌てふためく様子は弟って感じで可愛い。普段が弟って感じがしないから、自分が兄らしくなれる時……それは
今!
自分の口角が片側だけ上がった気がした。
俺は胸の前で手のひらを上に向け、軽く差し出す。
「よしよし、ルーファスおいで」
言った瞬間、違和感。
これ兄貴風じゃなかったかも。赤ちゃんのあやし方になってるかも。一人っ子だったから分からん。
俺の違和感はよそに、ルーファスの表情は一気に花が咲いたようになり、勢いよく俺の隣へ移動してきた。あまりの勢いに馬車がガタッと動き、「わっ」と声が出て思わずルーファスにしがみつく。そのまま、ルーファスも俺に抱きついてきた。思い描いていた “兄として包み込む” シチュエーションとのズレ。
なんか……体格のせいもあるだろうけど、俺が抱き締めてもらってるみたいになった。要はなんか思ってたんと違うってこと。だけど……
ルーファスの顔を見上げると、あるはずのない犬の耳や尻尾がブンブンしてるように見える。想像のお兄さんとは違うが、これはこれで弟っぽいから “まあいっか” と思えた。
「あのさ、見上げるの首が疲れてきたから離れていい?」
「あっえ!はい!あの……そんなきっちり見つめ返さなくても……」
ルーファスにしては珍しく最後はゴニョゴニョ目をそらしながら言っていた。
なんでだよ、話す時は人の目を見ましょうって日本の教えだよ。俺なんて、会話の途中でスマホ見てたら母さんに顎掴まれて、無理やり目を合わせさせられたくらいだぞ。
「で、ルーファスが聞いてきた理由は確信があるからじゃないの?」
改めて仕切り直す。
「兄上は聡明でいらっしゃ」
「そーゆうのいいから」
言葉を遮ると耳と尻尾が垂れ下がった。ような気がした。
「図書室にトマス・アレクサンダーいましたよね」
やっぱり今日もチェックしてたな。ルーファスはあれから毎日チェックしてるんだろう。
「うん」
「何か話されましたか?……いえ、話されましたよね?」
「うん」
結局あの後、思考が止まってしまった俺だったんだけどトマスの手が頭に触れたところで思わぬ助け舟が入った。
「申し訳ありませんが、こちらは図書室ですので図書に関するお話以外は他でお願いできますか?トマス・アレクサンダー様」
声を掛けてきたのは司書さんだった。
「これは失礼しました。では、私はこれで……お探しの本がありましたら今度一緒に手伝わせてください」
トマスが本を手に取り俺の手に戻すと耳元に顔を近づけ「考えておいてくださいね」と囁いて去っていった。
俺はポカンとしたまま、視線だけで見送った。
トマスが図書室を出ていくのを司書さんが一礼すると俺へと視線を戻した。いつも優しい笑みを浮かべて本に関連したことだけ話していた司書さんが珍しく眉尻を下げた顔で口を開いた。
「レイ・リヴニール・リベラシオン様、大丈夫でしたか?」
その言葉でようやく気付く。注意に来たんじゃなくて助けに入ってくれたんだと。
「あっあの、ありがとうございます」
「いいえ。こちらこそお話が聞こえてしまって申し訳ありません」
図書室で話してる事がダメだからね、司書さんを責める気持ちは微塵もないんだけど謝らせてしまうのは俺の身分のせいなのか、司書さんの人柄なのか……って考えてしまう身分制度本当に嫌だな。
司書さんはいつも本を読みたい時と休みたい時の俺の様子を察してくれていて、おすすめの本が入ってきた日でも休みたい時には声をかけてはこないといった絶妙なおもてなし対応をしてくれる。うん。人柄だ。優しい。ありがたい。
「先に差し出がましいことをお許しください。トマス・アレクサンダー様の先程の件は、公爵様にご相談された方がいいかと……それから、またあのような事がありましたら “父上を通してください” とおっしゃって場を去る方が身の安全かと思います」
丁寧に頭を下げながら最後にまた「無礼をお許しください」と下がろうとしたので慌てて止める。
「差し出がましくも無礼でもないです!俺の為に助言ありがとうございます」
つい力んで図書室なのに声を上げてしまった。
「あっごめんなさい……大きな声を」
「いいえ、今は他に利用者はおりませんので大丈夫ですよ」
いつもの笑みに戻った司書さんを見てホッとする。
「あの、俺は司書さんと管理人さんのいる図書室のおかげで学園に来られています。二人のおかげで雰囲気がとても良いので、本当にありがたいです」
「身に余るお言葉ありがとうございます。いつでもご利用お待ちしております」
司書さんの優しい微笑みに癒され俺の顔も自然と緩む。どの世界でも人の優しさは染みる。
「……弟君の心配性も納得ですね」
ボソリと呟く司書さんの声は聞き逃さなかった。 少々、いやけっこうショックなお言葉。
「え?俺そんなにやらかしそうですか?」
締まりのない顔をさらしてしまったし……
