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第9話 悪魔が恋を知りたい理由
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「私が恋を知りたい、理由ですか」
紫紋は普段見せない心の揺れを見せた。言葉に迷いが見える。
「はい、悪魔としてはありえないこと、とされているみたいですよね、恋って。なぜ、それに興味を……って思って」
「正直たいした理由ではないです……聞いて呆れるかもしれません」
「呆れませんよ私」
「え?」
「一生懸命知ろうとしている紫紋さんの姿を知ってますから……」
千夏はニコッと笑いかけた。
紫紋はその表情を見ると、瞳を大きくした。不思議な人だとつぶやきながら、紫紋は居間のソファへ、千夏を案内した。千夏が座ると、紫紋は千夏の隣に座る。
そして目を細めて、こんなことを語りだした。
悪魔は生まれると、親にまず捨てられるんです。捨てられた子でそこから生き残った子だけが、悪魔として立派に成長するんですね。だから当たり前のことだったんです。
だけど私はどうやら、生き残るには力が足りなかったみたいで、死にかけていました。
そこに、ある人がやってきたんです。私の師匠のアモンという悪魔でした。
アモンは私を拾って帰りました、彼はとても知識が豊富で、力も強い悪魔でしたから、瀕死の私をあっという間に元気にしたのです。
アモンは変わった悪魔でした、誇りが高く、思慮もあり、何より人のために動く悪魔でした。未来も過去も見渡せる目をもって、人々の召喚に応じ、願いを叶えていた。とくに縁結びが得意だったんです。人の心の機微がわかりましたから。彼は詩を作って読むのが好きで、私が用事をすませて帰ると、アモンの恋の詩を何度も聞くことがありました。
アモンは起源が謎の古い悪魔で、追われた神という噂もありました。私から見ても生粋の悪魔という感じがしませんでしたね……なんとなくそう感じ取ってただけですが。
私は、私を救ってくれた師匠にあこがれました……そして彼がとても愛した「人が恋する感情」を知りたくなったのです。恋を知れば、師匠に近づける……なんて打算もあるかもしれませんが。
そうして恋を、二百年探し続けています。まだまだ何かが足りないのか……知ることが出来てませんが。
彼は苦笑し、こんな話をしたのは初めてですと言った。
千夏はじっと紫紋を見つめた。紫紋の一途な思いに触れた気がする。
それは真摯な思いで、千夏の心を打った。千夏はぽんぽんと紫紋の肩をたたいた。
「素敵です、紫紋さん」
「え?」
戸惑う紫紋に、千夏はもう一度言った。
「素敵ですよ、紫紋さん……本当に恋を知りたくて、頑張ってきて、すごいじゃないですか」
「だけど、全く、恋を知ることは出来てませんよ」
「でも、それでも知ろうとしてるんでしょ、普通、二百年も探せません」
知りたいことを知ろうと努力できるのは、すごいことです。
微笑みながら千夏がそう言うと、紫紋は目を見開き、それから急に顔を伏せた。
なぜ、いきなり……顔を伏せるのだと思って、今度は千夏が動揺すると、紫紋に抱き寄せられた。
「し、紫紋さんっ」
しどろもどろになる千夏に、紫紋は千夏の耳元で何かをこらえるように囁いてきた。
「あの、ですね……千夏さん」
「は、はい」
「私、恋のことで褒められるの……初めてなんです、嬉しくて……」
「紫紋さん……」
紫紋は照れ笑いをしながら、千夏を見た。
「ありがとう……千夏さん、あなたも素敵です」
本当に素敵な心を持っている。
「……」
憂いを抱えがちな彼の、初めて見せたとびっきりの笑みに、千夏の心は大きく揺れた。
自分の言動で、紫紋の心を救えたのだろうか。
もしそうだとしたら、と思うと嬉しくて、嬉しくて……紫紋の顔が見られなくなるくらいだった。
紫紋は普段見せない心の揺れを見せた。言葉に迷いが見える。
「はい、悪魔としてはありえないこと、とされているみたいですよね、恋って。なぜ、それに興味を……って思って」
「正直たいした理由ではないです……聞いて呆れるかもしれません」
「呆れませんよ私」
「え?」
「一生懸命知ろうとしている紫紋さんの姿を知ってますから……」
千夏はニコッと笑いかけた。
紫紋はその表情を見ると、瞳を大きくした。不思議な人だとつぶやきながら、紫紋は居間のソファへ、千夏を案内した。千夏が座ると、紫紋は千夏の隣に座る。
そして目を細めて、こんなことを語りだした。
悪魔は生まれると、親にまず捨てられるんです。捨てられた子でそこから生き残った子だけが、悪魔として立派に成長するんですね。だから当たり前のことだったんです。
だけど私はどうやら、生き残るには力が足りなかったみたいで、死にかけていました。
そこに、ある人がやってきたんです。私の師匠のアモンという悪魔でした。
アモンは私を拾って帰りました、彼はとても知識が豊富で、力も強い悪魔でしたから、瀕死の私をあっという間に元気にしたのです。
アモンは変わった悪魔でした、誇りが高く、思慮もあり、何より人のために動く悪魔でした。未来も過去も見渡せる目をもって、人々の召喚に応じ、願いを叶えていた。とくに縁結びが得意だったんです。人の心の機微がわかりましたから。彼は詩を作って読むのが好きで、私が用事をすませて帰ると、アモンの恋の詩を何度も聞くことがありました。
アモンは起源が謎の古い悪魔で、追われた神という噂もありました。私から見ても生粋の悪魔という感じがしませんでしたね……なんとなくそう感じ取ってただけですが。
私は、私を救ってくれた師匠にあこがれました……そして彼がとても愛した「人が恋する感情」を知りたくなったのです。恋を知れば、師匠に近づける……なんて打算もあるかもしれませんが。
そうして恋を、二百年探し続けています。まだまだ何かが足りないのか……知ることが出来てませんが。
彼は苦笑し、こんな話をしたのは初めてですと言った。
千夏はじっと紫紋を見つめた。紫紋の一途な思いに触れた気がする。
それは真摯な思いで、千夏の心を打った。千夏はぽんぽんと紫紋の肩をたたいた。
「素敵です、紫紋さん」
「え?」
戸惑う紫紋に、千夏はもう一度言った。
「素敵ですよ、紫紋さん……本当に恋を知りたくて、頑張ってきて、すごいじゃないですか」
「だけど、全く、恋を知ることは出来てませんよ」
「でも、それでも知ろうとしてるんでしょ、普通、二百年も探せません」
知りたいことを知ろうと努力できるのは、すごいことです。
微笑みながら千夏がそう言うと、紫紋は目を見開き、それから急に顔を伏せた。
なぜ、いきなり……顔を伏せるのだと思って、今度は千夏が動揺すると、紫紋に抱き寄せられた。
「し、紫紋さんっ」
しどろもどろになる千夏に、紫紋は千夏の耳元で何かをこらえるように囁いてきた。
「あの、ですね……千夏さん」
「は、はい」
「私、恋のことで褒められるの……初めてなんです、嬉しくて……」
「紫紋さん……」
紫紋は照れ笑いをしながら、千夏を見た。
「ありがとう……千夏さん、あなたも素敵です」
本当に素敵な心を持っている。
「……」
憂いを抱えがちな彼の、初めて見せたとびっきりの笑みに、千夏の心は大きく揺れた。
自分の言動で、紫紋の心を救えたのだろうか。
もしそうだとしたら、と思うと嬉しくて、嬉しくて……紫紋の顔が見られなくなるくらいだった。
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