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14.サロンは腹割れる
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いつの間にか恒例になりつつあるアキラとの昼食。第二王子殿下はお茶会の方が大詰めなようで、本日もアキラとサロンにやってきた。
「レイはお茶会出る?」
アキラがサンドイッチを頬張りながら聞いてきた。それを見ながら、毎日パンばっかりで、たまにはおにぎりが食べたいななんて思っていた。
「あ、うん、出ない」
「……聞いてた?」
ちょっと拗ねたような顔をして俺を見ている。
「ごめん、聞いてたけど。アキラ見てたらなんか、おにぎり食べたくなって……」
「ちょっと僕の顔がおにぎりっぽいって事?」
「……違うよ、日本からの連想ゲームみたいに思い浮かんで」
「間があったけど?」
「ふっ……おにぎり可愛いじゃん」
「開き直らないでよ!笑ってるし!」
「アキラもおにぎりに対して失礼だろ」
「……確かに。おにぎりは美味しい……もーやめてよーー食べたくなっちゃうじゃん!」
そう言いながらサンドイッチにさらにがぶりつく。
「食べてんじゃん」
「お腹空いてたら余計に耐えられないから詰め込んでんの!じゃなくて……お茶会、本当に出ないの?」
口に頬張りながら上目遣いで聞いてくるって事はアキラの技“甘え”を出してるな。と思いつつもアキラはこれを素でやってるんだろうなと内心笑ってしまう。
お茶会の日は午前は通常の授業で、お昼休みを挟んでから午後に行われる。
お昼休みの時間にドレスアップする子もいれば、制服のままで花やショール、マントなどを装飾して参加する子もいるとか。
新入生歓迎がメインで、席は上級生と一年から三年まで縦割りのランダム配置。お茶を飲みながら会話を楽しむ形式らしい。
「何人もいて上級生としてのお話をするなんて俺にはハードルが高い、無理。何も役立つことなんて話せない」
学校生活は図書室にこもっていましたなんて言えないだろうな。
「それは、僕も同じ。学校のこと第二王子殿下に色々やってもらってたし。第二王子殿下にくっついている人が何話すのって思っちゃう」
「アキラは出なきゃダメなの?」
「一応、第二王子殿下が関わってるのに婚約者の立場である僕が出ないのは……って感じ。今年は出なくちゃいけないの」
「それは……可哀想に」
お気の毒様だなと心底哀れに思う。
「そんな顔するならレイも参加してよーー!!」
「やだ」
眉毛は下がり口をへの字に曲げて泣きついてきても、そんな恐ろしい場面に参加なんてとんでもない。
「人多いのは……ちょっとやめときたいんだよな」
「それって……ごめん、僕らのせいだよね」
シュンとした表情で心なしか体も小さくなったように見える。アキラは表情だけでなく体にも感情が出るから見ていて分かりやすい。漫画みたい。
「え?違うよ、あの時の見た箱の中のトラウマが……」
「……虫の箱?え?嫌なのそこ?」
人の集合と虫の集合が脳にインプットされてしまって……。
「関係のない虫をあんな風に殺めて、箱の中に入れるなんて本当に酷いことするよね」
アキラがため息をつきながら言ったことに驚いてしまう。
「え?アキラがショックだったのはそれが理由?」
「え?レイも胸を痛めてるんじゃなかったの?」
ごめんなさい、これっぽっちも痛めてなかったです。虫愛好家の方々ごめんなさい。節足動物が本当に生理的に無理なのです。
でも確かに虫だって生きているのに、勝手に生を終わらせるのはダメだよね。うん。酷い事をするよな……。
「なんか胸が痛くなった。苦手すぎて気付かなかったけど。俺とアキラって色々違うね」
「あはは、人なんてそんなものでしょ。人と話してみると色々な視点に気付くよね」
屈託なく笑うアキラに、なるほどと感心した。
俺は生前はもちろんのこと、今もあんまり人と話していなかったから。アキラの話を聞くまで悪意を込められて贈られた箱がショックなんだと思ってた。それもあると思うけど、虫の命のことも悲しんでいたなんて話さなければ知ることはなかった。
「で、お茶会出るよね?」
あれ?もしかして俺たち、時間が巻き戻ってる?
