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第20話 キスマーク
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「最近なんですが、まる太がすねちゃうんです……どうしてなんでしょう」
仕事終わり、休憩にはいった紫紋がうつうつそうな声で言った。
千夏は、茶菓子を出しながら小首をかしげる。
何かあったのだろうかと思ったが、正直、自分でも思いつかない……。
「どういう時、特にすねちゃうんですかね……」
「千夏さんが泊まった朝が一番すねてるかもしれません……寝室を使っているので、まる太をいれないようにすると、朝起きて声をかけると睨みつけてくるんです」
そうなのですか……と千夏は思わず、胸に何かこみあげるものを感じた。
恥ずかしいと思ってしまった。紫紋のことだからなんの意図もないと思うが、不意打ちに色々と思い出す話だった。
そういえばまる太、メス猫だったなと思い出す。だったらと意見を出した。
「多分それ、嫉妬ですね……もしかしたらですけど、他の子と仲良くしてと怒ってるかもしれません」
「嫉妬……猫でも嫉妬を」
「感情豊かな感じがしますからねぇ……」
「なるほど」
紫紋も結構なヤキモチ焼きだけど……と思いつつ、まる太が持つ、嫉妬という感情に感心する紫紋を千夏は微笑ましく見る。
それからきょろきょろと周囲を見渡した。
「あれ、今日はアル君は……」
最近、この家での生活に慣れてきて、紫紋のハーブ畑の世話を良くしているのだが、今日は一度も見なかった。
紫紋はああ、と声を上げる。
「この近くの商店街で、老夫婦の八百屋さんがあるじゃないですか」
「そういえば……ありますね」
キャベツをこの間安売りしていたので買った気がする。
アルベルトが力仕事が得意ということもあって、よく動くし、それでお腹が空いてごはんもよく食べる。
彼を満たすために、肉屋でとんかつと、それにつけるキャベツ用に買っていたのだ。
「あそこの力仕事を主に請け負ってた旦那さんが腰をやられそうになってましてね……八百屋って重い仕事多いですし、アルベルト君を紹介したんです」
「なんか似合いそうですね……」
千夏はくすくすと笑った。
今度の買い物のときに覗きに行こうかなと思う。
そうだと、千夏は二人きりということもあって聞いた。
「紫紋さん、そういえば契約ってなんですか……? アル君が言ってた」
紫紋はためらいの表情を浮かべたが、ゆっくりと口を開けた。
「契約……悪魔というのは人を堕落させるためにありとあらゆることを行います。上等な人間の魂を死後手に入れるために、契約し人間に従事することもままあるんです」
「な、なんか怖いですね……」
「そうですよ、悪魔ってモノは、普通にひどいものなのです」
紫紋は立ち上がり、千夏のもとに近寄ってきた。
「紫紋……さん?」
「あなたの魂も綺麗で、悪魔だったら堕落させたくてたまらないでしょうね……」
紫紋は千夏をぎゅっと抱きしめる。
急に何をと思いつつ、嬉しくて目をつむる。
紫紋は愛おしそうに頭を千夏に押し付ける。
それから、首筋に舌を這わせた。
急に意識がぼんやりと霞む。
深い眠気が急に訪れたようだ。
何故どうしてという疑問符の前に、紫紋は強く首を吸った。
「契約の話は忘れてください……これは不要な話です」
千夏の体がへなへなと崩れ落ちる。
その時、紫紋の静かな言葉を聞いた。
「私は……あなたの幸せが一番なんです」
ハッとした、気づいたらソファの上に横になっている。
「え、え、私なんでここに……」
「おどろきましたよ、急にふらつくんですから、千夏さん」
紫紋は心配げに聞いてくる。
急にふらついたのかと自分でもびっくりしたが、記憶が曖昧になってて何が何だかわからない……。
それでも、なにか疲れでも出たのだろうと納得することにした。
「あはは……心配かけました」
千夏は体をきょろきょろと見回す。
全然問題なさそうに感じたが、首筋にかすかな痛みを覚えた。
この痛み、覚えがある。
千夏の顔がさぁと青ざめた。
「し、紫紋さん……まさか」
素っ頓狂な声を出すと紫紋は困ったように目をそらした。
「横になる千夏さんが可愛すぎて……つけちゃいました」
素直に告白するのが、紫紋の良いところだが、千夏は目を吊り上げた。
「もうー、不意にはつけないって約束でしょう!」
千夏は頬をふくらませて、拳を胸の前に作って怒り出す。
キスマークは洋服に制限をかけるようなことなのだ。見られたら困る!
