転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ

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13.早っ甘っタレ

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 湯浴みを終えて、部屋のソファーでくつろぎながら図書室で借りてきた本を手に取る。
 
 難しい。
 
 古文じゃないけど神話ってなんで小難しく書かれているんだよ。昔の人はひねくれていたのか?伝えようって気はあるのか!
 
 一人で空中に向かって八つ当たりをする。
 
 これが昔の当たり前だったら仕方ないのか……ネットが普及していた向こうの言葉で後世に残したら、『全俺に祈りを捧げよ』なんて書いてありそうだ。
 それを読んだ後世の人間が『全俺って何?半分になったりすんの?分かりやすく書けよ』って今の俺と同じように首を傾げているかもしれん。
 
 そして、本を読んでも手がかりになるような話はなさそうだ。
 
 ネットがあったらなあ。 “お知恵拝借板” とかで『異世界に召喚されてしまった友達がいるんですが、戻る方法を探しています。元の世界に戻る方法を教えてください』ってすぐに聞けるんだけどな。
 
 どんな状況だったのか詳しく知らないから本当に闇雲だな。知ったところで役に立てるかはさておき。

 グルグル思考回路を回したところで何の役にも立たない。

 パタンと思いのほか大きな音を立てて閉じる。今日はもう考えるのをやめようと決意した。だが、人間ってのはやらかしてしまった出来事を頭の中で漂わせずにはいられないらしい。

 ルーファスは家に着いたら、すぐに騎士団の方へ行ってしまった。
 
 公爵家嫡男として何もできないお荷物なのに、さらに心配させて探させるなんて……やってしまった。
 もっと自分でちゃんと出来るように、これ以上心配かけないようにしっかりしないと。
 
 ソファの背もたれに首を乗せて天井を見上げる。
 病院とは似つかない白くない天井。きらびやかな電灯の装飾もきれいに調和のとれた天井と壁紙。部屋の中は統一感のある家具が置かれている。
 
 3年たってようやく見慣れた。自分の部屋になって帰ってくると安堵できる部屋になった。毎日学校に行って家に帰ること、憧れていた生活。外の空気だって吸い放題。
 
 うん、幸せだ。
 俺は前にできなかったことをやれているけれど、アキラはその毎日が急になくなって “聖女様” と呼ばれて名前まで変えられている。
 勝手に召喚されてアキラはもっと怒っていいんじゃない?それか、アキラも最初はそうだったのかも。月日がたって諦めに似た感情、受け入れたわけでもない、ただそこに蓋をするだけ。
 
 俺は勝手にこの状況を受け入れてるけど、ルーファスはレイの中身が全然違う人だって分かったら怒るのかな?泣くのかな?嫌悪するかな?あんなに懐いてくれているのに、これは裏切りに近いことなのかな。

 ソファから体を起こして、部屋を出る。
 
 階段を降りて、初めて厨房へ行ってみた。中はまだ洗い物をしてる人や、料理をしている人がいる。俺が覗いていることに中の一人が気づいた。目を丸くしてとても驚いた顔で俺の方へ来る。

 「レイ様、どうされました?このような場所にお越しになるなんて」
 
 「えっと……あの、ルーファスは夕食を食べましたか?」
 
 「本日はまだ召し上がられておりませんね」
 
 「……そうですか……」
 
 「今日はまだ鍛錬場に居られたって誰かが言ってましたよ。ルーファス坊っちゃんに何かお持ちしましょうか?」

 「……あの、それ、俺が持っていっていいですか?」

 「レイ様のご要望とあらば。レイ様、私共は使用人ですよ。敬語はいりません」

 「あっはい。あっ……えっと、うん。あの……鍛錬場でも食べやすいものを作ってもらえますか?あ、用意してくれる?」

 「かしこまりました。少々お時間ください」
 
 ニコリと笑って厨房に戻っていった。
 
 料理長?なのかな。何人かに指示してる。夜遅くまで働いてくれて、おいしいご飯を提供してくれて、要望まで……ありがたい人達だ。

 持ち運びしやすいバスケットに入れてくれて、さっきの人が俺のもとへやってきた。

 「お待たせしました。ルーファス坊っちゃんが好きな甘いタレのかかったお肉を入れてあります」
 
 あの顔であの身体で、甘いタレが好きなルーファス。
 
 想像したら尻尾振って “待て” してる姿が目に浮かぶ。

 「ふふっ、ありがとう」
 
 思わず噴き出してしまった。バスケットを受け取り、お辞儀をして鍛錬場に向かった。
 
 厨房では「レイ様って久しぶりにお会いしたけど、あんな雰囲気だったっけ?」と話している声は俺の耳には届いていなかった。

 鍛錬場には、そんなに行ったことはない。

 裏手に回って明かりがついている建物が目に入る。
 何人か騎士の人が中から出てきて、横の建物の寮に戻っていった。
 
 ルーファスはまだいるかな?
 
