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第11話 募る気持ちの重さ
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「あの、千夏さん……調子、悪かったりしますか?」
仕事を終えた紫紋がぼんやりと、掃除の手をとめていた千夏に心配げに声をかけた。
「え、へっ、そんなことないですよ」
「それなら、いいんですが……最近ぼんやりとするのをよく見るもので」
しげしげと紫紋は千夏のことを覗き込むように見る。体のエネルギーは満ちてますねぇ……と訝しげな言葉が聞こえ、千夏の様子をチェックしているようだった。
千夏は思わず一歩後ずさる。
「紫紋さん、私は大丈夫なんで……掃除続けますね、まる太の水も変えなくちゃ」
ぱたぱたと千夏は急ぐように業務を務める。ハウスキーパーとして来ている以上、職務は果たさないといけない。恋人ごっこをしている紫紋とて、仕事の手をとめるのは良くないとわかっているのだろう、それ以上の言葉を続けなかった。
紫紋が去るのを確認すると、千夏は深々と息をついた。寄ってきたまる太が不可思議そうな顔をする。千夏はまる太に苦笑いした。
あー、絶対変に思われてるよねぇ……掃除をしつつも、思考はぐるぐると同じことを考え、ループしている。紫紋のことが好きだと自覚してしまった日から、どうにもうまく動けない。今までのような立ちふるまいが出来ないのだ。
今まで千夏は何度も恋をしてきた。そして相手に対して本気だと思うと、毎度、キスしたいと思った。相手がほしいという本能からくる情動を止められないのだ。
普通の関係だったら、まあ、告白も選択肢に出る。だが恋を知りたいのであって、恋をしたいと明言しているわけでない紫紋に、この気持を出すのは勇気がいる。優しいから、いいですよと言い出しかねないし、その優しさにつけこめるほど、自分は大人ではなかった。
すくなくとも告白をして、関係がおかしくなるというのは十二分にある話だ、でも近づいていたら、気持ちがあふれそうになる。自分がおかしくなる。だけど仕事としてここに来ないといけないので、家に居ながら距離を取ろうとする、おかしな行動をとっていた。
「はやく、はやく、仕事終わらす」
呪文のように唱えながら、千夏は手を動かした。
「千夏、どうしたの寝不足?」
学内の友人に講義の休み時間、心配そうな声をかけられた。
「へ……寝てる寝てるよ!」
寝てるのは確かなのだが、夢に紫紋が出てきたバッと起きてしまうのを繰り返していた。
「そ、そうなんだ……あのさー、千夏この間面白いって言ってた映画あったじゃん」
「ああ、あれ? 夜明けのなんたらってやつだったかな」
「そうそう、映研が今日、映画考察会に、夜明けの彼方にをとりあつかうみたいなんだけど……人が少ないんだって、泣きつかれた」
友人はため息を大仰につく。
「私もついていくから、ちょっと一緒に行かない? 講義ノートで助けられたし、無下にできないのよ」
「どうしようかなぁ……」
友人とは仲はいいが、この話を承諾する必要は千夏にまったくない。友人も適当に考えておいてと、苦笑いしているくらいだ。しかし……このまま一人で居たら、紫紋のことばかりを考えてしまうのではないか。こんな苦しい気持ちのままでいるのも、どうなんだろうか。
好きな映画の話だし、友人もいるし……千夏は口をあけた。
「行く。何時から?」
「マジで」と友人はびっくりしたように目を丸くした。
千夏は頷く。自分の心をどうにかしなければと決意していた。
仕事を終えた紫紋がぼんやりと、掃除の手をとめていた千夏に心配げに声をかけた。
「え、へっ、そんなことないですよ」
「それなら、いいんですが……最近ぼんやりとするのをよく見るもので」
しげしげと紫紋は千夏のことを覗き込むように見る。体のエネルギーは満ちてますねぇ……と訝しげな言葉が聞こえ、千夏の様子をチェックしているようだった。
千夏は思わず一歩後ずさる。
「紫紋さん、私は大丈夫なんで……掃除続けますね、まる太の水も変えなくちゃ」
ぱたぱたと千夏は急ぐように業務を務める。ハウスキーパーとして来ている以上、職務は果たさないといけない。恋人ごっこをしている紫紋とて、仕事の手をとめるのは良くないとわかっているのだろう、それ以上の言葉を続けなかった。
紫紋が去るのを確認すると、千夏は深々と息をついた。寄ってきたまる太が不可思議そうな顔をする。千夏はまる太に苦笑いした。
あー、絶対変に思われてるよねぇ……掃除をしつつも、思考はぐるぐると同じことを考え、ループしている。紫紋のことが好きだと自覚してしまった日から、どうにもうまく動けない。今までのような立ちふるまいが出来ないのだ。
今まで千夏は何度も恋をしてきた。そして相手に対して本気だと思うと、毎度、キスしたいと思った。相手がほしいという本能からくる情動を止められないのだ。
普通の関係だったら、まあ、告白も選択肢に出る。だが恋を知りたいのであって、恋をしたいと明言しているわけでない紫紋に、この気持を出すのは勇気がいる。優しいから、いいですよと言い出しかねないし、その優しさにつけこめるほど、自分は大人ではなかった。
すくなくとも告白をして、関係がおかしくなるというのは十二分にある話だ、でも近づいていたら、気持ちがあふれそうになる。自分がおかしくなる。だけど仕事としてここに来ないといけないので、家に居ながら距離を取ろうとする、おかしな行動をとっていた。
「はやく、はやく、仕事終わらす」
呪文のように唱えながら、千夏は手を動かした。
「千夏、どうしたの寝不足?」
学内の友人に講義の休み時間、心配そうな声をかけられた。
「へ……寝てる寝てるよ!」
寝てるのは確かなのだが、夢に紫紋が出てきたバッと起きてしまうのを繰り返していた。
「そ、そうなんだ……あのさー、千夏この間面白いって言ってた映画あったじゃん」
「ああ、あれ? 夜明けのなんたらってやつだったかな」
「そうそう、映研が今日、映画考察会に、夜明けの彼方にをとりあつかうみたいなんだけど……人が少ないんだって、泣きつかれた」
友人はため息を大仰につく。
「私もついていくから、ちょっと一緒に行かない? 講義ノートで助けられたし、無下にできないのよ」
「どうしようかなぁ……」
友人とは仲はいいが、この話を承諾する必要は千夏にまったくない。友人も適当に考えておいてと、苦笑いしているくらいだ。しかし……このまま一人で居たら、紫紋のことばかりを考えてしまうのではないか。こんな苦しい気持ちのままでいるのも、どうなんだろうか。
好きな映画の話だし、友人もいるし……千夏は口をあけた。
「行く。何時から?」
「マジで」と友人はびっくりしたように目を丸くした。
千夏は頷く。自分の心をどうにかしなければと決意していた。
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