いっそ清々しいほどに、さっき答えた返事はなかったことにされている。アキラは本当に良い性格してる。
「俺が出たってアキラと同じ場所にいるわけじゃないんだろ?じゃあ、いなくたって同じじゃん」
「うーん……分かった。じゃあ、お返事はまた今度でいいや」
出ないって言ったよね?
「とりあえず、もうお茶会の話はいいや」
俺は諦めモードに入った。続けても時間が巻き戻る未来しか見えない。さっさと切り替えるに限るかも、と話を終わらせる。
「気になってたんだけど、アキラの名前こっちではディーン・マークフォンドって名乗ってるけど、それってやっぱり王族側が名前を変えるようにしたって事?」
「うん、聖女が異世界人だって知られると反発もあるかもしれないからって陛下から言われて “アキラ” って名前はこっちでは聞かないから馴染みやすいようにって」
「反発って?」
「うーん、異世界人にこの国が守れるのかとか任せられるのかとか」
「勝手に召喚しといて勝手だな」
「僕が異世界から召喚されたって知ってるのは一部の王族と神官の召喚に関わった人たちだけで、僕は平民の出って事になってるんだよね。聖女は聖女ってだけで優遇されてはいるけど、王族と結婚するまではマークフォンド侯爵家に引き取られてる事になってて一応手出しできないようにって」
「やっぱり内緒なんだ……うっかりここ以外でアキラって呼ばないようにしないと……」
うっかり発言で首チョンパは避けたい。怖い。
思わず口を塞ぐ。
「レイがアキラって呼んでくれなかったら “聖女” としか呼ばれなくて、いつか自分の名前忘れちゃってたかも」
「お風呂屋さんで名前取られちゃった女の子いたよね、ちょっとアキラみたい……」
「神隠しのやつ!見た!向こうでは僕は神隠しそのものだと思うけど。レイが竜だったらなぁー」
「え?この世界って竜いるの?」
「さぁどうだろう?でもそしたら乗って空飛べたのにね」
「まず乗せてもらうのが当たり前だと思ってるのがな。アキラっぽい」
「また僕の悪口だ」
「褒めてるんだよ?」
「嘘だあ」
お互いの顔を見合わせて大笑いになった。
そういえば、ルーファスとサミーのやり取りを見ていて漫画やアニメで見たやつって思ってたけど、今俺とアキラもそんな感じになっているのかな?
アキラとはここでは身分差とか何も考えずに話せるこの空間があるからこんなに打ち解け合えたのかも。日本人同士ってすごい。
「ここ以外でもこうやって普通に話せたら良いのにね」
アキラがそっと呟いた。アキラの顔は無理だろうと分かっている表情で外に視線を向ける。視線の先は警護の人がいて今日も見守られている。
俺もそう思うよ。
でもきっと難しいんだろうな。この学校生活が終わったらアキラは第二王子殿下と結婚して俺なんかとは言葉を交わす事も出来なくなるんだろうか。
このサロンの空間がなくなったら、アキラは笑って過ごせる日がなくなっちゃうのかな。
「図書室で手当たり次第だけど、何かないか探してみてる。今のところ何もないけど」
肯定も否定もできなかったので、図書室の話を振るとアキラが視線を俺に戻した。
「ねえ、レイってこっちの字は最初から読めたの?」
「え?読めたけど?」
「そうなんだ……」
アキラは目を丸くしてから何か考えこんだ様子になった。
「アキラ?」
「……あのさ……僕ね、ここに召喚されて最初から話してる言葉も分かって、向こうも僕の言葉分かるから何も思わなかったんだけど、この世界の勉強をしようってなって本を見せられた時、全く分からない字だったんだよね」
「え?そうなの?学校の授業はどうしてるの?」
「なんとか二年掛けて勉強して読めるようにしたけど、先生によって字が乱れてると分からない時もあるし困ったりするよ」
まさか字が読めない状態だったとは驚いた。
読めないってけっこう大変だよな。
