転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ

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15.ムキムキからの顛末

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 やばい、昼の筋トレで腹筋が痛い。

 午後の授業の合間の休み時間に、図書室にやって来た。けれどお腹が痛くて本に集中できそうもないからソファ席のほうに座ることにした。
 
 待ってよ、どんだけ筋肉ないのか俺。
 やっぱ定期的にアキラに笑わせてもらおう。そしたら腹筋ムキムキマッチョだ。うん。

 本を取る時に腕を上に伸ばしたら本気で痛かった。みんな普通に笑ってるの、凄くない?見えないところでムキムキだったんだな。
 
 あっソファ席に座ったのアホかも……。

 背もたれに寄りかかって少し休んで、本を開こうと体を起こしかけたとき、不安がよぎった。
 痛くないか!?これ!立ち上がるとき、もっとお腹に力入れるよね?椅子より座面が低めのソファは失敗だったのでは?
 
 後悔先に立たず。時すでに遅し。俺ちょっと涙目。
 
 こんなに自分が筋肉痛に耐性がないとは思わなかった!前にルーファスと初めて走った翌日に筋肉痛になった時もきつかったけど、お腹ってけっこう何の動作でも使うんだなと体の神秘をこんな時に感じる。
 
 さて、合間の休み時間は短い。どうしよう。……どうしよう。

 「レイ様、どうされました?」
 
 ソファの背もたれに寄りかかったまま、途方に暮れている所にトマスがいた。デジャヴ?前もソファに寄りかかってたら来たよね。出現スポットなの?

 「体調が悪いのですか?」
 
 焦った様子のトマスを初めて見たなと思っている場合じゃなかった。

 「えっと、大丈夫です」

 「ですが、先ほど辛そうな表情に見えました」

 「あの、お腹が痛いだけで……」
 
 だから大丈夫だと続けようとしたのにトマスの顔は青くなってしまった。
 まずい、誤解された気がする。すぐに言葉を付け足した。
 
 「その……体調が悪いとかではなくて」
 
 笑い過ぎて筋肉痛です。なんて言えない。

 「とにかく大丈夫です!」
 
 立ち上がって元気な姿を見せれば良いと思った俺は立ち上がろうとした。

 「いっ!」
 
 アホの連発。当然、お腹の筋肉痛は容赦なく俺を襲う。

 「レイ様っ!」
 
 あろう事か青くなったトマスに姫抱っこされてしまう。

 「レイ様、今救護室にお連れしますので!お気を確かに!」
 
 お前の気を確かにしておくれ!
 
 もう恥ずかしくて、一層の混乱を招いてしまって顔を両手で覆ってしまおう。
 
 トマスの慌てぶりに司書さんと管理人さんも出てきてしまった。

 「どうされました!?」
 
 抱えられている俺に二人とも、仰天している様子。

 「レイ様の具合が良くないので救護室へ向かうところです!」
 
 ハッとした顔で司書さんも「分かりました」と返事をして扉の方へ駆けていき、ドアを開けてくれる。

 「レイ様のお身体が良くなる事をお祈り申し上げます」
 
 二人して神妙な面持ちで頭を下げているのが伝わってくる。はい、ありがとうございます。本当にごめんなさい。

 トマスは図書室の外へ出ると早かった。それでいて揺れないように気を遣ってくれているのが分かる。たかが筋肉痛で大事になってしまった。
 
 救護室に入ると、いわゆる保健室の先生になるのだろうか?トマスの慌てぶりに保健医は椅子からすぐさま立ち上がり「どうしました?」と駆けつけてくれる。
 
 「お腹をとても痛そうにしていて!」

 「お腹ですね、ベッドで横になれますか?」

 「連れていきます!レイ様下ろしますね」
 
 優しくそっと下ろされて、罪悪感しかない。優しさが苦しい。本当に。

 保健医の声が、顔を覗き込まれる位置から聞こえた。

 「顔を覆われていますが……気持ち悪いですか?吐きそうとかありますか?」
 
 もう隠れているわけにもいかない。意を決してそっと顔を……いや、やっぱ無理。目だけ出す。

 「だいじょうぶ……です……あの、本当に……」
 
 ここで初めて救護室の先生の顔を見る。だんだんと顔が近付いてきて、後ろめたさから汗が噴き出る。

 「涙目ですし、汗もかいてますし、とても具合が悪そうですね」
 
 心配げな瞳が覗き込み、額に手を当てられる。
 精神的ダメージで意識失いそうです。

 「熱は……大丈夫そうです。何か強い痛みとか吐き気とかありましたら、おっしゃってくださいね。今はどうですか?痛みますか?」
 
 優しさが今の俺には鋭利でお腹より胸が痛い。
 こんな筋肉痛のやつにお手を煩わせてはいけない。恥ずかしさと罪悪感で泣きそうでも言わなければならない。
 必死に声を絞り出して伝える。