 なんとなく人が切れた頃を見計らって入口に近付いた。

 「まだやるのか?ほどほどにしろよ」
 
 中から騎士団の人っぽい声が聞こえてくる。

 「倒したい相手がいるから」
 
 聞き慣れた声、ルーファスだ。

 まだ鍛錬してるってことか。

 「お前の腕っぷしで更に鍛えなきゃいけない程やばい相手なのか?」

 「いや、腕は勝てる」

 「……腕はって?おいおい、じゃあなんで鍛えてるんだよ」

 「精神統一だ!!」
 
 会話からして仲が良さそうな感じがする。
 少し顔を出して覗いてみると、ルーファスは腕立てをしていた。

 普通に会話してたよね、今。そのスピードで?

 「俺もうストレッチして帰るぞー」

 「ああ」
 
 腕立てっぷりがとても良いので見とれてしまい、無意識に身体を乗り出して見てしまっていた俺を、ルーファスと会話していた騎士がドアの方へ振り向き俺の姿を捉えた。

 「あっ……え?もしかして、レイ様?」

 「あ?お前、俺を驚かせる為にでたらめを……」
 
 バチッとルーファスとも目が合う。

 「え?……兄上?」

 俺の姿に気付いたルーファスは勢いよく立ち上がり走り寄ってきた。

 「兄上どうしました?そのような格好で、寝る時間だったのでは?」
 
 言われて、湯浴みを終えて寝巻きだったことに気付く。寝巻きで出歩いたらダメだったかな?敷地内でも。
 俺、前の身体ではパジャマがデフォルトだったから。

 「あ、ごめん……邪魔した?」

 「いいえ、全然邪魔なことなどありません」

 「……あの、やっぱり学園でのことちゃんと謝っておこうと思って……あとルーファスがまだご飯食べてないようだったから、これ用意してもらって……」
 
 料理人が用意してくれたバスケットを差し出す。

 ルーファスは一瞬の躊躇いの後にバスケットを受け取った。

 「兄上、俺の方こそ兄上にそこまで気にさせてしまってすみません。兄上は謝るようなことはしていませんし、取り乱すような真似をした俺が至らなかったんです」

 「……ルーファスは優しすぎるんじゃない?」

 「えっ!?こいつが優しい!?」
 
 ストレッチをし始めていた騎士の一人が驚いて動きを止めた。
 
 ルーファスはその騎士をジロリと睨んだ。

 「だってさあ、そんなお前を見たことも感じたこともないし……やっぱりレイ様は特別なんだなあ」
 
 俺の顔を見た後にルーファスの顔を見て思い出したように一人うなずいている。

 「レイ様が第二王子殿下に詰められている時、お前に伝えに行ったら血相を変えて行ったもんな」

 もしかして、この人はあの場にいたのかな?

 「あの場に居たんですか?」

 「俺は学園に通っているので、進級パーティーに参加してたんですよ」
 
 この人は学校に通いながら騎士団にも所属しているのか……え?凄くない?学校の後にこんな体を鍛えたり、お勤めしてるってこと?