「だから……レイが普通に本を読んでる事が不思議で。普通に覚えるのが早くて頭良いんだろうなとか、文字の勉強も兼ねて図書室だったのかなとか思ってたんだけど」
「確かに……最初に字を見た時に日本の字じゃなくて驚いたけど理解できたから、巷で噂の転生能力すごい万能って思ってたんだけど」
「転生……輪廻転生……?」
「俺、やろう系はあんまり読まなくて有名どころのアニメになったものとかは見たけど転生系詳しくないんだよなー」
「やろう系?転生系?」
アキラが首を傾げる。
「流行ってたじゃん。死んで気付いたら違う人になって異世界に転生してましたってやつ」
説明しても、全く思い当たらないのか目だけ上を向いて考えてる様子だけど、また首を傾げた。
「そんなの流行ってたの?」
「ええ!?アキラってあんまり漫画とかアニメ見ない人?」
「見るよ。週刊少年ダッシュ好きで発売日前日に読んでたもん」
「あっ、俺もダッシュ派だった」
「うう……また精神に悪い、続きが気になるネタ出してくる……」
顔を両手で覆うアキラ。分かる。漫画の続きどうなったか見たいよね。
「ポイッスルとかブランチとか……どうなったんだろう」
「……それダッシュ?」
「え!?本当に読んでた!?ポイッスルはサッカーで、ブランチは死神の話のやつ」
「え?アキラこそ……」
「ツーピースは?」
「それは知ってる」
「なんだあ、ビックリした。空の国に行って続き楽しみにしてたのになあ」
「……アキラって……西暦何年のときにこっちに来たの?」
「え?えっとね2002年だよ」
「2002年!?」
まさか年代が違うとは思いつきもしなかった!同い年で同じ日本というところで失念していた。年代が違うからって別にどうこうはしないけど……
「え?アキラ、おじさんじゃん!」
「はあっ!?」
あ、アキラ本気のはあっ!?っぽい。
なんか顔に怒りマーク付いて見える。
「そーゆーレイはいつから来たの?」
「俺は2024年だよ」
アキラの目がかつてないほどに大きく見開いた。
「え?え?僕の22年後?」
「そうみたいだね」
お互い顔を合わせて、しばし放心していると、アキラが立ち上がって前のめりに口を開いた。
「じゃあ車は空飛んでるの!?」
めっちゃ目をキラキラさせて、頬を紅潮させて期待でいっぱいだった。
うわっ、これは言いづらいほどに空を飛んでると思ってる。
「と……」
「うん!」
「……とんでない」
「………………えー………………」
あからさまにがっかりしてる。なんか俺の罪悪感すごいんだけど。俺、何も悪くないのに。
「じゃあ……ピザが小さくてオーブンに入れると大きくなったり」
「普通のサイズだと思うよ」
「宙に浮くキックボードで走ったり……」
「浮かないかな……」
「ガソリンは生ゴミ?」
「それ早く発明してほしいね」
「なんだ……なんも変わってないじゃん」
立ち上がった時の勢いとは反対にしょんぼりとうなだれてまた座るアキラ。
お茶に手を付けて飲もうとしてまたハッとした表情をする。
「って事はツーピースはまだやってんの!?」
「やってる」
「すっすごい……長期連載」
「ちなみに作者は100年くらい終わらないかもって言ってた」
「え?作者は人間……じゃないの?」
「そうかも」
またもや期待プンプンの顔をしているアキラの顔に面白おかしくなってしまった。
「ぷっ!あはは!人間じゃないのがそんなに嬉しいの?」
「だって!もしかしたらロボットとかになってるかもしれないじゃん!」
「そんなウキウキ顔で……アキラ子供みたい……あははは!」
ツボに足を突っ込んだようだ。
「レイが知らないだけでロボットになれるのかもよ?」
「あははは!お腹痛い!そしたら俺もロボットになれれば死ななかったのになー」
「……それは……そうだね……」
落差がすごい。