「あっそうではなくて……すみません。お気になさらず」
最後のやり取りは内緒にしておこう。兄としての威厳に関わる。
「その司書には褒美を与えましょう」
騎士団服が破けるのでは?と心配になるほど筋肉が膨張してるのが分かる。
「褒美を与えるって顔じゃないぞ」
過剰な褒美はやめてほしいのが本音。権力振りかざしみたいになって気を遣わせてギクシャクしたら困るし俺の憩いの場所がなくなっても困る。
「司書さんを困らせるのは俺が困る。俺が上手く対応できなくてごめん……父上にも謝る」
「兄上が謝ることは何もありません。きちんとした手順を踏んでないあちらが悪いのです」
「婚約ってそんな簡単にして卒業したら解消とかして大丈夫なのか?」
「よくはありません。解消したって事は何かしらの問題があったと周りも思いますから。あちらが一切の責任を負うと言ってきた所で、兄上が悪しように言われる事もあります。だから婚約者候補なんて曖昧な言葉を使ってきたと思います」
「婚約者候補だと、その辺が問題にならないってこと?俺は第二王子殿下の婚約者候補になってたって、あの事件の日に知ったんだけど、ルーファスは知ってた?」
「正確には婚約者候補の打診がきただけで、婚約者候補にはなっておりません」
やっぱりルーファスは知ってたのか。
王家からの打診なら、聖女が現れなかったら断れるものでもないよな。
「俺はそれを聞いていたのかな?それとも聞かされてなかった?」
「……父上の判断で兄上には……まだ病で大変な時期でしたので」
「そうなんだ」
やっぱりあの時期だったんだ。病で大変って記憶喪失云々の事だろうけど、そもそも記憶が戻ってないから今も大変な時期から抜けてないよね。戻る記憶があるかは知らないけど。
当時の俺が15歳でルーファスは14歳だったから、14歳で家の動きを知ってるって凄いな。何も知らない俺より公爵家の事、貴族の事を知っていてフォローしてくれている。運動神経も良くてスパダリってやつなんだろうな。
兄弟が逆だったらこの体の両親も安心だったろうに……。
今の家族は今も俺の記憶は戻る可能性があるってずっと思ってるのだろうか。
「婚約者候補って話なら父上は受けるのかな?」
「受けないと思います。先ほど言った手順もありませんし、相手は男爵家ですし」
「手順……トマス様が言ってた変な噂の抑止って例えば俺が聖女様と第二王子殿下の婚約を邪魔してるって事かな?婚約者候補がいたら聖女様に迷惑はかからない?」
「……それもあります。確かに……多少の抑止力と牽制にはなるかと思いますが、あくまで多少です……。兄上もしや、婚約者候補を受け入れようと思ってますか!?」
ルーファスの眉間にシワが寄り、困惑した様子が伝わってくる。
「聖女様に迷惑がかかるなら、それもありかなって少し思っただけ」
「この間、顔を知ったばかりの相手だなんていけません!」
小さい子を叱るようにルーファスが両腕をつかんで顔を覗き込んで言ってきた。
やっぱり相当、俺は心配をかけてるようだ。
「確かにそうだけど……俺に知った顔なんて他にいないよ」
「婚約者候補の件は父上と対処しますので、兄上は何も考えなくていいですよ」
何も考えなくていい。それは何もしなくていいと一緒のことだよな。下手なことするなって言いたいんだろう。記憶が戻らない俺にできる事は何もないって事だ。そんな事は分かってたから、こんな風に厄介事を持ち込まないように人と関わらないようにしてたんだけど。
小さな溜め息を吐いて俺のフォローをたくさんしていて頼りになる全然似ていない弟ルーファスをじっと見つめる。
前のレイだったら似ているところはあったのかな。こんな頼りない俺でも兄上と呼んで慕ってくれる。跡継ぎの件も俺じゃなくてルーファスにしてもらえたら良いのにな。俺は生きていければそれで良いから。
なんとなく目の前に頼りがいのある逞しい胸があったので、もたれかかる。
「ルーファスは良い子だな。頼りないお兄ちゃんでごめんな」
「兄上は頼りなくないです!」
「やっぱ良い子だな」
笑ってると、そのまま抱き締められてルーファスの心臓が力強く聞こえてくる。
心臓まで逞しいのか。太鼓飼ってるのか?俺の前の身体も太鼓の鉄人でも心臓にいたら『もう一回やるドン!』ってコンテニューできたかも。リズム感はないから課金必須だな。破産しちゃうか……
「兄上、お疲れですね。もう着きますので部屋までお連れします」
心地よいまどろみに、もう少し力強いこの音を聞いていたくなった。
「じゃあ……このまま抱っこして連れてって……ってのは冗談です」
「任せてください!このままお連れします!」
言ってから我に返ったけど、ルーファスの大きな声に完全に目が覚めた。
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