 「お前、外に待機してて良かったよな。屋敷に居たらいくらお前でも間に合ってなかったと思うし」
 
 ルーファスがあの日、外に待機していたことを今知る。

 「あの時、外で待ってたの?」

 「兄上があまり参加されないパーティーだったので……」
 
 少しバツの悪そうに目を横にそらしながらルーファスは答えた。
 なるほど。やはり俺は、普段からすこぶる心配を掛けているようだ。

 「そもそもだ」
 
 ルーファスがストレッチを再開している騎士の方へ向いた。

 「お前がもっと普段から気をつけていれば、兄上の謂われのない噂話の時点で対処できたことだろうが」

 「あー……俺の周りなんて噂話とか耳に入る機会の少ない筋肉野郎ばっかだからな」

 「使えない」

 「うわっ!無慈悲!わざわざ呼びに行ったのに酷い言い草。レイ様見ました?普段これですよ。こいつに騙されてますよ」

 「兄上に無礼な口聞くな!」
 
 容赦なくゲンコツをくらわすルーファスに涙目で「信じられない、自分の腕力分かってんのかお前」と文句を言っていた。

 「あの……あの時、ルーファスに声をかけてくださってありがとうございました」
 
 きちんとお礼を伝えていなかったので騎士の傍に行きお礼を伝えると、涙が目に浮かんで頭を押さえている騎士が目を丸くして俺を見る。

 「レイ様……天使!」

 「……え?」
 
 もう一度、鉄拳が振り落とされた。

 「お前!俺の明日の授業の分の脳みそ破壊された!もう無理っ!学園行けない!」

 「じゃあ明日は俺と鍛錬してようか?」

 「……今日付き合っただけで勘弁してください……」
 
 本当に気の置けない友人同士のようで、こんなルーファスを初めて見たのと、二人が喧嘩のようにじゃれ合っている姿が面白い。
 漫画やアニメ、ドラマで見たものが目の前で繰り広げられている。不思議な感覚がする。

 「二人はとても仲良しだね」

 「「え?」」
 
 まさに仲良くハモり、同時に俺のほうを向いた。そのシンクロに笑ってしまう。

 「ほえーっ、レイ様本当に天使……あっ、もう殴るなよ!」

 「二人は昔からの友達なの?」

 「そうですね、ルーファスの十歳の記念パーティーで知り合ってかれこれ……あっ、レイ様、遅ればせながら!」
 
 騎士は立ち上がって身なりを整える仕草をしてから綺麗な立ち姿を見せる。

 「サミー・レイブンクロ伯爵家次男です。どうぞお見知り置きください」
 
 そしてまた綺麗な一礼をした。

 伯爵家……普通に話していたから同等な家格なのかと思っていた。
 ルーファスがトマスに家格のことを出していたのは、ルーファスの考えがあってのことだろうか。少なくとも、この騎士の前では家格は関係なく見える。

 「はい、こちらこそよろしくお願いします」
 
 随分経ってから挨拶を終える。

 「兄上、こんなやつによろしくしなくて良いです」
 
 サミーと俺の間にルーファスが入ると、またも二人でじゃれ合いが始まる。それを見ていたら鼻がムズムズして、くしゃみが飛び出してしまった。
 あ、鼻水出てないかな?

 「兄上、体が冷えます。部屋に戻りましょう。サミー、倉庫から外套とってきてくれ」

 「へいへい」

 「あっ!待っていいよ!俺すぐに戻るから」
 
 お詫びに差し入れを持ってきたのに、中断させて俺に手間をかけさせてしまうのは気が引ける。

 「ごめん、邪魔して。お休みなさい」
 
 ルーファスがバスケットを持っていることを確認して、すぐに出口に向かって走り出す。
 ルーファスが俺の名前を呼ぼうとした時、サミーの声がして「ルーファス、投げるぞ」と聞こえた。
 バサッと音がしたと思ったら、既に肩に外套が掛かっていた。後ろにはルーファスがいる。
 
 え?早っ。いや俺が遅い?
 
 ショックからか茫然自失してしまう。

 「兄上、一緒に行きましょう」

 「いや、邪魔までしたのに……中断させるのは……」

 「もう終わろうとしていたところですよ。サミーも帰り支度してましたし」

 「でも……」

 「お腹も空きましたし、兄上が持ってきてくれたご飯を兄上の部屋で食べてもいいですか?」

 「……うん」
 
 やっぱりルーファスはとびきり優しいと思う。
 
 サミーは満面の笑みで挨拶をすると俺達の横を通り帰っていった。

 部屋に戻ると俺は温かいお茶を淹れてもらった。ルーファスは甘いタレのかかったお肉を口に頬張った時に少し嬉しそうに眉が上がっていて、料理長グッジョブ!と心の中でガッツポーズした。
 
 少しはお返しになっていれば良いけど……持っていっただけだし、これは料理長の手柄だな。
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