「いやいやジョークだよ?」
「ブラックすぎるよ!」
一旦ツボに入ってしまったら、どっぷり浸かってしまってなかなか抜けなくなってしまった。腹筋痛い。
こんな風に笑えるのもこの身体になってから。感情はプラスにもマイナスにも動かすと負担になって危なかったから。
「ちょっとレイ、笑い過ぎじゃない?」
「くふふふふ……あー笑い過ぎるとお腹が痛くなるって初めて知った」
「それじゃあまた僕が腹筋鍛えさせてあげるね!」
もう今は本当にやめてほしい。
止まらなくなっちゃったので机に突っ伏してお腹を抱えて耐えてみるものの、なかなかツボから足のつま先さえも抜け出せない。
そんな中でノックの音が響いた。
ほぼノーアクションで「はーい」と返事し、アキラは扉を開けてしまう。
第二王子殿下が迎えに来て震えている俺を見るとアキラに真剣に尋ねる。
「……彼は……泣いているのか?」
泣いてません。
必死で這い上がろうとしているのに、またもやツボの奥底に入り込んでしまって
「ぐっ……ゔゔー……」
笑いを堪えようと喉が震えて溢れた声はうめき声になってしまったようで、さらに第二王子殿下を混乱させたようだった。
「くっ苦しんでるぞ!」
大笑いをしてるとはさすがに言いづらくて……一応、貴族だから。アキラも第二王子殿下に言葉を選びながら大丈夫だと伝えていた。
ご飯が美味しかったから感動のあまりに震えていると……。
それもそれでどうなのか。
これからは、お迎えが来そうな時間になったらお喋りをやめよう。
「レイはお茶会出る?」
アキラがサンドイッチを頬張りながら聞いてきた。それを見ながら、毎日パンばっかりで、たまにはおにぎりが食べたいななんて思っていた。
「あ、うん、出ない」
「……聞いてた?」
ちょっと拗ねたような顔をして俺を見ている。
「ごめん、聞いてたけど。アキラ見てたらなんか、おにぎり食べたくなって……」
「ちょっと僕の顔がおにぎりっぽいって事?」
「……違うよ、日本からの連想ゲームみたいに思い浮かんで」
「間があったけど?」
「ふっ……おにぎり可愛いじゃん」
「開き直らないでよ!笑ってるし!」
「アキラもおにぎりに対して失礼だろ」
「……確かに。おにぎりは美味しい……もーやめてよーー食べたくなっちゃうじゃん!」
そう言いながらサンドイッチにさらにがぶりつく。
「食べてんじゃん」
「お腹空いてたら余計に耐えられないから詰め込んでんの!じゃなくて……お茶会、本当に出ないの?」
口に頬張りながら上目遣いで聞いてくるって事はアキラの技“甘え”を出してるな。と思いつつもアキラはこれを素でやってるんだろうなと内心笑ってしまう。
お茶会の日は午前は通常の授業で、お昼休みを挟んでから午後に行われる。
お昼休みの時間にドレスアップする子もいれば、制服のままで花やショール、マントなどを装飾して参加する子もいるとか。
新入生歓迎がメインで、席は上級生と一年から三年まで縦割りのランダム配置。お茶を飲みながら会話を楽しむ形式らしい。
「何人もいて上級生としてのお話をするなんて俺にはハードルが高い、無理。何も役立つことなんて話せない」
学校生活は図書室にこもっていましたなんて言えないだろうな。
「それは、僕も同じ。学校のこと第二王子殿下に色々やってもらってたし。第二王子殿下にくっついている人が何話すのって思っちゃう」
「アキラは出なきゃダメなの?」
「一応、第二王子殿下が関わってるのに婚約者の立場である僕が出ないのは……って感じ。今年は出なくちゃいけないの」
「それは……可哀想に」
お気の毒様だなと心底哀れに思う。
「そんな顔するならレイも参加してよーー!!」
「やだ」
眉毛は下がり口をへの字に曲げて泣きついてきても、そんな恐ろしい場面に参加なんてとんでもない。
「人多いのは……ちょっとやめときたいんだよな」