機嫌を損ねた千夏の感情がなおるには時間がかかり、その日は千夏の好きなお寿司が出前で届けられた。
仕事終わり、休憩にはいった紫紋がうつうつそうな声で言った。
千夏は、茶菓子を出しながら小首をかしげる。
何かあったのだろうかと思ったが、正直、自分でも思いつかない……。
「どういう時、特にすねちゃうんですかね……」
「千夏さんが泊まった朝が一番すねてるかもしれません……寝室を使っているので、まる太をいれないようにすると、朝起きて声をかけると睨みつけてくるんです」
そうなのですか……と千夏は思わず、胸に何かこみあげるものを感じた。
恥ずかしいと思ってしまった。紫紋のことだからなんの意図もないと思うが、不意打ちに色々と思い出す話だった。
そういえばまる太、メス猫だったなと思い出す。だったらと意見を出した。
「多分それ、嫉妬ですね……もしかしたらですけど、他の子と仲良くしてと怒ってるかもしれません」
「嫉妬……猫でも嫉妬を」
「感情豊かな感じがしますからねぇ……」
「なるほど」
紫紋も結構なヤキモチ焼きだけど……と思いつつ、まる太が持つ、嫉妬という感情に感心する紫紋を千夏は微笑ましく見る。
それからきょろきょろと周囲を見渡した。
「あれ、今日はアル君は……」
最近、この家での生活に慣れてきて、紫紋のハーブ畑の世話を良くしているのだが、今日は一度も見なかった。
紫紋はああ、と声を上げる。
「この近くの商店街で、老夫婦の八百屋さんがあるじゃないですか」
「そういえば……ありますね」
キャベツをこの間安売りしていたので買った気がする。
アルベルトが力仕事が得意ということもあって、よく動くし、それでお腹が空いてごはんもよく食べる。
彼を満たすために、肉屋でとんかつと、それにつけるキャベツ用に買っていたのだ。
「あそこの力仕事を主に請け負ってた旦那さんが腰をやられそうになってましてね……八百屋って重い仕事多いですし、アルベルト君を紹介したんです」
「なんか似合いそうですね……」
千夏はくすくすと笑った。
今度の買い物のときに覗きに行こうかなと思う。
そうだと、千夏は二人きりということもあって聞いた。
「紫紋さん、そういえば契約ってなんですか……? アル君が言ってた」
紫紋はためらいの表情を浮かべたが、ゆっくりと口を開けた。
「契約……悪魔というのは人を堕落させるためにありとあらゆることを行います。上等な人間の魂を死後手に入れるために、契約し人間に従事することもままあるんです」
「な、なんか怖いですね……」
「そうですよ、悪魔ってモノは、普通にひどいものなのです」
紫紋は立ち上がり、千夏のもとに近寄ってきた。
「紫紋……さん?」
「あなたの魂も綺麗で、悪魔だったら堕落させたくてたまらないでしょうね……」
紫紋は千夏をぎゅっと抱きしめる。
急に何をと思いつつ、嬉しくて目をつむる。
紫紋は愛おしそうに頭を千夏に押し付ける。
それから、首筋に舌を這わせた。
急に意識がぼんやりと霞む。
深い眠気が急に訪れたようだ。
何故どうしてという疑問符の前に、紫紋は強く首を吸った。
「契約の話は忘れてください……これは不要な話です」
千夏の体がへなへなと崩れ落ちる。
その時、紫紋の静かな言葉を聞いた。
「私は……あなたの幸せが一番なんです」
ハッとした、気づいたらソファの上に横になっている。
「え、え、私なんでここに……」
「おどろきましたよ、急にふらつくんですから、千夏さん」
紫紋は心配げに聞いてくる。
急にふらついたのかと自分でもびっくりしたが、記憶が曖昧になってて何が何だかわからない……。
それでも、なにか疲れでも出たのだろうと納得することにした。
「あはは……心配かけました」
千夏は体をきょろきょろと見回す。
全然問題なさそうに感じたが、首筋にかすかな痛みを覚えた。
この痛み、覚えがある。
千夏の顔がさぁと青ざめた。
「し、紫紋さん……まさか」
素っ頓狂な声を出すと紫紋は困ったように目をそらした。
「横になる千夏さんが可愛すぎて……つけちゃいました」
素直に告白するのが、紫紋の良いところだが、千夏は目を吊り上げた。
「もうー、不意にはつけないって約束でしょう!」
千夏は頬をふくらませて、拳を胸の前に作って怒り出す。
キスマークは洋服に制限をかけるようなことなのだ。見られたら困る!
機嫌を損ねた千夏の感情がなおるには時間がかかり、その日は千夏の好きなお寿司が出前で届けられた。
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