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第8話 どうして恋を知りたいんですか?
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好きな人だから、相手を見て、不意な行動や表情に動揺し、心が昂ぶってしまう。胸キュンを分析するとしたら、そういうことなのだろうか。千夏は紫紋を見ると、その美麗さに動揺することはあるが、キュンとしたことはあるのか。
……わからない。それが本音だった。しかし紫紋の役に立ちたいのもまた事実。
こうなったら、紫紋に胸がときめく瞬間を聞くしかない。
そう思って、紫紋宅で作り置きの料理を作っていると
「ああ、明日の分までつくっていかれて、お疲れさまです」と本を抱えた紫紋がやってきた。
千夏は紫紋がまた仕事モードになる前に、と声をかけた。
「紫紋さん、紫紋さんって、胸がキュンとしたことありますか?」
紫紋は開いた本を閉じて、目を丸くした。
「胸がキュンとですか……ああ、よく少女漫画とか見ますね、そういう表現でしょうか……」
「あれ、別に漫画の世界の話じゃないんですよ。恋人に対してとか好きな人とかに、起きたりするんです」
「なるほど……ああ、でも私でもしたことありますよ、思わずしちゃいますよね」
「え、いつですか」
思わず和え物を作っていた手を止め、前のめりになって聞くと、紫紋は少し驚いた顔をしたが、また柔和な表情で答えた。
「まる太にです、あの子の仕草はキュンとしてしまいますね」
……それはほんとに今話した胸キュンのキュンなのか。
紫紋は本当に恋をしたことがないのだと思う、もっと言ってしまえば、切実に人を好きになったことがない……だから普段はともかく、恋に関して言えば無頓着と言うか、慈悲がないほどによくわかってない。
「千夏さん、どうしました? なんか暗い表情を浮かべてますが……」
「ああ、いえ……なんでも」
徒労感を覚えてしまったが、紫紋の心配した顔を見ると、放っておけないと思ってしまう。
紫紋が千夏の能力を踏まえて必要としてくれた、それだけで千夏が動き出す動機として十分だった。人がいいと言えるかもしれないが。
「まる太、まる太、ねぇねぇ君はどうやって、紫紋さんを胸キュンさせているの?」
まる太におやつを差し出しながら、千夏は訪ねていた。すごい勢いでまる太を見つめる。
まる太はおやつを食べたいと思っているのか、手を出そうとするが、千夏の視線にビビっているようでもあった。なにこれ……という感じだろうか。
我ながら何やってるんだろ、頑張ってるんだろ……と思わなくもない。それでも紫紋を胸キュンさせるコツをまる太に教えてもらわないといけない。
「まる太と見つめ合っても、多分うまくいかないと思いますよ」
見るに見かねたと言った様子で、紫紋が言った。まる太はおやつを手に取らず、紫紋の後ろに隠れてしまった。
「すいません、私のために行動してくれてるとわかっているんですが」
「あはは……胸キュンさせたかったんですけどね、紫紋さんを」
「ありがとうございます。恋は文献や人の話でたくさん勉強はしているのですが、こと自分のこととして考えた時、ぴん、とこないんですよね……悪魔だからでしょうかね」
「それは悪魔が、恋を育むものでなく、人を堕落させるものだからですか」
「そうですね……私のやってる行為はほとんどの悪魔からすれば、失笑ものですから」
淋しげな笑みを浮かべる紫紋。それ以上のことは何もいわなかったけれど、表情は雄弁だった。彼はただまっすぐな思いをもって、知りたいのだろう……だがそれは理解されないものだったのだ。もしくは悪魔という存在上、必要とされない考えだったのかもしない。
紫紋の境遇を思うと、ふいに胸がつまる。同時に、どうしてと思う自分がいた。
「どうして……」
千夏の口は自然と動いていた。何も考えてなかった。
「紫紋さんは恋を知りたいんですか?」
紫紋は千夏の言葉に目を見開いた。
……わからない。それが本音だった。しかし紫紋の役に立ちたいのもまた事実。
こうなったら、紫紋に胸がときめく瞬間を聞くしかない。
そう思って、紫紋宅で作り置きの料理を作っていると
「ああ、明日の分までつくっていかれて、お疲れさまです」と本を抱えた紫紋がやってきた。
千夏は紫紋がまた仕事モードになる前に、と声をかけた。
「紫紋さん、紫紋さんって、胸がキュンとしたことありますか?」
紫紋は開いた本を閉じて、目を丸くした。
「胸がキュンとですか……ああ、よく少女漫画とか見ますね、そういう表現でしょうか……」
「あれ、別に漫画の世界の話じゃないんですよ。恋人に対してとか好きな人とかに、起きたりするんです」
「なるほど……ああ、でも私でもしたことありますよ、思わずしちゃいますよね」
「え、いつですか」
思わず和え物を作っていた手を止め、前のめりになって聞くと、紫紋は少し驚いた顔をしたが、また柔和な表情で答えた。
「まる太にです、あの子の仕草はキュンとしてしまいますね」
……それはほんとに今話した胸キュンのキュンなのか。
紫紋は本当に恋をしたことがないのだと思う、もっと言ってしまえば、切実に人を好きになったことがない……だから普段はともかく、恋に関して言えば無頓着と言うか、慈悲がないほどによくわかってない。
「千夏さん、どうしました? なんか暗い表情を浮かべてますが……」
「ああ、いえ……なんでも」
徒労感を覚えてしまったが、紫紋の心配した顔を見ると、放っておけないと思ってしまう。
紫紋が千夏の能力を踏まえて必要としてくれた、それだけで千夏が動き出す動機として十分だった。人がいいと言えるかもしれないが。
「まる太、まる太、ねぇねぇ君はどうやって、紫紋さんを胸キュンさせているの?」
まる太におやつを差し出しながら、千夏は訪ねていた。すごい勢いでまる太を見つめる。
まる太はおやつを食べたいと思っているのか、手を出そうとするが、千夏の視線にビビっているようでもあった。なにこれ……という感じだろうか。
我ながら何やってるんだろ、頑張ってるんだろ……と思わなくもない。それでも紫紋を胸キュンさせるコツをまる太に教えてもらわないといけない。
「まる太と見つめ合っても、多分うまくいかないと思いますよ」
見るに見かねたと言った様子で、紫紋が言った。まる太はおやつを手に取らず、紫紋の後ろに隠れてしまった。
「すいません、私のために行動してくれてるとわかっているんですが」
「あはは……胸キュンさせたかったんですけどね、紫紋さんを」
「ありがとうございます。恋は文献や人の話でたくさん勉強はしているのですが、こと自分のこととして考えた時、ぴん、とこないんですよね……悪魔だからでしょうかね」
「それは悪魔が、恋を育むものでなく、人を堕落させるものだからですか」
「そうですね……私のやってる行為はほとんどの悪魔からすれば、失笑ものですから」
淋しげな笑みを浮かべる紫紋。それ以上のことは何もいわなかったけれど、表情は雄弁だった。彼はただまっすぐな思いをもって、知りたいのだろう……だがそれは理解されないものだったのだ。もしくは悪魔という存在上、必要とされない考えだったのかもしない。
紫紋の境遇を思うと、ふいに胸がつまる。同時に、どうしてと思う自分がいた。
「どうして……」
千夏の口は自然と動いていた。何も考えてなかった。
「紫紋さんは恋を知りたいんですか?」
紫紋は千夏の言葉に目を見開いた。
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