「それって……ごめん、僕らのせいだよね」
シュンとした表情で心なしか体も小さくなったように見える。アキラは表情だけでなく体にも感情が出るから見ていて分かりやすい。漫画みたい。
「え?違うよ、あの時の見た箱の中のトラウマが……」
「……虫の箱?え?嫌なのそこ?」
人の集合と虫の集合が脳にインプットされてしまって……。
「関係のない虫をあんな風に殺めて、箱の中に入れるなんて本当に酷いことするよね」
アキラがため息をつきながら言ったことに驚いてしまう。
「え?アキラがショックだったのはそれが理由?」
「え?レイも胸を痛めてるんじゃなかったの?」
ごめんなさい、これっぽっちも痛めてなかったです。虫愛好家の方々ごめんなさい。節足動物が本当に生理的に無理なのです。
でも確かに虫だって生きているのに、勝手に生を終わらせるのはダメだよね。うん。酷い事をするよな……。
「なんか胸が痛くなった。苦手すぎて気付かなかったけど。俺とアキラって色々違うね」
「あはは、人なんてそんなものでしょ。人と話してみると色々な視点に気付くよね」
屈託なく笑うアキラに、なるほどと感心した。
俺は生前はもちろんのこと、今もあんまり人と話していなかったから。アキラの話を聞くまで悪意を込められて贈られた箱がショックなんだと思ってた。それもあると思うけど、虫の命のことも悲しんでいたなんて話さなければ知ることはなかった。
「で、お茶会出るよね?」
あれ?もしかして俺たち、時間が巻き戻ってる?
いっそ清々しいほどに、さっき答えた返事はなかったことにされている。アキラは本当に良い性格してる。
「俺が出たってアキラと同じ場所にいるわけじゃないんだろ?じゃあ、いなくたって同じじゃん」
「うーん……分かった。じゃあ、お返事はまた今度でいいや」
出ないって言ったよね?
「とりあえず、もうお茶会の話はいいや」
俺は諦めモードに入った。続けても時間が巻き戻る未来しか見えない。さっさと切り替えるに限るかも、と話を終わらせる。
「気になってたんだけど、アキラの名前こっちではディーン・マークフォンドって名乗ってるけど、それってやっぱり王族側が名前を変えるようにしたって事?」
「うん、聖女が異世界人だって知られると反発もあるかもしれないからって陛下から言われて “アキラ” って名前はこっちでは聞かないから馴染みやすいようにって」
「反発って?」
「うーん、異世界人にこの国が守れるのかとか任せられるのかとか」
「勝手に召喚しといて勝手だな」
「僕が異世界から召喚されたって知ってるのは一部の王族と神官の召喚に関わった人たちだけで、僕は平民の出って事になってるんだよね。聖女は聖女ってだけで優遇されてはいるけど、王族と結婚するまではマークフォンド侯爵家に引き取られてる事になってて一応手出しできないようにって」
「やっぱり内緒なんだ……うっかりここ以外でアキラって呼ばないようにしないと……」
うっかり発言で首チョンパは避けたい。怖い。
思わず口を塞ぐ。
「レイがアキラって呼んでくれなかったら “聖女” としか呼ばれなくて、いつか自分の名前忘れちゃってたかも」
「お風呂屋さんで名前取られちゃった女の子いたよね、ちょっとアキラみたい……」
「神隠しのやつ!見た!向こうでは僕は神隠しそのものだと思うけど。レイが竜だったらなぁー」
「え?この世界って竜いるの?」
「さぁどうだろう?でもそしたら乗って空飛べたのにね」
「まず乗せてもらうのが当たり前だと思ってるのがな。アキラっぽい」
「また僕の悪口だ」
「褒めてるんだよ?」
「嘘だあ」
お互いの顔を見合わせて大笑いになった。
そういえば、ルーファスとサミーのやり取りを見ていて漫画やアニメで見たやつって思ってたけど、今俺とアキラもそんな感じになっているのかな?