 「……何ともないので……本当に大丈夫なので……お気になさらず……」
 
 あまりの情けなさに気を抜いたら泣いちゃいそうで、かすれ気味になってしまった。たまらず、また顔を覆う。

 「……分かりました。何かありましたら、すぐに対応させてもらいます。今はこちらでゆっくり休んでください」
 
 布団をかけてくれた。通じたのか?

 「なにかお薬はありませんか?レイ様は大丈夫ですか!?」
 
 トマスはまだ慌てている。
 そんなトマスを落ち着かせるように保健医は冷静な声でトマスに答える。

 「本人が言いたがらないので、今は無理矢理はいけません。よっぽど我慢強い方なのでしょう。私が付いていますのでご安心ください。授業の方へ行かれて大丈夫ですよ」

 「……分かりました。私は何もお役に立てないので……よろしくお願いします。授業が終わったらまた来ます」

 「はい、どうか気を静めて落ち着いてくださいね」

 「はい」
 
 ガラガラとドアの音がしたのでトマスは授業へと向かったようだ。
 
 体調の心配をしてくれた人がいなくなり少しだけホッとする。ごめん、ホッとして罪悪感で死にそうで。
 
 救護室の先生がベッドの方へ戻ってくる。

 「私には何を話してくださっても大丈夫ですよ。口外はしません。さっきの方にも。お腹はどうですか?」

 「あの……お腹は痛いんですけど……体調は大丈夫なんです……」
 
 やっぱり複雑な気持ちで布団から目しか出せない。お腹は痛いが体調は大丈夫って何言ってるんだ?って話だけど。

 「そうなんですね。鎮痛剤のお薬飲みましょうか」
 
 鎮痛剤飲んだら筋肉痛にも効くかも。ついでに精神的な胸の痛みにも効いてほしい。

 「はい」
 
 すぐさまお水とお薬を持ってきてくれたので、顔を出せないとか言っている場合じゃないと思って布団から起き上がる。

 「いっ!」
 
 アホの申し子。学習しましょう。

 「大丈夫ですかっ?ご無理なさらず……」

 支えられて起こしてもらえたけど痛いものは痛い。薬をすぐに流し込む。

 「あまり頑張りすぎないでくださいね。横になって休んでいてください。薬が効けば楽になると思います。すぐそこにいますので安心してくださいね」
 
 全然、頑張りすぎていない。笑い過ぎたゆえの筋肉痛なので……
 まだまだ恥ずかしさは存続していた。
 
 支えられて、またベッドに横になる。横になる時も痛かった。先生はベッドから見える位置の椅子に座り、ニコリと微笑んで背中を向けてくれた。俺が休めるように。
 
 先生は慈愛の目で見ていた。たぶん。何を思われたんだろう……俺。
 
 ベッドに横になってもジワジワ羞恥心と罪悪感が押し寄せてくる。
 
 わーーーっ!!ベッドの上で暴れまくりたいがお腹痛いし、先生もいるし心の中だけで暴れまくる。色んな人に迷惑を掛けてしまった……穴が欲しい。ほとぼりが冷めるまで冬眠したい。
 
 いくらか布団に包まれると、ちょっと気持ちが落ち着いてくる。状況が変わったわけじゃないけど、布団の包み込みの安心感すごい。布団って異世界規模でありがたい存在だ。

 ベッドに横になって見上げた景色は懐かしく感じた。カーテンの仕切りここもあるんだ。先生から少し見えるように開けてあるけど、ここは他よりも白い所が多い。白色の景色。なんだか前に戻ったみたいだ。
 
 薬が効いてきたのか、瞼がゆっくり下りてきた。
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