アキラとはここでは身分差とか何も考えずに話せるこの空間があるからこんなに打ち解け合えたのかも。日本人同士ってすごい。
「ここ以外でもこうやって普通に話せたら良いのにね」
アキラがそっと呟いた。アキラの顔は無理だろうと分かっている表情で外に視線を向ける。視線の先は警護の人がいて今日も見守られている。
俺もそう思うよ。
でもきっと難しいんだろうな。この学校生活が終わったらアキラは第二王子殿下と結婚して俺なんかとは言葉を交わす事も出来なくなるんだろうか。
このサロンの空間がなくなったら、アキラは笑って過ごせる日がなくなっちゃうのかな。
「図書室で手当たり次第だけど、何かないか探してみてる。今のところ何もないけど」
肯定も否定もできなかったので、図書室の話を振るとアキラが視線を俺に戻した。
「ねえ、レイってこっちの字は最初から読めたの?」
「え?読めたけど?」
「そうなんだ……」
アキラは目を丸くしてから何か考えこんだ様子になった。
「アキラ?」
「……あのさ……僕ね、ここに召喚されて最初から話してる言葉も分かって、向こうも僕の言葉分かるから何も思わなかったんだけど、この世界の勉強をしようってなって本を見せられた時、全く分からない字だったんだよね」
「え?そうなの?学校の授業はどうしてるの?」
「なんとか二年掛けて勉強して読めるようにしたけど、先生によって字が乱れてると分からない時もあるし困ったりするよ」
まさか字が読めない状態だったとは驚いた。
読めないってけっこう大変だよな。
「だから……レイが普通に本を読んでる事が不思議で。普通に覚えるのが早くて頭良いんだろうなとか、文字の勉強も兼ねて図書室だったのかなとか思ってたんだけど」
「確かに……最初に字を見た時に日本の字じゃなくて驚いたけど理解できたから、巷で噂の転生能力すごい万能って思ってたんだけど」
「転生……輪廻転生……?」
「俺、やろう系はあんまり読まなくて有名どころのアニメになったものとかは見たけど転生系詳しくないんだよなー」
「やろう系?転生系?」
アキラが首を傾げる。
「流行ってたじゃん。死んで気付いたら違う人になって異世界に転生してましたってやつ」
説明しても、全く思い当たらないのか目だけ上を向いて考えてる様子だけど、また首を傾げた。
「そんなの流行ってたの?」
「ええ!?アキラってあんまり漫画とかアニメ見ない人?」
「見るよ。週刊少年ダッシュ好きで発売日前日に読んでたもん」
「あっ、俺もダッシュ派だった」
「うう……また精神に悪い、続きが気になるネタ出してくる……」
顔を両手で覆うアキラ。分かる。漫画の続きどうなったか見たいよね。
「ポイッスルとかブランチとか……どうなったんだろう」
「……それダッシュ?」
「え!?本当に読んでた!?ポイッスルはサッカーで、ブランチは死神の話のやつ」
「え?アキラこそ……」
「ツーピースは?」
「それは知ってる」
「なんだあ、ビックリした。空の国に行って続き楽しみにしてたのになあ」
「……アキラって……西暦何年のときにこっちに来たの?」
「え?えっとね2002年だよ」
「2002年!?」
まさか年代が違うとは思いつきもしなかった!同い年で同じ日本というところで失念していた。年代が違うからって別にどうこうはしないけど……
「え?アキラ、おじさんじゃん!」
「はあっ!?」
あ、アキラ本気のはあっ!?っぽい。
なんか顔に怒りマーク付いて見える。
「そーゆーレイはいつから来たの?」
「俺は2024年だよ」
アキラの目がかつてないほどに大きく見開いた。
「え?え?僕の22年後?」
「そうみたいだね」
お互い顔を合わせて、しばし放心していると、アキラが立ち上がって前のめりに口を開いた。
「じゃあ車は空飛んでるの!?」
めっちゃ目をキラキラさせて、頬を紅潮させて期待でいっぱいだった。
うわっ、これは言いづらいほどに空を飛んでると思ってる。
「と……」
「うん!」
「……とんでない」
「………………えー………………」
あからさまにがっかりしてる。なんか俺の罪悪感すごいんだけど。俺、何も悪くないのに。
「じゃあ……ピザが小さくてオーブンに入れると大きくなったり」
「普通のサイズだと思うよ」
「宙に浮くキックボードで走ったり……」
「浮かないかな……」
「ガソリンは生ゴミ?」
「それ早く発明してほしいね」
「なんだ……なんも変わってないじゃん」
立ち上がった時の勢いとは反対にしょんぼりとうなだれてまた座るアキラ。
お茶に手を付けて飲もうとしてまたハッとした表情をする。
「って事はツーピースはまだやってんの!?」
「やってる」
「すっすごい……長期連載」
「ちなみに作者は100年くらい終わらないかもって言ってた」
「え?作者は人間……じゃないの?」
「そうかも」
またもや期待プンプンの顔をしているアキラの顔に面白おかしくなってしまった。
「ぷっ!あはは!人間じゃないのがそんなに嬉しいの?」
「だって!もしかしたらロボットとかになってるかもしれないじゃん!」
「そんなウキウキ顔で……アキラ子供みたい……あははは!」
ツボに足を突っ込んだようだ。
「レイが知らないだけでロボットになれるのかもよ?」
「あははは!お腹痛い!そしたら俺もロボットになれれば死ななかったのになー」
「……それは……そうだね……」
落差がすごい。
「いやいやジョークだよ?」
「ブラックすぎるよ!」
一旦ツボに入ってしまったら、どっぷり浸かってしまってなかなか抜けなくなってしまった。腹筋痛い。
こんな風に笑えるのもこの身体になってから。感情はプラスにもマイナスにも動かすと負担になって危なかったから。
「ちょっとレイ、笑い過ぎじゃない?」
「くふふふふ……あー笑い過ぎるとお腹が痛くなるって初めて知った」
「それじゃあまた僕が腹筋鍛えさせてあげるね!」
もう今は本当にやめてほしい。
止まらなくなっちゃったので机に突っ伏してお腹を抱えて耐えてみるものの、なかなかツボから足のつま先さえも抜け出せない。
そんな中でノックの音が響いた。
ほぼノーアクションで「はーい」と返事し、アキラは扉を開けてしまう。
第二王子殿下が迎えに来て震えている俺を見るとアキラに真剣に尋ねる。
「……彼は……泣いているのか?」
泣いてません。
必死で這い上がろうとしているのに、またもやツボの奥底に入り込んでしまって
「ぐっ……ゔゔー……」
笑いを堪えようと喉が震えて溢れた声はうめき声になってしまったようで、さらに第二王子殿下を混乱させたようだった。
「くっ苦しんでるぞ!」
大笑いをしてるとはさすがに言いづらくて……一応、貴族だから。アキラも第二王子殿下に言葉を選びながら大丈夫だと伝えていた。
ご飯が美味しかったから感動のあまりに震えていると……。
それもそれでどうなのか。
これからは、お迎えが来そうな時間になったらお喋りをやめよう。
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妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
生まれ変わったら俺のことを嫌いなはずの元生徒からの溺愛がとまらない
いいはな
BL
田舎にある小さな町で魔術を教えている平民のサン。
ひょんなことから貴族の子供に魔術を教えることとなったサンは魔術の天才でありながらも人間味の薄い生徒であるルナに嫌われながらも少しづつ信頼を築いていた。
そんなある日、ルナを狙った暗殺者から身を挺して庇ったサンはそのまま死んでしまうが、目を覚ますと全く違う人物へと生まれ変わっていた。
月日は流れ、15歳となったサンは前世からの夢であった魔術学園へと入学を果たし、そこで国でも随一の魔術師となった元生徒であるルナと再会する。
ルナとは関わらないことを選び、学園生活を謳歌していたサンだったが、次第に人嫌いだと言われていたルナが何故かサンにだけ構ってくるようになりーーー?
魔術の天才だが、受け以外に興味がない攻めと魔術の才能は無いが、人たらしな受けのお話。
※お話の展開上、一度人が死ぬ描写が含まれます。
※ハッピーエンドです。
※基本的に2日に一回のペースで更新予定です。
今連載中の作品が完結したら更新ペースを見直す予定ではありますが、気長に付き合っていただけますと嬉しいです。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
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